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    ch6ee

    くろえ@ch6ee
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    ch6ee

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    お疲れの七海は認知能力が落ちたりしてかわいい、とか幼い語彙を喋ってほしいな〜と思っています。そこまで働かせないであげてほしいです。※ネームレス健全夢です

    就眠儀式 ひどく疲れた出張だった。それでも予定よりも一日半早く終わり、日本にいる補助監督に有り余る無理を依頼しながら七海は飛行機のスケジュールを繰り上げさせ、今から間に合う最も早い東京行きの飛行機――羽田の終電ギリギリ時間になるだろう予約――の発券番号を手に機場に向かう。
     預入荷物の奥に鈍の刃も仕舞われ、ついでにコートを預入荷物の隙間に詰め込んで預けてチェックインすれば、変更された予約はきちんと通り、薄い冊子にハンコを押され、数時間を過ごし――最終的に告げられたのは大雪での出発遅延のアナウンスだった。シャワーを浴びてなおイライラしながら七海はグラスを傾けながら続報を待つ。
     ラウンジの新聞に飽きて適当に洋書を買い、文字を目で追いながら耳は順延のアナウンスを追う。まだ彼女にいつごろ帰れそうだ、だなんて通知を送っていなくて良かった。きっと彼女はそれを聞いたら起きて待っていただろうから、必要以上に待たされる体験は自分一人で十分だ、と七海は白く、他の情報を消してばかりの大きなガラス窓に視線を向けながら思う。
     東京の天気は晴れ、寧ろ大陸の冬を舐めていたのはこちら。とはいえ七海の任務中も雪の気配はなかったのだが、新聞を読む限りでは数日前から北の方では大雪のニュースが枠を占めていて、七海が仕事を早く仕上げるのと同じように天気も前倒しでやってきたのだろう。……心の底から早く仕事が終わってよかった、と思いながらちびちびとグラスの中のウイスキーを舐める。大雪の中で大陸の呪霊と呪詛師を追うような仕事など御免被りたい。
     幸いここも行き先も、昼夜なく二十四時間稼働しているので帰り損なうことはおおよそないだろうと思いながら数時間の時差を思う。最悪帰れなければ、誰かしらに無理を言って手立てを考えてもらう他ない。今日はこのまま帰れたら自分の部屋に帰ろうか、それとも彼女の部屋にそのまま向かおうか、悩ましい。約十日の別離は久々に堪える体験で、彼女が寝ていたとしてもその隣で眠りたい気持ちだった。

    ***

     連絡を忘れていた、というのを思い出したのはタクシーに行き先を告げた時のことで、彼女の家の近くのランドマークを目的地に車が動き出した後だった。
     深夜になるので送迎は不要、そう遅延通知を元に連絡してきた補助監督に告げてから移動中はずっと眠っていた。その連絡を返した時に夜に訪問する旨彼女にメッセージを打った、気がしていた。気がしていただけで実際は送り損ねており、きっと彼女は何も知らないまま眠っているだろう。
     午前二時を回らんとしている時計が指し示す限り、通常の人間は眠っている時間で、今日帰ると告げていないのだから明らかに彼女は眠っているだろう。昨晩連絡がなかったことに対して特段メッセージも来ておらず、メッセージの履歴は一昨日の夜に短く通話したきり特に更新されてはいなかった。
     金曜の夜だ、起きていれば連絡を入れない理由はない、と思いながら短くメッセージを送るが既読の通知も返事も何一つ返ってこない。車窓から流れ込むオレンジの街灯が手元をちかちかと照らして眩しい。彼女が家を開けていなければいいが、と思いながら今が金曜の深夜、土曜の午前、そういった曖昧な時間なことに少しだけ胸の奥が痛む。別に行き先の制限などしたことがないが、疲れている、という自覚を持つには十分な想像がいくつか脳裏を掠めては消える。
     そもそも確認したスケジューラーを見る限り、彼女は今日は都内で任務のはずで、その帰りに誰と飲みに行こうが何をしていようが関係ない。レイトショーを観に行こうが、スポーツバーで欧州サッカーを見ていようが、友人と飲みに行こうが、七海はそれらを制限したこともない。……自分の存在がそれらを阻害している側面はあるかもしれないが。内ポケットの奥底の彼女の家の二本の鍵を上着の上から確認しながら七海は案内標識上の距離を数えて頭の中で到着までの時間を夢想する。羽田と七海の自宅の真ん中にある彼女の家まではあともう少し。実は、高速を使える分七海の家の方が早く着くのだが、その事実は彼女には内緒だった。七海はこのところ、飛行機の絡む出張のあとそのまま彼女の家に向かうのを「近いから」だと言い張って続けている。

