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    yns39

    @yns39

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    yns39

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    フォ学が女女、パラロイがカントボーイ、月下が青姦! エイプリルフールのブラネロ×3が、出られない部屋と化した魔法舎にやってきてしまい、各々好き勝手にするから最低~!という感じのエロコメ……になる予定の話の導入です。

    『魔法舎はヤリ部屋ではありません』「世界各地に残されている様々な伝承、禁忌、風習とされているものは、その土地に残り続けている理由がある」
     ファウストのよく通る声を聞きながら、ネロはページをめくった。これまでの授業態度を改め真面目に板書を行っている、ように見えるその行動だが、実際の所、ネロの心はまったく入れ替わってなどいない。一つ前のページには、昨日時点での食料庫の備蓄がメモとして書き留められている。
     メモと市場からの定期配達で届く食材を頭の中で並び替えながら、明日の朝食について考える。今日の夕食はグラタンの予定だから、それでエバーチーズとキノコを使い切ってしまうはず。付け合わせにサラダを用意すると、明日の朝食分の卵は余裕だけど、トマトは怪しいかもしれない。お子ちゃま達の分はトマトを少し減らして、代わりにコーンで彩りのバランスを取ろう。
     ――いや。
     そこまで考えて、そういえば、明日は朝から中央と西の連中が任務、ルチル達も雲の街の手伝いで数日留守にするとか言っていたような気がする。
     賢者なら全員の予定を把握しているはずだ、夕食後にでも魔法舎を留守にする予定のあるメンバーを確認しに行く、よし。そう決めてネロはノートを閉じた。そして、ずっとこっちを見ていたのだろうファウストと目が合う。
    「では、その一例を答えてもらおうか、ネロ」
    「……えっ? 俺?」
    「引きこもりだった僕と違って、君は他の国を訪れる機会も多かっただろう?」
    「いや別にそこまで……」
     ネロがあの国にいられなくなって、およそ百年。もう少し自分にとって住みやすい場所があるんじゃないかと、水が低きに流れるように移動しただけだ。
     ふと、ファウスト以外の視線を感じて、首を横に向けた。夏の夜空に星灯りを溶かした青色と、冬の森を力強く照らす炎が混ざった赤色の、期待を孕んだ子ども達の眼差しだ。
     はっきりと言ったことは無いが、ネロという男がファウストよりも長く生きていて、東以外の国にも住んでいた過去があることを、この聡い子ども達は何となく気付いている。だからこそ、聞いたことのないような不思議の話を期待しているのがはっきりと伝わってきて、ネロはファウストを少し恨めしく思った。そんな都合よく子ども達を楽しませるような話なんかあっただろうか。レシピや食材で埋まっていた頭の中を整理して、ああでもない、こうでもないと記憶を掘り起こす。西の国でのあの話はヒースにはまだちょっと刺激が強そうだし、南の国で巻き込まれたあの話は、シャーウッドの森にも似たような話がありそうだ。
    「…………あー、何年前に聞いたんだったかな。場所は東の国境付近だったと思うけど……」
     無難に、東の国での話を選んだ。
     逃げるように出てしばらく、静かに暮らすことにしか目を向けていなかった時期が長かった。あまり他の国での話をすると、齟齬やボロが出てしまう可能性がある。ネロにとっては今の魔法舎での暮らしもそうだ。できるだけ、静かに穏やかに暮らす場所。
     ファウストは必要以上に踏み込まないよう、ネロが露した馬脚を見ぬフリをしてくれているが、子ども達にもそうしてくれ、と頼むこともできない。話題として避けられるのなら、自ら皿の端に避けておけばいい。
    「ある村で少し世話になった時期があるんだが、その村じゃ赤ん坊が産まれたら、真っ先にすることがある。赤ん坊を寝かしつける前に、その子どもの揺りかごに鏡を忍ばせるんだ。鏡は一週間ほど、揺りかごの中の、赤ん坊の顔の傍に入れたままにする」
