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    ruamruam3d

    えっちなのと特殊なのとか

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    BA赤井さん×美容系配信者あむぴ
    何も分かってない奴が書いてる。全て適当。書き途中

    BA赤井さん×美容系配信者あむぴ「AMU channelをご覧の皆さんこんにちは~安室です。今日は以前からリクエストの多かった、僕の毎日メイクを紹介していきたいと思います」
     明朗で聞き取りやすく、品の良い声が今回のテーマをほがらかに発表した。動画に映っているのはミルクティブロンドの髪とブルーグレーの瞳。そしてエキゾチックな魅力を増幅させる滑らかな褐色肌を持つ一人の美青年。動画配信サイトで最近大人気急上昇中の美容系配信者、安室透だ。
     スッピンの時点で既に完成されている愛くるしくも美しいその容貌と、美容に関する豊富な知識から繰り出される巧みなトークで次々とリスナーを虜にしていき、動画を投稿し始めて一年たらずでチャンネル登録者数は百万人を突破した。どこかの事務所に入っている訳でもなく、スカウトも全て蹴っているようで立場としては完全に一般人だが、メディアでもそうそうお目にかかれないビジュアルの安室人気は、今やそこらのアイドルをも凌ぐ勢いだ。
    「まずベースですね。下地はミラエラのスキンプロテクター。UVケアとカラーコントロールが出来る優れものです。SPF40で、僕は肌の色が濃い目なのでオレンジです。健康的にくすみをカバーしてくれるんですよね~」
     そう言いながら安室は、カメラに向かって自らの手を背景にしてピントを合わせながら、丁寧に商品を映して紹介する。男性らしく多少筋張りつつも、細く長く爪の形まで美しい安室は手フェチ視聴者の命も日々救っている。ツルツルで瑞々しくアップになっても毛穴もシミも見当たらないベビースキンのどこにくすみがあるのか、目を凝らして見てもまったく分からず正直ベースメイクは一切参考にならないことで定評のある安室だが、そんなことはどうだっていいのだ。元々美しい安室が、色々なメイクをすることでまた異なる美しい姿になっていくのを視聴者は楽しんでいる。
     そしてあわよくば自分でも使えそうなものなら、レビューを見て同じものを購入したい。安室の視聴者は大体がそういったスタンスなのだが、本人は本気で自分のメイクと解説を参考にして欲しいと思っているので、いつでも一生懸命に化粧品の良さを伝えようとしている。そんな安室の真面目で真摯な性格と人気具合から、最近はPR案件が含まれる動画もしばしば投稿されるようになってきた。しかしどれだけ有名なブランドからの依頼でも、自分が使ってみて本当に良いと思ったものしか依頼を受けないことも視聴者からの信頼に繋がっている。
    「はい、下地が塗り終わりました。違い分かりますか? 全体的に顔色がワントーン明るくなったかなぁって思います。僕は普段、下地と粉だけでファンデーションは塗らないことが多いんですけど、夜更かし気味で隈が気になるなぁって時はNOCのパーフェクトカバーコンシーラーを使います」
     ほら、この辺とか目立つんですよね。安室が苦笑いしながら目元をズームで見せる。なんて大きくて綺麗な青い瞳。なんて長い金色の睫毛。蒙古襞がない。垂れ目可愛い。視聴者にとってはそれ以外の感情がない。
     安室は親しい友人にプロカメラマンがいるらしく、最初から撮影機材が揃っており初投稿の時から編集もプロレベル。化粧品の色味や肌の様子を正しく伝えたいということで当然の無加工、納得の高画質なのだ。そんな動画ですら言われてみれば隈のようなものが、あるような無いような……。という程度の粗なので、紹介されたコンシーラーのカバー力がどの程度のものなのかは相変わらず分からない。恐らく安室の肌であれば百均の物でも十分隈が隠れるのではないかと思う。
    「コンシーラーを塗る前に、オレンジのクリームチークとかを仕込んでおくと更に目立たなくなりますね。……ほら、どうですか? いい感じに消えましたよね!」
     ニコ!と笑顔で目の下を指さす安室。最初から隈なんてなかったよ。最初から可愛いよ。扶養に入ってくれ。視聴者の心はひとつだが、真のあむぴファンは野暮なコメントは書かない。チークを仕込めばいいんだ!参考になります!流石あむぴ!顔が可愛い!
