世界に色がついた日唾切と言う男がいる。練馬医療部隊総隊長をしている男であり、能力は鬼の血を桃太郎の死体に入れ操ると言う特殊な力を持った男だ。死体を操る能力なら戦闘部隊が相応しいだろうが、医療部隊をする反面鬼の研究者をする彼は、鬼の回復力を超回復に高める薬を開発し、花魁坂迄の力は無い物の深く内蔵が見える程の傷でも、傷など無かった様に綺麗に回復出来る薬を開発した。その上鬼の病気に対するワクチンや薬など色々な物を開発し、彼は隊長職をしている。
そんな彼は練馬部隊に所属しており、定期的に同期の花魁坂京夜と呑みに行き意見を交わし、現在の研究内容や治療であった変わった変化などや日常的な事まで話す飲み会を開いていた。
花魁坂と唾切は互いに同族嫌悪の様な感覚があり、チャラけているが仕事には信念を持つ花魁坂と、仕事にのめり込み寝食を忘れ研究に没頭する唾切は、似ていない様で似た者同士である。仕事に対する向き合い方も、人間性の一面も違うとするならば花魁坂は善性寄りの人間で、唾切は悪性寄りの人間である事くらいだ。互いに衝突する事は少ないが、一度衝突すれば互いに譲らず周りを巻込む騒ぎになる為に自制をしているのだ。
「最近どうなの日常的にさ」
「別に変わりは無いけどね。いつも通り研究に没頭するだけさ」
「変わりは無いんだ。興味抱いた人とかいないの?」
「僕が人に興味を持つ?ないない僕だよ?この僕が人間に興味持つと思う?」
「そうだな無いと思うけど万が一にあったら面白うじゃん」
花魁坂の楽しげに酒を飲む顔に、唾切は変わらぬ笑みを浮かべ食えないなと思い酒に口をつけた。互いにある程度互いの領域には深く踏み込まず、だが興味を持つ事を質問し深堀していく関係が唾切は気に入っていた。医者仲間であり医療部隊総隊長の役割を持つ為に同じ悩みを抱える事もある為に、花魁坂とは楽に話を出来る関係であった。だからこそ、毎回花魁坂が唾切の人間関係に興味を持ち聞き出そうとするのを、唾切は気に入らなかった。
「そういや最近四季君て子に会ってさ〜」
「四季?変わった名前だね」
「そうなんだよ〜ヤンチャに見えるけど人の思いを汲み取れる優しい子でさ〜」
花魁坂が四季と言う少年の話を何処か遠くに聞き流し、研究の事を考えながら頭の隅で聞く中で四季と言う名に聞き覚えはあった。花魁坂が最近羅刹学園の保険医になったと聞き、その時に出会った相手だろう事は予想付いた。
唾切の最後の戦闘相手、前世唾切が"戦闘部隊隊長"であった頃今以上に研究に没頭していた時に、最後に唾切に引導を渡した者その人物が唾切の頭を過った。
然し聞けば聞く程その時とは程遠い人物像に、同じ名前の違う人間かと辺りを付けるが、何か何時も研究に疑問を持つ時の感が否定するのだ。そしてお前の人生を変える相手だと囁くその言葉に、自身がそんな事ある訳が無いだろうと思いながら、花魁坂の話を聞きその疑問に蓋をし酒を煽った。
花魁坂と別れた次の日二日酔いになりながら、練馬偵察部隊に書類を届ける用が合った為に痛む頭を抱え偵察部隊の地下を歩く。偵察部隊の隊長を探し入組む地下を歩いていると、漸く見つけた彼は少年少年に囲まれ何かを話していた。唾切は面白そうな為に暫く観察し、偵察部隊隊長の淀川真澄の変わらぬポーカフェイスを観察するが、何処か苛立つ彼に愉快に思いながら自身が口角を上げ悪い顔をしている事に唾切は気づいていた。
真澄が舌打ちをし毒着く中で、ひときは目立つ少年が唾切の目についた。炎鬼の彼一ノ瀬四季である。唾切の研究対象として一番の候補に上がっていた彼の燃え上がる怒りの姿しか見た事が無い。唾切は、前の記憶で最後に焼き付く様な炎が身を焼いた事を覚えている。