     タクシーチケットを渡し、鞄ふたつの身軽な状態で七海はマンションの前に立つ。ポケットに入れたままの身分証明書と封筒に無造作にまとめた外貨をボストンバッグに突っ込み、内ポケットから鍵を取り出す。
     一本は、建物の中に入るための鍵。もう一つは部屋の鍵。あまり似ていない構造のそれらの使い分けはいつの間にか指が覚えていて、来訪者を映し出すパネルの前で片方を使えば自動ドアがひとりでに開く。さも住人かのように七海はそれをくぐり、エレベーターのボタンを押して乗り込むと階数のボタンをいくつか押した。それは彼の癖で、そのせいで彼女の部屋で待ち合わせて出かけるたびに上のフロアに行ってしまったそれを待つために時間が発生するが、さりとて止める理由もない。連れ立つときにエレベーターを待つ間など、いくらあったとしても待ち切れる自信がある。
     彼女の部屋の前に立ち、鍵をねじ込んで回す。薄くドアを開きながらただいまと声を出し、内鍵が立てられてないことを確認して身体をドアの中に滑り込ませる。おかえりなさい、の応酬の声は無く、しんと静まり返った部屋に七海は躍り出ながら後ろ手に戸を閉め、鍵を回す。三和土には見知った彼女の仕事用のロウヒールと自分のサイズの靴が並んでいて、部屋の主の痕跡に内心安堵する。片方の靴は自分が防犯のために置かせているものだ――尤も、ここにいる時には度々使うのだが。
     電気を点けて進めば、リビングルームには彼女の寛いでいた痕跡が多々残されていた。ソファの上に乗せられたままのテレビのリモコンと部屋でよく着ている上着、ソファの前のローテーブルに乗せられたままの雑誌、タブレット――それから流しに置かれたままのマグカップが一つ。もう寝ているのだろう、と確信しながら七海はコートとジャケットを脱いで椅子の背に掛け、スリーピースのベストのボタンに指をかける。アイウェアとカラーピンを机に放って寝室に足を運べば、照明の明るさを一番暗く絞った状態のその部屋は寝るために整えられていることをはっきりと示していた。おまけにいつもはしない、薄く草花の匂いがする――ベッドサイドの加湿器を兼ねたアロマディフューザーがほの明るい光を放ちながら、水蒸気を静かに立てていた。
     七海がタイを解きながらベッドに近寄れば、一人には大きめのそこに彼女は眠っていた。二人で寝ると窮屈だが、それは自分のせいであることを七海は理解している。規則正しく上下する彼女の胸元に手を当てて眠りの深さを確信し、もう片方の手で額に触れてキスをしようとした時、僅かな違和感が七海の手によぎる。視線を低くしたまま手元――彼女の薄く上下する胸元――に目を向け違和感の元を探せば、それは七海の手のすぐ横に置かれていた彼女の手で、白い布で包まれていた。違和感はその布の質感が原因のようだった。
     ゆるく胸の上に置かれた手は、毛布と同じ乳白色の手袋に包まれていて、見覚えがない。五本揃った指の先を引っ張れど、すとんと抜ける素振りも無く七海は彼女の手を無為に引っ張る形になる。手袋の先のパジャマはあまり見覚えがないものの、クローゼットの中で見た覚えがあるものだったので、本当に違和感はこの手袋だけだった。七海はベッドのへりに座りながら、見慣れない手袋に包まれた手に自分の手を重ねて様子を見てしまう。……こんな制約があっただろうか?そもそも制約なんだろうか。手触りは悪くないし、その下の手は温かく、布越しにすらその温度が分かる。
     手首の際から手袋を脱がせようと指をかけたとき、散々いじられて眠りが浅くなったのか、彼女が低く抵抗の声を出す。無視して数秒後にはななみ?と眠たげな声が自分を呼んでいた。顔の方に目を向ければ仄暗い照明の中でも二つの目が自分のことを見つめていて、つい七海は「ただいま」と口にしてしまう。