    「お粉はララフローレスのフィニッシングパウダー05番。僕は付属のパフじゃなくて、ブラシで軽く全体につけていきます。ララはパッケージが綺麗なので、持っていると気分が上がりますよね」
     ブラシにつけた粉をフタで軽く落としてから、小さな顔にさっと塗っていく。目を閉じて長い睫毛が伏せられた様子は芸術品のような美しさだ。癖のつきにくいヘアクリップで前髪を適当に留めて、シンプルなオフホワイトのスウェットを着ているだけなのにどうしてこんなにも美しいのか。こんなに美しい人間が映っている動画を無料で視聴していいのかと視聴者は毎回不安になる。けれどあむチャンネルは投げ銭を受け付けていないので、せめて広告を全て見てクリックをするくらいしか推しに還元する手立てが無いのである。
    「これでベースは完成。ファンデーション込みのベースメイクは、過去に上げたフルメイク動画を参考にしてみてくださいね」
     安室がメイクをすると、辛うじて恐らく人間……?という状態からバーチャルアイドルに進化する。この2Dアバターすごいクオリティだなぁと思ったら安室だ。毎回動画のサムネイルになっているフルメイク状態の安室を見る度に、最終幻想的なそれかと思ってしまうほどに安室透という男は美しい。メイクというのは自分達のような凡人のコンプレックスを隠してくれるだけではなく、美しいものを更に異次元の美しさにする魔法でもあるのだとあむチャンネル視聴者達は知った。
    「次はアイメイクですね。僕は元々顔立ちがハッキリしてる方なので、やり過ぎると変になっちゃうんですが……最近は逆に別人メイクも面白いかな~って思ったりしてます。あはは、今回は毎日メイクだからやらないけどね」
     ハロウィンの時とかにやってみようかな。僕にやって欲しい仮想とかあったらコメントお願いしまーす。安室のその言葉を受けて、動画のコメント欄にはあらゆる欲望が書き込まれていた。狼男やキョンシー、一番人気はやはり王道の吸血鬼。安室のような吸血鬼ならば失血死しても本望だという旨のコメントが大量に書かれていた。皆、考えることはだいたい同じなのだ。
    「アイシャドウはライノアのパレット。これも前にベスコス動画で紹介したやつですね。プチプラではないけど、捨て色なしで九色も入っていてコスパは最高。僕はブルベなんですが、どっちでも使えるブラウンが揃っていて助かりますね」
     所謂デパコスブランドのライノアは、安室のお気に入りブランドの一つだ。視聴者の年齢層を考慮してプチプラコスメのレビューも多く上げてくれるが、定期的に上げるベストコスメ動画や毎日メイク動画には必ず登場してくることから愛用具合が伺える。パッケージもシックでお洒落なものが多く、男性でも手に取りやすいのではと紹介していた。
     付属のアイシャドウブラシを使って明るい色から塗り重ねていき、安室の広々としたアイホールに見事なグラデーションが作られていく。正式には公言していないが、安室はハーフであり艶やかな褐色は陽に焼けた色とは趣が違っている。自分の肌色に合う化粧品を探すのに少し苦労すると、動画内で話していたこともあった。そういった理由もあり、カラー展開が豊富な海外ブランドを愛用することが多い。
    「でも最近は愛用してるとこの新作を試すばっかりで、ブランド自体の新規開拓が出来てないなぁって思うので、オススメがあったら逆に教えて貰いたいですね~」
     この発言が、後に安室の人生を大きく変えることになる。
     鮮やかな手際で美しすぎる毎日メイクを完成させた安室は「良かったらチャンネル登録と高評価お待ちしてまぁす♡」というお決まりの台詞と共にあざとく両手で手を振りながら視聴者に別れを告げ、動画が終了する。コメント欄には安室に使ってみて欲しいおすすめ化粧品ブランドの名前が怒涛の勢いで書き込まれていた。殆どが有名なデパコスだらけで、その中でも特に多かったのが〝エカルラトゥ〟というコスメブランドだった。フランス語で緋色を意味し、ユニセックスかつシャープでアダルトなイメージのある有名ブランドだ。比較的安室の上げる動画の中には登場頻度が少なく、過去に一回か二回シャドウが使われたくらいだった。
