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    尹 hydrogenH2o2_

    @hydrogenH2o2_

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    尹 hydrogenH2o2_

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    ステバキ小説。
    キリスト教とか世間体とかでまだまだ同性愛が認められない時代の妄想小説。
    とにかく報われないバッキーの話。
    多分続かないのでupしますね☺︎

    捧げたい- 捧げたい -
    スティーブの家に泊まりに来ていた。
    というより、勝手に上がり込んだという方が正確かもしれない。

    俺がここに来た理由は単純だった。それは彼女に振られたからだ。切なさと寂しさと鬱憤を晴らすために、振られるたびにスティーブの家に上がり込んでは、もち込んだ酒を手酌しながらぐずっていた。

    その度になんで別れたんだと律儀に聞いてくるので言ってやる。

    “私以外の誰を見てるの?”
    ”バッキーは私が1番じゃないのね“
    “私はこんなに愛してるのに”

    「いい加減一途になれよバッキー、、、」
    「俺はいつだって一途だぞっ」
    「じゃあなんでそんなこと言われるんだ??」
    「んなもんしらねーよ」
    「本当かよ、、」

    本当は知っている。別に浮気していた訳じゃない。“彼女”はいつでも1人だった。ただ、1番は彼女たちではなくスティーブだった。

    そんなこと、彼に直接言えずに俺はひとり酒を煽った。

    「あんまり飲みすぎるなよ」

    あんまり酒が強くないスティーブは、酒の代わりにオレンジジュースを飲んでいた。

    俺はいつのまにか椅子に座ったまま机に突っ伏して寝落ちしていたらしく、肩には布団がかけられていた。周りを見渡してもスティーブの姿はなく、なんとなく不安になり布団をもち部屋へ向かった。

    スティーブは窓を開けて空を見ていた。
    いくら春先とはいえ、夜はかなり冷え込むため、俺は彼の方に毛布をかけた。


    「なぁ、見ろよバック、、、」

    彼の指差す先を見上げると、満点の星には空でその一つ一つが美しく輝いていた。
    俺は星には詳しくないけれど、スティーブが指で星をなぞり話してくれる。

    彼の淡い青の瞳に映る星々はより一層儚げで清らかだった。

    でも、ずっと一緒にいたからこそわかる。
    同じ空を見ているのに、違う色をしている事を彼の言葉で聴きたくなかったくなかった。

    冷たい夜風が頬を撫でた。
    なびくレースカーテンが彼の顔にかかってまるでウェディングヴェールのようだった。
    俺はぐっと胸が苦しくなり、咄嗟に
    「I love....」
    と、つぶやいてしまった。
    幸か不幸か、それはスティーブの耳に届いていたらしく、「何が?」と聞き返されてしまった。

    「なっ、なんでもない、、、」
    「なんでもあるんだろ??」
    「ねーよ」
    「いいから言えって!」

    こうなったらスティーブは頑固だ。
    基本俺が折れるまでずっと聞き返してくる。
    軽い好奇心がいつのまにか意地に変わるのが彼のいいところでもあるが、欠点でもある。

    まぁ、そんなところが好きなんだけどさ。

    これ以上逆らえないと思い、
    俺は素直に白状した。

    「スティーブと見れてよかったなーって」
    「別に僕とじゃなくても星は綺麗だろ」
    「お前がいい」
    「そう言うことは彼女に言えよ」
    「振られたって知ってんだろ」

    おまえのせいで振られたんだからな!!
    言わないけどさ!!!

    「変なこと言って悪かったよ、、」

    素直に謝るところも彼のいいところだ。
    そして真っ直ぐな眼差しで俺を見つめながら
    スティーブは続けた。

    「でも、バッキーを振るなんて、見る目がないな。こんなこと言うのもアレだけどさ、俺が元気で調子がいい時も、ずっと気にかけてくれてさ、具合悪い時はバッキーが泣きそうな顔しながら手を握って、付きっきりで看病してくれたと思ったら勝手に風邪うつったり、、、ほんとにバカだと思うけど、、そんなことしてくれたのは母さんでもなくバッキーでさ、本当におまえっていいヤツだよな、、、」

    最後、恥かしくなったのかしおらしく目を逸らしていた。可愛くてつい笑ってしまった。

    「わっ、笑うなよ!!」
    「ごめん、可愛くて笑」
    「可愛くない!!」
    「sorry....」

    しかたないと、つられて微笑んだ彼は儚く綺麗で、この時俺は、赦されない恋をしてしまったことを知ってしまった。全てのピースがはまって、歯車が回りだした。

    ずっと笑顔を見ていたい。
    でも拗ねて口を尖らせるところが可愛くて、
    泣かせたくない。
    でも泣いてるところも綺麗で、
    抱きしめていたい。
    でも、その細い身体は俺が触れただけでも壊れてしまいそうで。
    月の光で優しく光る金の髪、星を映す瞳。
    全てが愛おしい。

