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    shiraseee

    @shiraseee_0108_

    気ままに更新しています。
    サイレント更新&修正は常習。
    凪茨ばかりですが、たまに他CPなども。

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    shiraseee

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    恋を知りたい凪砂が、凪砂に片想いをする茨に「したい」というおはなし。タイトルまんま。

    ちょびっとモブ出ます。

    乱凪砂はまだ恋を知らない。1「…私、茨に恋をしてみたいと思った」
    「…はい?」

    まだ残暑の残る夏の日。
    エステレでの仕事終わり、車を回すと言ったのに「近いから、少し寄り道しよう」と言われ、照りつける日差しの中並んで歩いていた。
    道中、「暑いね」「そうですね」などと他愛無い会話をするだけで、単なる時間の無駄だと思った。
    それに、これほど暑い中歩くのは、自分はともかく閣下には堪えるのではないだろうか。
    暑いと言いながらも、閣下はケロッとした様子だが、これでまた空調の効いた室内に戻るのだ。
    気温差で体調を崩さないかと気を揉んでいると、なんの前置きも無く、もう唐突に、冒頭の発言が降ってきた。
    暑さで頭がやられてしまったのかと、つい思ってしまった。
    「恋をしてみたい」、たしかにそう聞こえたが。
    それ以上閣下が何も言うことはなく、

    「…着いたね」

    少し呆けていたのか、閣下のその言葉でハッとした。
    見るといつの間にかESビル前の横断歩道。
    なんて返したらいいのか。いつものように頭が働かなかったのは、茹だる暑さの中歩かされたせいだと思うことにした。




    数日後。
    Adamで撮影の仕事が朝からあった。
    インタビューなど喋ることはないので台本は特に用意していないが、ある程度の指示は振った。
    女性誌に載るということで、肌の露出度が高めの要望が、カメラマンから飛ぶ。
    もちろん事前に先方と打ち合わせはしているので、どこまでやっていいのか…こちらからも伝えているはずだが。

    (…あのカメラマン、少し調子に乗ってないか?)

    閣下の撮影をずっと見ているが、打ち合わせ以上の露出が求められている気がする。
    あの素晴らしい、まるで美術品のような肉体美を収めたいのは分かる。
    分かるが、必要以上に見せてしまうと価値が薄れるというもの。
    写真の精査は自分も関わるが…あまりこちらの意に沿わぬことをされるのは、ましてや自分でなく閣下にされるのは、気分が良くない。
    …それに。

    「…すごい、あれで本当に年下…?」
    「やっぱり、かっこいい…」

    近くにいる女性スタッフが、閣下を見ながら小声で話すのがさっきから聞こえる。
    (男性スタッフも、なんだか見惚れてる気がしますが…)
    しかし、ええ、ええ。この視線は見ていて気持ちがいい、鼻が高い。
    そうでしょう、俺の育てた乱凪砂です。
    最強で最高を謳う兵器ならば、どこに向けても何をもってしても、確実な威力がなければ。

    「………ふ、」

    …それを受けたのは、自分も例外ではないのだけれど。
    内心、うんうんと頷きながら。
    未だ小さくだがはしゃいだり、見惚れるスタッフたちに、愉悦感とは別の感情が渦巻く。
    …ああ。やはりこんなもの、とても醜い。
    貴方には、必要ありませんよ。閣下。



    「閣下、本日の業務はこれにて終了です!長時間の撮影、たいへんお疲れ様でした!」

    全ての日程が終了し、楽屋に戻って閣下に敬礼をする。
    撮影のために解かれた髪をふわりと靡かせ、閣下がこちらを振り向く。

    「…うん。茨も、お疲れ様」
    「自分にも労いのお言葉をいただけるとは、有り難き幸せ!1日の疲れも吹き飛ぶというものです!」

    そばのソファに閣下が腰掛ける。
    置かれていたミネラルウォーターのペットボトルを取り、未開封だった栓を開け一口飲み下した。
    その、何でもないただの飲食行為すら美しくて見惚れてしまうほど。
    喉が上下するさまは、何故か官能的に思えた。

    「…茨?」

    ドア前に立ち尽くしていると、声がかかる。
    ふ、とすぐ笑顔を作り、閣下を見遣る。

    「ああ、すみません。閣下は水を飲む仕草すら美しいなと、見惚れてしまっていた次第です」
    「…本当?」
    「もちろん!この様子がCMにでも起用されてしまったら、テレビの前で悶死してしまう人が続出するでしょうな!」

    言いながら衣装を着替えるために動く。
    ジャケットを脱ぎ、ハンガーに掛けたところで、背後に気配を感じた。
    振り向く前に、その手を掴まれた。

    「…茨に意識してもらえるの、嬉しいよ」
    「…閣下?」

    肩越しに振り返る。
    思いの外近かった顔に、不意にドクン、と大きく胸が脈打つ。
    …顔、いいな。
    あまりの近さに、語彙が消える。
    悟られないよう、ハンガーを戻す。