    「エカルラか……新規開拓には丁度いいかな~…。へぇ、ここもラクレストの傘下なんだ凄いな」
     視聴者からのコメントやエゴサーチ結果を参考にしつつ、安室はさっそく公式ホームページへと飛んだ。NOC、ライノアと肩を並べるエカルラトゥは世界的な化粧品メーカー〝La Crest〟の傘下ブランドの一つである。パッケージは黒一色に加えて、名前通り緋色が差し色であしらわれたシンプルなデザインが多い。同じメーカーなだけあり、雰囲気の似ているとされるNOCよりも華美で、ライノアより熟練されたアダルトな甘さを滲ませたイメージがある。童顔で可愛い顔立ちだと言われ続けてきた安室にとって、憧れはあるものの自分には少々合わないのではと密かに思っていたブランドだった。しかしいつも動画を見てくれて、応援してくれているファン達が推すのであれば、ここで試さない理由はない。よく行く杯戸町の百貨店内にも、当然エカルラトゥの店舗は入っていた。
    「よし、明日カウンターに行っていくつかタッチアップして貰おう」
     そうと決まれば気になるアイテムの下調べをして、試したいカラーの候補をいくつか考える。こうして期待に胸を膨らませるのもメイクの楽しみのひとつだ。
    「相性が良くて、上手なBAさんがいたら良いなぁ」
     いつもと違って試す前からおおよその見当がついているものとは違い、今回はチャレンジの気持ちが強いので色々と相談もしたい。動画のネタ的にも、視聴者からのおすすめブランドを購入してみた系なら最低でもシャドウとリップはエカルラトゥで揃えておきたいところだ。自分の肌色的に選ぶのは似たような色味になりがちだけど、一番人気の色に挑戦してみるのも良いかもしれない。安室はお気に入りのマグカップを口元に運びながら思わず微笑んだ。ささやかでも新しいものに出会えるのは楽しい。メイクとの出会いも始まりは自分の中に生まれた小さな変化と、新しさからだった。
     日課のコメントチェックとエゴサーチ、新商品のチェックを終えたら潔くパソコンの電源を落とす。夜更かしは美容の大敵とはよく言ったもので、睡眠不足は翌日の化粧ノリに大きく影響する。タッチアップして貰う前日は特に、寝る前のスキンケアを徹底しなければならない。相手はプロなので、どんなコンディションだろうと完璧な対応をしてくれるだろうが、自分のモチベーションに関わってくるからだ。せっかく初めてエカルラトゥのカウンターに行くのならば、万全の状態で挑みたい。
     特別な日に使う洗顔料とスキンケア一式に加えて、お高めのパックも取り出して小さな顔に無駄なくセットする。生まれついての恵まれた肌質と、こうした日々の努力で安室のパーフェクトベビースキンは保たれているのであった。







     杯戸町の百貨店は平日でも常に賑わいを見せている。さまざまな年齢層の人々が、思い思いの目的で訪れて楽しげに買い物をしているのを見ると、こちらまで気分が明るくなる。そんなふうに思いながら安室は一直線に化粧品売り場へと向かい、いつもはエリアの外観を眺めるだけで終わるエカルラトゥを目指した。最近少しは配信者としての知名度が上がったとはいえ、安室自身の感覚としては自分は芸能人なんかではなく、ただの美容が趣味の一般人。喉を保護する目的のマスク一つあれば、チャンネルの視聴者がいる可能性のある化粧品売り場でも問題なくやり過ごせるだろうと、いつも変装などはしていない。チラチラと視線を感じるのは、令和とはいえ、まだ男がこういった場にいるのが少々珍しいからだろう。周囲からの遠巻きな熱い視線に安室は鈍かった。すらりと伸びた長い手脚に、輝くミルクティブロンド。小さな顔を覆い隠す黒マスクからわずかに覗く、美しい青い瞳。たとえ配信者の安室透を知らなくとも、誰もが振り向くルックスをしているのだ。
    「あったエカルラ……、……え?」
     目的のブランドロゴを見つけた瞬間、真っ先に目に飛び込んできたのは全身を黒で統一した長身の美しい男だった。癖のある前髪をこぼれさせたセクシーなオールバック。堀が深く、吸い込まれそうな緑の瞳。高身長な安室よりも更に背が高く、とにかく信じられないくらい脚が長い。それこそどう見ても一般人には見えなかった。ブランド専属のモデルか何かだろうか。ホームページのお知らせにはイベント開催の予定なんて無かった筈。
