『ミチ』(9)目を覚ますと私は真っ白な空間にいる。そこを見回したとて何も無く、ただただ世界は広がるばかり。あぁこれは夢なのだ。そう感じるのは、これが1度目ではないからだ。この手の夢は何度も見ており、大抵は何も起きないのだが、今日は違った。
1人の小さな少年が膝を抱え泣いている。
1月30日、兄様が死んだその日に、私は夢を見ているのだ。
*
「なんで泣いているの?」
私は少年に声をかける。少年は驚いたように肩を揺らせ、こちらに顔を向けた。なるほど。遠くからは見えなかったがこの少年もまた、白い髪に赤い瞳を持っている。それは見覚えのある″赤″
(…兄様……?)
「どうしたの?」
ゆっくりとしゃがみ、もう一度声をかけてみる。
「…おねえさん、だれ?」
「……私は…」……貴方の妹
「キミの味方だよ」
「みかた…?」
少年は赤い瞳をうるませ、私に縋るように手を伸ばす。私はその手をそっと握った。
「ぼく、ひとりはこわいよ」
「うん」
「おっかないカイブツがぼくをいじめるんだ」
「うん…」
「おねえさんずっといっしょにいてよ、ぼくといっしょにいて?」
「…いるよ、私はキミの味方だから、、ずっと」
「やくそくだよ…ぜったいだよ……ぜったい…」
「うん…約束」
私は少年の真っ白な髪を優しく撫でる。ずっと、兄様の味方でいたつもりだった、今も、昔も。だけどそれは主観でしかなくて、真実は残酷だった。
…でも、そうだとしても、私は貴方の味方でいたい
「おねえさん…………」
幼いながらもボロボロな身体の少年は、疲れてしまったようで吐息を立てて眠ってしまった。私は少年を横にしようと、その細い身体に触れる。
(あれ、、この模様なんだろう)
すると世界は幻かのように霞んでいく。幼い少年を一人残し、真っ白な空間は世界の帳尻を合わすように消えていく。
(どこかで見た気がする)
どれだけ少年に手を伸ばそうとも届くことはなく、手は空を切る。
夜が……明けた
ー〇ー
「ユリス」
私がそう声をかけると、″赤髪の男″は後ろを振り返り微笑む。
「アルバ、準備はできた?」
「うん、お待たせ」
カランコエの花束と1冊の本を抱え、ユリスの隣に並び歩き出す。1月30日、私達は毎年互いに何も言わずとも集まり、森へと歩を進めるのだ。
数年前、初めてユリスに兄の墓へ連れてきてもらった時のことを思い出す。あれは、私の世界が始まった日。あの日から私は兄のための人生ではなく、自分のための人生を生きた。
相変わらず兄の墓は神秘的で、兄様がそこにいるような、そんな空気をまとっている。
花束を置き、本を墓に立てかけると、私とユリスは墓の前で手を合わした。数ヶ月前、兄に宣言したように、私は心の中で語りかける。
もう大丈夫だよ
ちゃんと私、1人で生きるから。貴方に縋らなくてもいいように、貴方をこの世に引き止めなくともいいように頑張るから。今まで、ありがとう
あれ程言ってきた言葉はもう言わない。
私はゆっくりと目を開け、静かに立ち上がる。
「…ユリス、帰ろっか」
「…もういいのかい?」
「うん。……大丈夫だよ」
「……しかし、いつ来てもキミのお兄さんのお墓は綺麗だね」
「え?」
「枯葉が積もっていたり、雑草が生い茂っていたりなんてことは過去に1度もないじゃないか。……ちゃんと誰かが整えてくれているんだね」
たしかに、そうだ。
誰だろう。兄様の墓がある事を知る人物は限られている。私とユリス、叔父とネーロさん。その他にいるのだろうか。……もしかすると、ネーロさんがいつも掃除してくれているのだろうか。
