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    shiraseee

    @shiraseee_0108_

    気ままに更新しています。
    サイレント更新&修正は常習。
    凪茨ばかりですが、たまに他CPなども。

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    shiraseee

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    ちょっと怖い絵本のような、そんな世界観を目指してみたため、茨が可哀想なおはなし。
    茨が治めていた国の住人に追われています。色んな種族がいて、全てを統べる女王様。そこに悪意が渦巻いてしまった。
    女王を知らずのうちに救った、ひとりの王もいます。つまり凪茨。
    ※流血表現を薔薇でたとえています。あまり詳細ではないですがそういった表現があると踏まえていただけますと幸いです。苦手な方はご注意ください※

    ##薔薇の女王様
    ##凪茨

    薔薇でできた赤の女王様────────


    街を見下ろすようにそびえる城に住む、蛇のように鋭く冷たい赤の女王の体は薔薇でできていて、その体に流れるのは花びらの形を成す血液。
    その髪は咲き誇る紅の色で、その舌で紡がれる言葉は棘。
    しなやかながらも力強い立ち姿は、見るものを魅了してやまない美しいひと。
    でもそんな女王はだれにも愛してもらえないから、今にも枯れてしまいそう。
    その姿に魅了されたものは女王に心酔し、崇拝のこころを貰って生きていたけれど、悪辣ささえ美しかったけれど、怖くて強い女王からみんな離れていってしまった。
    女王はもうひとりぼっち。
    薔薇は、ひとりでは咲けません。
    肥料を、水を。愛情を与えてくれる人がいなければ、枯れてしまいます。
    美しい色を、失ってしまいます。
    さびしくもひとりで、散ってゆくのです。



    「たいへんです!たいへんです!このままでは女王が死んでしまいます!」
    「だれか!だれか女王を愛してください!」
    「たくさんたくさん愛してください!美しいお姿を、取り戻してください!」

    賑やかな猫の音楽隊が、楽器をかき鳴らし街を歩く。
    とても聴いていられない、がちゃがちゃとうるさい鍋の蓋と箸の音色。リズムに合わない言葉たち。尻尾を大きく振りながら、3匹は進む。
    街の人々は、それを聴いて囁きます。

    「あの女王はもうきっとだめだろう」
    「誰にも愛されなかった悲しいひと」
    「このまま枯らせてあげたほうがいいんじゃないか?」

    ひとりの男が前に出ます。
    「優しさなんていらないだろう!おれは、あの女王に首を刎ねられそうになった!消えない傷が残っている!」

    うさぎの花屋が泣き喚きます。
    「わたしなんて棘で刺されたわ。まだ抜けないのよ。とっても痛いの」

    大木の青年が怯えます。
    「ぼくはあの鞭で何度も何度も…。ああ、思い出すと体が震える…」

    「あの女王がきてから、何もかも変わってしまったわ…」

    ───暗くて重いなにかが、街をつつみます。
    「いいや。枯らせるより先に、殺してしまえばいい」
    「そうだ。この手であの美しい体を焼き払ってしまおう」
    「それがいい。もうあの女王は、咲いていてはだめなんだ」






    「───はぁっ、はっ…!」

    どうして、どうして!
    死んでいたこの国のために尽くしてきたのに!
    おまえら全員、間抜け面で俺に見惚れていたくせに!そのやかましい声で「女王!女王!」と崇めていたくせに!
    せっかく城に入れて、雨風を凌がせてやったのに!食事だって与えた、仕事だってまわしてやった、着るものだって新しいものを!
    受け入れて喜んでいたのに、先に裏切ったのはおまえたちだろう!