     あまりの衝撃に安室は気付くのが遅れた。彼がエカルラトゥの美容部員であることを示す制服を身に着けていることに。
    「やあ、何かお探しかな」
    「え! あ、あの……」
    「うん?」
    「シャドウとリップを、試したくて……」
     じっと見つめ過ぎていたからか、視線に気づいた彼がこちらに近寄り声をかけてきた。驚くことに、声まで最高だった。甘く耳をくすぐる低めのベルベットボイス。百貨店の美容部員らしからぬラフな口調も何故か違和感がなく、まるで不快に感じない。色々と心の準備が出来ていなかった安室は、まるで初めてデパコスのカウンターに来た学生のように戸惑いながらも希望のアイテムを告げた。こちらへ、と微かに微笑んだ男の胸に「赤井」と書かれた名札を見つける。赤井。赤井さん。エカルラトゥにこんなに素敵な男性美容部員さんがいたなんて。
    「気になる色は? 何色でも構わない」
    「ええと、そうですね。実はあまりエカルラさんのコスメを持っていなくて、人気色と自分に合いそうな色を試したいなと」
    「なるほど。……マスクを取って貰っても?」
    「あっすみません!」
     だめだ完璧に緊張してる。安室は恥ずかしい気持ちで慌ててマスクを取った。今日は下地にパウダーとアイブロウのみで他は何もしていないが、昨夜スキンケアに気合を入れた甲斐あって肌のコンディションはすこぶる良い。こんなに格好いい人にタッチアップして貰えるなら、尚更ちゃんとやっておいて良かったと安室は密かに思った。別に男性が好きという訳でもないが、赤井にはヘテロでもグラついてしまいそうな危ない魅力が溢れていた。少しタイトで、逞しい筋肉とスタイルの良さが映える黒シャツとスラックスがよく似合っている。
    「あぁ、とても綺麗な肌だ。瑞々しくて、毛穴一つないんじゃないか」
    「そんなことは……。でも、ありがとうございます」
    「これじゃあファンデーションは勧められないな。残念だ」
    「ふふっ、そんなこと言うBAさん初めてですよ」
     安室が緊張気味なのを察してか、あまり表情が変わらないクールな印象とは裏腹に、赤井はジョークを交えながら穏やかに接客をしてくれた。男同士なのもあり、会話し始めればとても話しやすくて、緊張がほぐれていく。
    「ではまずアイシャドウからいこうか。一番人気なのはこの03番なんだが、俺が君の瞼を彩りたいと思う色はこっちの07番……ヴァージンシュガーというパレットだ」
    「へっ!? あ……綺麗な色ですね。サイトでチェックした時は目に留めなかったのに」
    「実際の色味とはやはり異なるからな。細かいパールが入っていて、ひと塗りで品の良い艶が出る。乗せていってもいいかな?」
    「はい……、お願いします」
     赤井が持って来てくれたのは、エカルラトゥのベストセラー商品である四色パレットのシリーズ。安室も勿論事前にチェックしていたが、自分に合いそうだと目星をつけていたのとはまるで違う色をチョイスされたことにも、赤井の口説き文句のようなキザな物言いにもダブルで衝撃を受けた。ヴァージンシュガーという可愛らしい名前の、ミルクが混ざったような淡く優しい色味のブラウンパレット。普段は肌色に負けないように濃いめの色を選びがちなので、自分ではきっと選ばないカラーだ。色々な意味でドキドキしてしまうのを抑え込みつつ、目を瞑って赤井にメイクを施して貰う。ブラシが瞼に優しく触れた瞬間、ピクッと肩を揺らしてしまい恥ずかしかった。タッチアップなんて今まで何度もして貰ってるのに、初めてのブランドとはいえどうしてこんなに緊張してしまうのか、安室は分からなかった。
    「………うん、良いな。目を開けてごらん」
    「わぁ……、すごい……淡いのに僕の肌色でも全然浮いてなくて……。グラデーションがとても綺麗ですね」
    「君の美しい瞳を引き立たせる。濃い色を使いたい気分の時も勿論あるだろうが……君に一番似合うのは素材の良さを活かせる、透明感のあるメイクだと俺は思う」
