龍王の蒼穹の宝玉 夜の街は混沌で眠らない街に集まる者は、日の当たらない世界に生きる者も多く集まる。反社やヤクザと呼ばれる裏社会の人間の多くは夜に潜み、粛々と秘密裏に悪に手を染めていた。
そんな中で悪意のある者が集まる路地裏でフードを被った男が歩いていた。
男は退屈そうに路地裏を歩き、男に悪意を持ち近寄ろうとする者は、フードから見える顔が見えた瞬間顔色を買え逃げていく。男にとってはそれが何でもない日常のようで路地裏を歩くスピードは変えない。
現代の人間の魑魅魍魎が渦巻く夜に男は大通りに出て、今日の散歩をしていた。散歩と言う自分の島の見回りをしていた。男の視線は冷たくこの退屈を埋めてくれないかと思うと、信じもしない運命の出会い等思うが馬鹿馬鹿しいと頭の隅に寄せた時、それは起こった。
肩に誰か衝突し男は機嫌の悪さに文句の一つ言おうとした時だった、此方を見る力強い蒼穹の瞳に吸い込まれそうになる男は目を見開き涙目の男を唯々見つめた。
「あ、あのすみません!大丈夫ですか!?」
金髪を染めた少年の事を見つめる男は、瞬間初恋をした少女のような気持ちになり人生初めての初恋に、この少年を自分のものにしようと思うと手を取り隣の路地裏に連れ込む。
「なあ、名前なんていうんだ?」
「え……は、花垣武道です」
男は口の中で呟くと甘い蜜を食べたような幸せな心地に見舞われ、男へと恍惚とした笑みで呟く。
「俺、佐野真一郎。今日からお前は俺の恋人だ」
大人になっての初恋とは恐ろしく、好きになったら何段回も飛ばし告白した真一郎に武道は口元を引き攣らせると逃げようとするが、壁に両手で真一郎に囲われ恍惚とした表情で見られる。武道は恐怖で逃げようと身体を捻るが男に両足を割り足を入れられ逃げ場は無い。八方塞がりだった。
「お前が頷くまでこのままだ。手荒な事はしたくないんでね」
男は武道の頬を包むと恍惚としたまるで愛してると語るような瞳で見つめ武道を地獄に落とす。
「お前は俺のものな。決定事項だ」
この日武道に大変不本意ながら恋人ができた。相手は男だが。
次の日武道がバイトの終わりに夜の道を歩いていた。周囲を警戒し歩くが誰も来ない事が分かると陰から誰か洗われた。真一郎だ。
「よぉ!武道バイトか?」
陰から出てきた真一郎に武道は困り気に笑うと、横に並んだ男が何も悟らせないような意味深な笑顔を浮かべ武道を見る。
「偶然だな俺も今帰りだ、会えて嬉しいぞ武道」
偶然じゃない癖にと武道は思うが言ったら何かが終わりそうだと思い、自分の直感を頼りに口を結んだ。まだ人生終わりたくない。
「へー真一郎くんも今終わりなんですか!偶然ですね!」
話を合わせると真一郎は武道に優しく笑い、今日の会ったことを聞いて来た。武道は警戒しながら少しずつ話すが、真一郎が静かに聞き相槌を打つのが心地好く沢山話をした。今日のバイトであった嫌な事、真一郎と会う前の事、バイトのシフトも聞かれたから話した武道は気づいていない。真一郎がどんな顔して武道を観ているかを、武道が他人の話しをする度にその目は黒く渦巻濁り闇を煮込んだような瞳になることを知らない。
「そうか良かったな。じゃあ次に会えるのは2日後か」
「はい!真一郎くんは帰らなくて良いんですか?」
「ああ、武道を送ってから帰るよ」
そう言う真一郎をすっかり信用した武道は、「じゃあ、よろしくお願いします」と家まで送るのを了承すると、真一郎と夜道を歩く。危機管理がザルである。真一郎は此奴危機管理能力大丈夫か?と自分を棚に上げて思った。隣を歩く武道を見つめると楽しそうに笑い、だが何処か寂しそうな笑顔をするその子供を真一郎は大切にしたいと思った。そしてこの手の中に閉じ込め二度と外には出さないとも内心気持ちが渦巻いた。
