愛の鳥籠光が消えた部屋は闇が広がり暗く、スマホの灯りだけが広がり一人の男を照らす。上半身半裸の男がベットボードに座り足を伸ばし一つの画面に執着し、サングラスの奥から覗く瞳は鋭く細められ執着が見隠れしていた。
男が覗く画面には、一人の青年がスマホのゲームに集中する場面が映り、途中で睡魔が襲って来たのか眠気に目を擦りスマホを閉じベットへと入る。青年が眠る姿を男は見詰め続け青年の深い呼吸で眠る姿を見て画面へと低く愛執の乗った声で呟く。
「……やっと寝たか〜おやすみさん四季」
そう呟くと男はベットへと入り、目を瞑る。脳裏には先程見ていた青年の恋人が浮んでおり、男は青年が眠る姿に胸に浮かぶ愛慕を抱き、意識が闇に落ちて往く事に逆らう事無く眠りに付くのだった。
杉並区部隊に所属する四季は、卒業後桃との戦争も終わり鬼神の子が戦闘部隊に居る事に疑念を抱いていた四季は、杉並区の医療部隊に所属する事になった。四季の所属と共に京夜も杉並に来る事になり、現在平和であり仕事が合って無い様な平和な日常を満喫している。
四季は学生時代から杉並区戦闘部隊隊長の紫苑と恋人であり、そこが四季の所属する決め手へとなった。一応職場とプライベートは分けると紫苑に言われ、四季は仕事では紫苑とは適度な距離を保つが、言い出した紫苑の方が納得行っていない様である。紫苑とは恋人なのではあるが、未だ同棲は出来て居ない為に、紫苑は四季と同棲すると告げて居るのだが、部屋が決まらないと現在探している所だ。紫苑の納得行く部屋が見付かり次第一緒に暮らす予定である。
四季は戦闘部隊への陽を終わらせ、紫苑に顔を出そうと探している中で廊下の奥から大きな音が聞こえた。其方に歩みを進めると、紫苑が女の人に平手打ちをされており女は紫苑へと叫んでいる様だ。周りも遠巻きに人集りが出来四季も其れに加わる。
「なんでより戻して来れないのよ!!」
「言ったでしょ愛する人ができたって」
「でも私のこと好きって言ったじゃない!!その人より愛してくれたんでしょ!!」
紫苑の機嫌が段々と下がり、冷えていく空気に気づかない女は金切声を上げ紫苑を罵る。四季はサングラスの奥から鋭い冷えた目で女を見下ろすと、叫ぶ女に向かい一言告げた。
「────だから」
「………そんだけか?」
「俺の愛する人を馬鹿にしたんだから〜………分かってんだろうな?」
紫苑の告げた言葉に女が怯み怯えた様に見詰め、立ち竦み動け無くなる所に四季が両手を胸元に上げ宥める様に声を掛ける。
「まあまあ紫苑さん落ち着いていこうぜ。アンタもこの人本気で怒らせる前に行った方が良いよ」
「四季来てたのね〜遅かったじゃん。紫苑さん待ちくたびれちゃった」
「待ってねぇ癖に何言ってんだよ」
「え〜酷いな〜ホントなのにね〜」
「それよりまた修羅場っんの」
「紫苑さんモテモテだからさ」
紫苑が四季の腰を抱き驚く四季に見下ろす様に顔を向け、視線は女に向ける。
「そういう事で、俺今此奴だけだから〜大人しく諦めてくんねぇかな」
飄々とした声色から鋭く研ぎ澄まされた声になった女は諦め、その場を走り去る。走り去る時に「良いかも…」と呟いた女は後に紫苑と四季に性格も姿も似た、粗同じキャラが恋人同士の絵をネットに上げ人気絵師の一人になる未来がある事を未だ知らない。ちなみに紫苑と四季は永久に知る事は無い。
