距離が近づく、肌が触れ合う。じわりと熱が伝わってくる。重ねられた手は期待と欲でそわそわと俺の手の甲を滑っては跳ねる。わかりやすいお強請り。
久しぶりに休日が被って、時間も出来て、気持ちだけなら俺も一緒だ。一緒なんだが。
「無理」
「え」
ぴったりとくっついていた肩を掴んで、ぐいっと引き剥がす。俺の態度に腹が立ったのか、またぐいっと距離を詰められた。近い。背を反らして逃れたが、すぐに背中がソファの肘掛に当たる。あからさまな拒否に、カインがショックを受けている。
「なんでだ。その…久しぶり、だし」
だめか、と声が小さくなっていく。上司である俺にでさえずけずけ発言する跳ねっ返りが、控えめに誘ってくる姿にそそられるものはある。が。
「暑い」
「え?」
暑い。兎に角、暑い。冬生まれ雪国育ちで暑さに弱く、連日の猛暑で体力は限界だ。そのうえ仕事は相変わらず激務。倒れてないことを褒められたいくらいだ。夏生まれ体力馬鹿には、あまり関係無いことのようだが。今日も元気に市内を駆けずり回っていて、同僚からも異常者扱いを受けていた。
カインは俺の返答に、ぽかんと口を開けたまま固まった。
「えっと…夏バテってことか?」
「そうだよ、わりーかよ」
「…そうか、ボスも歳だしな。悪かったよ」
「は?」
「むぇっ」
カインが眉尻を下げて申し訳なさそうな顔で言いやがるので、咄嗟に手が出た。片手でむにっと柔らかい頬を挟んだ。署内の女子から大好評の整った顔が歪んで、間抜け面になった。
「今なんつった?」
「だから、ボスの年齢のこと考えたことなかったなー、って。身体が本調子じゃないなら仕方ない、気づけなくって悪かったよ。健康第一だしな」
真っ直ぐな瞳で至極真面目に言われ、言葉を失った。
ずけずけとコイツは。明らかなジジイ扱いだ。越えちゃいけねぇ一線を超えるのが上手くて感心すら覚える。
腕に力を込めて、そのままカインを押し倒す。買ったばかりクッションが衝撃を受け止めてくれた。
「っぇ、」
なにか言う前に、唇を塞いで舌を潜り込ませる。驚きで目をまん丸くしていたカインの顔が、次第にとろりと溶けて行った。
「っは…なんだよボス、いきなり。無理じゃなかったのか」
「舐められたまま終わるわけねぇだろ。俺より若ぇんなら、一晩付き合うくらい余裕だよなぁ?」
このまま黙ってすごすご寝てたまるか。無防備な脇腹へと手を伸ばせば、カインがにやりと笑った。俺の首へと手を回し、甘えた声で囁いた。
「休憩が必要ならいつでも言ってくれ」
「するわけねぇだろ、嫌だっつっても止めてやんねぇからな」
空調の温度を二度下げる。長い夜の始まりだ。