    「……ネロ、僕から一点確認だが、その話は最後まで子ども達に聞かせても問題の無い話か?」
    「まあ。後味はよかねえけど……」
     人間達が行っていた残忍さ、という点に関して言えば、以前、祝祭を行うために訪れたあの村と同じだ。ネロは言葉に出さず内心で補足する。
     真実から遠ざけて侮るだけでは彼らの為にはならない、それはあの祝祭での出来事によって、ネロもファウストも実感した。けれど、正直に話して無暗に彼らの柔らかな部分を傷付けることが正解とも思わない。
     ネロはちらりとヒースクリフの様子を見た。シノだって当然、大切にされるべき子どもではあるが、他者の抱える苦しみに寄り添う思いやりや想像力が豊富な分、ヒースクリフの方が繊細だ。村の名前は言わなかったが、実在する東の国での話ということも、彼の心に多少なりとも重く圧し掛かるに違いない。ネロは彼らの様子を伺いがら、具体的な部分は多少伏せつつ話を進めることにした。
    「数日滞在してみて、雰囲気が良かったらその村で店を開こうと思っていたんだが、俺が訪れた日に、偶然赤ん坊が産まれた家があった。そこで案内役の村長の娘さんに、鏡についての風習の話を聞いたんだ。それから、もし良かったら赤ん坊が無事に育つよう、その家の前で祈りを捧げて欲しいって話だったから、俺は娘さんに着いて行った。魔法使いってことは伏せちゃいたが、風邪なんかの病気を遠ざける、簡単な祝福でもかけてやるかって気持ちでな」
    「なんだ、あんた人間にそんなに優しかったか?」
    「生まれたばかりの赤ん坊には何もされちゃいねえし、何の罪もねえからな。実際、俺はシノくんにだってめちゃくちゃ優しいだろ?」
    「おい、赤ん坊扱いするな」
    「子猫ちゃん、いいからまずは着席しなさい」
     勢いよく立ち上がったシノが、納得しきれていない顔のまま再び着席する。
    「僕から質問だ、その鏡はその辺のどこにでもある鏡なのか」
    「いいや、違う。用意する鏡は何でもいいってワケじゃない。娘の話によれは父親……その村の村長自身が赤ん坊の為に一個一個加工した、特別な鏡なんだそうだ。なんでも、大昔に子どもだけ罹る病気が流行ったとき、病気を体に取り入れないよう願いを込めて作られたもんが、結果村の文化として根付いて、本人が生まれたときから死ぬまで魔除けとして大切にするもの、って形で残ったらしい。彼女も、これが私の鏡です、っつって大事そうに見せてくれたよ」
     一呼吸置く。この続きを話すのは、少しだけ心苦しい。
    「そんな話をしている内に、話題の本人である村長が、布に包んだ何かを大切そうに抱えてやって来た。それと同時に、俺はこの村に住むことを早々に諦めた。親父さんの抱えた荷物から、弱弱しいが魔力の気配がしたからだ」
    「それは……村長さんが魔法使いだったんじゃ……?」
    「村長も、その娘も人間さ。その村に魔法使いはひとりも住んじゃいない。……先生、この話、もうオチまで言っちゃっていい?」
    「少しだけ待ってくれ」
     ファウストが向き直る。
    「ヒース、シノ。話を整理するぞ。ネロが訪れたその村では、生まれたばかりの赤ん坊の揺りかごに、鏡を忍ばせるという風習があった。その村に魔法使いは存在しない。鏡は村長が用意した特別なもので、ネロはその鏡と思しき荷物から微弱な魔力を感じた。この村で一体何が行われていたか、分かったか?」
    「……生まれた子どもが、魔法使いかどうかを見極めていたんじゃないでしょうか」
    「そして、使われていた鏡は村長がマナ石から加工した物だろ、鏡が数日たっても消えなければ人間、もしも消えれば、それはその赤ん坊が石を食った証拠だ」
    「ネロ」
    「その通り。……二人とも、嫌な想像させちまって悪かったな」
    「俺たちのことはいいよ、実際に目の当たりにしたのはネロなんだから……それよりも、俺はこんな身分なのに、東の国に魔法使いへの強い偏見や悪習が根強い地域がこうも残っていて、それを魔法舎に来るまで具体的に知らずに暮らしていたことが、悔しい」
    「ヒースは悪くない。ヒースは悪くないし、そうした情報からヒースを守り続けてきた旦那様と奥様も悪くない」