愛しい愛しい武道、早く俺の中に落ちてきてくれよ。真一郎は隣で正体も分からない自分に楽しそうに話す武道に愛が湧いた。
家へと帰るとボロアパートなそれに真一郎は顔には出さずに驚くが、武道が何も気にしないように鍵を開け入った。真一郎の方を向いた武道は柔らかい慈悲の笑みを浮かべ、真一郎へと向くと告げる。
「今日はありがとうございました。またね真一郎くん」
「ああ!またな武道」
愛する者が居るとはこんなに世界が輝くのかと、真一郎は世界が輝いたように思い色が付き輝く世界は素晴らしいと思った。灰色の世界に色を付け輝きを与えた武道を想い真一郎は玄関の扉を見つめる。
「絶対俺のものにするからな。武道」
そしてカンカンと音をたて階段を降りる。空は闇夜で星すら見えないが愛する人の事を考えると、輝いて見えた。
それから武道の元へ真一郎は度々現れて、帰りに一緒になり帰ったり、休日一緒に食事に行ったり、武道の家で寛いだりと色々と仲を深めていった。真一郎の人柄を知る度に、とても良い人なのを実感して何時しか武道は恋をしていた。
大人で武道を全力で愛する優しいけど少し意地悪な真一郎に、武道は告白の答えを返さないでいた。いつか別れるくらいなら言わない方が良いと思って、真一郎との時間を一分一秒大切にした。
そんなある日夜闇の中で武道が歩いていると、道端に高級車が止まってるのが見えた。普段は気にしないが歩みを止めその車から降りる人を見る。サラりとした短い黒髪を揺らし黒曜石の瞳は何も写さずその瞳は退屈そうに厳つい部下を両脇に携え店に入って行く。グレーに黒龍が刺繍されたスーツを着た真一郎は、武道に気づかずに店へと入って行った。
武道は直ぐに悟る。住む世界が違うと、自分が隣に到て良い人間では無いのだと、彼と時を歩めない事は武道には辛く胸に突き刺さり抜けない氷の刃のように胸を冷やして行く。涙が流れては地面に落ちて染みる。武道はその場から駆け出すと振り向かずに真っ直ぐ家へと帰った。
それから武道は少しの荷物を纏め何とか稼いだ金でネットカフェへと止まっていた。
痛い出費だが真一郎から隠れるのにはこの迄した方が良いと武道の感が語っていた。バイトに行くのと食事を買い込む以外は武道はここから出ていない。真一郎はどんな手を使って探すか分からない、だからこそ武道も此処に籠るのだ。
ビルの最上階にある銃口な扉の奥に真一郎は座っていた。重厚な机に椅子に座り手を合わせ机に肘をつきながら、トントンと片足を揺すりながら、体型に合ったグレーに龍が渦巻くスーツを着て、目の下に真っ黒な隈を作りながら怒るような無表情の虚ろなだが怒りを底から無限に湧く瞳で前を見据える。
「………………見つかったか」
真一郎が目の前の片目に傷がある男にそう告げるが、男は真一郎の異様な雰囲気に気圧されそうになるのを耐え告げる。
「未だ見つからないがワカ達が探している」
「もう一週間だ。一週間武道が見つからない」
「落ち着け真一郎。少し眠れ」
真一郎は武臣に眠れと言われ理解は出来るが、眠れないのだ。武道と会い安心して毎晩眠りに着いていた真一郎は、自分の懐に入れた唯一の番が自分の前から消えた瞬間暗闇に落ちたような絶望が襲い、目の前が真っ暗になった。武道が消えた、自分の前から、何故逃げた、理由はなんだ、考えるも真一郎の頭には浮かばず武道が真一郎の前から逃げた事実は絶望の底へと落とした。
真一郎の目の前は今は闇しかない。色が無い世界は灰色で世界は輝きを失った。武道が逃げた世界は暗黒で真一郎の生きる意味を無くしたまで思っている。
