アングラ専門何でも屋はバイク屋にある 晴空の下今日も店では、バイクを弄る傍らで好き勝手に寛ぐ武臣と若狭が来ていた。二人共仕事が無く真一郎に顔出しに行き揶揄うのも悪くないと行くと、店の前で若狭と鉢合わせた武臣は薄く悪笑を浮かべ真一郎を弄るのだった。
だがそこに台風の目となる彼等の一等大切なあの子が来るとは思わないだろう。三人はそれを知らずに好きすぎに店内に散らばっている。台風の目がやって来たのを知らずに。
外には学校帰りなのかネクタイを緩めた金髪の少年が佇んでいた。学生鞄に小脇には大切そうに肌身離さずに茶封筒を抱えている。少年は一つ笑みを浮かべると店に入った。
「真一郎くん!こんにちは!あ、武臣さんにワカくんもいる!」
金髪の少年の元気な声が響き、彼等は一斉に少年を見ると女性が居たら一目恋に落ちるような蕩けた笑みを浮かべた。
「おー武道来たのか」
「俺の所にも来てくれよ」
「ジムにも顔を出せよな」
武道と呼ばれた少年は彼等の返事に、人の良い微笑みを浮かべ「あとで」と返すと真一郎の元へと歩く。その姿は蜜に妖艶であり美しい旅芸人の踊り子を思い浮かべる。
「依頼を持って来ました」
武道の言葉に三人は目付きが変わり細めた瞳に真剣さが宿る。立ち上がる真一郎が武道に答える。
「どんな依頼だ?」
武道は茶封筒を真一郎に渡すと、中身を開けた真一郎に武道も鞄の中からファイルを取り出し皆に行き渡ったのを見ると語り出す。
「新庄秀雄さんからの依頼で、あるヤクザの組を潰して欲しいそうです」
武道の言葉に特に驚く事もなく三人は資料を見て疑問点を探した。
「ヤクザの組は林組で新庄さんが所属するのは椿組です。敵対組織として抗争になる前に秘密裏に全滅させて欲しいとのことです」
それを聞いた三人が口々に疑問点を武道に聞き出す。何かが怪しい裏が有りそうな依頼に何故武道が受けたかが気になった。
「組同士で抗争した方がまだ早いだろ。何でこんな回りくどい事をしてんだ」
「抗争出来ねぇ理由でもあんのか」
武臣と若狭の言葉に真一郎が口を開く。
「で何でこんな怪しい依頼を受けた」
「報酬三千万……前金一千万で出来高で追加で更に一千万…………こんな良い依頼無いでしょ!!」
報酬の額に目が眩んだのかと三人は思うが、合計五千万の依頼は中々無いために武道が目が眩むのも分かる。普段は人から金は受け取れないと遠慮する武道だが、真一郎達と協力する仕事だけは金の亡者へと成るのだ。九井からも他からも勿論普段は真一郎や若狭に武臣からも金を受け取らない癖に、この仕事だけは別なのだ。武道は大金に金に目が眩み、そして趣味の推し活をするそうだ。その為にも武道に取っては良いバイトと言う事だろう。彼等はこの少年の事を良く分かっていた。
「金に目が眩んだのは分かった。だがこれは一度調べる必要があるぞ」
「そうっすね。怪しいし情報が少なすぎますからね」
それぞれ依頼内容を確認する紙をめくる音が響く。静寂な空間にピリッと広がる緊張感が満ちる。真一郎が紙を閉じると周りが一斉に彼を見るのに、静かに真一郎の空気が変わるのに真剣な顔付きになる。
「武臣は幹部に付いて聞き込み、若狭は弁慶と林組と椿組について、武道は付近の逃げ道の確保と侵入ルートに着いてだ。これはお前にしかできない。俺は組長に付いて調べる」
「真の癖に仕切るなよ」
「真ちゃんハリキリすぎ」
「わかりました」
「おい!お前ら俺を弄るな!!」
彼等の言葉に真一郎が大声で言い返すと場が和む。これがいつもの彼等の形であり、真一郎を弄り場を和ませるのだ。
「頼むぞお前ら危ない事はするなよ。何か合ったら逃げろ特に武道」
