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    shiraseee

    @shiraseee_0108_

    気ままに更新しています。
    サイレント更新&修正は常習。
    凪茨ばかりですが、たまに他CPなども。

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    shiraseee

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    喫茶店営む凪砂×常連の茨
    年齢は凪砂27歳、茨25歳くらいがいいかなと思ったので残します。本文では触れてないので…。
    凪砂視点。ジュンくんも出ます。
    関係はこれから始まっていく感じですが、リハビリのため続きは未定。お互い敬語。
    コーヒーの淹れ方は、簡略化してますが書きたかった部分のひとつ。あたたかな目で読んでくださると幸いです。

    ##凪茨

    喫茶店『Calme』────────


    お昼時も過ぎて、店内に流れるクラシックのBGMに耳を傾けながらカップを磨いていた時。
    ─カラン、と来客を告げるベルが鳴る。
    午後14時。あの人が来る時間だ。


    「ブレンドコーヒーと、このサンドイッチを」

    頼むのは決まっていつも同じメニュー。
    4つしかないテーブル席の一番奥で窓際の席が、店の唯一の常連客であるこの人の定位置だ。
    差されたメニューをオーダー票に記入し、かしこまりました、と一言。
    私が去るより前にテーブルに置いていたノートパソコンを開き、すぐに仕事を始める暗い紅髪のサラリーマン。眼鏡の奥の蒼い瞳は、無感情に画面を見つめていた。

    好きが高じて仕事にまでするほどコーヒーにのめり込んでしまい、自分で喫茶店を営むにまで至った。
    昔からの友人でもある調理の得意な子を誘い、一緒に開業したのはもう1年も前の話になる。
    店は表通りに面していない場所にも関わらず、それなりにうまくやっていってる。
    店内外の装飾、テーブルに椅子、メニュー、キッチンに食器類…全て自分たちでこだわったもので(友人は「キッチンだけ任せてもらえれば、あとは好きにしてくれていいですよぉ〜」なんて言ってたけど)、とにかく、店の隅から隅までお気に入りだ。

    カウンターで、自分のブレンドした豆を手挽きのコーヒーミルで挽く。ガリガリと音を立てていた豆が細かくなるとハンドルもスムーズになり、ほろ苦い香りが漂う。
    その香りについ笑みがこぼれてしまうのは、仕方がない。挽きたての香りは、いつでも心躍る。
    細かくなりすぎない程度に挽くのを止め、コーヒーサーバーに紙のフィルターをセット。白のスリムポットで沸かしたお湯を、細い注ぎ口から一度かけて紙を洗う。こうすることで器具も改めて洗えて、紙の匂いが落ち、暖まる。湯通ししたものを捨てたら、予熱するためにカップにもお湯を入れた。
    タイマーをまず30秒にセットする。これはあとで成分が出やすくするために、粉にお湯をかけて蒸らす時間。
    ちょうど鳴ったら止めて、ドリッパーを持ち粉とお湯が馴染むようにくるくる回す。
    それが済めばサーバーに戻し、今度はタイマーを2分にセット。もう一つ沸かしていたポットを取り、時間たっぷり、静かに注いでいく。
    最後は完全に落ち切るまで待つ。具体的には3分以内。時間が近付くとドリッパーを少し持ち上げ、最後の一滴が落ちるのを見て、それをよける。
    カップを予熱していたお湯を捨て、拭き取るとサーバーからコーヒーを注ぐ。ソーサーに乗せたら出来上がり。

    一人で楽しむだけでは飽き足らず、誰かに飲んでもらい一言「美味しい」と言ってもらえることが、単純に嬉しかった。
    もちろん一人での時間も好きだが、今ではお客さんの好みに合わせたコーヒーを提供することに、やり甲斐を感じている。
    ここ数ヶ月の楽しみは、ほぼ毎日やってくるサラリーマンのお兄さんが見せる、コーヒーを飲んで一息ついた時の表情。
    店にやってきてから帰って行くまでずっと無表情なのだが、その時だけは、ふと表情を綻ばせてくれる。特に言葉はないけれど、その一瞬が全てを物語っていて、見ると胸のあたりがくすぐったくなって、何より嬉しいと感じる。
    今日も見れるのが楽しみに思いながら淹れたコーヒーをトレイに乗せテーブルに向かうと、その人はパソコンの画面ではなく違う何かをじっと熱心に見ていた。
    (…あ。それは…)
    見られていたのは、テーブルに置いていた今日から販売しているテイクアウト専用のプリンのメニュー。

