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    niho_tyn

    気分で上げるかもしれない(夢中心)

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    niho_tyn

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    千堂さんネームレス夢小説
    雨で迎えに来てくれる話
    ※同棲してる設定

    大きな車窓を斜めに雨水が走っていく。
    ぼんやりとその様子を眺めながら、満員電車の中、静かにため息をついた。
    仕事で疲れた上に、この土砂降りの中歩いて帰らないといけない事実をなかなか受け入れられない。

    電車に乗ったときに抱いた、家の近くでは雨が弱くなってるかも、という淡い期待も見事に裏切られてしまった。最寄り駅でホームに降り立つ一瞬、電車と屋根の隙間に降り注ぐ雨が髪を濡らし、ため息がまたひとつ漏れる。
    今朝は雨足がまだ弱くて、折りたたみ傘でも十分だったけれど、この土砂降りではほとんど役に立たないだろう。
    そろそろ濡れて帰る覚悟を決めなければ。駅の構内を進みながら、カバンの中の傘を探る。
    出口が見えて雨音も近くなったとき、出口近くの柱に立つ、見覚えのある佇まいの人が目に入った。羽織っている上着の赤が人混みの中でも鮮やかに映えて、眩しく感じた。
    新たな期待に胸が高鳴る。自然と足が速まって、重かった足取りがいつの間にか駆け足になっていた。
    顔が認識できるくらいの距離になると同時に、柱にもたれていた人も顔を上げて目が合う。やっぱり、千堂さんだ。

    「おかえり!今日もお疲れさん」
    「ただいま。どうしたんですか?練習帰り?」

    千堂さんは、おう、と頷く。
    思いがけず早く会えたことに喜びを隠せず、前のめりになっている私の頭を、ぽんぽんと頭を撫でた。

    「今朝持ってったそれじゃあ、役に立たへん思てな」

    折りたたみ傘を握る私の手を顎で差し、千堂さんは長傘を2本、掲げて笑ってみせた。
    疲れているはずなのに、雨の中わざわざ迎えに来てくれたのだ。会えただけでも嬉しいのに、千堂さんの優しさで、これまでの鬱屈した気分が嘘みたいに晴れていく。

    「ありがとうございます……嬉しいです」
    「早う会いたかったしな」

    トドメの口説き文句を言われて、胸の奥が熱いもので満たされていく。
    私も、早く会いたかった。
    同じ屋根の下で毎日顔を合わせているのに、離れている時間は恋しくなってしまう。
    千堂さんも同じなのだと思うと、たまらなく愛しくて、胸が詰まる。
    自分の傘を開いた千堂さんの腕を慌てて掴んだ。

    「あの、傘……一緒がいいって言ったら、嫌ですか?」

    千堂さんは目を丸くして私を見下ろす。
    その視線で、はたと我に返る。少しでも近くにいたくて、思わずそんな要求をしてしまったけれど、いい大人が相合傘は恥ずかしいかもしれない。
    撤回しようと口を開きかけたとき、千堂さんは私に渡していた傘を奪った。

    「せっかく2本持ってきたのになあ。濡れても知らんで」

    そう言いつつも気を悪くした様子はなく、私の肩を抱き寄せて、土砂降りの雨の中へと足を踏み出した。


    アスファルトを跳ねる雨の勢いはとても強くて、ただ歩くだけでもどんどん靴が濡れていく。いつもなら最低の気分になるところだけれど、千堂さんが隣にいるだけで何も気にならなくなるのが不思議だ。
    ちらりと千堂さんを見上げると、右肩がしとどに濡れているのが目に入った。
    私の方に傘を傾けてくれていたのだ。おかげで私の肩は濡れていない。
    急いで傘を持つ手を押し返すが、すぐに戻されてしまった。

    「千堂さん、肩が……もっとそっちに傘寄せてください」
    「せやなあ、誰かさんが相合傘したいなんてワガママ言うさかい、体が冷えてかなわんなあ」
    「う……ごめんなさい……」

    芝居がかった口調で肩をすくめてみせる。大阪は演技が上手な人が多くて、こういうとき、冗談なのか本気なのかいまだに判別がつかない。
    確かに、練習後にこんなに濡れてしまったら、体は冷えてしまっただろう。私のワガママのせいでボクシングに影響が出たら、どうしよう。
    まずは相合傘をやめるべきだ。そう思い立ち、千堂さんが持つ私の傘に手を伸ばすも、さっと高く上げられて、もらうことは叶わなかった。

    「帰ったら風呂に入らな、風邪ひくわ」
    「すぐ用意します!千堂さんが入ってる間にご飯作って──」
    「ひとりで入れさす気か?さみしゅうて死ぬで」

    鋭い目に、じろりと睨まれる。
    お風呂の話だろうか。顎をしゃくって何か言うように促される。

    「わ、私も、一緒に……入り、ます」

    ちゃんと意図を汲めているか、千堂さんの表情を確認しながら、言葉を選んでいく。文節ごとに千堂さんが頷いていき、最後まで言い切ると、どうやら正解だったらしく、にっと白い歯を見せた。

    「怒ってるわけあらへんやろ!相変わらず、真面目なやっちゃのう」

    先程までのはやはり冗談だったようだ。
    怒っていなかったことに安心すると同時に、この後一緒にお風呂に入るようにうまいこと仕向けられてしまって、少し悔しい。

    「気ぃ遣うてくれるのも嬉しいけどな、相合傘みたいにもっと甘えて欲しいわ」

    私からしたら、いつも十分甘やかしてもらっているのに。今日だって迎えに来てくれてすごく嬉しかった。
    拗ねたように唇を尖らせる千堂さんが愛しくて、傘を持つ千堂さんの腕に手を絡ませ、体を寄せた。

    「お、おう、ええな。なんや照れるで」
    「お風呂の方が恥ずかしいですよ」
    「お前からっちゅうのが大事なんや!」

    雨はまだ勢いよく降り続き、私達の肩や足を濡らしている。今はそれすらもたのしい。
    千堂さんが笑うとおひさまが輝いているみたいで、傘の中だけ晴天のような気がした。
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