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    やしろ

    @yashiro_kk

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    やしろ

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    『ミチ』(19)【最終話】「っていうのが、この件の全貌かな」
    2月11日、私は病室にやって来たユリスに全てを語った。私たちの騒動に巻き込んでしまった事への申し訳なさからの告白。というよりかは、親友だから話したい。そんな気持ちの方が強い。

    「それで、キミはこれからどうするの?」

    ユリスは静かに問う。
    両親と距離を置くことに決めた私は、フォコの力を借りて一人暮らしをしようかと考えていた。学園を卒業し、1人の大人として過ごすのだ。小説家の仕事はあるものの、儲からない事は知っているため副業を考えている。決して贅沢はできないだろう。それでも幸せに生きていければ、それでいい。

    「フォコン先生がお金を出してくれるみたいだから、一人暮らししようかなって。」

    そう言うとユリスは、どこか不安げな顔をして考えるように目を伏せる。いつもであれば、親友のユリスが考えていることはある程度わかった。ユリスの顔に出る事ならなおさら。けれど私は、なぜそうも不安がるのか理解できなかった。衣食住は確保できているし、私自身、これからについて不安視はしていないのだが…。ユリスはフォコと仲が悪かったっけ?なんて考える。
    少しの間が空いたあとで、ユリスは絞り出すように声を発した。

    「…なら、俺と一緒に暮らさない?」

    ぱっ。と、花が開いたように私に私が帰って来る。
    そうか。私がユリスを不安にさせていたんだ。そう思い至るもつかの間、ユリスの提案に胸がドクリと脈打つ。まるで、自分の中で花火が咲き誇ったような感覚だった。

    いいのだろうか。こんなに幸せな事があっても。
    愛してやまない親友と、これからも共にいる事が出来る。いや、これまで以上に一緒に居られるかもしれない。ユリスの帰る場所に、私という存在が居てもいいと、そういう事なのだろうか。
    暮らしたい。暮らしたいよユリス。私も、貴方を感じて生きていたい。貴方の傍で、呼吸がしたい。

    「どうしよう、すっごくしあわせ」

    顔がゆるみ、熱が集まってくるのを自分でも感じられる。

    「うん、一緒に暮らそ、ユリス」

    ユリスといつまでも共にいられる幸せを、今だけは噛み締めていたい。
    何があったとしても、命が尽きるその一瞬まで、ユリスと共に、生きていたい。
    ユリスがどんな事を隠していても、どんな過去があっても、私にどんな嘘を伝えていてもかまわない。そんな事で私はもう傷つかない。それがユリスの選択した事ならば、私もそれを受け入れる。
    父の時のように、今見えているユリスの姿が虚像だったとしても。その虚像を好きになってしまったのだから、好きでい続ける事を許してほしい。
    ああなるほど、少しだけ両親の気持ちがわかる気がする。返って来なくともいい愛とは、こういう気持ちなんだ。

    私が頷くと、ユリスはほっとした顔で微笑む。
    「…よかった。ふふ、それじゃあ今度、家具を探しに行こうか」
    なんだか新婚さんのようで、少しだけ胸が高鳴る。好きな人と同じ屋根の下で暮らすというだけで、家という場所は全くイメージを変えてしまう。早く明日が来てほしい。早く退院して、早くユリスと暮らしたい。
    「えへへ、ふふ、ねぇユリス?手、握ってもいい?」
    「ん?ああ、いいよ」
    「…ユリスの手、あったかいねぇ」
    「どうして急に?」
    「私、ユリスの手が大好きだから。幸せだなぁって、もっと感じたくなっちゃった」
    「……」
    「私はユリスの手が、世界で1番好き。」
    「優しくて、あたたかくて、安心する。」
    「俺の手は…温かくないよ」
    「あたたかいよ。 とっても」
    「……そっか、」
    ユリスの素手には触れたことが無いけれど、そんなのどうだっていい。私はこの魔法の手が大好きなんだ。

    ユリスは俯いたまま、手に力を込める。
    私もその手を、握り返した。



    ー○○○○○○ー

    久しぶりに訪れた実家は、以前となんら変わっていなかった。綺麗に切り揃えられた木々や花。ホコリひとつ無い広い屋敷。今日はこの家から必要最低限の物を選び出していく。
    実家、そして隣に併設された工房を燃やすと決めてから、はや数日。その準備段階として、兄の日記や貯金などをまとめる。とはいえ、全てを捨てるために燃やすのだから、持ち出す物はほとんど無いに等しい。
    両手に抱えられるほどの品を持って外に出る。
    両親は工房の方に出入りを繰り返しており、重要な書類関係や、確実に燃やさなければいけない物を整理していた。