    調理を担当する私の友人───ジュンが。特に卵にこだわってレシピを試行錯誤していたのを思い出す。
    私は主に味見担当だったのだけど、その意見も交えつつ二人であれこれと話もしながら完成した、やや苦めのカラメルとなめらかな舌触りのプリン。口に入れると、とろりとした感触がたまらなく、とても美味しかった。仕上げに生クリームを乗せカットした苺を添えたそれを、掌に乗るくらいの小さめの瓶に入れて作った二つセットでのもの。
    随分見ているけれど、プリンが好きなのだろうか?
    いつも同じメニューしか頼まないし、食べてる最中もずっと何か作業をしていて、食後にもう一杯コーヒーのおかわりをしてくれたらすぐに帰ってしまう、何だか忙しい人。
    そんな人の、ちょっと意外な一面。
    (…甘いもの、苦手そうなのに)
    とは、コーヒーをブラックでしか飲まない彼に対する、単なる私の偏見なのだけど。
    このプリンを食べてくれているところを想像したら、かわいいな、と思ってしまって。

    「…良かったら、どうですか?それ」

    つい、声をかけていた。

    「わっ!え、いや、別にっ…。見ていただけです」
    「…ふふ、残念。どうぞ、ブレンドです」
    「あ、どうも…」

    こうして話すことなんてなかったから、思いきり驚かれてしまった。
    けど、ばつが悪そうにメニューから目を逸らした顔は、パソコンに向かっている時より全然いい。
    彼は置かれたカップを取り、コーヒーを一口飲んだ。ほう、と一息吐いて、目を細める。
    ──その顔、好きだなあ。
    (……ん、好き?)



    「──あの、すみません」

    会計時、不意に声をかけられレジを打つ手を止める。

    「…はい」
    「これ、まだありますか」
    「……?」

    目線を上げると、レジ前にも置いているプリンのメニューを、ちょっと気恥ずかしそうに指差していた。

    「売り切れてるんだったら、いいんですけど」

    予想外の展開に黙って固まっていた私に、彼は手を引っ込める。
    ハッとして少し身を乗り出した。

    「…あ、大丈夫。あるよ。あります。一つでいいですか?ご自宅用ですか?」
    「え?えっと…はい。お願いします」

    私の様子に圧され気味に返事をしてくれたのを聞きながら、用意するために急いでキッチンに向かった。
    突然入ってきた私に驚いたジュンが、休憩のため座っていた椅子から落ちた。



    「…お待たせしました」

    このために作った専用の紺色の紙袋に、箱に詰めたプリンを入れてカウンターから差し出す。
    こっそり試作品のクッキーも忍ばせて。

    「…今度、感想聞かせてね」

    渡した時にそういうと、彼は一瞬目を丸くしたがすぐに微笑んでくれた。

    「はい。…次来た時に、伝えます」

    私の淹れたコーヒーを飲んでくれた時に見せるものとは少し違う、もっと、やわらかな。
    金額をちょうど支払い、紙袋とパソコン片手に店を出て行った。

    「……ありがとう、ございました」

    扉が閉まるまで、私はそちらから目が離せなかった。
    今日は、色んな表情が見れたなとか。プリン、美味しいと感じてくれたらいいなとか。明日、来てくれるのかな、とか。
    頭の中ではもうずっとあの人のことばかり考えていて止まらない。どうしてしまったんだろう。
    ジュンに話したら「ナギ先輩が、コーヒーより人間のこと考えるなんて…」と言われてしまった。私を何だと思ってるんだろう。


    ……あ。名前、聞けばよかった。


    ─────────
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    Replies from the creator

    shiraseee

    DONE凪砂くんが眠る茨を見つめて、かわいいなぁ、好きだなぁ、と思うおはなし。同棲している凪茨。
    茨は眠ってるだけになってしまいました。

    新年書き始めとなりました。とんでもなくふわふわとした内容ですけども…こういう凪茨が好きなので、今年もこんな感じのを書いていきます。
    暇つぶしにでもなりますと幸いです。
    拙作ばかりですが、たくさん書いていきたい!どうぞ今年もよろしくお願いします。
    しあわせの風景────────

    薄ら開いては閉じを繰り返す瞼に、注ぐあたたかな陽射し。まだ少し重たいけれど、微睡みから目覚めていく意識が次に捉えた柔らかな匂いに幸福感すら覚え、覚醒していく。
    日向より私に近しい匂いは、すぐそこにある。
    すん、と小さく鼻を鳴らして吸いこんだ。再び眠りに誘われてしまいそうになる安堵感と、心地良さ。この匂いにほだされ、自然と求めてしまう。
    随分そばにあったぬくもりも抱き締め漸く開いた私の視界は、見慣れた暗紅色が埋め尽くしている。
    「……茨…」
    「……………」
    「……?」
    ───珍しい。ぴくりとも反応がない。
    普段なら名前を呼べば起き上がるとまではいかずとも、私の声を聞けば、ふと長いまつ毛を持ち上げ茨の美しい青に私を映してくれることが常だった。その時の、茨の世界にまず私が在れるひとときに期待して暫く様子を見ていても、瞼は開くどころか、かたく閉ざされたまま。どうやら茨は、無防備にも私の腕の中で熟睡している。
    2000