敬虔な信者は愛を求める薄暗い部屋窓から入る光の中に四季は佇んでいた。部屋の窓は一つのみであり、四角く区切られた窓から入る光は薄暗く部屋を照らす。まるで雲の合間から見える天使の梯子の様に照らす光は、四季と目の前の男を歓迎する事が無いようで、目の前の男が四季の前に膝を着き縋り付く姿は、まるで神に祈りを捧げ懺悔する真摯な信者の様で、四季の前に膝を付き焦燥とした必死な声で呟く。
「……なんで…なんで君なんだ…君を好きになってしまったんだ…僕は誇り高き桃太郎なのに……」
「……なんでだろうな」
「……君だけしか居ないんだ…君が全てなんだ…だから君は殺さない。君は僕のものだ」
唾切が四季に膝を付き縋り付く姿は何処か弱々しく、そして四季には何故か美しく見えたのだ。
この様な男等好きでは無かったのに、四季は男に絆されてしまった。男の弱い姿を見た時から四季はこうなる運命だったのだろう。だって彼を見捨てる事等出来ないのだから。
だから四季は少しもの維持で、彼の思いを暫くは受け入れない振る舞いをする。彼を否定して、四季に深く深く沼に溺れて行く様に底無し沼に沈め、最後に四季が彼が出られなくなった所で抱きしめこう言うのだ。
「…俺唾切さんが好き…大好きだよ」
そう言って驚いた顔する男の顔を見て微笑み、胸が軽くなる思いを味わうのだ。
だからこそ四季は演じなくてはならない。
桃宮唾切を四季と言う沼に落とすのに、四季は彼の手を取る訳には行かないのだ。
唾切は一ノ瀬四季が好きになり最初に思った感情は悲哀だった。鬼の炎鬼と言う特別な鬼を実験対象以外で見てしまった強い悲しみを覚え、最初は忘れようとした。然し忘れる所か、深く増していく思いは強く唾切に絡み付き、足掻けば足掻く程に足は取られ等々認めるのだ。そして唾切は一ノ瀬四季を手に入れる事を決める。
京都の件から四季が本土に来ている時に、唾切に一度は合う様に調整をした。四季の前に姿を現し、言葉巧みに食事に誘い彼の食べる姿を眺めた。
食事の好意はセックスの好みが出ると言うが、豪快に食べる彼は激しいセックスが好きなのだろうと思い、赤い舌がチロりと見える口内に入り、咀嚼する唇が動き、喉仏が動き嚥下する度に、彼の妖艶な姿に情事の時を想像し興奮したのだ。彼を抱く時を想像し、若い青春盛りの青少年の様に興奮し夜の御供にした彼の姿を唾切は堪らなく見たくて、好きで好きで仕方なかったのだ。
だからこそ一ノ瀬四季が絆されて来た所で閉じ込めた。全て桃太郎と鬼の件が片付いてる事を良い事に、一ノ瀬四季が鬼機関に配属され直ぐに監禁し彼を探すだろう有象無象等気にせずに、彼との蜜月を過ごした。
だが彼は唾切に落ちない。絆されている筈なのに釣れない胎動を取る。
例えればこんな会話があった。
『今日はこれを作って見たんだ。僕が食べさせてあげるね』
『嫌だこれの気分じゃない』
『気分じゃないなら食べて欲しいな』
『なんで俺がアンタに合わせねぇといけねぇの』
『……どうしてもダメかな?』
『……仕方ねぇな』
例えばこの様なやり取りが合った。
『今日から一緒に寝ようか。宜しくね四季くん』
『嫌だ俺は唾切さんと寝ない」 』
『どうしてだい?僕はこんなに君を愛しているのに』
『俺が愛してないから』
『僕は愛してるから良いじゃないか』
『…俺の意見は無視かよ』
例えば例えば例えば、四季は唾切に釣れない態度を取り振り回す。その様な猫の彼も好きだが、唾切は周りに見せる犬の様に幸せそうに笑う彼が大好きで合った。
だからこそこれだけは許せなかったのだ。
唾切に秘密で鬼機関と連絡を取り合っていた事が、到底許せる事では無かった。
その日唾切は四季を監禁している部屋から話し声が聞こえて来るのに、立ち止まり耳を潜める。
「うんうん大丈夫だって。俺は何もされてないよ」
「別にそっちが思ってる事はされてないって」
「だから助けに来なくて大丈夫だよ」
「────じゃあなムダ先」
無陀野無人は唾切が一番嫌いな人間である。四季の担任で一番の信頼を勝ち取り、彼を大切にする奴は腹立たしく一番許してはならない相手で合った。だからこそ唾切は即座にベッドまで戦闘時の様なスピードを出し往くと、四季の首を締め付けた。
