ここが私の還る場所「頭ポンポンしてください」
彼にこうして会うのは何ヵ月振りだろう。そう思って指を折って数え始めたが、三を数えたところで唯はやめた。
それよりも久方ぶりに会った浮葉の瞳が以前と変わらず、それどころか記憶にあるよりも優しいものであることに唯は気がつく。
そこで唯は思わず浮葉にわがままを言ってしまった。
「浮葉さんも、そして、銀河先生もいない中、頑張ったと思いませんか」
出会いもあれば別れもある。少なくともこの半年の中で唯は大きな別れを2回経験している。
どちらの別れも自分たちの力の小ささでは避けることはできないもの。だけど、条件さえ整えば再会も夢ではないこと。
もっともそうわかったのは最近のことであり、その渦中にいたときはただ胸が張り裂けそうな気がしたし、また共に過ごすことができるようになるとは思いもしなかった。
だからこそ、耐え忍んできた自分を褒めてあげたいし、目の前の愛しい人に労ってほしかった。
「ええ、あなたは十分過ぎるほど耐えたと思います。お疲れ様でした」
唯の求めるものが何であるか彼も察したのであろう。
唯の頭をポンポンと優しく触れてくる。
だけど、それはほんの数回で終わる。
「これでよろしいでしょうか」
伏し目がちな瞳が問うているような気がする。本当はこれで満足していないであろうことを。
恨めしげに見つめるとクスッと笑いながら見つめ返されてくる。
「いけない人だ。そんなに見つめられると……」
そう言いながらもう一度ポンポンと頭を触れてくる。やがて手は唯の髪に触れ、そして掬い上げた髪に口づけるのが見えた。
その感触のよさに酔いそうになったそのとき、浮葉の声が唯の耳に響く。
「よろしいのですか……?」
先ほどと似た言葉。だけど、今度は唯の覚悟を問うていることに気づく。
「ええ」
もっと近くで、もっと吐息を間近に感じられる距離で触れられたい。
覚悟を込めて呟いた同意の言葉。
ポン。
先程よりも少し強く、でも決しては痛くはなく浮葉の手が唯の頭に置かれる。
「では、行きましょうか」
その言葉とともに唯は浮葉に手を引かれるのを感じる。
この先に待っているのはどんな未来なのだろう。少しの不安と大きな期待、それらを胸に唯は浮葉の後ろに付き従っていた。