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    maybe_MARRON

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    左馬一
    左馬刻+二郎三郎、犬猿を経て良き理解者になると思っています
    一郎+合歓は恋バナ友達
    ここにアップするのをすっかり忘れていましたが、インテのサマイチプチに気持ちだけでも参加したくて書いたものでした

    はいはい、どうぞお幸せに   元TDD 碧棺左馬刻 山田一郎 結婚

     新聞の一面からネットニュース、テレビにSNSまで。その日は一日中、同じタイトルが世間を賑わせた。彼らが恋仲であることは、誰もこの日まで知らなかったからである。
     H歴崩壊から二年。共闘の末、犬猿の仲だった彼らが和解したことは、民間人含めおおよその人間が知っていた。しかし、それ以降彼らが表舞台に立つ機会は減り、特に左馬刻は本来の裏仕事に徹することが多く、メディア露出がほとんどなくなっていた。ステージの上で共演することも一切なかった二人である。交際中であったことを知るどころか、一緒にいる姿を見かけることすらなかった。
     そんな二人の、突然の結婚。報道関係者向けに送られたメッセージは至ってシンプルなものだった。当然記者会見なんてものもなく、ニュースは専ら二年以上前の彼らの映像と、イケブクロやヨコハマの住人、それから元チームメイトへのインタビューなどで構成されていた。そうして全員、口を揃えて言うのだ。「知りませんでした」「驚きました」と。今日までどれだけの交際期間があったのかも知らない、そんな電撃結婚。
    「……で?」
    「で? じゃねぇよ! なんで俺らすら知らない間に結婚なんてことになってんだ!」
    「あァ? ちゃんと挨拶しに行っただろうが」
    「日曜の朝に役所に行ってその足でうちまで来て『明日には正式に受理されて報道関係にも話がいく』なんていうのは挨拶じゃありませんただの事後報告です」
     ギャンギャンと噛み付くのは山田二郎と山田三郎。言わずと知れた、一郎の弟でありディビジョンバトル時のチームメンバーである。しかし、血の繋がりがある彼らでさえ、今回の件は街頭インタビューをされた地域住人と口を揃える羽目になったのだ。噛み付くのは当然だろう。
     世間を騒然とさせた二日後、二郎と三郎は左馬刻を呼び出した。場所は一度だけ四人で食事をしたことがある、左馬刻の息がかかった高級焼肉店だ。もちろん二人は財布もカードも持ってきていない。何も言わずとも、左馬刻もそれくらいは承知していた。
     肉、野菜、白米、酒を適当に注文すれば、三人の間には沈黙が落ちた。すぐに三人分のジョッキが届けられたが、当然、乾杯なんてものをする空気ではない。
    「……さっきも言ったけど、結婚するなんて話、俺ら聞いてなかったんだけど」
    「……今日は取調べってか? 別にいいけどよ」
     左馬刻はビールで一口喉を潤すと、食べ物が届くまでの時間潰しとばかりに煙草に火を付けた。上の方に向けて細く長く吐き出した煙は、換気扇の中にゆらゆらと吸い込まれていく。それをぼんやり見つめてから、二人に視線を戻した。
    「結婚の話は前からしてた。ンな突然決めたわけじゃねぇ。一郎がお前らに話してなかったのは……まあ、信頼されてなかったってことだろうな」
    「はあ!?」
    「落ち着け、お前らじゃねぇ。俺がだ。……本気だと思われてなかったんじゃねぇの」
     知らねぇけど、と拗ねたような声色をする男に、二郎と三郎は思わず視線を交わす。
     一郎と左馬刻が付き合い始めたのは一年ほど前だった。それは二人も知っている。TDDの頃も実は、とその時に一郎から打ち明けられており、驚いたものの様々なことが腑に落ちた。二人の間にあった一時の因縁は、もはや懐かしい。だから別に、交際にも結婚にも反対していたわけではないのだ。
     気まずい空気の中、しばらくして届いた肉と野菜を左馬刻はどんどん網の上に並べていった。焼けたものは三人分の皿に適当に分けていく。別にそこまでさせたかったわけではなかった二郎と三郎は一瞬戸惑ったが、分けられた野菜を見て礼を言うのはやめた。左馬刻の皿の上には、にんじんもピーマンも乗っていなかった。
    「お前らはしいたけ食えるんだよな?」
    「うん」
    「はい」
    「はは、そうか。んじゃこれもやるよ」
     その瞬間だけは、なんだか和やかな空気だった。高級焼肉店とだけあって箸も進む。初めて来た時と同じように「焼肉って薄い肉だけじゃねぇんだな」と呟いた二郎に左馬刻が笑い、意外とよく呑む三郎に酒を注ぐ。もちろん左馬刻自身も、肉も酒も進んだ。二人が酔わせて口を割らせようとしているのは明白だったため、それに乗っかってやったのだ。野次馬に余計な詮索をされないよう先回りして報道関係者に事実だけを簡潔に伝えるメッセージは出していたが、それでもここ二日間はどうしても気を張っていた。穏やかな新婚生活なんてものには程遠く、一郎も左馬刻も、なんとかしていつも通りを貫いている状態である。
     そんな中での、今はもう気の知れた二人からの誘いだ。取調べだろうがなんだろうが、美味い食事を囲んで何も取り繕うことなく過ごせることに、左馬刻自身はどちらかといえば安堵していたくらいである。しばらく三人でガヤガヤと食事を続け、腹が満たされる頃には程よく酒も回っていた。