     唇を噛みしめるようにして俯いたヒースクリフの隣で、毅然とした態度のシノが断言する。
     任務により各国を訪れる機会も増え、若い彼らが自分たちを取り巻く環境や、他国と比較して、東の国の人間が魔法使いへ向ける冷淡な眼差しも理解するようになった。
     時折、そのやり取りに幼さが見え隠れする二人が支え合う姿は、ネロの目から見て微笑ましいときと、痛々しく映るときがある。互いをあれだけ思いやっているのに、シノの抱える飢えは、ヒースクリフの澄んだ柔らかな心と、相性がいいとはとても思えない。傷つけあって、喧嘩もして、それでもお別れしたくないから、仲直りを繰り返す。
    「この話の教訓は……そうだな、閉鎖的な人間の村に長く残る風習に、ロクなもんはねえってことかね。そいつらにとっては、今までと変わらない平和な生活を送るために、必要なことだったんだろうけどさ」
     ネロは一つだけ情報を伏せたまま、話をまとめようとした。村長が鏡として加工に使ったマナ石の入手先について、それ以上言及したくなかった。
     シノはもしかしたら勘付いているかもしれない。
     村長の娘の口から語られた話には、もう少しだけ続きがあった。赤ん坊に与えられた鏡が数日以内に消えた場合、その子どもは村長が引き取る決まりだと。鏡に込められた加護を失った赤ん坊は、村に病を再び呼び寄せる呪われた子として、村の外へと連れ出される、娘はそう話していたが、おそらくは村長、もしくは一部の村の大人達によって、引き取られた子どもは石にされていたのだろう。その後、マナ石は鏡として加工され、再び弾き物を見つける為に利用していた。
     ネロにとって幸いだったことは、その日生まれた赤ん坊からは、魔力の気配が一切しなかったことだ。
     それが分かった瞬間、ネロはひどく安心したと同時に、自身への嫌悪が腹の底でぐんと膨れたのを感じた。魔法使いの赤ん坊が母親から引き離される所も、石になる瞬間も見たくは無い。だが、助けた赤ん坊をその後どうするか。人間の営みの中でひとり、濡れた靴を居心地悪く履き続けるように生きているネロにとっては、腹の底に重石でも抱えるような想像だった。
     救いの無い話だ。あの村も、娘の口から語られてなお、何もせず立ち去ったネロ自身も含め。
    「鏡は昔から、魔除けとして、不思議の力が宿るものとして、人間にも魔法使いにも使われてきた」
     ファウストが宙から魔道具を取り出し、机に置いた。丁寧に磨かれた鏡面が、机に座るシノ達の姿を映し出した。
    「儀式の道具として、献上品として、鏡はあらゆる時代や国で、畏れ、呪われ、願われてきた訳だ。シノ、鏡にまつわる伝承を何か答えてみなさい。どんなものでもいい」
    「答えていいのか? ヒースが夜に眠れなくなるぜ」
    「は? そんな訳ないだろ、またすぐにそうやって決めつけて……」
    「…………月の無い夜、剃刀の刃を咥える。その後は何があっても儀式が終わるまで声を出しちゃいけない。鏡の前に立ったら、予め用意したもう一枚の手鏡を鏡へ向けて、覗き込む。合わせ鏡の状態で、手前から数えて十三番目の自分が動き出したら最後、鏡の中に取り込まれる……って噂話が、昔いた清貧院で流行ってたな」
    「……っ」
    「ほら、顔色がよくないぜ坊ちゃん。従者として今夜は寝ずの番をしてやろうか?」
    「いい加減にしろ! おまえはそんなことしなくていい!」
    「こらこらおまえさん達、授業中にまで喧嘩すんなって」
     へそを曲げたのか、ヒースクリフはすっかり顔を背けてしまった。今のは明らかにからかい過ぎたシノが悪い。ネロはシノへと視線を送ったが、ヒースクリフの口から"そんなこと"と言われたのがおもしろくなかったのか、シノも完全にそっぽを向いていた。助けを求めるように、ネロは教壇を
     向く。
    「今の話……僕は聞いたことがないな。最近作られた怪談だと思うけど……そろそろ時間か。ネロから、もう一つ話を聞いて、今日は終わりにしようか。ネロ、伝承、禁忌、風習のいずれでも構わない。どうしてそんなものが残ったのか、という話を頼む」
    「えー……なんか今日俺のご指名多くない?」
