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    やしろ

    @yashiro_kk

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    やしろ

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    アルバ・オノールが主人公の長編小説、3.5話公開です

    『ミチ』(3.5)ー○ー


    ユリスと軽食を済ませた私は、急ぎ足でシェーンの部屋へと到着し、綺麗なドレスを身にまとったシェーンに最後の魔法をかける

    「うん、すごく似合ってる。綺麗だよシェーン」

    「シェーンは独りじゃない」

    「私が一緒にいるよ」

    元より体温が極端に低いシェーンの手を包み、微笑む。私の本心であり、私が求める言葉。本当に、今日のシェーンは美しい

    「…アルバお姉ちゃん、」
    「ん?どした??」
    「色々と……ありがとう」

    「アルバお姉ちゃん……時間ないのにごめんね、着替えなくちゃだよね…?それに、物販も……」

    とても優しくて、健気で、純粋な心を持っているこの子が愛おしくてたまらない。
    ずっと気にかけていた、妹のような存在のシェーンは私にとって、あるべき姿で立ち続ける支柱の1人。シェーンには、幸せになってほしい。叶うのなら、独りで生きることに満足しないでほしい

    「……シェーン」
    「?なぁに?」
    「愛してる」

    そっと、シェーンの手の甲にキスを落とした


    ー○ー


    城内は愉快な音楽と、楽しげな話し声で溢れていた。皆がこの日を喜び、1年に感謝をする。
    大切な人へのプレゼント制作や購入に心躍らせる人。一生懸命合唱の練習をする人。ダンスパーティーのためのドレスや燕尾服の購入に緊張する人。ブュッフェ作りのお手伝いーー。
    今宵は寒さの中で寄り添い、いつまでも一緒にいたい人と過ごす聖夜祭

    灯りの数だけ人生がある。
    喜びがあり、悲劇がある。
    だからこそ、人々はキャンドルに火を灯す。

    焔が揺れる


    ゆらりゆら



    細い糸が夜に舞う

    ふわふわり



    ゆらふわり、ふわりゆら



    さぁ扉を開けよう




    ー○ー

    「先程はすみませんでした…っ!」
    賑やかな城内から少し離れた大通りの露店。昼間は街へ降りていたブースも、聖夜祭の本番が始まるに連れ移動し、集客を期待する。今回選ばれた6名の作者はこの時、一同に集まり、自分の本を手渡しで販売する。まさに、その名の如く小説家の卵のためのイベントである。
    「いいのよぉ、気にしないで??まぁこんな国だからね、いろんな家庭に、いろんな事情があるわよ」

    日暮れ時に一悶着あった私は、ブースに戻る不安を感じていた。他の作者やお客さんもいただろうに、普段であればしない取り乱し方をしてしまった。どう思われるかなんて、考えずとも明白だ。
    「…ありがとうございます」
    眉を下げ、へらりと笑い、席につく

    数時間前の父の言葉が頭の中で反響する。
    何故父はあの場にいたのだろうか、父はこの本を見たのだろうか。自分の初めての著書、シンプルだけれど何度も担当の方と相談を重ねたその表紙を、軽く指で撫でる。こだわりの光沢が大通りの灯りに照らされ、健気にきらりと輝いた

    「あの、ひとつください」
    「わっ!はい!ありがとうございます!」
    声を掛けられた方向を向くと、気弱そうな女の子が小さな財布を握りしめていた。
    私の…大切なお客様だ。
    もう既に手渡し販売は始まっている。気持ちを切り替えるため背筋を少し伸ばし、綺麗なドレスに着られないよう笑顔を魅せる。
    今の私は"作家"のアルバ・オノール

    ただのアルバ・オノールは息を潜めてちょうだい?


    ー1粒。


    しばらく販売を続けると見知った顔がやって来た
    「オノール、頑張っているようだな」
    「あ、シエルせんせー」

    それと

    「ぁっ!?お嫁さん!?と赤ちゃん!!え!!かわいいー!!美人!シエル先生羨ましい!!かわいい〜!!!!」
    「クスッ……主人がいつもお世話になっています」
    「うー」
    正装に身を包み、綺麗なお嫁さんとかわいい赤ちゃんを連れたシエル先生は、普段のスーツ姿とは全く異なったイメージで、随分とかっこいい。
    「寒いだろう?そこの自販機で買ってきたんだ。差し入れだよ」
    そう言うとシエル先生はカバンからホットのココアをこちらに手渡す。おそらくついさっき購入したであろうココアは、氷を溶かすようにあたたかく、正直なところ大変ありがたい。