    私がこの話を持ち出した次の日には、両親は工房の職人たちに解雇を言い渡したらしい。それに伴い、希望する者には伝手の工房に転職できるよう早急にことを進めていた。また、未だ地下に閉じ込められていた奴隷達は解放され、まともな衣服と少しのお金を持たせて送り出したという。
    行動の早さに、両親の本気を感じる。

    「おつかれアルバ。疲れていないか?少し休むといい」
    「そうよ、退院したてなんだから。無理しないで?」
    「気持ち悪いよ〜〜〜。わかったから気弱そうな顔しないでよぉ」
    両親に導かれるまま椅子に座り、ぼぅっと2人の様子を眺めてみる。
    2人はこれから、アパートの一室を借りて住むらしい。今の暮らしからすると随分と貧しくなるが、そんな事を気にする素振りも見せなかった。その上、2人もこの家から解放される事が嬉しいのか、新しい家に乗り気だった。
    肝心の仕事はどうするのかというと、それは私がユリスに声をかけた。両親の仕事を奪うということに、多少なりとも罪悪感は感じていたし、紹介するくらいは良いかと思った次第だ。その結果ユリスの伝手で、町外れにある小さな工房に就職する事になった。そこではカミサマへの納品数は決まっているものの、オノール工房とは比較出来ないほど量が少なく、(規模が違うため当然といえば当然だが)宝石をあしらった装飾品が月に数点販売されるらしい。
    また、原石を持ち寄るとそれで装飾品を作ってくれるらしく、一部のユウェルにひっそりと評価されているとかなんとか。
    人生の9割を研磨に費やしてきたパパが働くには、どうやら天国のような場所のようで、新しい事への挑戦と希望で目を輝かせていた。厳格な父の顔はどこへやってしまったのか、いや、これが本当のパパなのだろうか。何はともあれ、これで良い。

    「よし。工房もこれくらいで良いだろう。これから使う研磨道具も持ち出したしな。」
    「たしか、”うっかり”燃やしてしまうのよね?」
    「ああ。狂った私が”うっかり”火を落とししまう。」
    「研磨する場所も、精神も崩壊した私は、ひっそりと姿を消す。」
    「完璧ですね」
    「……不安すぎ。」
    本当にうまくいくのだろうか。国からずっと目をつけられているのだ、場所を失った所ですんなり解放してくれるのか。
    「神様が現れてからずっと、オノール工房は国に貢献してきたんだ。…もういいだろう。」
    パパは工房の壁に手を当て目を瞑る。

    ここは、歴史が詰まったオノール工房。
    何百人もの職人が、人が、立ち寄った工房。
    たくさんの想いが集まる場所。

    「お別れだね」
    「……ああ。」

    「アルバちゃーん!!」
    「あの、勝手に入ってすみません」
    「わっ、わぁ、初めて入った……」
    「え!?どうしてここに皆が!?」
    突然声が聞こえ振り返ると、ヴィール、シェーン、ホープが工房の中に入ってきていた。そういえばこの3人、いや、この3人の家庭でも私が眠っている間に一悶着があったらしいが、詳細は私も知らない。今こうして一緒にいる所を見ると、仲は良いようだけど。

    それにしても何故ここいるのだろうか
    「オレが連れてきたんだ」
    「フォコ!」
    「カナリア様!」
    3人の後ろからフォコが飄々と現れた。
    フォコには事前に工房を燃やす事は伝えており、この事に了承を貰っているため、止めに来たというわけではないはずだ。じっくり工房を懐かしみたいのであれば、すぐに鍵を渡すのだがそういう訳でもないらしい。
    「そうそう、学校でいきなりフォコン先生に声かけられてさー」
    「いきなり連れてこられて、私も何が何だか……」
    「カナリア様も何かここから持ち出したい物があるのでしょうか?」
    パパはおずおずとフォコを見上げる。フォコはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、胸ポケットから鍵を取り出した。

    「アンタらにいい物を見せようと思って」


    ー𓈒◌


    開かずの扉。
    オノール工房にはひとつだけ、どの鍵を使っても開かない扉がある。間取りから見て、地下へと続いていると推測されていたが、奴隷部屋とは別空間になっており、長い間謎のままとされてきた。
    その扉の鍵穴にフォコは手に持つ鍵を差し入れる。

