乱凪砂の恋愛相談「え〜っと、俺の経験談とかでよければ教えるし…相談も乗ってあげられると思うよ…?」
「……ありがとう、薫くん」
ある日の午前、今日はオフだったからどこに行こうかと愛読している雑誌を部屋のソファで読んでいた。
その時同じくオフの乱くんにやけに神妙な面持ちで声をかけられたと思えば、彼の口から出たのは「…恋愛について、教えてほしい」ときたものだから。
そりゃあ心底驚いて読んでいた雑誌を落としたりしてしまったけれど。あの乱凪砂の口から「恋愛」なんて飛び出たんだもの、誰だって俺と同じリアクションになるんじゃないかな。
でもそこで、彼の恋愛に興味があったのと驚きでつい口をついてしまったがもう少し詳しく聞いてから受けるべきだっただろうか。
そう考えているうちに、乱くんが隣に腰掛けた。そしてぽつぽつと、俺に話し始める。
「……実は、恋愛というものを最近ようやく理解出来たんだ」
「へ、へぇ?」
「…興味があったから知識として得てみて、そこから色々と考えていたら、いつも思うのは同じ人なんだ。こういうことをしたい、ああしてあげたい…とにかく好きだと思うのが、その人で」
「なるほどね」
わりと世間離れしているなあと思うことが今までにも多々あったけれど、まさか恋愛をしたことはおろか理解すらしてなかったとは。
話を聞くと、内容はとても初々しいものだった。
「…最初は、よく分からなかった。前からその人によく似た感情は抱いていたから、それが恋愛であることに該当すると思わなくて、自覚するのにも時間がかかった。でもいざ自覚すると、好きという想いが止まらなくて…」
うんうん、分かる分かる。
口にはしないが俺は頷いていた。
「…だから、誰にも渡したくないから、私のものだという印をつけさせて欲しいとお願いしたんだ」
「───…ん?」
「…それで、快諾してもらえたからとりあえずの印として首のうしろへ噛み跡を残させてもらったんだけれど」
「え?あの、乱くん?」
「…満足感は得られたんだ。ああ、この跡が消えるまでは私のものなんだって。でも、その後その人はいつもと何も変わらず接するから、これって私がそういった対象として全く意識されてないってことなのかな?」
「…………」
そんな純粋な目で見ないでほしい。俺は思わず頭を抱えた。
いやいや待って、整理させて。
乱くんが恋愛感情を自覚して、その好きな人を誰にも渡したくないから自分のものの証として首に噛みついて跡を残した?でもその人にはそんなことをしても全く自分を意識されていないのかと悩んでいるという相談?相談でいいのかな?
うーーーーん、これは思ったより複雑そうな気がしてきた。というより、俺が受けていい相談なのかなぁ、これ…。
「…薫くん、どうかした?大丈夫?」
少し黙ってしまっていると、乱くんが心配そうに声をかけてくれた。
「あっ、ごめんね!ちょっと考え込んじゃった。えーっとそれで、乱くんは…その人に自分を意識させるにはどうしたらいいか、俺に相談したいってことでいいのかな?」
「…そう、だね。そうなるのかな。せめて、私のことをどう思っているのか知りたいと思う」
「そっかそっか、分かった。あ、そうだその前に──…相手ってどんな人なの?」
内容を確認して、明確にした。
そこでもう一つ、大事なことを尋ねる。
相手がどんな人かで、あげられるアドバイスも違うから。そう思って聞いたのが、余計に俺を悩ませることになった。
「…ああ、茨だよ。私と同じユニットに所属している、七種茨」
「───え。」
やっぱりこれ、俺が聞いちゃいけない話だったんじゃないかなぁ!?
薫くんの苦難は続…?