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    mosushiya

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    mosushiya

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    善獪? 現パロ。
    前回の夏の話の続きのような。夏は過ぎ秋になる。
    善視点バージョン。
    ぽいぴくに投げるほどでもなくてすみません。

    #善獪
    goodCharge

    フォール イン ラブ 【Side Z】 足首がひやりとする。築年数が古い家の台所は、コンロからの熱で顔は熱いのに、足元ばかりが冷えて困る。
    「うう~…。どこから隙間風入ってくるの? 換気扇回してるから? もう…」
     もこもこの厚手のスリッパか、ルームシューズが欲しいな、と善逸は思いながら夕飯の支度をしている。根菜と豚肉を山ほど放り込んだ鍋は味噌で味付けする。
    「もうあったかい汁ものが美味しい季節になっちゃったんだなぁ…」
     つい数か月ほど前までは、世界が溶解するんじゃないかと錯覚するほど暑い夏だったのに、今では本当にそんな季節があったことさえ信じられない。
    鍋は余熱で火が通るだろう。コンロのスイッチを捻って止める。ひと段落したところで、風の入ってくる場所を特定すべく善逸は台所を離れた。
    「どこかガタがきてんのかなぁ…この家。居間のドアかな。修繕テープとか買わなきゃだめかな」
     兄と二人暮らしになってしまった一軒家は、男二人で住むには少し広い。

    『今日も遅くなる。夕飯はいらない』
     ブブ、と震えたスマートフォンが、そっけない文字列を表示させた。
    「あっそう…。ゴメンねのスタンプくらいつけてもいいんじゃない?」
     兄の獪岳は現在居酒屋でバイトをしている。今日シフトだったっけか、と記憶を探るも思い出せないが、連絡無精な彼を責めるとヘソを曲げるので、「了解」とだけメッセージを送る。
     グリルに塩鮭を1匹放り込み、コンロにかけた鍋を温める。副菜に作った適当な白菜の浅漬けを小皿に盛る。具だくさんの豚汁を大きな椀によそう。炊飯器の蓋を開けると、蒸気がふんわり顔を包む。食卓にそれらすべての器を並べる。
    「いただきまーす」
     テレビだけが笑っている食卓で、温かい新米をほおばった。
    「おいし」
     余った米は冷凍すればいい。豚汁は獪岳が帰って食べる気になったら温めなおせばいい。
    「…今度の休みに、こたつ出そうかな」
     結局、どこから風が漏れてくるのか、家の中を一周したがわからなかった。
     食卓の下で、自然と足の甲と甲をすり合わせる。こたつより先にストーブかな、と思いながら豚汁をすすった。

     広くなってしまったこの家の寝室は、いつの間にか8畳の客間に二つ布団を並べて敷くようになっていた。
     夏場は2階の自室が暑いとか、そういう理由だったはずだ。それぞれの自室は、今は入ると肌寒い。
     玄関から物音がして、珍しく善逸は薄く目を覚ました。深夜かな、と布団の中で目を閉じて考える。短時間のシャワーの音、そのあとモソリと隣の布団に滑り込む気配があった。
    「…おかえり…」
    「ただいま」
     獪岳の帰りを待っていた布団は冷え切っているに違いない。善逸は隣の布団に侵入することにした。
     手を伸ばした先は背中だった。背中越しに獪岳の寝巻代わりのスウェットの感触を手で確かめてそのまま腹まで滑らせる。
     仕事場のせいか、最近の獪岳はほんの少しだけ以前と違う香りをさせている。喉に絡むような、タバコの香りだろうか。
    「…眠い。さわんな」
     邪険に手を払われそうになったので、そのまま善逸は獪岳の手の甲を覆うように指を絡めた。
     シャワーだけでも、湯にあたってきたばかりの人肌は温かく気持ちがいい。
     獪岳の手は、善逸より少しだけ大きく、少しだけ武骨で、少しだけ乾いている。
     筋張った肘から指先まで、善逸は掌でゆっくりなぞる。背中越しでも暗闇でも、その形が頭の中でありありと思い描けるように。
     獪岳は抵抗しなかった。そのまま指先を絡ませて一人遊びをする。
     親指の付け根のふっくらしたところ、短い爪をなぞり、ささくれをいじるように爪と肉の際を軽く掻いて弄ぶ。
     逃げそうになる乾いた甲に縋り付いて、皮膚を擦り合わせて、逃がさない。
     ひとの手のひらが5本の指に分岐しているのは、他人を絡め取って離さないためじゃないかと、善逸は都合のいい発見をした。
     指の腹で、関節の小さな山脈をなぞり、爪で甲に緩やかに線を描く。ゆっくりと何度も指の股に滑り降りては、軽く握る。獪岳の手の甲は少しだけ乾いていて、掌は少しだけしっとりしていた。布団の中で熱が移った掌を、少しだけ強く握ると爪が獪岳の肉に柔く食い込んだ。
    「…ぁ…」
     呼びかけようとした声は、喉に絡まって掠れて途切れた。
     湿った掌を離し、獪岳の腹をなぞる。スウェットの下に滑り降りてゆく。
     が、侵入は獪岳の掌に阻止された。
     自由が利かぬように、今度は善逸の指が絡め取られた。諦めて、包まれた掌の中で少しだけもぞもぞと抵抗する。
     獪岳はそのまま眠るつもりらしい。背中越しに、規則正しく整い始めた呼吸音を信じることにした。
     善逸はピタリとその背中に張りつく。
     絡めた指を緩めると、少しだけ空気の通り道が出来て、上がった熱を自覚させる。
    「…隙間が開いてると、寒いんだ…」
     カタカタと、秋風が戸を叩いている。どこから冷気は忍び込むのか、善逸には分からなかった。





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