炎鬼の彼に良い思い出は無いが、唾切の目に一ノ瀬の楽しげに笑う笑顔が焼き付いた。あの顔が自身が引き出せたらと思いが微かに浮かび、自分は何を考えているのだと思いを浮かべ切り替える為に真澄に近づく。
「真澄君久しぶり。その子達はなんだい?」
「チッ、面倒な奴が来たな…唾切こいつらは羅刹から実習に来たまだ実戦に出せないガキ共だ。無陀野の奴が連れて来やがった」
「無陀野君が?それで子守りを押し付けられたのかい?」
「彼奴押し付けるだけ押し付けて、自分は戦闘に出るって外に出やがった。京夜も重傷者を治療に行ってる。それは仕方ねぇが、ガキのお守りなんざごめんだァ」
真澄の悪態に唾切は何時もの様に軽薄な笑みを浮かべ聞いていた。二人の遣り取りを見ていた彼等の中で一ノ瀬が疑問に対し話しかける。他のメンバーは勇者だと内心呟き一ノ瀬の話を聞いていた。
「その人誰なん?真澄隊長」
「目上には敬語を使えクソガキが。此奴は唾切練馬区医療部隊総隊長だ」
「えぇ!見えねぇ〜!!」
一ノ瀬が驚き周りも驚きに声を上げ話し出し賑やかになる場に、唾切は手をひらりと振り軽薄な笑みを深め話し始めた。
「そういうわけでよろしくね〜少年少女」
唾切は一ノ瀬に視線を合わせ見つめる事に、四季は自身は何かをしたかと疑問を浮かべ困りげに合わせるが、瞬間唾切が笑みを浮かべ四季だけに興味を向けた。
「─────そして四季君。君とは仲良くしたいなぁ」
唾切の満面の笑顔に何処かゾワリと背筋に恐怖心が走るが、瞬間真澄に書類を渡すと歩き出す唾切に真澄が四季に溜息をつき、呆れた様に言葉を返す。
「目をつけられたなお前」
「目をつけられた????」
「彼奴に研究対象にされる事で病んで離職した人間も多い。ま、お前はそれは大丈夫そうだが何はともあれご愁傷様だな。骨は拾ってやらないからな」
「え!?ヤバい奴じゃん!!見捨てないで真澄隊長!!」
「うるせぇ行くぞテメェら。着いてこい」
踵を返す真澄に、四季は慌てて着いて行き先程の男への質問を問いかけるが真澄は答えず。その内唾切への疑問も薄れ任務に没頭して行くのだ。
その日から唾切は四季への疑問の答えを探し、彼を観察して行く。その答えが何に繋がるか彼の答えが知れるのはまだ先であった。
観察一回目
四季への観察が始まり、医療部隊の休み時間を使い唾切は四季の元へ来て好きに行動する彼をを眺めていた。四季が作戦会議に参加する時は自身も同席し、同期は何時もの観察癖がが始まったと知ると無視を決め込む。また悪い癖が出たのかと放置する事に決めた。彼を良く理解している同期の無陀野、真澄は無視を決め込み、意外にも楽しげに花魁坂が唾切を観察使始めた。医者と言うものは何故こんなにも自分の興味ある物に熱中出来るのか、無陀野には甚だ疑問であったのだ。
意外にも隊長として意見を言う唾切に副隊長の蓬も疑問に思うも静かに話を聞いて行き、唾切はその間に四季の内容を聞く様子を眺め、理解出来てなさそうな姿を見て楽しむ。皇后崎に肘で突かれる姿に反論したくても出来ない為に耐えている姿に、唾切は笑みを深めながらノートにライバルもいると書いた。
それから会議は進み話が纏まり終了すると各自残る者、去る者と別れ唾切は去る為に歩き出すが一瞬止まり振り返る。
「四季君またね〜」
軽薄そうな笑みを浮かべ手を振る唾切が、前を向き去って行く。四季は何が起きたんだとげっそりと疲れた顔をして、皇后崎に問うが疑問は帰って来なかった。
観察2回目
四季は食事をしていた。自分の好きな物を社食で頼み、盛り盛り食べ進めている所を目の前から唾切が見ていた。美味しそうに食べて行く四季に唾切は作法は綺麗では無いが、料理を食べる時表情に出ると脳内メモに書き込む。また暫く観察し半分以上無くなり後少しとの所で、困った様に四季が唾切に話した。
