九尾虎の尾を踏んではいけない地面に靴音が擦れる音が響く。
ゆったりとした足取りで、必死に走る四季の後ろから攻撃を放つ彼は、距離が開いても瞬間 素早い速さで追い詰められ四季の隣に顔を出す。攻撃を繰り出される度に必死に避け逃げ続ける四季に、紫苑は追い詰める様にゆったりと歩いたと思うと、瞬間距離を詰めるを繰り返す。まるでお前等何時でも狩れると言う様に、じわりと追い詰める彼の怒りは計り知れない。四季は男を激怒させた事を早々に後悔していた。
本来四季の恋人は大人で杉並の隊長をしている忙しい人だ。最近では少しは真面目に働いているらしく、四季に捨てられない為に女遊びも辞めた彼は、四季と毎晩決まった時間帯に電話をかけ弾む会話に四季は楽しく話している。紫苑と会った時は優しく蕩ける様な甘い蜜を与える様に甘やかす紫苑は、四季を毎晩激しく抱くのだ。
そんな紫苑を怒らせ、初めて激怒する紫苑が逃げる四季に攻撃してでも追い詰める程に憤慨した。四季が気づいた時には出遅れになっていた事に血蝕解放をし血の教科書を出していた紫苑に、四季は冷汗を垂らし問うた。
「どうしたんだよ…紫苑さん…」
「どうしたなんて、自分に聞いて見る事だね〜」
「らしくねぇぞ………」
「俺らしいねぇ…流石に俺も今回は怒ったかな」
「俺を追い詰めてまでやる事なのか…」
「どうなんだろうね〜まぁ今の俺にとってはそうなんだよな」
「…………紫苑さん」
「血蝕解放スイミー」
瞬間死の魚が大量に空中に泳ぎだし、四季に向かい向かって来る。四季を的確に避けるが頬を一つ掠る様に魚が通り過ぎ四季の横を過ぎた。本気で怒りに鋭く睨みつける瞳で、サングラス越しに鋭く見つめる目で笑う顔には血管が浮かび上がり、四季は本気で紫苑が怒りに震えているのだと理解した。
「覚悟しろよ四季?お前はやっちゃならない事をした…………分かってるよなァ?」
四季は瞬間勢い良く前を向き走り出す。地獄の鬼ごっこの始まりだった。
紫苑がゆったりと歩みを向け血で作成した馬を作り出す。四季へと向かってくる馬との距離は近くなり、軈て目の前に迫る。
「どうした〜四季ィ余裕だな?」
「うわっ!!」
四季は背後から迫る馬を必死に避け、銃を撃つ暇すら無い攻撃に必死に動かす足が止まりそうになる。紫苑の怒気が未だ止まない事に、四季は恐怖で引き攣る頬で走る足の感覚は既に無い。口元から漏れる荒い息に胸の鼓動が暴れ出しそうな程に音を立て、血を全身に巡らせてゆく。既に四季の体力は半分以上を切り限界が顔を出し始めていた。
続々繰り出される攻撃に、四季は必死に走り続ける。繰り出される攻撃は止む事は無く、振り返る度に鋭く睨む紫苑の瞳に囚われ、慌てて前を向くを繰り返す。本気で怒らせた紫苑は怖いと四季は理解し、自分のやらかしてしまった事を後悔した。
紫苑は四季を好きになり手に入れると決め渇望した際に、26人の女を全員切り、四季一人を愛する事に決めた。四季を落とすのに躍起になり、頃合を見て四季が落ちて来たと分かると紫苑は四季に告白をし、四季は涙を浮かべ満面に笑う綺麗な笑顔で受け入れたのだ。
それから四季は幸せだが、時折不満があり女の人に告白をされる場面を見て躍起になっていた。然し、紫苑が女の肩を抱いていた場面を見た四季は『最低』と告げそれから紫苑を避け始めたのだった。然し実習の最終日の一日前になり、等々怒りの上限を突破した紫苑に追い詰められ今に到る。一言で言えばブチ切れだ。
四季は必死に走り続ける。途端、足元に突然現れた猫に目を止め足を止めてしまった事に後悔するのだ。
「…………猫?」
「………よぉ?良くここまで逃げてくれたな…?四季」
途端猫が紫苑の姿になり、四季は必死に逃げようと足を動かすが、紫苑から後ろから抱きしめられ必死に手を動かし暴れる四季を軽く押さえ四季の顎を掴み見つめる紫苑は酷く愉しそうで、その瞳は愉悦を含み機嫌が良さそうに笑っていた。
「俺の言い分も聞かずに逃げ続けていた四季くんは……言い訳はあるんだろうな?」
「……えっ、ぁ…なんで……」
「言い訳も考えないで怒りだけで逃げたのか。俺の話も聞かずに、あの女は俺に態と倒れて来たから思わず付かんでその後直ぐ離したし、冷たくあしらったよ。それを説明しようとした時にあの言葉は流石に紫苑さん傷ついちゃった。怒りに震えて手元が狂って攻撃しても仕方ねぇよな?」
「…………手元が狂ったてレベルじゃなくね。まぁ良かったけど」
「けれど逃げたのは許せないし〜言い訳聞く気も無いから。今からお仕置です」
「えっ、ちょっ、やだ…紫苑さんのお仕置激しいから……怖ぃ…」
「言い訳無用。お兄さんは楽しくなってきたな〜♡まぁ全てはこうなった自分を憎めよ」
紫苑に引き摺られる手に引かれ、軈て辿り着いた先は紫苑に与えられた隊長室。扉を開け中に入る彼等に扉が閉まる音が響き、辺りは静けさを取り戻す。瞬間扉が消え壁と一体化し、部屋が見えなくなり静寂が広がる。暫くし中から微かに聞こえる四季の高い嬌声が辺りに響く。然し男は既に人払いをしている為、辺りに近づく者は居ない。
男の執着が青年を包み込み、軈て一つの闇になり融解する様に一体化して往く。男が青年に抱く執着は、激しく燃える地獄の黒炎の様に消えない業火を燃やし続ける。青年を渇望する度砂漠に居る様に限界迄乾く胸の内は潤う事なく、青年の愛を幾ら与えられるも更に愛を欲してしまう。男は既に青年無しでは生きていけない程に、青年に自身の身の内の大半を預け執着していた。その男か本気で憤慨した様は恐ろしい事だろう。
ベッドに押し倒され青年の上に馬乗りになる男は意地悪く口角を上げ呟いた。
「俺の愛を受け止めろよ」
そう呟く男の瞳は笑う事は無く、怒りに燃える瞳に青年は自身がやらかした罪の重さを計り知るのだった。