「えー!何で俺!!」
「いや、お前が一番危ないだろ」
「武道は弱いからな」
武道の言葉に武臣が突っ込み若狭が弄ると、拗ねて涙目の武道に若狭がデコピンをする。泣き出した武道が若狭の腹をポカポカと叩き出す。殆ど痛みの無いそれに若狭は仕方ないと頭を撫でると、他が嫌そうな顔をしていたのに若狭が武道に見えないようにニヤリと笑った。それに武臣と真一郎の目が鋭く細められ、真一郎が武道を若狭から離すのに若狭は手を肩まで上げ肩を竦めた。
彼等の日常に新たな嵐がやって来ようとしている。
これが『S・S MORTORS』の裏の顔でありもうひとつの店『STWTB・Dunkel』である。初代黒龍と言われた総長と幹部の四人が始め、今では名の知れた裏社会専門の萬屋である。
武臣は幹部に着いて聞き込みをしていた。その中で知る事は彼等評判の良くない人物だと言う事だ。今日も聞き込みをするバーで目的の人物を見つけると聴き込む。
男は嫌な事がありバーに酒を飲みに来た。部下が失敗した後始末に終われ、やっと終わり捥ぎ取った休日に酒を煽りに来て心地好い気分に浸っていた。こういう時だからこそ誰かに聞いて欲しいと思うのだが、生憎言える相手が居ない。だから普段なら気付く隣に誰かが座ったのに気づかなかった。
「隣良いか」
「あ"あ?アンちゃん俺が誰だか分ってて話しかけてんののかぁ?!」
「いやぁ、良い時計を付けてたからな。それに疲れてそうだからよォ。一杯俺が奢るぜ」
男は気分が良くなり男に色々話した。組の愚痴に誰がどうした嫌だった。その中でも自分に突っかかて来た幹部の愚痴を零していた。本来こう言った事は言わない事に越したこと無い上で男は口が堅い部類だが、誰かに愚痴を零したい気持ちと泥酔して理性がほぼ無い頭では意味を成さ無い物だ。面白いくらい男は語った。
「ああ、あの新庄はな本当に愚痴愚痴嫌味言いやがって。部下の失敗したのは軽いミスだってのに、組長が聞いたら何たらだの……あの組長はそれぐらいで怒んねぇよォなぁ!引き際が分かってるのにあの男は嫌味のように愚痴と……え?その新庄の評判?あーかなり悪いなぁ〜組長の腰巾着してるし何かあると世話したがる狂信者とも言えば良いのかね〜〜周りも言ってるよ。何で組長も傍に置くんだって。え?帰る?あーありがとなアンちゃん!!またな!」
武臣は思いの外あった収穫に、ある程度溜まった情報で聞き込みは今日迄で良いだろうと見当を着けた。そして帰って店の仕込みをしようと思い夜の街へと消えた。
若狭は路地裏で収穫の無い日々を過ごしていた。弁慶と聞き込みに出るが直ぐ手が出る奴に嘆息を吐きながら失敗した数を数える。今目の前の男も恐怖で気絶すると弁慶が地面へと投げ捨てた。
「お前なー…………」
「悪い手が出た」
頭を抑えると次の聞き込みへと行こうとすると、路地裏への誰かの視線に目を向けると口を開く。
「で、お前は何なの。今機嫌最悪なんだワ」
弱そうなどう見ても高校生の青年が怯えるような声を上げる。
「ひっ!い、いま林組と椿組って聞こえてきて……」
最後に行くに連れて声が窄んでいくのに、若狭は何かを持ってるかも知れないと殆ど期待しないで聞くことにした。
「マ、良いわ聞くか」
青年の口から出たのは林組と椿組の関係性だった。何せ林組と椿組は仲が悪い上に反りが合わず、下の者が合えば一触即発な上に口論から殴り合いになる事もあり、お互い干渉しないように島には行かないようにしてる事。それ程仲が悪いとの事だ。だが青年の口から出たのは意外な言葉だった。
「あ、でも椿組の組長と林組の組長は幼馴染だって噂です。あ、あくまでも噂ですからね!!」
