ビター・スイート マイクを用いたバトルをしていた数年で、言葉で伝えることの大切さは十分すぎるほどに身に沁みていた。けれど実際、言葉にせずとも伝わることだってたくさんあるとは思っている。
特にこの男の瞳は雄弁で、まっすぐ見つめてくる赤い視線は、言葉よりもよっぽど素直に感情を伝えてくるような気がするのだ。そういう男だと知っているからというのも大きいのだろうが、熱の込められた視線に見つめられると嘘のない想いが伝わってきて、どうしたってじわじわと頬が熱くなる。伝播した熱のせいで、こちらもまた、息が苦しくなるほどの想いが溢れてくる。そんな日々を繰り返している。
左馬刻の瞳がギラリと火を灯す瞬間も、やんわりと弧を描く瞬間も。そのどちらも、一郎のお気に入りだった。
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