一番のひと 私は今夜も悪夢に魘されるのだろう、ここのところはいつもそうだ。道を違えても、心を蝕まれても、何があっても――彼は私のかけがえのないたった一人の弟。
「……メルセデス?」
白いシーツの上で物思いに耽っていた私の名を呼ぶのは、私にとっては最愛の人――シルヴァン。私に多くを与え、多くを教え、幸せというものをたくさんくれた人。戦後、私は彼と正式に結ばれた。ゴーティエ辺境伯となったシルヴァンと過ごす日々は本当に幸福。それなのに夜の闇がフォドラを包む度、弟――エミールの影が私の胸のなかに広がる。
「大丈夫だ」
君はもう独りじゃない。シルヴァンは言ってくれる。俺が君を離すことは何があっても無い。そう何度言ってくれたことか。その言葉に救われた気持ちになるのも事実なのに、エミールとの悲しい記憶は私から消えない。消してはならない。だけど、一番の人はシルヴァン、彼であって。
「シルヴァン……」
怖いのよ、眠ることも。本当の気持ちを落とせば、シルヴァンは私を抱きしめてくれた。