「ね〜食べずらいだけど、いつまで見てんの?」
四季の困りげな表情で伝える疑問に、唾切は笑みを深め答えを返した。
「全部食べるまで♡」
「えーやだー」
四季はそう言うもまた盛り盛りと次々口に含んで行き、最後手を合わせ「ご馳走様!」と大声で言う姿に、唾切の脳内メモには挨拶はきちんとすると追加された。食事後鼻をかむ四季の姿も唾切は見逃さない様に見つめ、四季が唾切に軽く視線を合わすと深い真理を問う様に話す。
「……ずっと疑問なんだけど、なんで俺を観察すんの?他にもいたんじゃない?真澄隊長とか」
四季は真澄の毒舌が脳内に響くが隅にやり気にせず、唾切は相変わらず楽しげに笑みを浮かべ四季を見つめていた。
「真澄君にやったら徹底的に避けられて、最後には無陀野君を買収して酷い目に合ったからねぇ〜京夜君はあの血を研究して見たいけど、やんわり断られたしこれ以上言ったら飲みに誘えなくなるからなぁ。無陀野君にやったら殺されるし。
後何より今は君に興味を持っている。その答えを探したい」
「俺は単純だって言われるから研究しがいが無いと思うけど?」
「良いの良いの僕の研究に無駄な事は存在しないから」
唾切の楽しげな様子に四季は口を閉じ、好きにさせるかと思い食後のデザートを食べ始めるのだった。
観察3回目
今日は四季は桃との戦闘に駆り出されてた。敵は弱いが群れで来た為に、羅刹の学生メンバーも全員駆り出され戦闘していたのだ。その様子を四季見え気づかれない範囲のビルから唾切は観察していた。医療部隊に運ばれてくる患者は花魁坂が見ている為に唾切にやれる事は無い。なら研究する事に没頭するべきだろうとビルの上から四季を見ていた。
四季の銃を発砲し、敵には苛烈に仲間や鬼の静かな暮らしを願う彼に、唾切の滅多に動かない胸の内が微かに動いた。彼が仲間を救い仲間を思い敵に叫ぶ度に彼は人を惹き付け、人に思い遣りを持ち、胸の底から人の為に動ける人間なのだ。そこに唾切の様な打算はなく、まるで地を明るく照らす焼き付く太陽の様な男だと唾切は思った。その太陽に身を焼かれても手を伸ばしたいと気持ちが湧き、喉が渇く様に水を求める様に胸が渇望する。
唾切の答えはもう直ぐ分かりそうだ。
観察✕✕回目
四季が神門と戦う様子を唾切は遠くのビルから眺める。ドローンを壊れない範囲で飛ばし現地の様子を観ながらビルに視線を向けると、炎が竜巻の様に立ち上がり、四季が楽しげに神門に礼を叫んでいた。心底思っているその様子に何処か苛立つものを感じ、その成長の様子を引き出しているのが自身では無い事に胸の苛立ちが消えない所か高まるばかりだ。然しそれを吹き飛ばす出来事が起きた。四季の暴走化だ。
四季の暴走に神門が彼を助けたいと涙を流す。四季は暫く暴走に飲まれいたが瞬間『に…げろ……』と涙を流す事に、唾切は息を飲みその様子を唖然とした表情で画面を見つめていた。
暴走化でも意識がある事、唾切が前世桃太郎の記憶を20歳で思い出し、割り切った中にもそんな記憶など存在しなかった。なら殺した鬼の中にも四季と同じ様になった者もいたのか等、たらればなそれを想像して画面を再び注視する。真澄が死を背負うなと覚悟を決め、無陀野が助けた所であった。瞬間神門が泣きながら銃を打つ瞬間、微かに聞こえた声に唾切は驚きに目を見開く。
『神門……ありが…とな………』
その言葉になんてこの子は優しいんだ。死んで欲しくない、唾切の隣で笑って居ないと嫌である。唾切の隣で人生を歩み死ぬの時は唾切隣で四季の死を見届ける。その後は灰色の人生を歩み、四季の為にも死にはしない。彼はそれを望まないから、然し四季に共に死を望まれたら喜んで唾切は一緒に死ぬだろうと思いがあった。その時の為に楽に死ねる薬を用意しとくかと頭で設計していく。唾切の答えは見つかった。
