天狗の導入 最後の一つだ。よく色付いた柿の実に指先が触れた途端、ネロの耳に地上から静止の声が届いた。
「すまんが、そのてっぺんの一つは取らないでおくれ!」
依頼主にそう言われてしまえば従う他無い。ネロはそっと伸ばした手を離した。
言われてみれば、去年もてっぺんの実は取るなと言われたような気もする。そのときも確か何故だろうと思ったが、機を逃して聞けずじまいだった。
秋も深まり、すっかり葉が落ちた木の枝先に一つだけ残された果実は、風に吹かれる度ゆらゆらと不安そうに揺れている。何かしら理由はあるのだろうが、高い場所にぽつんと一つだけ取り残された柿の実を見ていると、なんだか少しだけ胸の辺りがざわついた。
「悪いねえ、毎年毎年、手伝ってもらっちゃって」
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