「そっかありがとなもう大丈夫だ」
若狭の言葉に頭を下げた青年は友人に林組の幹部の親がいると言っており、若狭と弁慶は驚きに目を開くと頭を何度も下げ去っていく男を見ていた。若狭は人は見た目によらないものだと思うと、腹が減ったので弁慶に焼肉でも奢らせようと思うと路地裏を出た。
真一郎はある情報屋に来ていた。知り合いである金を払えば大体は聴けるがひとつ欠点があるとすれば、彼が口が悪くそして武道を連れて行かなきゃ良い情報は聞けない事だろう。嫌々ながら武道を連れ、深夜約束の公園へと向かう。そこは武蔵神社の真下にある公園だった。
「すまん、待たせたな」
「遅せぇ俺を待たせんなヘドロが」
そこに居たのは三途春千夜だった。
「ドブは連れて来たんだろうな」
真一郎に腰を抱かれる武道は、嘆息を着き疲れた顔をすると三途へと言葉をかける。
「なんで毎回俺なんすか三途くん」
「うるせぇヘドロが!!こっち来い!!」
「うわ声でか……はいはい」
武道は三途の元まで行くと手を引かれ腕の中へと閉じ込められる。武道を前に向かせ後ろから抱きしめると、真一郎へと依頼内容を確認するのだ。真一郎は三途が武道を抱くのに怒りを抑える。我慢だ真一郎。
「依頼は林組と椿組の組長で良いんだよな」
「ああ、関係性も含めてな」
「チッ、高くつくぞ」
武道の頬を引っ張る三途が組長の関係性に着いて語り出してゆく。どうやら訳ありのようだ。星空すら覆い隠す程の明るい月の中、この辺りには公園の点灯を繰り返す壊れかけの街灯ひとつしかない。辺りが闇を覆う。
「林組と椿組は表向きは仲が悪い。下っ端も幹部もだ、だが組長達はそうじゃねぇ。椿組と林組一見合わない組同士だが、長同士は幼馴染だ」
三途の言葉に真一郎が驚きに目を見開く。それを見た三途は表情を変えることなく、武道の蟀谷を握り拳でグリグリとする。武道から呻き声が聞こえる。
「幼馴染?」
「仲が良い幼馴染だったそうだ。子供時代同じヤクザの組の息子同士だからと秘密裏に一緒に遊び、親は黙認してたみてぇだが幹部には知られなかった。奴の乳母だけだろ知ってるのは、だが話はそこじゃねぇ。奴等は今でも会ってんだ」
真一郎はその言葉に片眉をピクリと揺らすのを見た三途は構うことなく、最初と同じよう武道を抱きしめると話を続ける。真一郎は少しは遠慮しろよと思ったが、そこは三途だからで思い止めた。
「奴らは本当にひと握りの信頼した者にだけ教えて隠れて会ってるみてぇだ。体裁が悪いんだろうよ。そしてその信頼した奴は、お前らが調べる幹部じゃねぇ。別の奴だ」
真一郎は何となく掴めた答えの糸口に、三途の言葉を少しずつ咀嚼していく。林組を全滅に、組長が幼馴染、若狭と武臣からの情報次第で真一郎の仮説が正しくなる。
「ありがとな三途」
「おう、じゃあ金はいつもん所に振り込めよ」
そう言い三途は武道を離そうとするが、武道の唇にキスするのに、真一郎が急ぎ武道を三途から離した。三途は口角を三日月のように上げ悪役のように笑うのに真一郎は静かに目を細め咎める。
「おい……そこまでやって良いとは言ってねぇぞ」
「じゃあ首輪でも着けとくんだな離れねぇように」
そう言うと去っていく三途に真一郎は武道の唇をゴシゴシと拭うと、唇を重ね深いキスをしていく。恥ずかしげにだが段々顔が蕩ける武道に、胸の中の煮えたぎる独占欲と怒りが消えていく気がした。
真一郎の店に武臣と若狭に武道が集まる。弁慶はジムの用事で来れないと真一郎に言っていたのに、集まる四人は顔を突き合わせ調べた内容を報告していく。武臣が最初に報告を始めた。