地位も金も全てを手に入れた真一郎は、それを手に入れても満足しない世界に武道が洗われた。唯一人生で絶対に手に入れたいと渇望したのが武道だった。
あの日道端で衝突した時から武道は真一郎のものである。他の誰にも、武道自身にさえ渡さない真一郎だけのものだ。それを自覚していない武道は逃げ出す愚行に出た。あんなにアピールしていたのに鈍感な猫は分からないのだ。自分が真一郎にとってどれだけ価値がある物かを。
裏社会を統括するトップに登りつめた真一郎の唯一大切なものなのを、理解してない武道にはお仕置をしなくてはいけない。
「捕まえたら目の前に連れてこい」
真っ暗な闇を煮込んだ目で言う真一郎に、武臣は畏怖を抱きながら頷いた時、ドアが開き若狭が入って来た。
「真ちゃん見つかったよ」
報告に来た若狭の後ろには慶三が紐で結んだ武道が連れて来られていた。真一郎は目を細め笑顔を携えたのに、武道は安心した笑みを浮かべたが瞬間無表情になった真一郎に、怒りを突破してる事を悟った武道が震える。
真一郎がコツコツと靴音を鳴らし、座る武道の前に屈んだ。闇に染まり呑み込まれた瞳が武道を見つめる。
「何で逃げた」
真一郎の一言に武道は口を噤んだ。言えない、言ってはいけないのだと武道は自分に言い聞かせるが、武道には選択権が無い事に気づかない。真一郎は目を逸らし噤む武道の顎を持ち無理やり目を合わせる。
「なんで俺の前から消えたか聞いてんだよォ!武道!!」
真一郎の本気の啖呵に武道は恐怖で震え泣きながら答える。こんなに怒る真一郎は知らないと思うも、自分が怒らせた事に罪悪感が湧きながら自分を想い怒る事に嬉しく思う武道がいた。
「お、おれ……真一郎くんがずきだがら、迷惑かけない、ように、住む世界が違うから、おれなんかじゃ、ダメなんだって……思って……」
真一郎は武道の言葉を聞き、消えた理由が本当の自分の姿を見られた為に要らぬ勘違いをしたから消えたと言う武道に、愛しく思うと同時に怒りが湧き上がってくる。此奴に誰のものか分からせないとな思った真一郎は、怒りを抑えるが殺気が漏れてる事に気づかない。
「お前が誰のものかなんて決まってんだよ。初めてあの路地裏に連れ込んだ日から、お前の全部は俺のものになってんだよ。体も心も戸籍も俺のものだ。指示一つでお前の存在をこの世の中から消せるんだ。けれどお前が大好きだから共に過ごす中で愛しさが膨らんで、けどな武道、お前は俺の前から消えたか。俺はこんなに愛しているのに、なぁ、俺反社のボスしてるんだ。その世界じゃトップに上り詰めて龍王なんて言われてる」
真一郎は少し貯めると息を吸う。
「金、地位、権力、全てを手に入れても俺には要らない物で満たされない。そんな時お前が現れてその蒼の瞳に見せられた時、絶対に手に入れようと決めたんだ。
お前だけなんだよ、武道俺が本気で欲しいものは」
真一郎のその言葉に武道はボロボロと涙を流し真一郎を見つめる。その瞳は歓喜と愛で満ちていた。
「俺でいいの」
「お前が良いんだ」
「俺、何も出来ないよ?」
「そんなの知ってる」
武道の縄を解き真一郎が抱きしめると武道も抱きしめ返す。真一郎のスーツを濡らす武道に、後で買い換えないとなと思うが愛する者が戻って来たのを真一郎は噛み締めていた。
だから真一郎は忘れていた、自分が寝ていない事にここ一週間徹夜をしていた事に。意識がブラックアウトして気づけば武道を抱きしめた儘寝ていた。
武道は突然増した重みに驚くと、真一郎が眠っている事に驚きに目を開き必死で180cmの身体を支える。とても重い。
周りが驚いたように武道を見つめ若狭が口を開く。
「驚いた。真ちゃん寝てら」
「あの寝室で寝てても気配がした瞬間起きる真一郎が起きないのはすげぇな」