    この相反する感情が恋だったなんてわからなかった。寂しさを持て余しただけの関係とは大違いだと今になってようやく分かったのだ。

    でも、この想いは家族も、友人も、きっと神様も赦してはくれないのだ。

    たとえ世間が俺たちを断罪しようと、除け者にしようと構わない。誰からも祝福されず、世界中の人々に笑い者にされて、このたった一度の恋が親を泣かせたとしても、俺の一生を捧げたいとおもった。

    知って欲しいのはこれだけ

    “I love you....“

    きっと彼は、真摯に受け止めてくれるだろう。
    真面目なヤツだから、俺が本気って分かっていれば、絶対にバカにしたりはしないだろうし、尊重してくれるとも思う。なんなら俺の長所を20個くらい言ってくれるかもしれない。

    でも、
    この一言を彼に告げることはできなかった。

    俺は世界一の臆病者だから、
    スティーブに拒絶されてしまうのが怖かった。
    否定されなくても、こうしたことによって今までの関係が崩れてしまったら、、、?
    なんて想像するのも怖かった。

    「ありがとう、でもごめんね、、、」

    そんなありがとうなんて聴きたくない。


    だから俺は、決別を選んだ。
    秘密にする気はなかったけど、タイミングを逃した結果、最後の日が来てしまった。

    スティーブは相変わらず、
    路地裏で殴られていた。

    そんな彼が戦場に行って怪我でもしたら??もしマラリアや肺炎などの病気になったら??最悪の場合があってしまうなんて絶対に嫌だ。
    俺はスティーブのために戦争を終わらせようと思った。仮に俺が戦死したとしても、俺の人生を彼に捧げられるなら本望だ。

    別にスティーブが兵士に向いていないとは思わない。何度殴られても、立ち上がる強さを持ち、誰よりも正義感が強くて、まっすぐで、勇気があって、曲がったことが嫌いな割に、狡賢かったり、図太かったり、それゆえ度胸があって、誰も殺したくないと言いながら、悪はめっぽう嫌い、自分の身体を粗末に扱いがちだが、他人のために命だって惜しくない善良な人間はそう居ないだろう。

    自ら好んで兵士になるやつの大半は、自己満足や自己陶酔、自意識過剰、偽善者のいずれかだ(と思っているのは俺だけかもしれないが)

    ただ、その弱い身体をバカな大人たちの駒として扱われ、命を落としてしまうのが嫌なんだ。

    「僕が行くまで勝つなよ」

    と、お前が言った時、
    意地でも戦争を終わしてやると思ったけど、
    それは無理だったらしい。

    俺は捕虜になった。
    なんて情けないんだと自分を恥じた。
    このまま戦争が終われば別にいい。
    でも、もしスティーブのような青年まで出兵させられて、俺のせいで戦争が長引いて彼が死んでしまったら??なんて考えると怒りと苦しみで吐き、、そ、、、ぅ、、。

    俺は吐いてるのか
    咳き込んでいるのか分からなかった。

    しばらくすると俺は他の捕虜達とは別の部屋に連れて行かれて、台にきつく縛られて注射や電気など好き勝手に実験させられた。俺はこのまま死ぬのか。遅かれ早かれ、病に侵食されてしまうんだろう。けれども、脳裏に浮かび上がるのは、ブルックリンに残した彼のことだった。

    俺は忘れるのが怖くて、ただひたすら自分のタグに書いてあるデータを呟くことで自分を繋ぐことで彼を思い出そうとした。

    「バッキー!!」

    誰かが俺を呼んでいる。
    意識が朦朧とする中、脳に直接響いてくる。
    ふと目を移すと大柄な男が拘束ベルトを外してくれた。

    「あんた誰だ??」
    「僕だよ、スティーブ」
    「スティーブ、、」

    俺は安堵した。
    自分が生きてることも、スティーブが俺以上にたくましくなったことも嬉しかった。彼には聞きたいことがたくさんあったが、それどころではなかった。

    外では銃声が響いていた。基地は燃え、爆発した。俺は状況がうまく飲み込めないままスティーブの後を追った。

    「早く行け!!」
    「おまえを置いていけるかよ!!!」

    最後の頼みの綱は俺が渡ると同時に呆気なく崩れたしまった。
    やっぱり俺が見込んだ通りお前は、
    自分より俺を優先し、俺を逃がそうとした。
    でも俺は、スティーブが死ぬくらいなら一緒に瓦礫の下敷きになる事を選ぶ。

    少し不安そうな顔をした後に彼は跳んだ。


    独り、星を眺めていた。
    拘束されてからしばらく星を見ていなかった。
    いや、もしかしたら拘束される前、入隊した時にはすでに空を眺めることはしていなかった。

