【うちよそ】沢渡風雅の苦難【織葉町】 日中にも関わらず、薄暗く人気の少ないビルの裏路地の近く。いかにもと言える黒塗りの車が停まっている。
「いない…!知ってた…!またどっかほっつき歩いてんな、あの人は…!」
黒龍会の新入り、沢渡風雅は運転席でがくりと肩を落とした。幹部に「今日の会合に沖を連れていく。迎えを頼んだ。……頼んだぞ」と念を押され、車に乗り込んだのが約一時間前。
遅刻厳禁。時間厳守。どんな職種であれ……例え巷では極道と呼ばれる健全とは言い難い組織であれ、そんな社会的ルールが存在している。しかし沢渡の待ち人、黒龍会の構成員、柳世沖には常識というものが通用しない。待ち合わせ時間が過ぎても彼は現れなかった。
「しかも電話も繋がらないし……さてどうするかな……」
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