花束────────
「お待たせ致しました!撤収作業も済みましたし、帰りの車もじきに到着するので我々も引き上げましょう!」
勢いよく楽屋のドアが開いたと思ったら、飛び込んできたのは彩り豊かな複数の花で作られた花束。…から、茨の声がする。
どうやらその花束を抱えたまま、楽屋にやってきたようだ。
「…茨、その花はどうしたの?」
声を掛けると花束を避けて顔を見せた茨。
その表情は仕事終わりにしてはにこやかなものだった。
「今日の撮影で使用したものです。良ければとスタッフの方からいただいたので、せっかくなら事務所に飾ろうかと思いまして!」
「…ふうん?」
普段ならこういうものは受け取らずに断っていた。今日の花束にしろ他の小物にしろ、その場では笑顔でいても「何が仕込まれてるか分からない」と裏ではぼやいていたのに。
だけど今日は仕事が順調に進み、予定よりも早く終わって私たちの写真の出来を絶賛され、茨自身もとても気に入って。
雑誌の売り上げも期待してご満悦だったのは、撮影中からでも分かっていた。
つまりは、とにかくいつもよりご機嫌な茨がスタッフさんからの厚意を何の詮索をすることもなく、ただ素直に受け取ってきた。
一体どういう風の吹き回しか。
先程まで談笑していた日和くんとジュンも驚いた様子だった。
「閣下もいかがですか?一輪だけでもお部屋に飾られてみては…」
そんな疑問は、いつもより幾分か柔らかく笑い花束を抱える姿がとても美しく、可愛らしい茨を見れば遥か彼方に消える。
私は花束をはさんで茨の前に立つ。
棘は綺麗に取り除かれている薔薇を一輪抜き取り、茨の髪に通してみた。
「……かわいい」
「え、あ、はい…?」
鮮やかな赤は案外茨の髪にも映えて、初めて見たとは思えないほどよく似合う。
ぽかんと放心する茨から花束を取り、かわりに今の一輪を握らせた。
「…その薔薇、茨の部屋に飾ってね」
そう残して、私は花束と共に楽屋を出る。
小走りでついてきた日和くんに「ぼくにも花を選んでほしいね!」と言われたので、黄色の花弁が豊かで美しいフリージアを渡した。
「茨ぁ〜、オレも出たいんでどいてもらえます?」
「……ジュン」
「なんすか」
「さっきの、薔薇を持ち自分に微笑みかける麗しい閣下のお姿を写真に収めなかったことが非常に悔しいのですが、自分の代わりに撮ってたりしてませんか?」
「してねえよ。本当に茨って、なんも分かってないんですねぇ〜…いった!蹴られた!最悪!」
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