    「…今日のカメラマンさんは、随分と要望が多かったよね」
    「ああ、そうですね。打ち合わせ以上のことをしているところもあったので、止めようとも思いましたが…結果的には良いものが撮れたので、特別咎めるつもりもありませんが」
    「…途中、どうしても分からないことを言われて。どうしたらいいのか、茨に聞きたいことがあった」
    「え?どれですか?どの要望もそつなくこなしていましたし…そんな様子はお見受けしませんでしたけれど」

    表情の変化や感情の起伏が、出会った頃より豊かになったとはいえ。
    それは少々付き合いの長い自分でも、やっと気付けるほどの微々たるものであったりもする。
    仕事であれば尚更、彼は自分の台本や指示通りに動いてくれるから、より分かりにくかった。
    カメラマンの要望に困った様子も何も無かったので、閣下自体は特に問題無いものだと思っていたが。

    「すぐに仰っていただければ、お答えしましたのに。そばに控えてはいるので、いつでも…」
    「…ううん。これは、あの場だとしっかりと答えをもらえないと思ったから…終わるまで言わなかった」
    「なるほど。では、今がその時なのですかな?随分と距離が近いのが気になりますが、これも必要なことなのでしょう」

    掴まれていた手をそっと退かし、くるりと閣下の方を向く。

    「それで、自分に聞きたいこととは?」

    撮影時の、表情のつくりかた?
    カメラマンやスタッフとの対話?
    それとも全く関係ないことだろうか。
    何を言われてもいいよう、話し始めるその時までに考えを巡らせる。
    ゆっくりと、その形の良い唇が開かれる。

    「…私、恋を知りたい」

    紡がれた言葉は、思いもよらぬものだった。

    「…カメラマンさんが、恋した時のような、甘い表情で。って一度言ってね。どんな表情なのか、考えたけど自分の中で明確な答えは出せなかった。…NGはなかったから、その時の私は彼にとっての正解を表せられたのだろうけど」
    「………」

    あのカメラマン、もう二度と仕事を依頼しない。
    そう思いながら、閣下の言葉を聞いているとなんだか頭が痛くなってきた。
    …恋、恋。恋ね。

    「…愛はたくさんもらっているし、私も与えている。けれど、恋はまだ、知らない。愛を説くことはあっても、恋については…本での知識しかないから、次にまた同じことを要求されて、求められたものを出せるか分からない」

    そこでふ、と。
    自分と視線が絡む。
    ああ、この目は。逃がしてもらえない。

    「…だから、」
    「なるほど!いやあ、閣下の知的好奇心はとどまるところを知りませんな!飽くなき探究心も同様、尊敬に値します。さすがであります!」

    続けようとした言葉を遮る。
    一瞬閣下は驚きで目を見開いたが、それもすぐに戻った。
    自分は構わずに続けた。

    「しかし閣下、アイドルに恋愛はご法度。ましてや我らAdamは、そういった事柄には演出としても断ることの多い内容です。今回は、それを言われた時自分が運悪く聞いていなかったのでしょうな…。本来良しとしませんので、聞いていればすぐ止めたのですが」
    「……そうだね」
    「なので、知りたいと仰るならば映画、ドラマなどの映像関連、または書籍での知識で十分足りると、自分は思うのですが。知識を得れば、閣下はそこから全て紐解き、理解を得るはずです」

    つらつらと言葉を並べる。
    これは建前でもなく、彼の持つポテンシャルをそのまま伝えているだけ。
    閣下の知的欲求の吸収力や知識量には、自分も感服している。
    たまに暴走もするが、もはや慣れたことだ。

    「…そうだけど、そうじゃなくて。こういうのは理屈じゃない。実際経験してみないと、本物かどうか、分からないでしょう?」

    しかし、やけに不服そうな表情の閣下が食い下がる。
    …嫌な予感が、その時した。

    「ですが、恋とは本来、しようと思ってするものではないのでは?ましてやそんな、興味本位でするものではないかと」

    自分も大して知りませんが。
    内心呟く。

    「…なら。茨は恋、したことある?」
    「あっはっは!自分に聞きますか、それ?」

    次いだ言葉に、ピクリと眉が動いた気がする。
    …随分と意地の悪い質問だ。本人は、全く悪気も何もないのだろうけど。

    「幼い頃は軍事施設に放り込まれ、出てきたら会社の経営やらなんやらを学んだり、勉学にも励みました。アイドルとして世に出てからは、こうして事務所の副所長という立場もある、自分が!恋などというものにうつつを抜かす暇があったとでも?」

    しかし少し腹が立ったので、語気を強めて捲し立てた。

    「こういったことは、殿下のほうが詳しいでしょう。ジュンでも分かると思います。この件に関しては、自分ではお役に立てないかと!力不足でたいへん申し訳ございません。更に、閣下の関心に水を差すようで悪いですが!恋をする自分を想像なんてすると、舌を噛み切って死にたくなりますな!」

    全てを言い終え閣下を見ると、少し落胆した様子…だろうか、で髪をかき上げる。
    お望み通りの答えでなかったことは承知しているが、そんな顔をされるとは思わなかった。
    少し動きが固まってしまった。