    ガチャリ

    決して開く事のなかった扉が、開いた瞬間だった。


    「この鍵は本来、代々オノール工房の親方…工房長が受け継いできたんだ。」
    「その鍵をなんでフォコが持ってるの?」
    「オノール工房が狂いだした時、当時の工房長だった8代目がオレにこれを託したんだよ」
    私たちはコツコツと音を鳴らしながら地下へと続く階段を降りる。突き当たりには厳重な扉があり、フォコは先程とは違う鍵を使ってその扉を開ける。
    代々工房長達が守り継いできた空間。そこにはいったい何が秘められているのか。なぜ、8代目はフォコに鍵を託したのか。
    フォコはゆっくりと、扉を押し開けた。


    「わぁ……。」
    「なんだこれ…」
    「すっ…ごい」
    「こんな所があったなんて……」

    「…宝石が、輝いてる」
    中には光に照らされた9個の豪華な宝石装飾品が飾られていた。
    近づいて見てみると、思わず息を飲んでしまう。惹き込まれるような輝きに目を奪われ、ほぅと息が漏れる。どこまでも繊細な技術、見ているだけで風や音を感じるような、まさに天才が生み出した装飾品。そのひとつひとつには異なった印と、正しい形をしたオキザリスの家紋が小さく彫られている。

    「歴代の工房長が、残した作品ですか」
    「ああ。……正確に言うと、工房長がオレに贈った装飾品だよ。初代が始めた事だったが、それが何故か継がれるようになってな。」
    「フォコン先生の物なのに、鍵はその工房長が持っていたんですか?」
    「150年もするとな。歴代の工房長の作品が貴重になってきたんだよ。大切に保管して、残していくべきだって決めて、それなら管理は工房長に任せようってオレが頼んだんだ。」
    これまでにもフォコは、人知れずこの場所に足を運んだのだろうか。高価な物で厳重に保管されている事がわかる。ふとホープの事が目に映る。立派な宝石職人を目指すホープは、目前に広がる貴重な光景に目を輝かせながらも、技術を私淑しようと真剣に見つめていた。

    「1代目から9代目まであるんですか?」
    「いや、8代目までだよ。正直、9代目以降はオノールの技術が受け継がれたとは言えない。ここを見せたこともないんだ。」
    「でもそれじゃあ、なんで9個宝石があんの?」
    「右端のひとつは、オレの作品だよ」
    1番右の台座に視線を移すと、そこにはピンクとレッドの光がキラキラと輝く宝石が置かれていた。これはフォコから見たオノール一族なのだろうと、直感的にすぐ理解した。この中で1番、初代の輝きと同等のものを持っており、愛に溢れた装飾品。

    「オノール。ここの装飾品達は貰っていくぞ。この国から出られるようになるまでは、どこか別の場所で保管する事にする。」
    フォコは初代の装飾品を愛おしそうに見つめながら話す。本当にこの人は、初代…ヘリス・オノールさんの事を愛しているのだと、つくづく感じる。


    「貴重な物を見せていただきありがとうございました」
    「でもなんで俺たちにも見せてくれたんだ?」
    「たしかに、なぜ私たちを?」
    階段をあがり工房に戻って来ると、ヴィールは後ろで手を組んで首を傾げる。
    「オマエらもオノールだろ?ただそれだけだよ」
    フォコは満足気に口笛を吹きながら、工房を慣れた足取りで出て行く。
    それにしても、初代はどうしてあんな高度な技術を手に入れられたのだろうか。300年近く経っているため、当時の輝きは失われたはずだが、それでもなお輝き続ける宝石。才能と努力だけでは語れない、そんな技術。きっと、グランツ学園に先程のフォコの作品を持って行くと、そこに人だかりができるだろう。フォコに教えを乞う生徒もいるかもしれない。でもフォコはそんな事をしない。誰も見ることが出来ない特別な宝石を、私たちは見てきたのだ。

    「オノール……か。」
    長く眠っていた栄光が、私達の目に触れることによって再び目を覚ます。失われない輝きは、永遠の名誉。

    だから、燃やしてしまおう。そして、送り届けよう。本来の主の元へ_____




    ー○○○○○○ー



    2月28日、私たちは燃え盛る炎を眺めていた。
    黒い煙が立ち上り、大きな家を赤く揺らめく”光”が覆っている。

    熱気が当たって顔が熱い。目が焼けるように熱い。

    傍観する私には、苦痛感も、不安感も、高揚感も、何もなかった。
    ただ、見届ける。
    これで良かった。少なくとも私は、そう思う。

    いつの日か見た夢を思い出す。
    轟々と燃え上がる家を見つめる自分。嫌な気分の夢だった事は覚えている。まさか当時は、本当に燃やしてしまうだなんて思っていなかったのだろうけど

