「ここだよね、アカテガニが働いてるお店って」
「うん」
「あたしお腹空いてきちゃったよ。何食べるー?」
「うーん、いろいろあって迷っちゃうかも」
「あのー前空いてんスけど」
ファミレスルサックの入口付近で喋っていた二人に後ろから男性の声が掛かると2人は慌てて前へ移動する。
「ご、ごめんなさい」
「先に並んでるならとっとと入れよ、どんくせえな…」
その男性は謝ってきた女性のことなど気にせずに舌打ちをし嫌な態度を見せる。
彼女達二人で来ていたなら二人はただ嫌な気分になり、それを彼女達の友人である店員に話を聞いてもらうなりするだろう。しかし彼女達は三人で来ていた、もう1人は狭い通路の壁に凭れており、ごめんなさいという連れの声の時点でそちらを見ていた。
ゆらりと黒い男が動く。
「………」
彼女は驚いた顔をして男性と自分の間に入るように立つ背の高い彼の背中を見つめた。
「だ、だめだよ」
何も言わずに男性を見下ろす彼の腕をクイッと引き、店に入ってしまおうと促す。
冷たい眼差しで見下ろされる男性は不満げではあったが「い、言い過ぎた…」と引き下がった。
店員に案内されて4人がけのテーブルに腰掛ける。
「それにしても、さっきのはかっこいい恋人って感じだったね」
響は向かいの二人にニヤけた視線を送るとポッと頬を染め嬉しそうな顔をする彼女とは対照的に隣の男は響を睨むとため息をつき「黙れ」とだけ言った。
そのテーブルに髪を縛った男性店員が近付く、ネームプレートにはトレーナーとある。
「今度は相棒カラスを置いてきたか、ここの店員に聞いたぞ」
「……。お前も黙れ」
なになに何の話?と響が環に視線で聞くが彼女も知らない話だった。
この店ルサックのトレーナーである信は何度かこの店でヘルプかで働いてる姿を三人は見たことがあった。そして彼一人で来た時にそのことがあったようだ。
「俺がいる店だったらカラスを連れて来てもいいと思ってないか? あー思えば風流庵のときもそうだった」
「そうだったか? 忘れた」
「あぁ、お前ももう歳か」
「歳のことは話さないで」
メニュー表から顔を上げた響は険しい顔をして信を見る。