    「…まあ、茨ならそう言うだろうとは、予想していた」

    呟かれたあと、その一瞬に、ぐっと詰め寄られ。
    その瞳で、捉えられる。

    「…だからね、私。茨に恋をしてみたい」
    「…は?」
    「…茨ならきっと、いつものように私に正しい答えをくれるはずだから」

    時が止まった気がした。
    またあの、茹だる暑さの中歩いた日の繰り返しをしているのだろうか。
    聞き間違いだったかもしれないと、蓋をしたあの日。
    けど、今は、目の前にこの人が居て。
    自分から目を逸らすことなく、捉えていて。
    ひどく真面目な口調で伝えてくる。

    「…え、あの……すいません。恐れながら申し上げますが。今、なんと?もう一度言っていただいても?」

    止めた思考は動き出した。
    理解しようとする、それより前に精一杯吐いた言葉は、少し辿々しかった。
    それを聞いた閣下は、屈託なく微笑んだ。
    そしてまた、同じ台詞を吐く。

    「…茨に恋をしたい。私を君に、恋させてほしい」
    「…………」

    思わず頭を抱えた。
    何を言ってるんだ?この人は。
    そんな笑顔で言うことか?
    たかが撮影の際の要求で、カメラマンの何の気ない一言で。
    それをここまで持ってきて、それをさせろと言う。
    …よりによって、自分に。

    「…茨?返事を聞かせて欲しいんだけど…」

    す、っと手を取られる。
    まるで子供がほしいおもちゃを強請るような顔で、ただ純粋な興味として、無垢に感情を向ける。
    …こっちの気も知らないで。
    いや、知らせるつもりは毛頭ないから、閣下は何も悪くはないのだが。

    「…な、るほど。承知しました!閣下のお望みとあらばこの七種茨、そのお役目を謹んで承ります!」

    空いてる手で敬礼、のポーズを取る。
    自分の返事に閣下は気を良くしたのか、「ありがとう」と微笑み、離れた。
    そして止まっていた着替えや片付けを済ませ、閣下は星奏館に、自分は事務所へと別れた。

    人気が無く、すっかり照明も落ちた事務所に入る。
    ちょうどいい、1人になりたかった。
    考える時間が欲しかった。
    そばの応接室へ行き、ドアに背を預けずるずると床にへたりこんだ。
    くしゃ、と髪をかく。
    だってこんなの、あんまりだ。

    −−最強で最高を謳う兵器ならば、どこに向けても何をもってしても、確実な威力がなければ。
    それが誇り。彼を育てた自分の自信だった。
    しかし自分は、それを見つけてしまった時すでに…。
    避けることも、目をそらすことも出来ないまま、釘付けになり。
    そして一発で、撃ち落とされてしまったのだから。

    「なんで、『俺』…なんだよ。どうして…こんな。…知らないとはいえ、酷すぎる仕打ちですね…」

    …恋なんて知らない。正解なんて教えられるわけがない。
    似たような感情は知っている。
    それは今、自分が持っているものだからだ。
    閣下に対して膨れる、ビジネスパートナー、主人と下僕、ユニットの仲間、それ以外の、それ以上の関係を求める自分のこころ。
    しかし、自分のこんな思いを恋と呼ぶには、あまりに醜い。
    とても、暗いから。

    「…あのひとには、知ってほしくないなあ…」

    そう呟くと同時、じんわりと、目頭が熱くなるのを感じた。
    涙なんて、出たんだな。
    ああ、なんだかくるしい。
    膝を抱え、俺はそこに暫く蹲った。
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    Replies from the creator

    shiraseee

    DONE凪砂くんが眠る茨を見つめて、かわいいなぁ、好きだなぁ、と思うおはなし。同棲している凪茨。
    茨は眠ってるだけになってしまいました。

    新年書き始めとなりました。とんでもなくふわふわとした内容ですけども…こういう凪茨が好きなので、今年もこんな感じのを書いていきます。
    暇つぶしにでもなりますと幸いです。
    拙作ばかりですが、たくさん書いていきたい!どうぞ今年もよろしくお願いします。
    しあわせの風景────────

    薄ら開いては閉じを繰り返す瞼に、注ぐあたたかな陽射し。まだ少し重たいけれど、微睡みから目覚めていく意識が次に捉えた柔らかな匂いに幸福感すら覚え、覚醒していく。
    日向より私に近しい匂いは、すぐそこにある。
    すん、と小さく鼻を鳴らして吸いこんだ。再び眠りに誘われてしまいそうになる安堵感と、心地良さ。この匂いにほだされ、自然と求めてしまう。
    随分そばにあったぬくもりも抱き締め漸く開いた私の視界は、見慣れた暗紅色が埋め尽くしている。
    「……茨…」
    「……………」
    「……?」
    ───珍しい。ぴくりとも反応がない。
    普段なら名前を呼べば起き上がるとまではいかずとも、私の声を聞けば、ふと長いまつ毛を持ち上げ茨の美しい青に私を映してくれることが常だった。その時の、茨の世界にまず私が在れるひとときに期待して暫く様子を見ていても、瞼は開くどころか、かたく閉ざされたまま。どうやら茨は、無防備にも私の腕の中で熟睡している。
    2000