「先ずは俺だな。新庄はかなり組では評判悪い奴だな何人か聞き込みしたが、上からも下からも評判は悪い。組に削ぐわない事をしたら直ぐに手が出るし嫌味も酷いらしいな。組長に忠誠誓って世話する程の狂信者らしい。全体で評判が悪いな俺からはそれだけだ。」
武臣の報告に真一郎は両組で握る掌を離し、片手で蟀谷をトントンと叩き出す。真一郎の考える時の癖が出たと武道はほんのり笑った。
「オレだな。林組と椿組はお互い仲が悪くそりが合わなくて、部下同士が合えば一触即発になる程らしいだからお互いの領地には行かず干渉しないらしい。だが噂では組長同士が幼馴染だと流れてるらしいワ」
真一郎は蟀谷を一定のリズムで叩き、考えるのに若狭が武道を後ろから抱きしめ、武臣が武道の髪を撫で煙草を吹きかけキスしようと、この時の真一郎は気づかない。それ程集中しこの依頼の謎を解こうとしているのだ。若狭は武道の顔中にキスの雨を降らせると、真一郎の指が止まり手を組む。謎解きが出来たようだ。
「組長同士が仲が良く、幼馴染だと言う事を極小にしか公言していない。そしてそれは新庄には伝えられてない。なら新庄がその事実を知ったら自分の忠誠を誓うボスに裏切られた気分に成るだろう。だがボスを殺す事は出来ずにその恨みを相手に向け組を全滅する依頼をしてきた…………」
鎮まる空間には真一郎の声だけが聞こえ、その声も大きいとは言えずに彼等は声を拾ってゆく。真一郎の蟀谷を叩く手が降りると黒曜石の目を薄ら細め口角を三日月のように細め呟く。
「この依頼は増愛が生んだ悪意だ」
真一郎の謎解きに四人は静かに耳を済ませる。三日月に口を歪め愉しげに語る真一郎に、本当に性格が悪いと武道が思った。
「組長の一番が自分じゃ無かったのに怒り狂った新庄は、幼馴染の組を巻き添えに組長を殺し絶望した自分の組長を傀儡にして裏から操ろうとしたんだろう。だから俺らに依頼した組長を殺して欲しいでは無く、組を潰して欲しいと」
「何が違うんだ真」
「真ちゃんわかり易く説明して」
真一郎は三日月を深めると持ったえぶるように言葉を開く。武臣と若狭は少し苛っとした。
「まあまあ謎解きはこれからだぞ少しは待て」
「真一郎くん早くしてください」
「武道に言われちゃな……はぁ、分かったよ」
ひとつ嘆息を吐くと真一郎はまた語り出す。場の空気が引き締まるのを感じた。
「相手組長を恨むなら組長を殺せば良いだが、奴の怒りはそれでは済まなかった。組を壊さなくては怒りが治まらない。そしてこう考えたはずだ……組長だけは自分で殺そうと……だから奴は現場に現れる。それが俺の答えだ」
真一郎の謎解きに張り詰めていた息を解き、呼吸しやすくなる息に肺を吸い込むと若狭が言葉を開いた。
「ならどうすんだよ。この依頼完全に嵌められてんじゃねぇか。何か考えあんのかよ真ちゃん」
周りは考えるが良い案が出ない。その中で真一郎はいつもの読めない笑顔を浮かべたままだ。
「大丈夫だ俺に考えがある」
胡乱げな顔で全員から見つめられ真一郎は傷つく心に目を瞑り言った。
「まあ、俺に任せとけよ」
決行日若狭は武道が調べた通路から入っていた。
流石武道が全体を潜入し調べたから、人の居ない視覚見張り交代時間等地図付きで説明され、頭に叩き込まされたのは嫌な思い出だがこの地図のお陰でこうして潜入できた。
庭の木に隠れ見張り交代時間に、若狭は音を立てず歩くと後から見張りを殴り気絶させた。その物音で周りが続々出てきたのに、隣に来た弁慶と指を鳴らし久しぶりの戦闘に笑う。
「派手にやるか」
「祭りだな」