    「おかえりなさい……あれ、なんで……」
    「早く帰れそうなので早く帰ってきたのですが、少々飛行機が遅れまして」
    「……まだ夜?」
    「ええ。金曜の夜ですね」

     そっかあ、と彼女はまたそのまま眠りそうな声を出しながら、半身を起こそうとする。七海は脱がしかけた手袋を掴みながら起こした身をベッドに押し戻す。そのまま寝ていていいのに、と思いながらも内心歓迎されているようで嬉しくなってしまう。

    「教えてくれたら、迎えに行ったのに……」
    「電車もない時間に、ですか?」
    「うん、あ……でもきっと遅いから家に居ろって言われそう」

     想像に難くない。車借りて迎えにいくのも楽しそう、だなんて輪郭のぼやけた声がするけれど、きっと強く止めただろう。そんなことを知らされたら飛行機で眠れないどころか、どんな手段を使ってでも帰り道を運転させようとはしなかっただろう。今度似たようなことがあれば、アルコールを煽る前に連絡しよう、と七海は心に留める。ま

    「あの」
    「なあに?」
    「これは、なんですか?」

     掴んだままの手を掲げて振る。乳白色の手袋に包まれたままの彼女の手は七海の手に連動して振れるが、その手袋は脱げそうになかった。

    「あー……今日は絶対帰ってこないと思ったので……恥ずかしいな……」
    「手袋が、ですか?」
    「寝る時の手袋、です。夜用のハンドクリームを塗っていて……」

     ん、と小さい声と一緒に彼女は片手の手袋の指先を一本ずつ引っ張る。ひと関節ずつ脱げていく手袋を見守っていたら、出てきたのは見知った白い手で、この間、出張前に会った時より少し爪が短くなっていた。

    「まだぺたぺたしてるかも」
    「……いつもはこういうことをしているんですか」
    「ふふふ、してますよ。すべすべの方が嬉しいでしょう?」

     彼女はもう片手の手袋も取り、ベッドサイドにその残骸を置きながら七海の手に片手を乗せる。しっとりと柔らかいそれはいつも見知った彼女の手で、確かにいつもよりも湿度が保たれていてなめらかだった。

    「可愛い」
    「え……いま可愛いって言った?」
    「言いました」

     乗せられた手を自分の唇に近づけて、音を立ててキスをする。しまった、まだこちらは手も洗っていなかった――それでも彼女は機嫌良さそうに笑っていて七海を咎める様子もない。

    「嬉しい」
    「……こんなことで」
    「七海、いつも可愛いって語彙使わないから、知らないのかなって思って……」

     眠気の中でふにゃふにゃと言い訳をする彼女を見ているとひどく心の柔らかいところを煽られる気持ちでいて、七海はそのまま毛布を捲ってしまいたいのを抑えて立ち上がる。安心と興奮と、独占欲と後ろめたさと、色んな感情がないまぜになって自分のなかで主張を模りはじめていた。そんなこちらに気づくでもなく、ふふふ、だなんて小さい声が未だに柔らかい布の奥から立ち上る。

    「シャワーをお借りしても」
    「もちろん。パジャマとかはいつものウォークインの右の箱の中にあります。タオルは戸棚のを」
    「……あなたは先に眠っていてもいいんですよ」