若狭と武臣が好き勝手言いながら、武道は疑問を投げかけるように答える。
「真一郎くんいつも俺の傍で寝てる時は余程の事が無い限り起きないですけど……」
周りが目を見開き武道の言葉の後に大声で笑うと、真一郎を慶三が持ち上げ寝室へと連れて行く。
「お前も一緒に真ちゃんと寝てやって。真ちゃんずっと寝てなかったからお前が隣にいると寝れるからな」
若狭の言葉に真一郎の部屋に着くと奥の寝室の大きなベットに驚き立っていると、周りに急かされ武道も入り真一郎の傍に寄ると抱きしめられた。寝ているのに力の強い真一郎に武道は髪を梳くように撫でると、力が弱まり呼吸も落ち着いた。
これからどうなるかは分からないが、真一郎と一緒なら何とかなるだろうと思った武道は真一郎を抱きしめ自身も目を瞑る。
色々な事が合った。けれど全ては此処に繋がった。武道はその事に後悔等していない。軈て思考は闇に溶け眠りに着いた。
黒龍のボスが最近愛人を囲っていると話題になっていた。アジトの最上階の奥にあるボスの部屋に囲われたその人はボスの寵愛を一心に受けていると聞く。どんな奴があのボスを射止めたのだろうと話題になっていた。
真一郎は今日の業務が終わり部屋に帰っていた。裏切り者を始末し、手違いで一般人に手を出した部下の始末をした散々な日であるが、武道が部屋に待っているだけで頑張れた。
部屋の重厚なドアを開けるとネクタイを緩めスーツの上着を脱ぎ寝室へと入る。
「武道いい子にしてたか」
伸びた金髪がフワリと揺れこちらを向くと、武道が笑顔を浮かべた後、出来の悪い子供を叱るように真一郎に叱る。
「おかえり!あー!またジャケットとネクタイ脱ぎ捨てたでしょ!!誰が疲労と思ってるの!」
「悪ぃ」
全く気持ちの籠らない言葉に、武道は溜息を着くと鎖に繋がれた片足を下ろし床を素足でペタペタと歩く。ソファにあるジャケットとネクタイを拾うと寝室へと戻りクロゼットへと掛けた。
「もー!今度からはやって下さいね!」
真一郎はそんな妻のように怒る武道を見つめ、態とやっている事に武道も気づいてるが怒る顔が可愛くやってしまう。
真一郎の来ていたオーバーサイズのシャツを着ただけの武道が、ペタペタと真一郎の元へやって来ると真一郎がキスを一つ唇に落とし武道を見つめる。
「いい子にしてたか」
「真一郎くんこそ」
「反社にいい子を求めるなよ」
真一郎がクスクスと笑うのに、武道もくふくふと笑い温かい空間が広がる。とても幸せである。
「なあ、武道本当に良かったのか」
何とは言わず武道の自由を奪ってまで真一郎といる事への問いかけだったが、武道の答えは決まっていた。
「もーまた?俺が望んだ事だよ」
武道の言葉に真一郎は嬉しげに笑みを浮かべると、強く抱き締め肩に顔を渦める。存在を確かめるように強く抱き締める真一郎に武道は微笑むと強く抱きしめ返した。
誰にでも強いフリをする真一郎が唯一武道にだけ弱さを見せるのが好きだった。強いけれど弱さを隠す男が、とても弱い事を武道は知っている。それこそ武道が居なきゃ満足に寝れないくらいにはこの男は弱い。
身動ぐ真一郎が武道の腕を引き布団に押し倒す。
「ちょ、真一郎!」
「夜はこれかだからな武道」
暴れる武道にキスをして止まる事に真一郎は笑う。武道はキスに弱いのだ。
蕩ける思考の中で武道は思う。存外自分はこの男に弱いのだ、それこそ初めて会ったあの日から。弱さを隠すこの男に絆されている。
狡い奴だと武道は思うが、その狡い奴を好きになっている自分はもう手遅れなのだろう。なら何処までも一緒に堕ちてやろう。地獄の最果てまででも。
目の前で武道を貪る男を見つめる。
青年が唇を"愛してる"と動かしたのに男は気づかない。