    「オノールもついに小説家か…」
    あ、指輪。
    と感じる頃には、綺麗に輝く指輪をはめた手に、自分の本が添えられていた。以前では考えられないほどの優しい笑みを本に向ける先生。その様子にお嫁さんもまた聖母さながらの微笑みを向けていた。なんてお似合いなんだろう。
    この本を書く前に、この夫妻にインタビューでもできていれば良かったと思わず感じてしまうほど、3人に惹き込まれた。まるで、映画のワンシーンのような、3人のための空間だ。
    「…はぁ、じゃあ尚更ちゃんと卒業してもらわないとな。」
    「ゲ!!」
    そんなワンシーンは一瞬にして幕を閉じ、先生は突然教師の顔をする。いじわるだ。
    「せめて出席はしてくれ。頼むから。」
    「いゃ……ここ数年はしてるし…」
    「ここ1ヶ月はサボりまくったくせによく言うよ」
    「……、、」
    大学4年ともなると授業数は減るものの、やはり受けなくてはいけない授業もあるわけで、小説を書くために授業をサボりすぎたのがいけなかった。そもそも、私は職人に断じてなりたくない上に、原石を磨きたくもない。学校は楽しいものの、より専門的になってしまった授業は全くの興味をそそられないのだ。
    「まぁ…卒業はします……」
    「頑張ってくれよ?アルバ先生」
    シエル先生は少し意地悪な顔すると、後ろに並んでいる人がいたことに気付き、少し慌てて私の本を購入した。家族は仲睦まじく、城の方へと姿を消す。
    すぐにまた別のお客さんがやって来て、我が子は旅立つ。そしてお客さんもまた、城の方へと姿を消す
    私はそうして城の灯りに紛れ消えていく人達を、ぼんやりと時間の許す限り眺めた。

    何度か知人が本を買いに来てくれる。なんとなく気恥ずかしくて事前に告知はしていなかったものの、噂はお喋りな私の友人達によって広まったようで、グランツ学園のみならず、以前通っていた中学、高校のクラスメイトも気まずそうに買いに来てくれた。想像よりも嬉しくて、懐かしい顔に笑みが零れる。また私と出会ってくれてありがとう、そう言うと皆、嬉しそうに「感想手紙に書いて送るよ」なんて言ってくれる。
    諦めかけていた過去の人はいつの間にか、目の届く距離にいて、私は、まだまだ捨てたもんじゃない。いや、これから始まるのだとなんとなく思える



    ー2粒。。


    「頑張ってくださいね」
    「はい!ありがとうございます!!」
    あまりの寒さからか人通りも若干少なくなり、手先は凍ったように冷たい。シエル先生から貰ったココアはとうに飲みきってしまっていた。外にブースを設けているのだから、どんどん気温は落ちていく、そろそろ時間だねと声が聞こえ始めた頃、その人は現れた。

    背を丸くした老人、顔にはシワが折り重なり、優しそうな微笑みが絵になる。お歳のため白くなったのであろう髪に、ぞわりとするなんでもない赤色の瞳が、なんとも不気味さを感じさせた。前日であればこんな感情も抱かなかったのだろう。久方ぶりに会った父の影響が、あまりにも強いのだ。私は悟られない程度にため息をついた

    「『便箋を君へ』アルバ・オノール』……これをキミが?」
    老人は私の本を手に持ち、にこりと問う

    「はい!初めて売らせていただいています」
    「……ふふっ」

    「………くだらないね。」

    くだらない
    老人はパラパラと私の本をめくりながらそう言った

    一瞬、どういう事か理解ができなくて、視界が真っ白になる。どうしよう。なんて言えばいいんだろう。なんて言うのが正解なんだろう

    「じゃあ、1冊いただこうかな。はい、お代金ね。次回作、期待しているよ」
    「…ぁっ、すみませっ……ありがとうございます…」

    老人は何事も無かったかのように、私の本を購入し、去っていった。私は今、内容もよく読まれずに批判されたのだ。想像よりもショックで、悔しい。悔しいに決まっている。
    これまでは人に読んでもらうことも滅多になければ、単純な批判も受けたことがなかった。悲しくて、心臓がバクバクして、やっぱり…悔しい。何がいけなかったんだろう。なんでもない大学生が本を売っていたことだろうか?それとも、タイトルがダメだったんだろうか。
    そうかこれが、作品を見せるということなんだ。

