ささやかな最後の最期にしたくない会話「そろそろ行くか…」
コシチェイは机の端に腰を預け、独り言を吐く。コシチェイの本拠地である理術研究院は目下ソロモン王の襲撃を受けている。戦力も足りず、コシチェイとカラダンダは逃走ルートであるヴァイガルドへのゲートのある部屋で次の算段を相談していた。
「…そうだな。幻獣は放ってきたが、ソロモン王の戦力ではあの程度すぐに突破されてしまうだろう」
カラダンダは部屋の入り口で音波を放ちながら敵の動向を探っている。
「おい…行くぞ」
コシチェイはカラダンダに手招きする。
「…いや、私はここに残る」
カラダンダは背を向けたままコシチェイに返事をした。
「あ?」
「コシチェイ。ゲートを通ってヴァイガルドに着いてから、魂の器を回収する時間が必要だろう?骸体もいくつか持っていくべきだ。あちらにも幻獣はいるが、足止めにはなるまい…。その時間を考慮すればこちらでの足止めがもっと必要だ」
「…………カラダンダ」
「いざとなれば自爆してソロモン王もろとも巻き込める。…む。また突破されたか…。私のことは気にするな」
「カラダンダ、私は……」
あまりにも軽い調子のカラダンダが不可解だった。カラダンダがこの時が来ることを何度も何度も考えていたことをコシチェイは知らなかった。
「…私、私が、それを思いつくべきだった…。いいぞ。やってやれ、カラダンダ」
コシチェイはそう言って苦しそうに笑みをつくった。
「……お前が足止めするならもう少し時間があるだろ。お前用に栄光の手を改造しておく。なに、すぐ終わるさ…」
そういってコシチェイは部屋に用意してあった栄光の手をいじり始めた。カラダンダもそれをたしなめはしなかった。迫りくる終焉の予感に二人は顔も合わせずに共に過ごすことを選んだ。