唾切は彼に一ノ瀬四季に恋をしていた。
それから唾切が四季を落とす事が始まった。
最初に手作りクッキーを渡す事にした唾切は、四季を見つけ駆け寄る四季に愉しげに話しかける。
「手出して」
「うん?」
素直に掌を出す四季に犬みたいだと、尻尾を振り撫でられ待ちをする姿が見え自分はそこまで彼が可愛くて重症なのかと、この重い愛情を隠し四季の掌にクッキーを入れた袋を載せる。
「はいどうぞ」
「おぉ!!美味そー!!!……だけどこれ変な薬とか入って無い?」
「どうだと思う?………………大丈夫だよ〜僕が実験対象以外に何か入れるわけ無いだろう?」
「ひっ……けど貰ったからにはちゃんと食べるよ」
恐る恐る袋を開けパクリと効果音が付くように口に含む四季に、唾切は笑みを浮かべ見守る。瞬間四季の笑顔が輝き、口に詰め込む様に食べ始める四季に唾切は声を上げ楽しげに笑った。
「ハハハハ………気に入ってくれたなら良かったよ」
「……んっく、すごく美味しい!!店のみたい!!!唾切さんすげー!!!」
「そんな褒められるとまた作りたくなっちゃうな〜」
「マジで!?ならまた頼む!!!」
四季の頭を撫で幸せそうに笑う唾切の目は細められ、本当に愛しい者を見つめる様に蜜がたっぷり詰まった蜂蜜の様な甘ったるい瞳に、四季は視線を反らし唾切が執着の一旦を見せたのに何かの疑問を浮かべるが纏まらないそれに、瞬間唾切が愉快な道化師の様に手を広げ言った言葉にその思いは彼方に消し飛んだ。
「じゃあまた作らせてくれよ」
「やったーー!!!やりーい!!!唾切さん最高〜〜〜!!!」
四季の言葉に唾切は目を細めて笑い、渇きが少し満たされる想いに、だが更に渇望する四季からの愛に、四季への執着を深めるのだった。
練馬にいる間唾切からクッキーやケーキに色々な食べ物を貰い、定期的に外に行っては食事をし四季の美味しそうに食べる姿を珈琲を飲みながら見つめる唾切が幸せそうに見つめ、服屋に入り唾切が四季に似合いそうな服を選び、四季に選ばせ気に入る服を買ってくれたりと、沢山四季に優しく接し与えてくれた。その頃には四季はすっかり唾切に惚れ恋をし好きになっていた。
周りに唾切の話をしうんざりされる程に話した四季は、これからどうすれば進めるだろうと悩み浮かれていた。だからこそ普段は倒せる強く無い大勢に囲まれた桃との戦闘に、瀕死になりながら戦っていた。身体中ボロボロで、立っているのもやっとな状態な中桃の攻撃が目の前に来る。もう無理かと目を瞑るが誰かの背中が前に立ち衝撃がやって来ない事に、恐る恐る目を開けた。
瞬間桃太郎の死体を縦に四季を守る唾切が振り向き問うた。
「…幻滅した?」
何時もと表情は変わらないが、何処か悲しそうに寂しそうに泣きだしそうな子供の様に唾切が見えた四季は、自然と口から言葉が零れ落ちるのだ。
「なんで?必要だからこそ、その技になったんでしょ。現に俺を守れてるし、少し驚いたけど……俺から見たら何時もの唾切さんだよ」
唾切は四季の言葉に『好きだなぁ』と思いが溢れ、この子が欲しい心底求めて自分の手で誰にも見せぬ様囲いたいと思いが湧いた。周りの桃太郎も唾切の登場に場が混乱し、志気が落ちた所で唾切は畳み掛ける為に言葉を発する。
「ならば此処は僕に任せて貰おうか。さぁ!悪が正義を討ち取ろうじゃないか!!」
瞬間桃太郎の死体が桃太郎に襲いかかり、向かって行く。仲間に桃太郎は切りかかるが、押し潰され骨が折れていき潰される音があちこちから響き渡り、四季はその容赦の無さに顔を引き攣らせる。操る唾切は愉しげで凄い人を好きになったものだと独り言ちる。でも大好きなのだ、好きなのだ。だからこそ四季は彼の全てを目に焼き付けたい。善な部分も悪な部分も全てを。