紫苑が戦闘部隊に遊びに来た四季を紫苑へ連れ与えられた部屋に向かうと、四季が中に入り扉を閉め鍵を掛け四季の元まで歩み正面から抱きしめた。四季も嬉しそうに手を回し頭の触覚が元気に動く。紫苑が四季の頬を撫で見詰めると四季も見詰め返し、するりと頬を手に擦り寄せた。紫苑それに機嫌を良くし四季に言葉を発する。
「部屋が見つかったんだよね〜」
「お!紫苑さんやっと見つけたのか!何処にしたん?」
「杉並の外れの方何だけどね〜駅近で遊びに行ける所にしちゃったよ」
「お!池袋とか行けんじゃん!!」
「そ、だからお前は三ヶ月お休みです」
「……え?突然なに言って…」
「そんだから………ちょっと眠ってろ」
突然四季の項に強く手刀をすると、紫苑は気絶した四季の身体を支え横抱きにして部屋から出る。廊下を歩くと途中で京夜を見かけ歩みを止め話しかける。
「此奴暫く休ませますから〜」
「程々にしてあげてねぇ〜出来れば早く返してねぇ」
「アンタの物じゃないでしょう」
「はいはい重い男は嫌われるよ」
「俺は愛されてるんで絶対ありませんね〜」
紫苑は既に話は無いと再び歩き出し、京夜が手を振る事に返す事無く杉並基地の外へと出た。
夜が眠りに付く朝焼けと夕闇が混じる中で紫苑は歩く。杉並街を進み一つのマンションへと付くと、オートロックを開けカードキーを差し中へと入る。中層階のエレベーターを降りると、フロア丸々紫苑の持ち部屋の為に、四季と住む為に紫苑が契約した部屋である。
生活感の無い部屋を進み、一番奥の寝室へと入ると窓が無い部屋にはキングサイズのベットが鎮座し、四季をベットに寝かせ紫苑は床からジャラリと重く引き摺る音と共に床から伸びる鎖を取り出すと、四季の片足につけて行く。この鎖は、四季の鬼神の力を封じ鬼の命共言える血を操る力を封じる。鬼の研究者に金を出し作らせた其れは、裏切り者が出た時に捉えておく様に後に各機関に量産し配置される物である。紫苑は四季を誰にも見せず自分の独占欲の儘に縛り付ける事だけに作らせた物は、今日漸く日の目を見たのだ。
四季が眠る四季の頬に手を当て昏く重く執着を込めた眼を細める。光の無いその瞳に四季を映し、貪欲に笑う紫苑は四季の名前を呼んだ。
「…………四季…」
眠る四季の唇にキスをして紫苑はハッと声を出し笑う。四季に恋をして唯一を作る事に抗う事無く決めてから、四季を手に入れるのに躍起になった。紫苑は女関係が爛れている為に先ずは信頼して貰う為に四季に少しずつ違和感が無い様に話し掛け、信頼を得られると菓子や物を不自然にならぬ範囲で貢いだ。其れから暫くし四季の信頼も得られ、四季が紫苑に懐く様になり無自覚に芽生えた恋心を瞳から悟った所で全ての女と手を切った。最初は驚いた四季だが、女を切り四季にのみ集中する紫苑に、段々と恋心に気付いてきた四季が完全に自覚した所で紫苑は四季に告白をした。珍しく花を買い、紫苑らしくは無い紅色の薔薇を29本買い意味を持たせた。だが四季はそれを知る事は無い。その時の四季は薔薇を両手で抱きしめ、満面の笑みで涙を浮かべ笑って返事した事に紫苑は思わず四季を抱きしめた。胸の中に巣くう四季を誰にも見せず独占したい欲望を何時か果たそうと部屋を真剣に探し、今日四季を閉じ込めた。本当は一生紫苑だけしか見えない所に囲いたいが、四季を必要とする人間は多く、何より四季には自由が似合うと紫苑は思った上にデートもしたい。だからこそ話し合いの末に、四季の一年に数回休みを三ヶ月取り監禁する事を了承させた。