    何も起きていないように目の前を人は通り過ぎ、美味しそうな匂いがどこかから、冷たい風に乗ってやって来る。イルミネーションの灯りが大通りを伝い、寂しい冬を彩る。自分以外にとっては、なんでもない出来事であり、ただ言葉を交わしただけのこと。けれどこの気持ちは一向に収まりそうにない。寒いな……と独り言を小さく呟いて無理やり誤魔化した。

    何か大きな一歩を踏み出す時、いろんな壁が立ちはだかる。そんな事は知っていたつもりだった、覚悟していたはずだった。だけど、相変わらず手厳しい世界だ

    自分の弱さに目があつくなり、ユリスのマフラーが恋しくなった




    3粒コロり。。。





    ー○ー


    販売を終え、クタクタになりながらも城内へと足を踏み入れる。先程から腹の虫がないており、ただただ何かを食べたい衝動だけが私の原動力だった。
    門をくぐると世界は変わる。ピカピカと様々な色に姿を変えて点灯を繰り返すツリーや、豪華な内装、均等に並べられた長机には多くの料理が並べられ、姿勢の良いウェイター達が動きまわっている。

    ぐぅと鳴るが先か、皿とトングを持つのが先か、気付けば美味しそうな香りに引き寄せられ手を伸ばしていた。
    友人に出会えば「盛り過ぎだ」と怒られそうなくらいには積み上げてしまい、思わず辺りに知人がいないことを確認する。

    壁際にそそくさと寄り、人々の楽しそうな表情を満足気に眺めながら、よそったビュッフェを口に運んだ。
    世界はこんなにも美しい。
    けれど私は…。途端に世界と切り離されたような感覚に陥り、フォークをギュッと握る。
    私はどうすれば良いのだろうか。
    私は将来、どうなっているのだろうか。
    途方もない不安感に襲われ、居てもたってもいられなくなる。こうしてはいられないと、もう一度ビュッフェが並ぶ長机へと歩き出した。
    「えぇい!食うぞ食うぞー!!!」


    ーーー焔は燃える。ゆらりゆらーーー


    「……父様、ここに来る意味はあるのですか?」
    ちらりと横に立っている父に話しかけてみる。
    父は昔よりも随分と痩せこけ、顔色は見るからに悪かった。肌と髪の白さに相まって、瞳の赤が際立っており、それはどこか不気味だった。
    「意味か…意味はあるな。この国の奴等にオノール家の存在を忘れられては困る。積極的にオノール製の宝石を売り込まなくてはいけないからな。ほら、貴族共に挨拶しに行くぞ。」
    父は酷く苦々しい表情で語る。こうはなりたくない、そう思い続ける父の姿は、大変醜い。
    「にいさま!」
    可愛らしい花のような声が聞こえ、振り返る
    「にいさまいってらっしゃい!あとでいっしょにちょこれぇとたべようね!」
    妹、…アルバは母の傍で手を振る。母はそのアルバの様子を優しく見守っていた。この光景が嬉しくもあり、寂しく、哀しい。俺はアルバのように愛されることもなければ、護られることもない。いいな……お前は。心の中で、アルバに冷たい目を向ける。ごめんなアルバ、俺はお前を愛せない。
    「あぁ。俺の分もとっておいてくれよ、アルバ」
    「はやくかえってこないと、わたしがさきにたべちゃうからね!!」
    ただの知らない子供だったらきっと。アルバも俺と同じように育てられていたならきっと。もっとお前が可愛くてしょうがなかったのだろうと思うよ。
    細く、弱々しい父の背を駆け足で追いかける。
    あぁはやく家に帰りたいな。


    ーーー闇に溶けゆく。ふわりふわーーー


    チョコレート、なくなっちゃったよ

    お兄ちゃん、


    やけ食いさながらでビュッフェに手をつけていたアルバは、気付けば親友の傍で眠っていた。

    「…ん……。ぅ〜??……ゆりすのにおい」
    「起きた??はい、水。」
    「……??わたしはみずじゃありまへん」
    「誰もアルバが水だなんて言っていないよ……いいから水を飲みなよ。」
    「ん。」
    アルバはその後、友人と遭遇したり踊ったりとパーティーを楽しんだのちに、意気揚々とお酒を飲んでしまったのだ。否、これは勇気の甘えらしい。

    「ゆりすぅ〜」
    「なんだい?」
    「…ふふ、なんでもないよぉ」
    「なんだそれ」
    「……わたしたちそつぎょ〜したら、どうなっちゃうんだろうね」
    「………本当に。どうなってしまうんだろうね。」
    ユリスはアルバの前髪をさらりと撫で、背を壁につける。そうあるべき答えなんて理解している、けれどもう少し、この幸せなひと時に身を沈めていたかった。