小刀を振り上げる三人の男に弁慶は一人を掴むと持ち上げ振古のように揺らし投げつける。後から来た敵も巻き込まれ、若狭が残りの敵に空中で飛び狼狽える敵の首に踵落としを決め、もう一人の腹を思い切り蹴ると気絶した。
「お前らこんなもんか!!」
「さて、温まって来た所だもっと遊ぼうぜ」
化物のように強く一気に十人を沈めた二人に立ち竦む相手に二人が突っ込んでゆく。辺りには逃げ惑う人達と二人の鉄壁と過去白豹と呼ばれた男の地獄絵図ができていた。
その影で闇を待とう金髪の小さな影が、意識の無い者を選び首元に何かを刺してゆく。金髪意外顔も肌も覆われ鼻から下はマスクで覆われた全身闇色に包まれた者は、目を細め首に針を刺す。
「おっ金〜おっ金〜」
その声は月明かりの廊下に場違いに響いた。
辺りが悲鳴と叫びに包まれる屋敷で、真一郎と武臣は辺りに人が倒れる廊下を歩いていた。屋敷へと通じる廊下の板が軋む音が響く。ゆっくりと歩く様は王の風格を纏い儒者のように武臣が付き添う。
屋敷の最奥組長の寝床を開けると、今正に組長の傍に寄り刃物を出す、依頼主椿組幹部新庄がいた。
「…………なんで、ここに」
「やっぱり居たか新庄さん」
真一郎の言葉に新庄は動くことが出来ない。それもそのはず、鋭く首元に鋭利なナイフが突き刺さるような殺気をこの優しげに微笑む男が出しているのに更に混乱していた。動けない新庄に真一郎が一歩一歩近寄り、畳一枚挟む距離で佇む真一郎が新庄は恐ろしかった。
「何で俺がアンタの前に現れたか解るか」
「く、組長を殺しに来たんだろ」
「違うな、お前の罪を裁きに来たんだ」
男は言ってる意味が分からなかった。自分の罪まさか彼に目論見が知られたのか、緊張で頭が要らない事を考える。男は極度の緊張から思考が偏っていた。
「アンタは組長に信頼されてなかった事に激怒し相手組長を殺す罪を俺らに着せようとした。俺らなら組が解体した後勝手に死のうが関係無いからな。だが、この全ての元凶の組長だけは自分で殺したかったんだろう。単純な思考だな」
男は愚弄された怒りと企みが全て知られているのから、組長へと刃を立てようとした時に手に何かが刺さる激痛を感じた。
「ぎゃぁぁぁあああ?!!!」
ザクと刺さると更に手に刺さり混乱する中足にも刺さる物は、小さな小刀であった。両手に両足に太股にも刺さる小刀に、上から降りてきた何かが声を上げる。
「ダメですよ。上も気にしないと」
天井裏から降りてきたのは武道だった。全身黒に身を包み、腰に小刀を刺し、黒いシャツの上に着る上着には色々な物が仕込んである。まるで忍者のような彼は正しく忍者の末裔であり、家がこの時代には珍しく忍術の道場を開いていた。門下生もかなりの数抱え、武道はその本家の直系であった。だから彼は真一郎達の手伝いを子供の頃からしているのである。
天井から降りてきた武道は相手に目を細めそう微笑む。新庄は不利な状況な中目的を成し遂げようとパニックになる。組長は奥に逃がされ目の前に自分を害した武道が立つ。
ああ、この男だけでも殺そうと武道に刃物を向けたその時、手にバァンと乾いた音が響き、途端激痛が走る。虎の尾を踏み薮から蛇を出したのだ。彼等の大切なものを害そうとして龍の逆鱗に触れたのだ。
「俺らに攻撃するのは良いがなぁ……武道には許せねぇなぁ」
口元を歪め笑みを浮かべるその男の瞳にはそれとは程遠い、何処までも鋭い怒りと執着と殺気が満ちていた。
「俺達の宝物に手を出すなら殺すけどナ……覚悟は出来てんのか」
ストンと表情が抜け落ち瞳孔を開き静かに怒りを秘める男の瞳には、只管深い激情と何処までも深く沈む執着に溢れ出す殺気が出ていた。
「俺達の宝玉に手を出したんだ、冥土の土産に何か言うことはあるか?」
