本の話。「へえ、マジなんだな」
聞きなれた、けれど不快な蔑みを含んだ声にジャミルは眉をひそめた。視線だけ向ければ、想像した通りの怠惰な某国の王子が書架にもたれかかってこちらを向いている。
「なんのことですか」
「そのあたりにはないぜ」
頭上の明かりがうまい具合に逆光のようになって相手の表情はあまり見えない。ぎらりと光る眸に不快感を覚えた。無視して移動したかったがあいにくいちばん奥の書架だったので無理だった。
「流石に二度目の三年生となると図書館の蔵書にもお詳しいですね」
いったん言葉を切って、あざ笑うように口角を吊り上げる。
「来年はよろしくお願いします」
けれど相手は逆に煽るように嘯く。
「ここより、ご主人様の書庫のほうがあるだろ」
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