     眠りから覚めるようにゆっくりと瞼を上げれば、鏡の中には見たことのない自分が映っていた。決して濃くないのに発色が良くて、細かなパールが瞳を着飾るようにきらきらと輝いている。更に赤井の技術によって立体感が足され、普段自分でしているアイメイクとはまるで違う。これまでも人からメイクをしてもらったことは沢山あるのに、はじめて化粧をした時のように、まるで魔法にかけられたみたいだった。
    「お気に召してくれたなら何よりだ」
    「えぇ、とても。あの……、よければリップも選んで頂けませんか?」
    「あぁ、勿論。光栄だよ」
    「……よろしくお願いします」
     今日、この店舗に来られて本当に良かった。安室は思わず幸運を噛み締める。こんなに格好良くて、同じ男として憧れの姿形をした人で、しかもビューティーアドバイザーとしての腕も相性も最高。勝手に運命の出会いだとまで思ってしまう。帰りは絶対に名刺をゲットして、今度から必ず指名させて貰おうと、安室は心に決めながら赤井が戻るのを待つ。その間にも赤井は女性客から何度も声を掛けられていて、やはり相当な人気のようだった。指名予約なしで担当して貰えたのは奇跡的だったのかもしれない。
    「待たせてすまない。在庫も確認してきた」
    「いえいえ。やっぱり赤井さんって大人気なんですね。もしかして、売上一位だったりします?」
    「まあ、そんな月もあるが……見ての通り俺はまともな美容部員じゃないんでね。売り上げより、俺とブランドを信頼してくれる客に応えていくだけだ」
     淡々と飄々としているようで、この仕事と自社ブランドに対して誇りとプライドがあることがよく分かる。まだ出会って数十分程度だというのに、彼の魅力に惹きつけられていることに安室は気付いていた。美容部員の良し悪しで今後扱うコスメに偏りが出てしまうのは、配信者として避けたい事態だけれど。それを抜きにしても、赤井にタッチアップして貰ったアイシャドウパレットは、今後間違いなく安室のベスコスラインナップの中に入ってくるだろう。鏡に映る自分の瞼を眺めるだけで嬉しくなってしまうのだから。
     なんてことを考えているうちに、赤井が選んでくれた二本のリップが目の前に差し出された。パッケージもシックかつ高級感があり、これもエカルラトゥの定番人気商品だ。一つは安室も気になっていた色。そしてもう一色はまたしても意外な選択だった。
    「あ、この04番は僕も試したいと思ってた色です」
    「これは君に似合わないわけがないからな、こいつの方から俺にアピールしてきたくらいだ」
    「あはっ! また真顔でそんな冗談言って」
    「本当さ。もう一色は、俺が君に付けて欲しいと思う色を」
     その言葉を聞いて、またしてもドキッと心臓が跳ねる。彼はいつもこんな感じで接客をするのだろうか。客を落とそうとしてお世辞を言っているのではなく、さらりと言い放つところが逆に罪深い男だ。付けて欲しいだなんて、あくまで売る側としての発言に決まっているのに。安室は平静を装いながら、配信の時と似た微笑みを浮かべた。
    「それなら、せっかくだしそっちを塗って貰おうかな……。すっかり赤井さんを信用してしまいましたから、僕」
    「ふ……、いいのか? 全て俺の個人的な好みで選んでいるんだが」
    「じゃあきっと、僕たち相性がいいのかもしれませんね」
    「ホォー…。君、よく魔性の男だと言われないか?」
    「あははっ! 貴方にだけは言われたくありませんよ」
     作り笑いをした筈なのに、すぐさま本当の笑顔を引き出されてしまった。しかし赤井はクスクスと笑う安室をじっと見つめながら、何かを思案するように黙り込む。表情があまり豊かでない分、黙っていると本当に何を考えているのか読めない、ミステリアスな雰囲気がある。つくづく百貨店の美容部員とは思えない色々と並外れた男だ。赤井には、もっと知りたいと思わせる魅力がある。深入りしたらいけないと分かっていても、ひどく興味をそそられてしまう。化粧品ではなく、人間に対してこんなに興味を抱くなんて初めての経験だった。
    「あの……どうしたんですか? 急に黙り込んで」
    「いや……、一目見た時から可愛い子だと思っていたんだが、君の笑顔はすごいな。愛くるしいと言えばいいか」