     眠かったらそうしまあす、と明らかに覚醒しつつある声の主は間伸びした声を上げる。七海は襟からタイを抜き、寝室を後にしながら机の上にそれを置く。一緒に手首から時計を外して置き、ベストもシャツもズボンも全て脱いでしまって椅子の背に掛けて――もう明日干してそのままクリーニングに出せばいい、もう何もかも面倒だ――寝室とは真逆のバスルームに足を伸ばす。

    ***

     自分の家ではないのに、自分の持ち物が点在しているのは少し不思議な気持ちだ。洗面台の棚を開けたら出てくるシェービングフォームと剃刀、それから自分の歯ブラシ。着替える時にいっつもびっくりしてしまうから、と箱に別に仕舞われた自分の下着類数セットとパジャマ、それからハイネックのセーターとズボン。おおよそ彼女の家の中に駐在させられている自分の私物はこれらが全てだが、自分用に、と充てがわれたマグカップなどを含めればそこかしこに持ち物が点在している。
     髪をラフに乾かして七海はウォークインクローゼットの中で箱を開け、目的のものを取り出してもそもそと袖を通す。ウォークインからそのまま寝室に行くことはできるけれど、タオルを干さねばならない、と思いながら七海はボタンもそぞろにウォークインを出る。タオルを干しながら鏡を見ればわずかに目が充血していて、さっきまでの浴室での逡巡を思い出す。
     早く帰りたくて仕方がなくて、仕事を早く仕上げて、その分余計に負荷をかけている。自分でそう選んだくせに身体はくたくたで、ようやく安堵を得られたから泥のように眠りたいのに、彼女に構われたくて仕方がない。剰え起こした癖に抱きたいだなんていう身勝手な振る舞いは、許されるだろうが自分に対して許せなかった。衝動がそのまま顔に出ていて情け無い。
     このまま眠れれば良いのだが、と思いながら七海は寝室のドアを開ける。仄暗い部屋の中で、枕元が明るい。彼女が寝ながら携帯を開いていて、その結果バックライトで顔が照らされているせいだ。

    「起きていたんですか」
    「うん。一緒に寝たくて」

     おいで、と示されたサイドの毛布を捲り、七海は身体をベッドと毛布の間に滑り込ませる。二人には窮屈なベッドのなかで、さっきよりも端に寄せられた彼女の枕と、いつの間にか準備されていた自分の枕。温かいベッドに潜り込んだ瞬間に身体にかかる重量が増したかのような気持ちを覚える。疲労が溶け出して自分の身の上に乗りかかるようだった。それでもいやに目は冴えていて、何度か長く目を閉じては瞬きを繰り返してしまう。薄くラベンダーの匂いがする空間の中で、おやすみ、と毛布の上から彼女の手が添えられてなお落ち着かず、つい口の端から思ってもなかった依頼が溢れ出る。

    「私にも……」
    「……ん?」
    「私にも、手を……かわいく、してもらえませんか」
    「かわいく」
    「……あなたみたいに」

     わたしみたいに?と言いながら彼女は七海の手の甲を撫でる。徹底して眠りにいく手筈の整えられたこの部屋と彼女の状態を見ていると、それに従うのが不合理に興奮している身体を鎮めるのに一番有効そうだ、と思ったのもある。それよりも知らない間に――自分と過ごしている間にああいったケアをしているところを見たことがないので――整えられているのが少し羨ましく思ったせいかも知れない。

    「七海の手が入る手袋は家にないので、それ以外なら」
    「構いません」

     彼女は半身を起こし、サイドテーブルの引き出しから何かを取り出して蓋を開ける。それはジャータイプのクリームで、二本の指で思ったよりも多い量を掬い、彼女の手のひらの中に収められる。合わせられた手のひらの中にクリームが消えて、右手を貸して、との声がするまで七海は身を起こしてなおその合わせられた手ばかりを眺めてしまう。
     右手を彼女の方に向ければ、温まったクリームが七海の肌に広げられ――彼女の手のひらと指が七海の手の両面にゆっくり伸びて塗り広げられる。想像よりもその感触が官能的でつい七海は吐息を漏らす。彼女はそれを気にするでもなく、指の間と指先を扱きながらクリームを塗り広げていた。仄かにクリームの香料の花の匂いが鼻につくが、いわゆるリラックスを謳ったものにありがちな匂いなのでそのうち気にならなくなるだろう。

