めくるめく春「もしもこのケーキの中に、惚れ薬が入っていたらどうする?」
そう言うと、女──今代の賢者──は、ごほごほと大げさに咳き込んだ。彼女の前に置いてあるルージュベリーのショートケーキは、既に三分のニほどがその胃袋におさまっている。
「おっと、大丈夫? お茶飲んで」
ポットを取り、温かい紅茶をカップに注いでやる。ぬるくなってきていたのだろう、彼女はカップを取ると、それを一息に飲み干した。
「ほ、惚れ薬って、そんなの、この世界にはあるんですか?」
尋ねてくるベリー色の唇のそば、柔らかそうな頬は赤くはなく、どちらかというと青い。
やれやれ、と内心溜息をついて、肩をすくめた。籠絡という言葉が聞きすぎたようで、どうもこの賢者は、俺に心を許してくれない。前途多難だ。
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