おとなり ステージから舞い散るテープと紙吹雪。両手を掲げ歓声を上げる観客。ステージライトに照らされながら、会場全体をぐるりと見渡す。ステージすらも振動させるような大きな声が、どこか遠くに聞こえていた。
「あ――……?」
「……っ」
ぐらりと傾いた身体を、気づけば白い腕が支えていた。誰の腕かなんて確認するまでもない。意外と力あんだよなとか、よく間に合ったなとか。そんなどうしようもない言葉ばかりが浮かぶ。
少し。ほんの少しだけ、気が緩んだのだ。
なんとかしなければという一心で大きなステージを用意して、どうにかすべてを終えて。再び人々の笑顔を前にして、よかった、と思った瞬間に身体の力が抜けた。
「…………悪い」
肩越しに僅かに振り向けば、驚いたような心配しているような、どこか見慣れない赤い瞳がじっとこちらを見つめている。何してんだと咎めることもだらしねぇなと揶揄うこともなく、グッと腕に力を込めたまま、ただこちらの様子を窺っているようだった。
しばし見つめ合って、それからようやく、ふっと息を吐く。足に力を込めて、自身の力で立つ。
「……ありがとな、左馬刻」
「…………おう」
大丈夫かと聞かれていないのにもう大丈夫だと告げるのも変な気がして、素直な礼だけを述べた。支えていた腕の力が緩んで、そっと身体を離す。ぎこちない距離と沈黙の間に、一瞬「左馬刻さん」という言葉が頭に浮かんだのだが、それを口にすることはなかった。どうして浮かんだのかもわからなかったから。
もう大丈夫という言葉の代わりに、「二郎! 三郎!」と声を張り上げ二人に駆け寄る。今の自分たちが交わす言葉は、きっとこれだけで十分だった。