    「気持ちいい?」
    「……はい」
    「私の手よりもずっと大きいから、ちょっと楽しい」

     ぬるぬるとクリームが塗り広げられ、余ったものは手首に流される。自分の手なのに、自分のものではないかのようだ。自分がこうしたケアをした事があっただろうか、と扱われるままの手を眺めながら七海はふと自分の手の扱いについて思い返す。学生の時には肉刺が出来れば対処はしただろう、社会人になってからはせいぜい爪をやすりがけするくらいな気がする。左手、と声が掛けられるまで七海はそんなことを思いながら手首の骨に沿って扱く彼女の指先を見つめていた。
     左手を差し出せば、彼女はまた右手と同じようにクリームを手に取り、温めては七海の左手に塗り拡げる。空いた右手を何度か握って確かめれば、確かにこっくりとしたクリームが手全体に纏わりついていて、なんだか落ち着かない。クリーム、拭わないでね、と彼女の声が頭の上から降ってくる。確かに手袋は違和感にも効果があるだろうと確信した。

    「いつもよりすごく疲れてるね」
    「そう見えますか」
    「うん、元気ないから」

     明日にゆっくり、どんなことがあったか教えて。そう言いながら彼女は左手で持て余したクリームも手首より先に擦り付ける。確かに、家についてからどっと疲れが増したように感じる。今日朝起きてから、今に至るまでを思い出すだけでも頭が重くなる。

    「長い、一日でした」
    「うん。お疲れ様。さあ、寝ましょう」

     彼女に導かれるまま、七海はもう一度ベッドに背中を預ける。そのまま毛布がもう一度掛けられて、自分の肩口に彼女が潜り込んできて――その温かさと、手に残る彼女の体温と不自由さになんとなく根拠のない安心感が湧いてきて、七海は瞼を閉じる。至近距離で肌伝いに聞こえるおやすみ、の声に返事をして数回彼女の呼吸のリズムに合わせて息を吸っては吐く。加湿器もいつの間にか止められていて、トレースするのなんて容易かった。

     翌朝、カーテンの隙間から薄く陽が差して七海は彼女よりも早く目覚める。前日の身の重さはいくらか改善していて、ふと腕を伸ばそうと手を組めばその質感のなめらかさが彼女のそれと似通っていて驚く。日々知らないうちにこういうことをしていたのか、と思うといじらしさがいや増す気がして、隣で眠る彼女に手を伸ばす。昨晩よりもまだずっと深く眠っているようで、七海がその手を毛布の間からパジャマに滑り込ませてもまだ気付いていないようだった。なんの予定もない土曜の朝は久々で、まだ起こすのも気が引ける気がしたけれど、思ったよりも彼女の肌に自分の手が滑るのが面白い。ついその手が止められず、七海はふわふわとしたパジャマの奥に手を進めてしまうのだった。
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    ch6ee

    DOODLE
    七海とシャツを仕立てに行く話「では今度の土曜、新橋に十一時」
     
     ちょっとした出来心だったのかもしれないし、もういい頃合いだ、と思ったからなのかもしれない。新しいシャツを仕立てに行こうと思ったタイミングで後輩からシャツについての質問を受けた。何度も昇級について推薦をねだっていた後輩だったので、これは前祝いで、それから自分からの挑戦でもある。そう思って七海は猪野を次の週末の昼に誘った。恋人も居る回ではあるが、そこは旧知の仲なので支障はないだろう。デートの頭に三十分ばかりください、と彼女にスケジュールの調整を依頼すれば、すぐさま仕方ないなあ、とむくれたキャラクターのスタンプが返ってきてさして問題はなさそうだった。
     