「なんで、何故無陀野なんだ…!!」
「……ひゅ…なん…で……」
「無陀野なんて好きになるな、僕だけを信頼しろ…!僕だけがいれば良いだろう!!僕が良いと言え!!」
四季は艶やかに微笑むだけで唾切の言葉に返事を返さない。まるで男を転がす悪い女に捕まった様で、唾切は混乱し四季が既に息が出来なくなる所を見計らい首を離す。一気に空気が入り咳き込む四季の苦しげな顔を見つめ、唾切は無表情で四季を見つめた。息が整って来た四季が自身の首に手を当て咳込みながら呟く。
「ざまぁ…みろ……」
瞬間、唾切は四季に噛み付く様にキスをし咥内を荒らした。彼に自身を刻み込み、四季が好きだと言う迄抱いてやる事にしたのだ。言わせれば此方の物、幸い彼は快楽に弱く唾切の勝ちは確定であった。
だが彼は唾切に好きだと言わない儘、行為は四季が気絶し終わりを告げる。
その後唾切は毎日手酷く四季を抱いた。四季の腹には胎があると分かってから、中に出し孕ませる事に注視する。中に出し、何度も注ぎ虚しくなる程に四季の心は手に入ら無く、軈て四季は身篭った。
そして唾切は最初の様に四季の薄く膨らんで来た腹に縋り付き、懇願の言葉を言ったのだ。
「君なんて…君なんて好きにならなければ僕は此処まで苦しむ事は無かった…けれど君が好きなんだよ…好きで好きで仕方ないんだ…早く認めてくれよ……」
唾切が懇願し顔を悲しみに歪め叫ぶ様に呟く姿に、四季は蠱惑な人を狂わせる様な笑みを浮かべると呟く。
「まだダメだぜ」
そう唾切の背に腕を抱きしめ呟く四季の言葉に、等々唾切は陥落しこれが四季の意地返しなのだと知った。
それから唾切は四季に相変わらず世話をするが、愛を強要する事を無くした。彼が良いと言う迄待とうと思ったのだ。
暫くし安定期に入った四季は四季の足に頭を乗せながら頭を撫でられていた。意気消沈し唾切が四季の事で頭を埋め尽くされ、仕事が見に入らない為に暫くの休暇を出され、研究すら見に入らない唾切は毎日四季の元に居る。矢張り彼が好きで大好きで求めてしまうのだ。唾切はもう四季に落ちる所まで堕ちていた。底無し沼の深く深く沈み、水面が見えなく浮き上がれない程に、四季が好きで合ったのだ。
唾切は無言で頭を撫でられている。四季のトクントクンと動く腹の脈動を聴きながら、只々身を預け胎動を聞いていた。
そんな時無言で髪を撫でていた四季が呟いた。
「…なら唾切さん、俺アンタの事が大好きだぜ」
唾切は四季の言葉に勢い良く身を起こし彼を見つめる。愛しげに目を細められていた四季の瞳に、唾切は一瞬驚いた顔を見せた後勢い良く抱きしめた。強く、強く抱きしめ四季の身体が壊れぬ範囲で四季を抱きしめる。漸く彼の許しを得た事が嬉しく、唾切は彼に信仰する啓人な信者の様な思いは報われたのだ。
「……遅い、遅いぞ…四季……」
「ごめんな…俺なりの意地返しなんだ。唾切さんが俺に溺れて出られなくなる迄、俺はアンタに好きと言わない事にしてた。悪かったよ」
唾切は四季の胸に頭を何度も擦り付け、マーキングする様に身を寄せる。まるで飼い猫に擦り寄る猫の様なその態度は、四季の過保護な胸を刺激し、彼を一等強く抱きしめた。
唾切が四季に暫く甘え、離れた後に四季を押し倒す。意地悪く細められた瞳で笑む彼に、四季は彼の何かのボタンを押してしまった事に焦りを顔に浮かべる。
「せっかく愛し合ったんだ。今日は熱い夜を過ごそうじゃないか」
「えーと唾切さん……」
「なお、問答無用で言い訳は聞かないよ」
唾切に唇を塞がれ深く口付けをされる。四季はその甘やかな幸せに浸りながら、漸く伝えられた言葉に幸せを感じ我慢した分首に腕を回し、何度も首を傾け激しく口付けをする。
幸せだった。
小悪魔は神に成りすまし、敬虔な信徒を騙し愛を捧げた。小悪魔は信徒が好きであり、然し自分を閉じ込めた信徒に意地悪く貢がせ軈て夢中にさせる。悪魔の思い通りに動いた信徒は軈て、悪魔に溺れ魅力され、そして悪魔は耳元で囁いた。
『君の事が大好き…』
そう呟く悪魔は艶然と微笑みを携えるのだ。