暫くし全てが終わり、唾切と帰る途中に四季の思いが溢れ無意識に隠していた口から言葉が漏れ出てしまう。
「…好き……唾切さんが好き……」
四季の告白に唾切は目を丸くすると、幸せそうに微笑み四季を見つめ答えた。
「僕も好きだよ」
「それはそうだけど……」
「恋愛感情としてね」
「これでも信用出来ない?」と四季の頬を包み優しく顔を上げる唾切に、四季は潤む瞳で見つめる。唾切は四季に顔を近づけ目を細め愛おしいと叫ぶ様に語る瞳で愛を囁くのだ。
「君が先に言ったけど僕からも言わせてくれないか?好きだよ四季君。世界で一番君だけを愛してる。君の隣に死ぬまで僕がいたい。死んでも永遠に愛して、生まれ変わっても絶対に見つけ出すからね」
唾切の愛の告白に四季の潤む瞳は崩壊し涙を流しながら頷いた。袖を擦り目を拭く四季の腕を離させ抱きしめる。返り血ひとつ無い異常な迄の潔癖な彼は、四季が涙と鼻水でぐしゃぐしゃにした顔で抱きついても嫌がる事なく幸せそうに見ていた。
帰り道手を繋いで帰る。
その後地下に帰った四季は唾切に引き攣られ自室に連れて行かれた。その後狼さんが羊の喉元に噛み付く様に、あっという間に激しく抱かれ食べられてしまったのだ。
眠る四季の隣で唾切が煙草に口を付ける。深く吸い込む煙が肺に重たく入る感覚を味わい、健康に悪いと思いながらストレスの捌け口として辞められないこれに依存するのも唾切は悪くは無いと思っていた。深く吸い込み吐き出す煙は空に消え、健全な青年の前で吸うのに躊躇いが無い唾切は、四季の胸を汚す背徳感すら感じていた。
眠る四季の様子を眺め笑みをふかめる。
漸く手の中に落ちてきた彼に、渇望する胸は満たされ、然し穴が空いたバケツの様に底が無く四季の愛情を求めてしまう自身に自嘲する。今まで自分一人でも生きていけていると変わる事なく思っていた。ずっとその様な変わらぬ人生だと思っていた唾切の前に四季が現れた。それから四季が居ないと生きていけない様になってしまった自信が弱くなったと思うが、前世同様愛を得たのかと思うとこの少年を大切にしようと胸に刻む。新たな生を生き楽しく生きてきたが、何処か足りない物を感じていた。その最後の1ピースが四季であり、嵌り完成したパズルは、唾切の在り方さえも変えてしまう。本当に四季は凄い人間だ。
吸い込む煙草を寝息をたて安らかに眠る少年の顔に吹き掛ける。顔を軽く顰め直ぐに変わり安堵する表情で眠る少年の様子を見て、胸に灯る温かさを抱きながら水を煽りまた少年を抱きしめ二度寝するのだった。
もう何回目かの回数も数えられない程の花魁坂との飲み会。学術的な話しや最近の花魁坂の羅刹での様子、唾切の隊長職の様子等話して行き最後に花魁坂が毎度同じ質問を投げかけた。
「何か日常に変わることあった〜?」
「恋人は出来たね」
「え!?つっばに恋人!?だれだれ!?」
「四季だよ」
「え!四季くんてダノッチの生徒の?」
「当たり前だろう。他に誰がいるんだい」
ぶつくさと話し始める花魁坂が、時折『絶対ダノッチに殺される…』と聞こえてきた声を華麗に無視し、唾切は酒を呷る。いつもより美味く感じる酒は何処か鮮やかに色が着いた世界に、今までの灰色の様に褪せた世界はなんだったのだろうと思いを浮かべるが、瞬間今の綺麗な世界を楽しもうじゃないかと思考を切り替えた。
花魁坂を見遣り酒を一口飲む。
スマホが鳴りメッセージに恋人の名前が表情される。自然と笑う唾切の幸せそうな笑みに花魁坂は瞠目し、最近で一番驚いた事と言えばと聞かれたらこれが一番に上がるだろうと瞬時に察知したのだ。