    「な……っ! 何言ってるんですか、営業トークにしたってやり過ぎですよ……」
    「気分を害したらすまないな、これでも心から褒めてるんだ。さて……可愛い唇をお借りしても?」
     流石に、流石に。安室は思わず、ボッと音が出そうなくらいに顔を赤くした。いくら肌色が濃くたって、この距離じゃ赤井にバレてしまうかもしれない。どうにか誤魔化したくて、ぎゅっと硬く目を瞑った。こんなこと、他の客にだって言いまくってるに違いない。こんなに顔が良くてスタイルも声も良くて、更にはメイク技術も知識もセンスだってあるんだ。ただでさえ男性美容部員なんてモテモテだろうに、きっともうスーパーモデルのような美しい恋人がいるに違いない。いや、そもそも恋人がいてもいなくても関係のない話だろう。さっき会ったばかりで、男同士で、赤井は店員で安室は客。向こうはこっちの名前すらまだ知らない。
     それでも、リップブラシが唇をなぞった瞬間にゾクゾクと背筋が震えた。赤井の手によって、自分の唇が染められていく。つい薄く瞼を開ければ、真剣な眼差しのグリーンアイズと目が合って。微かに微笑まれてしまっては、またキュッと目を閉じることしか出来なかった。ときどき我慢できなくて目を開けては、更にドキドキさせられてまた目を瞑っての繰り返し。触れているのはブラシだけなのに、どうしてこんなに鼓動が早くなるのだろう。安室はなんだか泣きたい気持ちになった。本当に何かの魔法をかけられてしまったのかもしれない。
    「……さあ、目を開けてくれ」
    「あ………」
    「俺は最高だと思うが、君の意見を聞かせてくれないか」
    「はい……すごく、良いです……」
     鏡を見て最初に思ったことは、僕ってこんなに可愛い顔してたっけ?だった。リップはいつもあまり目立たない無難な色味ばかりつけていたけど、自然な血色感のあるピンクで潤いもあるのに女装メイクみたいにはならなくて。自分の唇なのに思わずキスしたくなるような艶感に感動する。
    「やっぱり貴方に選んで貰って正解でした。自分だったら絶対に出会えてない色ばかりで……」
    「意外と、自分のことは自分が一番分かっていないものだからな」
    「本当にそうですね。今までエカルラさんにあまり手を出してこなかったの、後悔してますよ」
    「君の魅力を最大限に引き出せるのはウチの商品だと思ってる。新規開拓のブランドに是非加えて頂けると嬉しいよ、安室透君」
     はい、勿論。そう言おうとして、安室は大きな青い目を見開いた。聞き間違えじゃなければ、いま安室透って────。
    「どうして、僕の名前……っ」
    「うん? まさか知られてないと思っていたのか? 君ほどの有名なコスメレビュアーを、この業界に居て俺が知らない訳ないだろう」
    「だ、だってそんな素振り全然……! 待ってください本当に驚いて……」
    「君の上げている動画は全て見てきたが、正直言って君のメイクは君自身の良さをまるで理解していないように思える」
    「………はっ?」
     赤井から言い放たれた言葉に、安室は石のように固まった。美容部員が市場調査で素人のレビュー動画をチェックしていることについては、何らおかしくないだろう。赤井が自分を知っていたことについては少々驚きはしたものの、先述の理由で納得出来る。しかしその後の発言に、安室の高いプライドにビシリと亀裂が走った。有名配信者といえど、勿論ただの素人だ。どこかの事務所に所属している芸能人でもなければ、プロのメイクアップアーティストでもない。それでも学生の頃から化粧品について学び、あらゆるコスメを試してメイクの技術を独学で磨いてきた安室にとって、赤井の発言は許せなかった。同時に、ひどくショックでもあった。自分にはないセンスとメイク技術を持ち合わせていて、人として恐ろしいほどに魅力的な男に、自分の今までの全てを否定されたような気分になったのだ。この人ならばと信頼を寄せて、指名までしようと考えていただけに安室は勝手に裏切られたような悲しみと怒りに襲われた。一人でドキドキして、空回って、馬鹿みたいだ。
    「どうして、どうして貴方にそんなこと言われなきゃいけないんだ! 僕のこと、何も知らないくせに!」