    「一兄とはうまくいってるんですか」
    「まあな。じゃなきゃ結婚なんかしねぇよ」
    「左馬刻と一緒にいる時の兄貴ってどんな感じ?」
    「あー? あー……それな……」
     二郎の質問に、左馬刻は少しだけ考えてから小さく笑う。二郎も三郎も首を傾げた。
     以前、一郎が零していたことがある。あいつらは俺を子どもにさせたいみたいだ、と。幼い頃から兄として、時には親代わりとなって、家族を守ってきた。心配も苦労も人一倍してきた兄は、きっと人に甘えることを知らない。たとえ自分たちが大人になったとしても、手が離れることはあっても甘やかしてあげることはできないだろうと。一郎にとって、唯一子どもでいられる場所、肩肘張らずに休める場所が左馬刻なのかもしれないと、弟たちもわかっている。と、そんなことを言っていた。
     一郎はきっと、そう言って左馬刻を安心させたかったのだろう。弟たちのかわいい想いと、実はきちんと自分たちの関係が認められていること。それから、左馬刻に甘やかされている自覚があることも、それを喜んでいることも伝えたかったのだろうと思う。
     しかし、左馬刻がその言葉を聞いて思ったことはまったく別だった。
    「逆だ、逆」
    「逆?」
    「そう。あいつといて休まるのは俺様の方なんだわ」
     二人、あるいは一郎自身も含め、三兄弟が思っていることも決して間違いではない。実際、左馬刻といる時の一郎は安心して背中を預けてくれていると思う。それがただの自惚れではないことくらいは承知していた。しかし、それだけではない。他の人に見せない姿を見せているのは、一郎以上に左馬刻の方なのだ。
     たとえば名前を呼ばれるだけで。おはようとかおかえりとか、そんな日常の何気ない言葉だけで。まるで魔法のように、ふわりと胸の辺りが温かくなる。顔を合わせたくないと思うような汚れ仕事の後だって、張り詰めていたものがそっと解けていくのだ。
     だから、ずっと傍にいてほしいと思った。こいつしかいないと思った。付き合いの長さなど関係ない。お互いのことは、もう十分過ぎるほど知っているのだから。
    「…………」
     二郎も三郎も、思ってもみなかった惚気に返す言葉が浮かばなかった。なんだかこそばゆくなるようなその告白も、しかし気持ちはわかってしまう。今までで一番、自分たちがおはようもおかえりもおやすみも聞いてきたのだ。目の前の男が話しながら自然と優しい顔つきになったことにも、兄を想うふわふわとした甘い言葉にも、揶揄うわけでもなくただただ納得するしかない。
    「一郎にはぜってー言うなよ」
     やや目尻を蕩けさせた酔っ払いの義兄は、ライバルではなく理解者だった。
    「…………や、ごめん、それは無理……」
     ところが。穏やかな空気から一転、気まずい顔をした二郎と三郎が顔を見合わせ、左馬刻は怪訝な表情を浮かべた。三郎は、おずおずとスマートフォンを持ち上げる。
    「……はあ!?」
     画面を見れば、一郎と電話が繋がっているようだった。左馬刻の顔は一気に真っ青になり、それから真っ赤に染まり、「いつからだテメェ!」と怒鳴り声が響く。それに応えた『悪い!』という声は、電話越しの一郎のものだった。
    『俺が二人に頼んだんだ、左馬刻の本音を聞き出してほしいって』
    「てめ、やっぱ信じてなかったのかよ!」
    『そうじゃねぇ! ただ俺が直接聞いてもあんた絶対はぐらかすだろ!』
    「わかんねぇだろまずは直接確かめろや!」
    「……あの、個室とはいえお店に迷惑なのであとは二人の時にやってくれませんか?」
     このまま電話越しの喧嘩に発展しそうな二人を、三郎が呆れながら宥める。二郎はジョッキを片手にゆるりとその様子を見守っていた。
     一郎に頼まれたというのは本当だ。結婚が嫌だったわけではないが、あまりにも急すぎて一郎自身も戸惑っていたのである。プロポーズをされても指輪を渡されても、婚姻届を書いてもいまいち実感が湧かない。その理由は、左馬刻がなんでそんなことを言い出したのかわからなかったからだ。だから、なんとかうまく聞き出してほしい、と。
     兄の珍しい頼みに、二郎も三郎ももちろん頷いた。幸せそうな様子を見ていたため、騙されているなどと疑うようなことはしなかったが、突然のことに心配していたのも本当だった。
     しかし、その心配は今日解消された。あとは二人でうまくやってくれればいい。結局、喧嘩をしたってなんやかんやで丸く収まるのだろうとわかったから。二人でいる時の空気感がなんとなくわかって、こんな喧嘩すらも二人らしさなのだろうと思えたから。
    「くそっ、おい出んぞ!」
    「へーい。左馬刻、ごちそうさまでした!」
    「さっきは言わなかったが左馬刻サンな」
     左馬刻は財布を取り出しながら、山積みになっている皿とジョッキに顔を顰めた。しかし、会計の際に手土産用の肉を買い足すことは忘れない。渡す相手など聞くまでもなかった。この男の心を満たすおかえりの四文字に、返す言葉とともに差し出すのだろう。
     後ろで見ていた二人は、やれやれ、と肩を竦めた。そういう男だということは、少し前から知っていた。そういう男だから、兄も自分たちも心を許してしまったのだ。
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