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    niho_tyn

    気分で上げるかもしれない(夢中心)

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    niho_tyn

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    宮田くんネームレス夢小説
    宮田くんと星を見る話
    ※幼なじみ

    夏本番前の今、昼間は汗ばむ気温だけれど、日が沈むと涼しくて過ごしやすい。
    この時期、天気の良い日の夜は土手に来るのが日課になっている。目の前を流れる川のせせらぎと、風で草木がさらさらと揺れる音が耳に心地良い。
    自然を肌で感じつつ、夜空に浮かぶ星々を見上げるのが大好きで、暇さえあればここに訪れていた。土手の傾斜も寝転がって空を見るにはちょうどいい。
    今日は新月だから、星がよく見える。たくさんの星の中で一際明るい星──スピカを見つけて、思わず頬が緩んでしまった。
    スピカは乙女座の一部。乙女座といえば星よりも大好きな彼の星座だ。私にとっては夏の大三角形よりも大事な星。

    ちらちらと瞬く星を眺めているところに、突如ぬっと視界に人の顔が入り込んだ。
    びっくりして慌てて起き上がると、その人は隣に腰掛け、缶ジュースを手渡される。
    星にも負けないくらい端正な顔立ちの主は──一郎くんだ。

    「本当、好きだよな」
    「えっ」
    「星」

    気持ちを見破られたのかと動揺して缶ジュースを取り落としそうになってしまった。星のことか、とこっそり胸を撫で下ろす。
    一郎くんも夜空を振り仰いで、私が見つめていた西の空を見遣った。

    「スピカだろ。女神が持ってる麦の穂先だっけか。この時期でもまだ見えたんだな」

    言うとおり、スピカは春の大曲線、春の大三角形の一部で春が見頃だけれど、初夏でもまだ見ることができる。

    「星座のこと詳しいんだね」

    まさか一郎くんの口から星についての話が出てくるとは思っておらず、心底驚いてそう言うと、一郎くんは、あのなあ、と呆れたようにため息をついた後、こちらに顔を向けた。不意に視線が絡まり心臓が跳ねる。眉をひそめた顔もかっこいい。

    「お前が言ってたんだろ」

    また私はびっくりして、瞬きをしてしまった。
    そう言われるも心当たりがない。
    笑って誤魔化すと、一郎くんはまたひとつため息をついてから口を開いた。

    小学生のとき、突如夜中に宮田家を訪ねてきた私は、一郎くんのお父さんの制止に耳を貸すことなく、一郎くんを無理矢理連れ出した。腕には星座の本を抱えて。
    土手に寝転んで一際輝くスピカを指しながら、何光年離れているだとか、ギリシャ神話がどうとか、覚えたての知識を得々と言い立てた後、“一郎くんの乙女座で、いちばん明るい星だよ!”と、何度も強調していたらしい。

    思い出した。単に星が好きだったこともあるけど、一郎くんが好きで好きで、彼に関係することをとにかく調べて話のきっかけにしていたんだった。
    私の勢いに圧倒されて、ぽかんとしていた一郎くんの顔も思い出される。
    それと同時に、羞恥心も湧き上がってきた。
    うろたえだした私の様子を見て、一郎くんは吹き出した。

    「その後探しに来たお前のお袋さんににこっぴどく怒られて、それまで意気揚々としてたのに、途端に萎れちまったよな」
    「うう……いじめないでよ!」

    喉を鳴らして笑う一郎くんを小突いた。
    星座なんて興味ないだろうに付き合わせてしまって今更ながら申し訳ない。子供だったとはいえ身勝手すぎる。穴があったら入りたい。
    あの時一郎くんとお父さんに平謝りしていた母の気持ちがわかった気がする。

    「でも、そんな昔のことよく覚えてたね」

    私としては消し去ってほしい記憶だけれど。
    連れ出されたことはインパクトがあったかもしれないが、脈絡もなくまくし立てられた内容まで覚えているのは感心してしまう。けっこう記憶力がいいんだなあ。
    一郎くんは缶の飲み口にしばし視線を落としてから、再びこちらに向き直った。

    「お前が言ったことは全部覚えてる」

    そう囁いてから、残りのジュースをあおった。
    言われたことの意味がなかなか頭に入ってこず、ジュースを飲み下す度に上下する一郎くんの喉仏を無意識に見つめていた。
    どういうこと、と口を開きかけて、急に立ち上がった一郎くんに遮られてしまった。

    「帰るぞ。またどやされる」
    「もう心配されるような歳じゃないよ」
    「ちゃんとお前を送り届けないと、オレが父さんに怒られるんだよ」
    「そうなの?それは……ごめんね」

    私のせいで一郎くんが怒られるのはよろしくない。
    立ち上がりお尻の汚れを払って、歩き始めた一郎くんを追いかけて隣に並んだ。

    土手を並んで歩きながら、一郎くんのさっきの言葉を思い返していた。
    単に記憶力がいいということなんだろうか。
    それとも、“お前が”に強調が来ると自惚れてもいいのだろうか。
    ちらりと一郎くんの顔を伺うと、彼の顔を視界に捉える前におでこを小突かれた。

    「前見てないと転ぶぞ」

    無理矢理前を向かされて、一郎くんの表情は確認できなかった。
    でも、今は無理に知らなくていいのかもしれない。
    こうして隣にいて、期待で体の芯が火照るのを感じていられるのが心地良かった。
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