    「知っているさ、俺は君の大ファンだからな。だから尚更、君のメイク動画を見るたびにもどかしい気持ちを抱えていた」
    「ふんっ、アンチの間違いなんじゃないですか……!? もういいです帰ります!」
    「安室君、待ってくれ。これを」
    「何ですかもう!」
     勢いよく席を立った安室を引き止め、赤井が渡してきたのはあろうことか自身の名刺だった。なんて面の皮の厚さなんだこの男は!誰が貰うかお前の名刺なんて!そう思いながらも、赤井にタッチアップして貰った時の高揚感や、選んで貰った商品の良さを思い出して安室はグヌヌと唸る。迷った末に奪い取るように赤井の名刺を取り上げ、ぐしゃりと握りしめながらポケットに突っ込んだ。決して指名するためなんかじゃない。完璧なメイクをしていつかこの男を見返してやるために、敵の情報として所持しておくだけだ。
    「いつでも指名お待ちしているよ、安室君。そのシャドウもリップも、最高に似合っていてゴージャスだ」
    「う、うるさい! 誰がお前なんかっ! もう二度と来ませんからっ!」
    「怒った顔も良いな。配信じゃ見られない表情だ。これからも応援しているよ、安室君」
     カウンターからひらりと手を振る赤井に、悔しくて恥ずかしくて訳が分からなくなった安室は一目散に化粧品売り場から逃げた。せっかく百貨店まで来たのに一つも新しい化粧品が買えず、これじゃあ次の動画のネタにもならないし最悪だ。けれど店内の至る所にある鏡張りの柱に自分が映るたび、やっぱりメイクは最高で尚更複雑な気持ちになる。
     見れば見る程どうしてもこのシャドウとリップだけは買っておきたくて、化粧品に罪はないと言い聞かせながら別店舗まで移動して無事に購入は出来た。商品を手に取った瞬間に赤井の顔が鮮明に浮かんで苛立ちが募ったものの、こうなればいっそエカルラ縛りの完璧なメイク動画を出して赤井を見返してやりたい。そう思った安室は吟味に吟味を重ねてその他のアイテムもいくつか購入した。今日はここまで買う予定はなかったので現金が足りず、カード払いになったが構うものか。敢えて赤井が選んだものをベースに構成を組み立てたので、普段とはまったく違う色合いばかりだ。
    「絶対、絶対にギャフンと言わせてやるからな赤井……っ」




    つづく
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    ruamruam3d

    INFO6/25(日)JUNE BRIDE FES 2023
    【東5ホール/め17b】※別ジャンルスペです
    はるばる会いに来てくれた方限定で魔王シュウ×勇者レイの書き途中小説冊子を無料配布予定です。
    冊子がなくなってしまった場合は後日アップ予定のポイピクパスワードを教えます!

    ※サンプル内怪我とかちょっと痛ましい描写あり
    魔王シュウ×勇者レイ 何が勇者だ。何が英雄だ。レイは全身の痛みに耐えながら、瘴気の立ち込める暗い檻の中で自嘲する。
     後ろ手に拘束され、足にも鉄枷がついている状態で石の地面に転がされていては満足に周囲を見回すことも出来ないが、ここが宿敵である魔王の城の最下層にある牢獄だということと、自分が戦いに敗れてこんな場所に放り込まれ虫の息になっているのだけは確かだ。
     類稀な剣の腕と特異な容姿から伝説の勇者の生まれ変わりだと持て囃され、国王直々に魔王討伐の命を授かったレイは、これまで数多の敵を倒して来た。空飛ぶモンスターも巨大なドラゴンも、圧倒的な強さで例外なくねじ伏せ多くの人々を救った。その功績からレイはいつしか〝麗しの英雄〟と呼ばれ、知らぬ者はいない程の存在となった。しかし名を上げ過ぎた英雄の名は当然魔王の耳にも入り、目障りな勇者を始末する為に魔王はレイの生まれ故郷を人質に取ったのだ。天涯孤独の身だとしても、故郷には兄弟同然に育った親友達が平和に暮らしている。レイは無抵抗で魔物達からの攻撃を受け、瀕死の状態で魔王の城へと攫われて今に至る。
    4001

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