「何はともあれ帰ろうか、この後少し空が荒れそうだ。」
考え込んでいた私はユリスの声でハッとする。空を見上げるとたしかに雲行きが怪しい。
せっかく花と本を持ってきたのに残念だと思いつつ、一応水対策はしているから大丈夫かとそのままにして私達は帰路についた。
ー * ー
「なんでこんなに、私を気にかけてくれるの?」
初めて名前を呼んだ日から数日、私はユリスに疑問を投げかけた。答え合わせに近い、素朴な疑問。
「うーん……嫌わないでくれよ?」
ユリスは少し間を置くと答えを語った
「最初は、その〜、バークリー家に属する人間としてオノール家との関わりが欲しかったからキミに近づいたんだ。でも……気が変わったよ。だってアルバ、ほっとけないんだもん」
その時の、少しだけ言いにくそうに語るユリスが、私を想ってくれるユリスが、とても愛おしく思えた。思えばその時からだ。私がユリスに対して多大な信頼と愛情を持ったのは。
嘘と偽りで塗り固められた私の世界に、ユリスは真実を教えてくれた。無理に私を庇おうとせず、事実を受け止める私をただ支え続けてくれた。
私を救うための嘘なんていらない、私を生かすための真実が欲しかった。それをくれたのは、ユリスだった。
「へぇ〜やっぱりオノール家が狙いだったのね。」
私は思わず口角があがる
「……ほっとけない…か。…ふふ、ねぇユリス。私ね、最初は貴方のことがまったく理解できなかった。けど、ユリスがいなかったらきっと、もうこの世界にいなかったとも思う。」
今も、ユリスのことで理解できないことなんてたくさんある。だから私はこれから、時間をかけて貴方の事を知りたい。どれだけ時間がかかったとしても、私に世界をくれた貴方と、同じ景色が見てみたい。
きっと追いつくから……
「ずっと一緒にいてくれて、ありがとう」
__________待っていて
「…そっ、か。俺もアルバが生きてくれて良かった、こちらこそありがとう。」
「……あー、やっぱ照れるな……キミ、良くこんなこと恥ずかしげもなく言えるよね……」
ユリスは口元を手で隠しながら顔を赤らめた。その時のアメジスト色の瞳はこれまで見てきた何よりも美しくて、私はすっかりその瞳に魅了されてしまう。
「えぇ私だって恥ずかしいよぉ……けど…誰かに感謝することなんて久しぶりだから、嬉しくて」
本当は少しも恥ずかしくない。貴方に贈る言葉に恥ずかしい言葉なんてない。それらは全て、貴方に贈られるべき言葉だから
だけど、恥ずかしいと零す貴方の気持ちに共感してみたくて嘘をついた。嘘が嫌いな私が嘘をつくなんて、本当はダメだよね、なんて思いながら。
「……ふーん、まぁ悪い気はしないね。キミが嬉しいならそれでいいや。アルバを生かすことが出来たし、俺もちょっとは天国に近づいたかも」
ユリスはあからさまに顔を逸らし、バツが悪そうに笑う。
「あはは、天国ってなによぉ」
私はこの時間がたまらなく幸せに感じる。
ー□ー
気が付くと男は真っ白な空間にいる。そこを見回したとて何も無く、ただただ世界は広がるばかり。あぁこれは夢なのだ。男は感覚的に理解した。
しかし夢だとわかった所で、まだ覚めそうにない夢はどうすることもできない。
男の迷いが、この空虚な空間を呼んだのかもしれない。男は地面に座り込み、まるで幼い子供のように膝を抱えた。何をするでもなく、ただ白を眺める。
もう何も考えられない。そして男は、瞳を閉じた。
「さぁ、目を開けて?世界を見て」
どこかから声が聞こえる。
頭上から?いや、横から?