そう言う飄々と笑う男は目を細め、その黒曜石にはドロドロと煮詰めたような少年への執着と憤慨が宿り渦巻いていた。
「た、助けてくれ……!!」
黒曜石の瞳の男が微笑み、隣に佇む紫の瞳の男が笑い、緑の瞳の男が嗤う。
「あの世で願うんだな」
パァンと音が響き男の胸を貫く。畳に倒れた男に武道は三人に近寄ると腰を抱かれ、肩に手を置かれて頬を撫でられる。男の屍を見た組長は一言言った。
「ありがとう」
その組長の言葉に真一郎は言葉を返す。
「依頼ですから」
遡ること一週間前、真一郎は椿組組長と林組組長に手紙を出し彼等の秘密も書き部下に持たせ、この喫茶店に呼び出していた。二人の組長が真一郎を見極めるように上から下まで見つめひとつ目を瞑ると話す。
「ここ迄呼び出して要件は何かな」
「私も忙しいんだ。会合があってだな」
真一郎は目の前にいる狸爺との腹の探り合いに、嘆息着きたくなるも嫌な気は起きなかった。
「実は俺に依頼が来まして。STWTB・Dunkelの取締をしてるんですが、椿組の新庄秀雄さんからの依頼で、此方正式な書類です」
それを見た椿組組長椿重明は自分の部下のサインに間違いなく、林組組長にも同様の事を言うと彼の話を聞くことにした。
そして真一郎は依頼の襲撃に、推理した事等を話すとひとつ息を吐き珈琲を飲んだ。
「で、君達が襲撃したら私達は君を殺すがどうするんだい」
重く息苦しい殺気が真一郎を包み込む。真一郎は真っ直ぐ林組組長林英明を見ると言葉を発した。
「俺は貴方達の事を知っている。だからこそこの依頼を受けたくない、だからこうして確認に来た。林英明さん貴方にこの依頼のメリットはありますか?」
林は笑い声を上げると茶目っ気のある顔で真一郎を見て言った。その顔は何処か若造と遊べて楽しそうだ。
「いや、私も丁度風通し良くしたいって思ってたんだよ。この気に掃除をして貰えないか」
「それは依頼ですか」
真一郎は林の顔を見て真剣な顔で問う。
「ああ、君に頼みたい」
林組組長林英明から、組の組長反対勢力を一掃して欲しいとの依頼だった。真一郎はその依頼を受け、そして今回決行したのだった。
夜も老ける中明かりは灯る東京の暗い路地裏を四人は歩く。真一郎の隠していた依頼が知られ、報酬を独り占めしようとしたことを咎められながら帰っていた。一息付き先程の騒がしさも也を潜め武道が目を細め微笑み妖艶に笑う。それを見た周りは嫌な予感がした。
「じゃあ報酬の50%は俺の口座にお願いしますね」
武道のその言葉に真一郎はニヤリと悪く笑い、若狭も口角を上げニヤリと笑うと、武臣は武道の顔に煙草を吹きかけた。
「ご褒美はあるんだよな?」
「褒美がねぇと報酬は無しだな」
「武道は何かくれるんだよな?」
武道はニコリと笑みを深め三人を見上げると、細めた目は企むように歪み、何時もの太陽は也を潜め月が覆い隠していた。
「チップくれたら抱いて良いですよ」
武道の言葉に片手で顔を覆ったり、肩を竦めたり顔を上げ覆う等様々な反応を見せたそれに、武道は内心嘲笑う。
「えー!彼氏から金とんのかよ!!」
「なあ、俺ら武道の彼氏だよナ。何で金?」
「俺今金ねぇから」
三者三葉の言葉に武道はクスクスと笑うと、何時もの聖母な表情を浮かべ楽しげに言った。
「冗談ですよ。けど報酬の30%は貰いますからね」
その言葉に目を細め欲を待とう大人の笑みに、武道も笑みを深めると頬を撫でる。これからの時間は大人は子供を美味しく頂く愉しみの時間なのだ。
ベットに眠る小さな背中に、半裸でズボンを履いた男達が大きなベットの少年の周りに好き好きに座ると、煙草を吹き出す。大人の色気を待とうその姿を女が見たら恋に落ちるだろうが、生憎男達は少年しか見ていない。
