tenderly ごろんとうつ伏せに転がされて、なに、と振り向く前に体重と短い吐息がかかる。ぎしりとベッドが軋んだ。
同時に、無防備に晒された背中に唇が触れる。音もなく触れたそれは、背骨辺りの窪みを辿るようにゆっくりと、薄い皮膚の上をギリギリ掠める程度の距離で、上から下へ、ただそっと這っていくだけだ。
唇の動きに合わせて、細い指先もつい、と筋肉を撫でる。自分のものよりも細くて、でも節ばっている指。丸い爪。手自体は同じくらいの大きさ。わざわざ重ねたことなんてないけれど、指を絡めた時の違和感が少ないから、たぶん。
瞼の裏に、見慣れたそれは簡単に思い描くことができた。だけどその指がこんな愛撫をしてくるなんて、出会ってから何年も経って、今初めて知ったことだ。あまりにも繊細な手つきに少しだけ腰が震える。普段の暴力的な手ととても同じものとは思えない。
「――さ、」
さまとき、と名前を呼びたかったのに、一音めから掠れて消えた。吐息に混ざった音は、後ろに届いたかどうかもわからない。
焦ったいはずのその行為は、なぜだか興奮を高めてくれる。身動きが取れない。もっと触れてほしい。体温が上がる。やめないでほしい。けど、顔が見たい。
困惑と興奮、それから羞恥。無音の行為に、こちらもつい息を潜める。隠しきれない熱が零れるたびに、くらくらした。
噛み付くようなキスも、乱暴なようでいて決して自分本位にはならない指先も、互いに熱をぶつけ合ういつもの行為も、好きだけど。
熱を帯びた吐息はまた、慣れたはずの四文字を紡げなかった。