男はゆっくりと目を開け、声の主を探す。
けれどそこに広がるのは白い空間。
「大丈夫。大丈夫だよ」
聞き覚えのある声で、自分の好きだった声
「人の想いはそう簡単に変わらない、変えられない。」
思い出そうとも思い出せない。
「だからこそ、目と目があったその時が、きっと運命なんだよ」
そう聞こえると、白い世界は薄らいでゆく。待ってくれ、1人にしないでくれ、置いていかないでくれ。一緒にいてほしい、まだこれからも…!
しかし夢は無慈悲に目覚めへと連れて行く。
そうして夜は明ける。
男は汗ばむ手を握り、夢を忘れぬよう思い返す。一歩、進まなければいけないのかもしれない。こんな毎日を抜け出すために。
男は以前、女から受け取っていた地図を机の上に広げた。
ー○ー
私には迷いが残っていた。
たしかに両親の事は憎いと思っているし、私と兄様の人生をめちゃくちゃにした2人には情なんていらないとも思う。現に私は、二度と目の前に現れるなと突き放した。
これからは自分の人生を生きるのだとも誓った。ではなぜこんなにモヤモヤするのか。
……きっと、父の見せたあの表情が理由だ。
私が父と会った本屋での出来事、私が思わず手を伸ばしかけたあの時の父は、どこかで見た事のあるような気がしてならない。そばに居てあげなければと思ってしまうような、そんな寂しげな姿だった。
父は兄とよく似ている、だからなのだろうか。
ともかく、もう気づけば2月になっている。こんな迷いは早く捨てなければいけない。私は一生両親を許しはしないし、怒りの気持ちを鎮めることなどありえない。
私は一先ず思考をリセットしようと本棚の前に立つ。こういう時に1番効果的なのはやはり読書だ。本は私を裏切らない。
どの本を読もうかと手をさ迷わせていると、変に空間の空いたスペースが目に入る。それは同室であり、私の1番のファンらしいミリーのスペースで、私の本を入れるためのスペース。まだ数冊しかないけれど、いつか、ミリーが場所がないと困ってしまうくらい本を出版したい。
ミリーのおかげで少しほっこりすると、私は懐かしい物を見つけた。それは、ユリスのために書いたラブレター。
数年前、ユリスに恋心を抱いていた自分に気付いた私は、ユリスへの恋を綴った1冊の小説を作った。表紙も背表紙も、今回作った本に比べると質も悪く、比べられたものじゃないけれど、私が自信作だと言えるくらいには想いの詰まった作品だ。
ユリスの分と、自分の分、世界に2つしかない本は私にとってかけがえのないもの。叶わない恋であり、抱いてはいけなかった恋心。そして私が大切にしまっておきたい…気持ち。
ユリスはきっと、私のコレに気付いていたんだろう。だけどそれに対して何も言わない所が、ユリスの優しさでもあり、やはり叶わないモノなのだということを物語っていた。
私はユリスの特別な存在になんかなれないし、私じゃ勿体ない。だから私は、ユリスが求めてくれる分だけ、少しだけ特別な何かになりたい。
ユリスにとって仲のいい友達、それが1番心地いい。
私は外の空気でも吸おうかと思い立ち、ブーツを履いてドアノブに手をかけた。すぐに戻って新作でも考えようと、ミリーには何も残さず端末だけを持って外へ出た。
お昼前の事だった。
ー○ー
今日は少し暖かい真冬の日。私は空を見上げ、流れゆく雲を眺めます。時間がゆっくりと過ぎ、空の大きさを感じるこのひと時が、私は好きです。
でも時々、寂しさを感じたりもします。
それは私が6歳の時、こうして家の近くにあるベンチに座り、雲を眺めていました。ですがこの時、後に聞いた話によると、私は人攫いにあいかけていたようなのです。
家では孤児院を営んでいたため、親はその子供達に付きっきり。少しだけ大人だった私は、よく親の目を盗み、こうして1人でのんびりしていたのですが、その日は何やら怪しげな方が私に話しかけ、危うく連れ去ろうとしていたようです。
