アシストロイドに性欲は存在しない。
知識として理解は出来る。けど不要な機能を後から突貫工事で詰め込んだので、ぶっちゃけよく分からない。こればかりはカルディアシステムを持ってしても上手く習得出来そうにない。本能、欲求、衝動。人間は複雑で難しい。
「ネロ…」
普段よりも少し落ち着いたカインの声に呼ばれ、振り返る。目が合うと、微かな体温上昇を確認。何か喋りたいことがあるのだろうと待つが、なかなかその先の言葉が続かない。なんだろう。ちらちらと視線を飛ばされるが、意図がわからず首を傾げるしかない。むむ、とカインがちょっとだけ唇を尖らせた。
「えっと…」
伸ばされた手が意味ありげに俺の手に重ねられた。あれ、と思った時にはカインの顔が目の前に。何度も角度を変えて唇が触れては離れ、吐き出す息に熱が籠る。
あ、そっか。
"お誘い"だ、とようやく気づいた。ここまでされないと気づけないなんて、本当になんというか。カインから誘われるのも、もう何度目だろう。どうして気づいてやれないのかと情けない気持ちでいっぱいだ。必死に態度で想いを伝えるカインに応える様に背中へと腕を回して抱きしめると、嬉しそうに微笑んだ。
カインの願いを叶えたい。これはアシストロイドの本能だけではなく、恋人としての使命感でもある。どうすればいいのか、俺に出来ることは。カインと肌を重ねながら、カルディアシステムがちかちかと光った。
⬛︎⬛︎⬛︎
ベッドに座り、手首につけた端末の画面を眺めてるカインの横に座る。ちらっとこちらに一瞬視線を向けたが、すぐに画面へと視線が戻る。
「なにしてんの」
「んー、こないだボスに教えてもらった美味いって評判の店なんだけどさ」
「ふーん」
「ネロも一緒にいこ、…っ!」
画面を眺め続けるカインの首筋に、唇を押し付ける。ちゅ、と可愛らしい音が鳴った。びっくりしたカインが、すぐにこちらへと顔を向ける。じわっと肌が赤く染っていく。
開いたままの端末の画面を勝手に消して、胸板を軽く押してベッドへと倒す。無防備な脇腹へと手を伸ばして撫でると、びくっと身体が跳ねた。
抵抗無し、怒ってる様子も無し。動揺はしているが、ちょっとだけ顔が緩んでるのは明らか。よかった、合ってる。内心ほっとしてるのを隠しながら、そのまま上から覆いかぶさる。
「え、な、どうしたんだネロ、急に」
「どうしたって…な、カイン。シよ?」
「っえ?あ…」
未だ動揺したままのカインの手をとり、指を絡ませる。きゅうっと握り締めると、カインの心拍が上がるのがわかった。
ダメ押しで、こてんと小首を傾げてみせる。ちょっと動作があざと過ぎるのではと自分でも思うが、カインが強請られるのに弱いのを知ってるので。これもカインに喜んでもらう為だから、と誰に聞かれてるわけでもないのに頭の中で言い訳をした。
「シ………たい、けど…」
「けど?」
「びっくりして、だな…。俺、そんなに顔に出てたか?」
かぁっとカインの頬が赤くなる。図星だったことが恥ずかしいらしい。
アシストロイドに性欲は存在しない。結局今もよくわからない。けど、カインのことならわかる。カインから誘いを受けるタイミングは、我慢の限界はいつなのか、どんな風にすれば喜ぶか。
俺の学習能力が正しければ、今日くらいがちょうど。全てを理解するのは不可能だけど、俺なりに出来ることを。
「はは、秘密」
握りしめたままの手の甲に、そっと唇を寄せた。