然して之は四季を監禁する一度目の事である。
紫苑は眠る四季を見詰め呟いた。
「やっと堕ちて来たんだ……お前も早く落ちて来い」
地上に落ちてきた天使を、一人の人間が優しくし軈て恋をした人間は天使の羽根を削いでしまう。紫苑は頭に浮かぶ過去に読んだ本の一節を思い出し笑う。だから四季にも堕ちた紫苑の元迄早く来て欲しいのだ。四季となら地獄だろうと楽しいだろうと笑う。
紫苑が四季を撫でる行為に、紫苑に背を向き眠る四季は目を開く。本当は紫苑の感情を途中から全て知っていた。紫苑が向ける深く重苦しい程に重い感情に四季は恋を自覚し始めた頃から気付き、紫苑の目の奥に灯る執着を見て此恋に悩んだ。だが紫苑の重苦しい程に与えられる甘い飴を煮込んだ蜜の様な感情が心地好く、四季も紫苑を愛そうと決めたのだ。
本当は紫苑が部屋を決めるのを悩んで居る理由も冊子ていた。練馬の偵察部隊隊長の真澄からもそれと無く忠告された事に、四季は全てを知っても変わらなかった。紫苑の愛を全力で受け止めようと決めたのだ。
四季が完全に眠った事を悟った紫苑は四季を抱きしめて眠りに付く。暫くし眠りが浅い紫苑が深い眠りに入った事に気付いた四季は、起こさぬ様に起き上がる。普段は不安や人の気配に敏感な紫苑が、四季の隣でのみ深く眠る事が出来る様になり四季はその事を嬉しく思い慈愛の精神を持っている。隣で眠る紫苑を見詰め四季は呟く。
「俺は紫苑さんが大好きだよ。だから閉じ込められるのも嬉しいぜ」
四季は正面から紫苑を抱きしめ目を瞑る。四季を導く、この子供の様な所がある大人な彼を愛しているのだ。
共に眠るベットでは寝息が聞こえて来る。
朝が来る事を此処迄幸せに思う事は無いだろう。
目覚めた朝が楽しだと眠りに着く前に何方共思う恋人達は同じ夢を見ながら、夢の中で穏やかに二人だけの時間を過ごすのだった。
小話・1
四季の監禁生活にも慣れ、紫苑が恋人の四季同棲する部屋に帰り玄関を開け靴を脱ぎ廊下を進むと、扉を開けた部屋の隅にある部屋に隣接するアイランドキッチンから良い匂いが漂って来た。
「お〜おかえり!今晩飯作るからな!手を洗って待ってよろ」
四季はエプロンを付けフライパンを振りながら元気な笑みを浮かべ告げた事に、紫苑はキッチンに向かい四季を後ろから抱きしめる。
「おわ!危ねぇって紫苑さん!」
「は〜疲れた……四季吸いしなきゃやってらんないよ〜」
「紫苑さん今日お疲れだね?よしよしお疲れ様!」
四季が火を止め紫苑の背後に居る紫苑の頭を撫でるのに、紫苑は一気に抜けて行く疲れに四季を強く抱き締める。
四季が料理中も料理が終わり並べる時も抱きついており、既に日常と化したその光景に四季が反応する事も無い。紫苑は少し面白く無いが、四季の無反応も心地好く最近では此の儘が良いと思っていたりするのだ。
席に付き料理を食べる四季を見詰め、紫苑も四季の安心出来る味の料理に舌鼓を打つ。豆腐とわかめの味噌汁に、豚の生姜焼きに白米とサラダが今日の夕飯である。四季は最初は料理を失敗する事があったが、紫苑は恋人の料理を残す理由にはなる事は無く四季の料理を全て食べきっていた事に、四季が悪いと思ったのか練習して一ヶ月経った今では紫苑好みの美味い料理が作れる様になっていた。