    「わたし、ゆりすのことすきだよ」
    「…俺もすきだよ」
    「うん、しってる。」
    「俺もしってる。」

    窓の外で枯葉がハラりと落ちた


    ー□ー

    男はなんとも言えぬ気持ちで家の扉を開ける。
    あぁ、そうだ。ここは現実だ。男は直感的にそう感じた。しかし、現実とは言え変わらぬ想いも、ただそこに眠る思い出は美しく、大切なモノである。
    彼女は言っていた、「人の想いはそう簡単に変わらない、変えられない。」「だからこそ、目と目があったその時が、きっと運命なんだよ」と。
    日光が随分と眩しく感じる、気分は少し上向きで、すっきりした、すがすがしい気持ちになった。もう一度、あの頃のように生きてみるのも悪くは無い。
    キミが生きたくとも生きられなかった世界を、キミを思い浮かべながら生きてみたい。
    だからこそ、1人の人間としてきちんと向き合わなければいけない。

    向き合わなければ、前に進むことは出来ない。




    ー●ー

    時は遡り聖夜祭当日のお昼頃、老人は城下町に設置された特設ステージの前に腰を下ろしていた。
    「おじぃちゃーん!」
    そこへある少年がやって来る
    「おじぃちゃんもう来てたんだ!にぃにの出番もうすぐだよ!!」
    少年は嬉しそうにステージを見つめる。老人は少年に横に座るよう促し、自身もステージに目を向けた。簡単だがしっかりとしたステージの上には、ドラムやスピーカーなどの"バンドセット"が並び、その横で司会者が楽しげに話している。次第にステージの照明は暗くなり、奥から3人の青年が現れる
    「グランツ学園高等部のヴィール・オノールと!」
    「○○高等学校のフェアラート・イルソンと」
    「同じく○○高等学校のシュトライト・ペルシィでーす!」
    「「よろしくお願いしまーす!!」」
    「今回は何曲か、皆さんが知っているような有名な曲を歌わせていただきます!最後までぜひ聴いていってください!」
    3人は心底楽しそうに演奏をする。楽器達はこの日を待ち侘びていたかのように、伸びやかな音色を唄い、ボーカルの歌声は明日の空まで届くかのように晴れやかで力強い。
    出店の列に並ぶ者も、食べ歩いている者もみな足を止める。水を得た魚のように、3人は奏でる。あぶくはまだ、尽きそうにない。

    「あ、じぃちゃん来てくれてたんだ??」
    「ヴィールは本当に歌が上手いなぁ」
    老人はヴィールを手招きすると、ゆっくりと手を挙げる。ヴィールは少し困った顔をしたあと頭をさげ、されるがまま頭を撫でられた。細く、弱々しい老人の手は、優しく我が孫の頭を撫でる。
    「へへ……もう恥ずかしいぜじぃちゃん…。」
    「にぃにかっこよかったー!!!」
    「あぁ。イルソンくん達とまたバンドが組めて良かったなヴィール」
    その横でホープはキラキラとヴィールを見つめ、父であるセアリアスも、やっと解放されたヴィールの頭をわしゃわしゃと撫でる。

    「そうだおじぃちゃん!アルバお姉ちゃんが向こうの方で本を売ってるの知ってる??」
    ホープは嬉しそうに目を細めると、南の方を指さした
    「アルバちゃんが初めて本を出したんだって。何やら大会で選ばれたらしくてね」
    「でも夜ぐれぇからは城の前に移動すんじゃなかった??」
    息子と孫達は次々と会話を続け、その光景を老人は微笑ましそうに眺める
    「おじぃちゃん聞いてる??」
    「あぁ聞いておる聞いておる、そうかぁ……あのアルバがなぁ…」

    「父さん、アルバちゃんになかなか会わせてもらえていないんだろう?せっかくだし会ってきなよ」
    「え、おじぃちゃんアルバお姉ちゃんと会えないの??」
    「あぁ…まぁなぁ。ホープとヴィールはアルバのお父さん…セアリアスの兄弟を知っているか?」
    「んーー叔父さんだろ…??小さい頃に何回か会ったような気はする……。」

    「その叔父さんが会わしてくれないんだよ……ここ数年は家にも入れてもらえない」
    老人は力無く笑い、ふたたびステージで面白おかしく話す司会者の方を見た

    「…でもそうか、私もアルバの本を読んでみたいな……」

    雪のような白い髪と、歳をとっても変わることのない鮮やかな赤い瞳は、冬の空によく映えていた



    ー○ー
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