傍で少年を見つめる瞳は独占欲に塗れ、同時に執着と重たい愛少年に向ける。男達の中には少年を彼氏として共有し幸せにする同士と言う物が芽生えるが、彼等同士は別に恋仲では無い、彼等はそれぞれに少年だけと恋仲であり、少年だけしか見ていない。それはそれは重い愛を向けながら、重く潰れて溺れてしまいそうな愛を少年は向けられていた。
だが少年はその愛を全て受け止め、その寛大で聖母のような笑みで仕方ないと受け止めるのだ。
「可愛いな武道」
「体に散る華がクルな」
「こんな色気あんのに純粋なのスゲーよな」
武道の体に刻まれた噛み跡や鬱血痕は大量に痕を残し、あどけさなが眠る顔に残るそれが色香を深める。
男達はは煙草を吸うとそれぞれ武道に吹きかける。
『愛してる』
全員心の中でそう呟いて武道を愛憎渦巻く瞳で見つめるのだった。
設定集
佐野真一郎
S・S MORTORSの店主兼裏社会何でも屋STWTB・Dunkelの取締役をしている。初代黒龍メンバーと何でも屋するさい最初の案件がアングラな案件であり、大成功してしまい噂が噂を呼んで後にアングラ専門にした。
個性豊かなメンバーを纏めるのは大変だが楽しい。難解な推理を良くメンバーに披露し、怪しい案件しか入らない為に毎回謎解きをする。苦労人であり武道ガチ勢で恋人である。執着と独占欲が凄すぎて、重すぎる誰も抱えられない。武道しか抱えられなない。
銃火器が得意
今牛若狭
何でも屋を真一郎達と初め基本楽しんでる人。ジムの傍らで仲間と何でも屋を営み弁慶とニコイチで聞き込みをするが本業は特攻攻撃専門である。弁慶が陽動してる隙に周りを倒す。刀や銃も使えるが暗器系が得意で武道に良く借りてる。
武臣と真一郎を揶揄うのが楽しいが、武道に並々ならぬ執着と独占欲を抱いて、武道がひとつでも傷つけば相手を殺してしまうバーサーカー誰も奴を止められない。武道の恋人。
暗器、棍棒、素手が得意
明司武臣
仲間と始めた何でも屋が案外楽しく、喫茶店の店主の傍らで儲けてる。大体儲けはギャンブルに消えてしまう。聞き込みや真一郎のサポートメインに作戦など武道と練る参謀的ポジション、真一郎が推理しかできない分他を支えてる。真一郎が何かを企んでる時はまたコイツはと思いながらも好きにさせている。
武道には優しく胡散臭いお兄さんだと思われていて概ね合ってる。純粋な少年を揶揄うのが好きだが、武道が傷ついた時には相手をどう社会から消そうか軍神が顔を出す。とてつもなく重い執着と独占欲を隠し時々顔を出す。
得意武器は特に無しなオールラウンダー
花垣武道
初代黒龍メンバーと小学生の時に出会い、関わってたら恋人になっていて絡め取られていた子供である。何故こうなった。だが皆好きな為に良いやと楽観的である。お前の周りはヤンデレとメンヘラしか居ないんだぞ。実は三人意外にも恋心とクソデカ感情を向けられている奴等が大勢いる。主に東京卍會とか天竺とか黒龍の二人とか、此方もメンヘラかヤンデレしか居ない。
三人の事は等しく好きであり誰が一番とか無いが、この人もかなりのクソデカ感情と激重感情持ちだが悟らせず翻弄してる。けどその後やり返される(主に体で)
忍者の末裔で子供の時から忍術を習っていた為潜入や殺しに抵抗が無い。実は実家も裏社会の殺し屋してる。表は道場裏は殺し屋家系であるが、両親は普段は専業主婦とサラリーマンをしている。歴代末裔の中でも神童等と呼ばれ麒麟児で天才である。
暗器、小刀、潜入が得意
荒師慶三
毎回三人に巻き込まれて胃が痛い。武道どうにかしてくれ。