     秋の休日の昼、新橋駅烏森口に十一時。三人の術師が改札で待ち合わせ。猪野くんには直前に彼女のことを伝えていたので待ち合わせのときには小さく驚きがあったらしい。それはそうだろう。彼女はいつもの職場での格好ではなくてデート仕様なのだから。今日はそのあと彼女のお願いで映画をみて、アフタヌーンティーに行く予定だった。そのせいで普段のデートよりもよっぽどめかしこんでいるのだから、彼からしたら別人だろう。
    5613

    ch6ee

    PASTねこ主とななみのねこのひ
    ※ご都合術式

     吾輩は猫である、名前はまだない……ではない。私にはれっきとした名前もあれば学歴も職歴もあって、それから家族は……家族は夏目漱石の「吾輩」と一緒でいない。仕事の帰りに気が抜けたら後部座席で猫になってしまっていた。原因は明らかで、直前の憑き物のせいだろう。うわ、と声を出した瞬間に視界のアイレベルがどんどん下がる。そのせいですぐに異変に気づいた運転席の同僚はひどく素っ頓狂な声を出して路肩に車を停め、私の姿を探そうと後部座席のドアを開いて私の着ていた衣服の中を探って私の新しい身体を抱き起こした。明るいところで自分が伸ばした腕を見れば、一面のグレイ。なぜ、と思いながら手に力をいれれば尖った爪がぬるりと光り、また補助監督の彼女の叫び声を――今度は間近で――聞くことになる。取り落とされない分マシだった、と思いながら彼女は再び私を後部座席に戻し、上司に電話をかけ始める。彼女と一緒でよかった、緊急時の手順が身についている同僚は信頼がおける。そう思いながらガラス越しに彼女を見上げれば頻繁に視線が合う。ドアが再びあいて、すみません、そんな断りとともに自分が撫で回されているのを感じるが、普段の信頼関係からは抗議する気にもなれない。電話が終わるまで彼女は私の首から背から、何から何まで撫で回して――代わりに電話の終了とともにその手を止めて私の着ていた衣服を畳み始めた。さっき助け出されたときにうすうす気づいていたが、今の私は何も身につけていない。ジャケットから下着、ストッキングに至るまで軽く畳んでトランクルームから出した紙袋にまとめる彼女に、ごめん、と言い掛けたらんやあん、と想定内の鳴き声が自分から出て何も伝わらなかった。人間に戻ったときにお礼をしよう、そうするしかなかった。
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    ch6ee

    DONEお疲れの七海は認知能力が落ちたりしてかわいい、とか幼い語彙を喋ってほしいな〜と思っています。そこまで働かせないであげてほしいです。※ネームレス健全夢です
    就眠儀式 ひどく疲れた出張だった。それでも予定よりも一日半早く終わり、日本にいる補助監督に有り余る無理を依頼しながら七海は飛行機のスケジュールを繰り上げさせ、今から間に合う最も早い東京行きの飛行機――羽田の終電ギリギリ時間になるだろう予約――の発券番号を手に機場に向かう。
     預入荷物の奥に鈍の刃も仕舞われ、ついでにコートを預入荷物の隙間に詰め込んで預けてチェックインすれば、変更された予約はきちんと通り、薄い冊子にハンコを押され、数時間を過ごし――最終的に告げられたのは大雪での出発遅延のアナウンスだった。シャワーを浴びてなおイライラしながら七海はグラスを傾けながら続報を待つ。
     ラウンジの新聞に飽きて適当に洋書を買い、文字を目で追いながら耳は順延のアナウンスを追う。まだ彼女にいつごろ帰れそうだ、だなんて通知を送っていなくて良かった。きっと彼女はそれを聞いたら起きて待っていただろうから、必要以上に待たされる体験は自分一人で十分だ、と七海は白く、他の情報を消してばかりの大きなガラス窓に視線を向けながら思う。
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