紫苑は最後の一口を運び咀嚼をした後飲み込むと、四季が幸せそうな顔で見詰めて居る事に気づく。
「どうしたんだ」
「いや〜美味そうに食ってくれるなって」
揶揄う様に小悪魔に言いきった恋人に、紫苑は情欲を必死に抑え今夜抱く事を決め、手加減をしない事を決めると四季に返す。
「今夜覚えてろよクソガキ」
「え?なにが?」
「ハッまだまだお子様だな」
「お子様ってなんだよ馬鹿にすんなよ!!」
騒ぐ四季を足来枝を煙草に火を付け深く吸い込む。四季が心配し咎めるが、何時からか吸う様になった煙草は好きでは無いが、重い煙を吸い込む事が癖になった。今では手放せない一つだ。吐き出す煙を四季の顔にかけ、意味に気づかない四季に内心笑う。
「ゲホッ、何すんだよ!紫苑さん!!」
「四季くんはお子様ですね〜」
紫苑は煙草を咥え笑うと、漸く意味に気づいた四季に意地悪く笑む。恥ずかしさから食器を片付け始めた四季、暫く意識した儘だろう。
夜が楽しみになった紫苑は、四季の艶やかな様子を浮かべ胸中で笑みを深めるのだった。
小話・2
ベットサイドのランプが薄灯りを灯し、起き上がりベットに腰掛け煙草を吸う紫苑に、横になる四季が話し掛ける。
「ねー紫苑さんが吸う煙草ってタール重いの?」
「なんだ興味あるの〜?吸ってみる?」
「ちょっとだけ!ちょっとだけ!」
ピロトークの一環で話し出した四季の興味に、紫苑の未だ残る煙草の吸口を四季の口元へと運ぶと、吸い込む四季が勢い良く噎せた事に声を上げ笑う。
「ゲホッゴホッ、良くこんなの吸えんな」
「フッ、ククッ…ハッハハ…お子ちゃまにはまだ早いな」
「子供じゃねぇもん!20になるし!!」
四季の言葉に紫苑は暫く笑うと、ベットボードからグラスを取り出し併設してある冷蔵庫から、一つの角張る瓶の洋酒を取り出す。
「ウィスキーんだけど、四季が成人したら飲むのに用意してたんだよね〜。紫苑さんやっさし〜」
「おっ!ありがとう紫苑さんと飲むの楽しみにしてたんだ〜!!後優しく無い!!」
「そんなこと言っちゃって〜何も出ないよ」
「酒が出るじゃん!」
弾む会話にグラスに注いだ酒の片方を四季に渡し、グラスを合わせる。寝転び飲む四季が一気に飲み干し少しして、呆然とした様子で空を見詰めるのに四季は嫌な予感を抱きながら四季を呼ぼうとした時、四季が突然横を向き紫苑を見た。その顔は妖艶に微笑み、ゆったりと紫苑の腹に腕を回す。紫苑は先程散々抱いたのに湧き上がる欲に思わず唾を飲み込んだ。
「紫苑さん好きぃ。俺の事も大好きでしょ?」
紫苑の腹に猫の様に頭を擦り寄せ艶やかに笑う四季に、紫苑は目元に緩く手を当て溜息を付いた。
「お前絶対人前で飲むなよ」
「なんでぇ?
「それくらい自分で考えなさい。紫苑さんとの約束です」
「約束…」と呟きケタケタ笑う四季に、重い頭で溜息を付く。こんな艶やかな遠距離旦那の欲を持て余した団地妻の様な四季を飲みに出したら、未だ四季を諦めていない狙う奴等に食われてしまう。それだけは阻止しなくてはと誓う紫苑は、酒を注ぎ呑んでゆく四季からグラスを取り上げベットに寝転がる恋人を押し倒し、噛み付く様な口付けを重ねる。
「したくなっちゃった?」
「未だまだ夜はこれからだろう?」
紫苑の言葉に四季が腕に首を回す。深まる夜に再び熱い時を過ごすのだった。