そこにある男性が通りかかり、絵本の中の王子様のように、私を庇い、守ってくださいました。この出会いが、私を恋に恋する少女へと変えたきっかけでもあるのです。
その当時、怖い思いをしたためかなかなか泣き止まない私を前に、その男性は困ったように考え込みます。すると突然、男性はカバンの中から、1冊の冊子を大切そうに取り出しました。
私が不思議そうにそれを見つめていると、男性はその冊子を私の前に広げ、ゆっくりとした落ち着いた声で、読み聞かせを始めたのです。
その冊子はどうやら、小説という物語だったのです。
内容は今でも覚えています。ある1人の少女が、小さなカエルとお友達になり、一緒にお花の世界に行くお話。
当然、その冊子には挿絵なんてなくて、当時の私は十分に文字も読めませんでしたから、必死に頭の中で考えて、物語を理解しようとしました。
男性も幼い私に合わせるように、ゆっくり、ゆっくり読んでくださり、いつのまにか私は泣くことも忘れ、ただその小説の世界に没頭していたのです。
短いけれど、とても長い時間が終わると、空はオレンジ色になっていました。男性は私に家まで送ると言うと、小さい私の手を優しく掴み、私が指す方へと一緒に歩きました。その間に私は、先程の小説のことについて質問をします。いくつかしていたにも関わらず、当時から10年も経っている今の私では、到底思い出すことはできません。
しかし1つだけ覚えていることがあります。
その小説を書いたのは、有名な小説家でもなんでもない、その男性の妹だったのです。
男性は妹から貰ったというその冊子をいつも持ち歩き、読んでいたようなのです。その時の男性はどこか寂しげで、でも、愛と優しさを秘めた瞳をしていたように感じます。
私の初恋はきっと、その男性だったのでしょう。
男性は私を家まで送り届けると、小さく手を振り来た道を引き返していきました。赤い夕焼け空に、男性の綺麗な白髪が溶けていったのです。
あの時の出来事は、忘れられない私の思い出です。私は、もう一度あの男性と逢えるとは思っていません。10年という時間は、私もあの人も変えてしまったのでしょう。
私の初恋はまるで花のようで、咲いてはすぐに儚く散ってしまったのです。
その後、私はグランツ学園へと入学し、学校の図書館で黙々と原稿用紙に文を綴るアルバちゃんを見つけました。
特にする事もなかった私は図書館へと毎日通い続けましたが、いつ見てもアルバちゃんはそこにいて、ただ筆を動かしているのです。
そうして数週間が経った後、私は勇気を出して声をかけてみました。するとアルバちゃんは「小説を書いているの。よかったら読んでくれない?」と優しく笑いかけてくださいました。
私は喜んでその小説を読みます。すると何故でしょう、懐かしい声が聞こえた気がしたのです。その内容は、ひとりぼっちの女の子が、ひとりぼっちだった猫と一緒に世界を旅する話。
私は運命だと思いました。それくらい、アルバちゃんの書く小説が私の中で響いたのです。
それからは毎日アルバちゃんと本の話をして、アルバちゃんの物語を聞きました。ある時はカフェで、またある時は公園で、年齢の差なんて関係ないくらい私達は言葉を交わしました。そんなある日の夕暮れ、アルバちゃんに同室にならないかと誘われたのです。
私は二つ返事で了承し、こうして私達の部屋が誕生しました。
私は誰よりもアルバちゃんの小説が大好きなのです。それだけは絶対に誰にも譲りません。
もしもあの時のあの人に出逢えたならきっと、私はアルバちゃんの小説を紹介します。あの人が私に小説を教えてくれたように、私も私の大好きな小説家の小説を伝えさせてほしいのです。
きっと叶わないだろうけど、もしかすると叶うかもしれない、そんな夢のような出来事が私は大好きなのです。
ー○ー
………
……
…
フォコンは遠い昔の記憶を呼び起こしていた。