     だが、ヒースクリフもシノもこの調子だ。はあ、とネロは溜め息を一つ吐いた。記憶の箱の中から、むかし、北にいた頃に教わった話を引っ張り出す。
    「世の中には自分に似たが三つはあるって言うだろ、あれは昔、道や馬車の整備が整っていなかった頃に――……」



     世の中に存在する、自分とそっくりな三つの顔。
     諸説はあるが、ネロが大昔に聞いた話のあらすじはこうだ。大昔、今ほど大陸中の道や馬車の整備が整っていなかった頃。魔法生物が今よりもずっと多く存在し、北以外の国でも、魔法使い達の力が大きく社会と密接していた時代のことだ。
     その時代は、どうやったって人間が移動できる範囲はずっと限られていた。更に近親同士の交わりも、今ほど禁忌とされていなかった。
     お互いの存在を知らないまま生きて来たはずが、遠いどこかの血縁だったということが、今よりもずっと多かった。他人と思いきや、実は親戚だった。そんなケースが珍しくなく、似た顔が存在するのは、当前の話だった。
     そうした時代的な背景が理屈として存在して、その上で現代まで残った伝承は少なくない。酌の相手をしながらの話だったか、それとも寝物語だったか、その辺りはあやふやだが、ブラッドリーはネロへそう語った。交渉の場、情報を集める場、どうでもいいような雑談から、相手を落ち着かせ、宥め、ときには興味を引く方法、その手法。
    「ネロ、覚えとけよ。てめえには料理っていうてめえだけのカードがあるが、手札は幾ら増やしといた所で損することはねえ」
     実際、ネロはその手札で北を出た後の百年をやってこられた。料理は余所者を警戒する人間の硬い口と心を割らせたし、風で聞いた話なんだけど、と相手の興味のありそうなネタを振れば、あとは勝手に親近感を抱いてくれる。
     盗賊として生きていた頃は、そうした伝承や村に伝わる禁忌の話には特に敏感だった。なにしろ、魔力を秘めた財宝や、魔法使いがテリトリーを侵されないよう、わざと流布した噂話に繋がるケースが度々ある為だ。
     だが、人から得る情報は玉石混合としか言いようがない。複数の文献によって裏付けの取れた話であれば信憑性は高まるが、盗賊団ならこういう噂を好むだろうと情報を高く売ろうとしてくる太い野郎も後を絶たなかった。
     それでも酒場に広まる噂にも、村の老人の口伝にも、まだ誰もその存在を知らない玉が混ざっている可能性がある。できるだけそうした機会を逸しないよう、ネロは数百年の間、ずっと心がけていた。
     国や時代ごとに好まれる話題や、頭に入れておくと役立つ話も異なった。西は流行や魔法科学について、東は土着の信仰や魔法使いの住む土地について、南はあまり長くいなかったが、乾燥した土地でも育つ作物についてや、長期保存のできる食材についての話をよくしたような気がする。中央はネロからしてみれば高潔な方が多くて、下手な噂をする方が不審な目で見られることがあった。
     街を流れる噂話、それらはその街や村により早く馴染む為に必要だった。特に、人間として暮らしていく為には。
     皮肉な話だ。魔法使いとして、盗賊として、北で生きるためにあの男がネロへと叩き込んだものが、他の国で、人間の、飯屋として生きる為に役立ったなんて。
     
     融けた氷によって、薄まったグラスの中身を干しながら、ネロは小さくため息をついた。まったく関係の無い話から、北にいた頃や、ブラッドリーの話に繋げてしまうのは自分の悪癖だ。頭では分かっていながらも、数百年染みついたものをそう簡単にやめられるものではない。
     肩を曲げて一度大きく伸びる。この時間ともなれば、真夜中の腹ぺこ達ももう訪れては来ないだろう。睡魔は遠いが、いい加減、横にならなくては。
     髪紐を解きながら、そういえば、クロエが仕立ててくれた寝間着があったことを思い出した。クローゼットから取り出し、改めて見れば、落ち着いたトーンと、動きやすさと汚しても洗いやすそうな機能性を重視の寝間着は、ネロの好みだった。
     降ろしたばかりの寝間着は肌触りがよく、もしかしたら良い夢が見られるかもしれない、そんなことを思いながらネロは瞼を閉じた。
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