    最後に見たのはあの日だったのかもしれない。

    ここに戻ってきて、ようやく生きている事を実感した。でもまだ、スティーブがここにいて、しかもデカくゴツくなったなんて信じられなかった。

    「バッキー、ここにいたの?」
    「あぁ」
    「隣いいかい??」

    どうぞ、と手で合図すると当たり前のように横に座ってくる。それがとても居心地が良くて、でもなんか違和感もある。

    「僕が大きくなって驚いただろう?」
    「驚かない方が無理だろ笑」
    「それもそうか笑笑」

    言いたいこと、聴きたいことはたくさんあったけど、星を見てたらどうでも良くなった。
    しばらく沈黙が続いた後、スティーブは恐る恐る口を開いた。
    「、、、怒ってるか?」
    「何が??」
    「血清を打ったこと」
    「別に怒ってねーよ」
    「軍に来たこと怒ってるの?」
    「んなもん、戦争に行きたがってたお前を今更怒れるかよ」
    「それもそうか、、、」
    「おう、」
    「じゃあ、何に対して怒ってるんだ?」
    「別に怒ってねぇって」
    「ならどうしてそんなに苦しそうな顔をしてるんだよ!!」
    「はぁ?!」
    俺はスティーブに言われてようやく気づいた。いつのまにか泣いていたらしく、止めどなく涙が溢れてくる。
    「何がそんなに君を苦しめてるんだ、、、」
    「苦しくなんかっ、、、
    彼の言葉を聞くたびに、胸が締め付けられる。あぁ、きっと実験のせいでおかしくなっちまったんだな。
    「バッキー、どこが痛いんだ??」
    俺よりもお前の方がずっと苦しそうで痛そうだよスティーブ、、、。

    スティーブは何度も俺の名前を呼び泣いた。俺もずっと泣いていた。子供の頃でもこんなに泣いたことはなかったかもしれないし、周りの奴から変に思われたかもしれないけど、俺らは肩を抱き合って泣いた。

    後から聞けば、彼は久しぶりの再会と、俺が生きてた安堵感と、俺が泣いてたことで不安で悲しくて苦しくて泣いたそうだ。

    当の俺は、スティーブが来てくれた嬉しさ反面、彼が戦争で闘わざるを得なかったという絶望感と彼の身体が逞しくなった事への喜びや違和感、危険を冒したことによる怒りや、俺が彼に助けられたという恥ずかしさや自分だけでなく誰かを守れる身体になったんだという実感、こんなに姿形が変わっても、中身は全く変わってなく、そんなお前のことを俺は変わらず愛しているんだなぁ、などあらゆる感情がごっちゃになって溢れたなんてことは本人からしたら心外だろうから「星が綺麗でつい」と誤魔化したら笑ってくれたのでそれで良かったと思う。

    「星が何を意味するか知ってるかい」
    俺は静かに首を振った。
    「星は光の象徴だろ?だから、身につける人に明るい気持ちや自信を与え、幸運を招くとも言われてるそうだよ」
    たしかに、俺の星にも当てはまってる。
    「それでね、叶えたい願いや、希望を持つとき、星モチーフは力強い味方になってくれるんだって」

    星に願いをか、、、

    日が昇ればまた俺たちは戦場に出なければならない。もう心配はしていない。彼のあの身体なら核兵器でだって死にやしないとすら思う。ただ、見慣れたはずの彼の怪我や血は未だに苦痛だ。

    「なぁバッキー、何を叶えたい?」
    「そりゃ平和になればいいさ」
    「具体的には??」
    「んー、自由と博愛と、、」
    「アメリカのために生きるのか?笑笑」
    「まぁ、ソルジャーだからな」
    「ははは!かっこいいよ!!」

    俺は上辺だけを取り繕うちっちゃい人間なんだ、全くかっこよくなんかない。

    「終わったらいいな」
    「終わるさ」
    「誰も失いたくない」
    「みんな覚悟はできてる。あとは勇気だけさ」
    「バッキー、、、」

    彼にとって、大勢多数の中のひとりだという事を痛感した。当たり前のその一言に打ち拉がれる俺はクズ野郎だ。

    「ほら少しでも仮眠取らないと作戦に響くぞ」
    「そうだな」
    「おやすみ、スティーブ」
    「Good Night」

    俺は昔みたいにおでこに触れるだけのキスをしてテントに戻った。

    まさか、こんなことになるとは思ってもいなかった。俺がスティーブの願いを打ち砕くなんてな。

    神様、そりゃないぜ。
    俺がスティーブを好きにならなきゃこんな仕打ちはなかったのだろうか。考えるほどバカらしくて笑えてくる。あぁ、こんなに早く死ぬくらいだったら、伝えておけばよかったかも。

    鈍い音と共に鋭い痛みが全身に走る。
    触れた雪は冷たく身体を蝕み、次第に熱へと変わっていく。

    スティーブ、、、

    嘘ついてごめん。
    本当はお前が血を流さず、静かな場所で絵を描いたり、本を読んだり、笑っていられるようになればいいって思ってる。国や他人なんて関係ない。お前が幸せならそれでいいんだ。

    薄れる意識の中、俺は目の前で瞬く星を眺め、彼の温かい腕の中を思い出し眠りについた。
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