記憶力は家族の中でも群を抜いて良かったフォコンは、基本的に忘れることなどありえない。ましてや、あのオノールの事だ。絶対に覚えている。
国の外でオノールの宝石を知った日、オノール家に助けられたあの日から、フォコンにとってオノール工房は守りたいものだった。
百年以上前、宝石の子もグランツ学園も存在しなかった、まだオノール工房が生きていた時代。フォコンはその工房で職人として働いていた。日当たりの良い丘の上に建つ工房は職人達の笑顔で溢れ、工房の窓からは街ゆく人々の明るい顔が見え、まさに活気ある場所だった。
オノールらしい研磨技術を教わり、人外ながらも1人の職人として、綺麗な宝石を作り続けてきた。
しかし、人間は年老いていくもので、いつのまにか共に磨いた仲間は引退し、グランツ学園やユウェルという存在が現れた。オノール工房もかつての活気は無くなり、何かに追われているようだった。
潮時だ。そう感じるとフォコンは世話になった工房を去った。
名残惜しく感じながらも、フォコンが憧れたあの夢のような現実はとうの昔に終わっていたのだ。その後も度々オノール工房を見かけたが、見かける度に、親方と親しみを込めて呼んだ現代の工房長は暗い顔をしていた。やがて、最初の工房長がやや無理やりに決めた家紋は、逆さまにされてしまった。
オキザリス。花言葉は「輝く心」オノール工房の輝きは、もう失われたのだろう。
フォコンが死ぬ理由がないから生きていた頃、シエルと出会い、興味本位で共にグランツ学園へと入学した。オノール工房を苦しめたと聞く学園が、いったいどのようなものなのか、フォコン自身も気になっていたのだ。
そこでフォコンはノクスと出会った。一目見たときは気付かなかったが、家紋を見るにどうやらこの少年もオノールらしい。それから一応気にかけていたものの、彼は最悪の結果で終わってしまった。フォコンはそれでも、素晴らしい技術を持つノクスに人殺しになどなってほしくはなく、決死の思いでホープを激流の川から助けた。ただのエゴだったが、大好きだったオノール家間での殺しなど見たくはなかった。
それから間もなくして、ノクスの妹が入学してきた。しかしそれもまた、オノール家の終わりを物語っているようで、フォコンの中でオノールの光は消え失せた。
もう関わるのはやめよう。
…そう思っていたのに、シエルが受け取っていたアルバの宝石を見ると、たしかにそこにはオノールの研磨があったのだ。
ほとんどの人はわからないと言うだろう。しかし、長年オノール工房で磨いてきたフォコンにはわかるのだ。これは、受け継がれているオノールの技術だと。それだけでフォコンは、たまらぬ思いがあった。
…だからだろうか、たまたま会ったアルバに、独り言のように呟いてしまった。
「フォコてっきりさぁ、桃色の髪のあの子が工房長になるんだと思ってたんだけど、違うんだね?オノール家の男の子って皆桃色の髪だったからさ、キミのオニィサンを見て驚いちゃったよ。…オノールといえば桃色の髪だったから、少し寂しいねぇ」
アルバは小さく口を開き、フォコンを信じられないという瞳で見つめた。
「…………。オノールといえば、桃色の髪…なんですか?」
「え?……うん。ほら、家とか工房とかに飾ってない?工房長の絵画。一代前までは皆、桃色の髪の人が工房長をやってたんだよ」
「……、、うそ。だって白い髪に赤い瞳は、オノール家の象徴だって。桃色の髪はよそ者なんだって、父はいつも。」
「え………、、、。…ぁー…そうなんだ。ごめんね、さっきの話忘れてよ。きっとなんでもない事だよ」
そう言い残すとフォコンは有無を言わさず空へと飛び立った。
オノール工房はいつからおかしくなってしまったのだろう。フォコンはそっと、金色の宝石が埋め込まれた指輪を撫でる。
これほど過去に戻りたいと感じたのは久しぶりだった。
ー●ー