    「何をやっているんだ!!!!」

    そんな時、酷くしゃがれた老人の声が辺りに響く。辺りを見渡すと、何事だと人が集まって来ており、皆が刻々と立ち上る黒煙を見つめていた。
    ここは丘の上にポツンと建っている家。どこかに燃え移る心配も無い。ならば我々は、燃え尽きるまで待つしかないのだ。

    老人はパパの元へとグングン近づいて行く。
    そして_____

    「ありがとう…」
    燃え上がる炎を背に、パパを抱きしめた。
    「父上……」
    「……はい。」

    𓈒◌

    「アルバ」
    声をかけられ隣を見ると、いつの間にかユリスが立っている。そしてユリスは、私にひとつのループタイを差し出した。それは聖夜祭のあの日、私が投げ捨てたループタイだった。
    「……預かっててくれたんだ?」
    「まあね。」
    「…。ありがとう」
    私はユリスの手からループタイを受け取る。もう再び着けることはないだろう。だとしてもこれは、私がオノールだという証であり、”誇り”だ。

    私の真っ白な髪は風に吹かれ揺れていた。

    「私は、アルバ・オノール。伝統ある工房の、優れた職人の子であり、小説家として生きていく。」

    「大いなる太陽の子。尊き命を全うし、生命尽きるまで個の生涯を誇ります。
    名誉を受け継がれし人達よ。誇り高く、清き御心の貴方達の来世に、どうか幸ありますように」



    焔は燃える

    想いを乗せて


    ゆらり


    ゆら

    ゆら…


    ゆらり




    ※ー●●●ー※

    さんがつふつか。

    かんかん

    かんかん

    けんまのおと



    「ねぇパパ?」
    「ん?どうした?」
    「磨いてほしい原石があるの」
    「ああ、いいとも」
    「髪飾りを作ってあげたくて…このエメラルドなんだけど、、」
    「任せてくれ。贈り物かな?」
    「うん、私の大切な子に」




    「あの、私もヒペリカさんにお願いしたい原石があって」
    「これは?」
    「ローズトパーズと、ブラックトルマリンの原石なんですけど…。これの宝石を使ったループタイが欲しくて」
    「なるほど、わかった。いいよ」
    「あ…あと!えっと、同じ物を2つ……いいですか?お金はどれくらい……」
    「お金は取らないさ。すぐに取り掛かるよ」
    「…!ありがとうございます!」




    「なぁなぁ!俺も…!!インペリアルトパーズと、ブラックダイヤモンド……これで作ってもらえないですか!?」
    「もちろん。ピアスにでもしようか?」
    「指輪。指輪がいいです」
    「……イニシャルも入れてやろう。こっちに来なさい」
    「ありがとう叔父さん!!」




    ー●●ー

    きらきら

    きらきら

    ほうせき

    きらきら


    「フォコン」
    「なぁにぃ?シエルちゃん」
    「…レッドスピネル。これでブローチを作ってくれないか」
    「……。」
    「フォコンが研磨依頼を全て断っている事は知っている。その上で、磨いてくれないか。」
    「お嫁さんのだよね。その原石。」
    「長くて春の終わり頃までかな」
    「………。オレに依頼するなんて、ガキが生意気だよねぇ。」
    「頼む。」
    「いいよぉー。ソレイユさんの親友さんにも、小さいのついでに作ったげる。」
    「本当か!」
    「大事にしなよぉ」
    「ああ、もちろん。ありがとう」



    「フォコン先生」
    「あら?オノールさん、どしたのぉ?」
    「僕に、研磨を教えてください」
    「無理だよぉ」
    「お願いします。僕は……ノクスさんとの記憶を思い出したい。ノクスさんの技術に追いつきたいんです!」
    「キミのお父さんに頼めばいいじゃない?」
    「父さんは、今はまだ原石を磨ける状態じゃないので…」
    「…ヒペリカの方はぁ?」
    「頼めませんよ……。あの人はやっと解放されたんですから」
    「…はァ。ホープ。お前の目指すところはなんだ?」
    「僕が目指すものは、、。えっ…と。でも、研磨が上手くなりたい、です。僕には研磨しか無いんです……。」
    「焦るな。」
    「え?」
    「ホープが卒業するまで待ってやる。だからそれまでに、オレが納得のいく答えを出せたら、さっきの件も考えてあげる。」
    「……、はい!わかりました!」