    「ああ、もう…!許せない。なんで、あいつら…!」

    城で不貞を働いた男がいた。二度と同じことが出来ないように、消えることのない傷を残した。
    泣いて文句しか言わず働かない庭師のうさぎに、育てれば金になり咲くことの出来る棘を渡した。
    隅で震えてるだけだった大木に鞭を打ち、その葉を艶のあるものに変えた。
    なのに。

    「城が、庭が。俺の薔薇が」

    ぜんぶ、全部全部全部全部潰して壊して引き裂いた。
    何もかも奪っていって、被害者ぶって火を放った。
    見上げると、遠くで炎をあげて激しく燃える火。
    それは太陽より眩しく強く、しかしおぞましい色を放っている。
    だめだ、早くどこかへ行かないと。この森もじきに火の海だ。
    安全なところへ辿り着かないと、この体も燃え尽きて、何も残らない。

    「いやだ、いやだ…」

    ──おれがいたことが、なかったことになる。
    全てが燃えて灰となり、明日には忘れ去られる。
    そんなのは死んでもごめんだ。
    あんな奴らのためになんて、死んでやらない。
    だから走れ。木を掻い潜り草をかき分け、森の暗闇に飲み込まれそうになる前に、この足で。
    いつかみたあの輝きを求めて。きっとあの光が救ってくれると信じて。
    だから走れ、走れ!

    「…………」

    ……走らせてくれ。
    斬られたところから紅い花弁が散ってゆく。はらはら、土にかえる。
    鮮やかだった髪の色は、暗くくすんでしまった。
    棘なんてもう抜け落ちて、武器は何もない。
    足は力が入らない。いつから座り込んでいたのか、立ち上がることも出来ない。
    ああ、火が近付いてくる。
    ごうごうと音を立て、黒い煙が上り、緋色がすべてを包み込む。

    結局、誰にも愛されないまま、ひとりきり。
    褒められたこの美しい体も、もう傷だらけ。
    今にもすべて散ってしまいそうだ。

    「痛い………」

    枯れるだけなら、良かったかもしれない。
    朽ちるだけなら、残ったかもしれない。

    「せめて。最期に、見たかった。たった一度、心から美しいと思った……あの、純白……」

    目を閉じる前に見えたのは、そんな色だった気がする。



    ─────────



    「……かわいそうに、こんなに傷付いて。けれど、もう大丈夫。君を愛するのは、私だけだよ───…私の愛しい、紅い薔薇。そばで永遠に、咲き誇ってくれ」

    舞う火花をくぐり抜け、辿り着いた森の奥。
    そこで炎の色とは違う鮮やかな赤を見つけた。
    あたり一面には、真っ赤な花弁が大量に散っている。…その中に、力無く横たわっていた、美しいひと。
    身に纏っている白がその赤に塗れることも構わずに、枯れかけている体をそっと抱き上げた。

    「……やっと、手に入れられた。私の、かわいい茨……」


    君を枯れさせはしない。必ずまた、綺麗に咲かせてみよう。
    額へ口付けると、すこし髪の紅が戻った気がした。



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    Replies from the creator

    shiraseee

    DONE凪砂くんが眠る茨を見つめて、かわいいなぁ、好きだなぁ、と思うおはなし。同棲している凪茨。
    茨は眠ってるだけになってしまいました。

    新年書き始めとなりました。とんでもなくふわふわとした内容ですけども…こういう凪茨が好きなので、今年もこんな感じのを書いていきます。
    暇つぶしにでもなりますと幸いです。
    拙作ばかりですが、たくさん書いていきたい!どうぞ今年もよろしくお願いします。
    しあわせの風景────────

    薄ら開いては閉じを繰り返す瞼に、注ぐあたたかな陽射し。まだ少し重たいけれど、微睡みから目覚めていく意識が次に捉えた柔らかな匂いに幸福感すら覚え、覚醒していく。
    日向より私に近しい匂いは、すぐそこにある。
    すん、と小さく鼻を鳴らして吸いこんだ。再び眠りに誘われてしまいそうになる安堵感と、心地良さ。この匂いにほだされ、自然と求めてしまう。
    随分そばにあったぬくもりも抱き締め漸く開いた私の視界は、見慣れた暗紅色が埋め尽くしている。
    「……茨…」
    「……………」
    「……?」
    ───珍しい。ぴくりとも反応がない。
    普段なら名前を呼べば起き上がるとまではいかずとも、私の声を聞けば、ふと長いまつ毛を持ち上げ茨の美しい青に私を映してくれることが常だった。その時の、茨の世界にまず私が在れるひとときに期待して暫く様子を見ていても、瞼は開くどころか、かたく閉ざされたまま。どうやら茨は、無防備にも私の腕の中で熟睡している。
    2000

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