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    maybe_MARRON

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    左馬一
    裏面ジャケ写がたまらなかったので

    silence 2ndD.R.B.の優勝チームが決まり、結果を見届けた左馬刻は煙草を吸いに控室を出た。気に食わない気持ちもあるが、自分たちを倒しておいて他のチームに負けるのも気に食わない。かつてのチームメイトたちが並び立つそのステージになぜ自分がいないのかと思う気持ちはあれど、そこは所詮中王区の女共が組んだだけのただの見せ場だとも思う。胸中に渦巻くのはそんなとりとめのない思いばかりで、誰とも何も話す気が起きずに一人になれる場所を求めて歩いた。
     喫煙所には誰がいるかわからない。となると一番は自分に割り当てられた部屋である。……が、なんとなくそこにも足が向かない。誰にも会いたくない気持ちとは矛盾して、ふらふらと建物内を彷徨っていた。
     そんなことをしていたせいで、出会ってしまった。今一番会いたくなかった人物と。こういう時にばったりと出くわしてしまう相手はだいたいこいつだ。それをわかっていながらまっすぐ部屋に向かわなかったのは自分であり、やり場のない気持ちは舌打ち一つに込めるしかない。
    「左馬刻……」
     足を止めた一郎に、けれど左馬刻は同じようにはしなかった。これまでだったら足を止め睨み合い喧嘩を吹っかけただろう。「左馬刻サンだ」とお決まりの文句を告げて必要以上に煽っていた。しかし今は、とてもそんな気分にはなれない。
     憎み合っていた理由が誤解だったから。
     相手は初戦を勝ち抜いたから。
     どちらも結局アイツに負けたから。
     そんな言葉にできるような明確な理由ではなく、ただ、相手にする気が起きなかった。それだけの話だ。
     無言で横を通り過ぎる。その瞬間、一郎の瞳は初めて困惑の色を浮かべた。
    「……左馬刻……?」
     背中に掛かる声を無視する。揺れた瞳と同じように、その声色は戸惑いを滲ませていた。
    「っ、おい……!」
    「ンだよ、しつけぇな」
     仕方なく足を止め視線を合わせれば、一郎は息を呑む。怒りと困惑、それから躊躇い。声を掛けてきたくせに何も発せないのか、開きかけた唇はそのままキツく結ばれた。ハッ、と思わず乾いた笑みを浮かべる。
    「同情でもしてんのか?」
    「ちがっ」
    「じゃあなんだよそのツラは」
     間合いを一歩詰める。それくらいでたじろぐような男ではないことに自然と意地の悪い笑みが浮かんで、そのまま右手で顎を捉えた。色違いの生意気な瞳は、それでもまっすぐにこちらを見ている。
    「……こっちのセリフだ」
    「アァ?」
    「あんただろ、変な顔してんのは」
    「…………」
     何を、と言い返すこともできないまま、ますます表情が歪んだことを自覚する。
     張り詰めた空気の中で、それでも一郎は紅色の瞳を見つめたまま動かなかった。離せと腕を掴むことすらしない。
     爪先がぶつかる。掴んだ顎を引き寄せる。いつの間にか近づいていた身長のせいで、鼻先が触れそうになる。それでもまっすぐこちらを見つめる強かな瞳は、出会った頃と変わらない。最初から、一丁前にクソ生意気で強い男だったのだ。一時の、あの緩やかに孤を描いた柔らかな視線は、きっともうこちらを向かない。
    「……テメェなんざに心配されるほど落ちぶれちゃいねぇよ」
     力の抜けた右手から解放された一郎は、それでも何も返さなかった。つい先に視線を外せば、下ろした前髪が都合よく視界を覆う。
     ――いちろう、と。開きかけた唇は、音を発さないまま閉ざされた。
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