    「あれ?フォコン先生珍しいですね?おはようございます!」
    「フォンさんおはよ〜今日もかわいいねぇデートする?」
    「あ、そうなんですよ!実はこれからクッキーを買いに行こうと思っていてですね!一緒に行きますか?」
    「え……いや、行かなぁい」
    「そうですか……」
    「フォンさんのその髪飾り、オシャレでかわいいねぇ」
    「そうなんですよ!!これ、アルバちゃんがくださったんですけど、すっごく可愛くて…!!なんでも、一流の職人さんに作っていただいたとかで…」
    「そっかぁ。……うれしい?」
    「はい!!とっても嬉しいです!」
    「そっかそっか…。うん、よかった」
    「私、一生大切にします!」
    「そうしてあげて、きっと造り手も喜ぶよ」



    ー●ー

    ゆらり

    ゆらり

    ゆめのなか


    「母さん」
    「……っ!、、、。」
    「毎日、お墓の掃除をしてくれてありがとう」
    「……、、。」
    「泣かないで…。俺は、拭ってあげれないから…」
    「…ノクス……。」
    「ずっと、護ってくれてありがとう」
    「感謝される事なんて…何もっ…!」
    「いつまでも、健康でいてね」
    「ありがとう、ノクス、、。ごめんね……。」
    「……笑って?母さん」
    「ええ、ええ……!!ノクス、愛しているわ」
    「うん。……俺も。」

    ゆらり

    ふわり


    「せっかく会いに来たんだ。顔くらい見せてよ、父さん。」
    「…駄目だ。駄目だよ……。私は、、。」
    「父さん、俺の研磨、上手くなったでしょ?」
    「ああ!上手いよ…ッ!ノクスの研磨は上手い!!若くして努力の天才だ!ノクスは…すごいよ…っ」
    「……そっか、よかった」
    「ごめん。ごめんなぁ……。ごめん、、ノクス…私は、父親失格だ」
    「そんな事言うなよ。…真っ白な髪に赤い瞳は、私の子である証。だろ?」
    「〜ッ!」
    「アルバと母さんを、もうこれ以上傷つけるなよ」
    「ノクス……ッ すまない。」
    「……。俺も、父さんのことを待ってやれなかった。おじぃちゃんから、俺と母さんを護ってくれた父さんは、もう死んだんだって思い込んでいんだ。ごめん。」
    「謝らないでくれ。私が、弱いからいけないんだ、、。ごめんなぁ」
    「…。護ろうとしてくれて、ありがとう。早死するなよ」
    「……ノクス…。…来てくれてありがとう…」
    「うん。じゃあ、」
    「ノクスも、体調には気をつけてな」
    「俺はもう……。…っ、うん、ありがとう。」

    ふわり

    ふわり


    「もういいんですか?」
    「はい。長い間、お世話になりました。」
    「お世話になったのは先生も同じですよ。頑張りましたね」
    「……。せめてもの、罪滅ぼしですよ。」
    「そうですか。満足はできましたか?」
    「おっと、違いますね。人間で言うと……未練はありませんか?」
    「ありません。…後は、彼らを信じることにします。」
    「だから、、。もう逝きます。」
    「ふふ、力強いお返事ですね。彼らに貴方の最期を聞かれたらそうお伝えしましょう」
    「では、参りましょうか」
    「ありがとう、死神先生」
    「…さようなら」




    ー .*・゚ ー

    今日は天気がいい。自室の窓を開け、綺麗な空気で深呼吸をする。仄かに花の香りが風に乗って漂った。
    私は着替えとメイクを済ませ、髪をハーフアップに結い上げる。そうだ、こんな日は久しぶりにあそこへ行こうか。
    思い立ったが吉日、向かいにあるユリスの部屋の扉をノックした。
    「はーい?アルバ、どうしたの?」
    「お墓参り行ってくるね」
    「今から?……俺もついて行っていい?」
    「ユリスも?いいけど」
    「ありがとう」

    春から私たちは同じ家に住んでいる。同居というやつだ。そういえばユリスは、兄の墓が移ってから初めての墓参りじゃなかろうか。なるほど、いっちょ前に挨拶でもするのだろうか
    「お待たせ、行こうか」
    「うん」
    家を出てまずは近くの花屋に立ち寄る。
    青と紫色のカーネーションを購入し、町外れへと向かった。

    兄の墓は、海が見える丘の上にある。


    潮風がやさしく頬を撫でた。


    𓂃◌𓈒𓐍


    私の世界は、まだまだ未知だらけ。
    どんな人生を、どんな道で歩むのかは私次第。
    私には、

    未来がある_________


    這い上がれ人生

    前を向け日常

    笑えよ今日の自分!




    【Fin】
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