ひまわりにかくされるくるくると廻る花畑の中、少年は笑顔を浮かべ黄色い絨毯を駆け回る。くるくるくるくる、バタバタバタバタバタ、少年は花畑の中を走り回り海へと抜ける。
それを見ていた黒髪の青年は不安げな、迷子の子供のような顔で手を伸ばしていた。
『行かないでくれ……タケミチ…』
親を無くした子のように佇む男の手は空を伸ばし誰にも届かない。やがて少年は海から戻って来た。
変わる景色を眺める。青年はそれを物珍しげに眺め外を見つめる姿は、久しぶりに外に出た様子だ。肌白く暫く日に当たらない肌は年中透き通るような白さで、青年はそれを嫌に思いながら誇りにも思っていた。
流れる景色を見るのも飽きた青年は、隣の運転する男に話しかける。
「ねぇ、真一郎。向日葵畑いつ着くの?」
男は青年に視線を寄越すと前を向き答える。
「あと一時間だな。久しぶりに出かけるから疲れないか?」
真一郎の言葉に武道は笑みを浮かべ答える。その姿に青年は胸の中に歓喜が湧き上がった。自分にそんな顔を見せる恋人に。
「そっか……なら音楽でも聴くか」
武道はCDを車の機械に入れ聴き始める。
曲は『愛の幽閉』 男が一方的に女を監禁する歌だ。
武道はそれを聴きながら鼻歌を唄う。真一郎はその姿に複雑な感情で聞いていた。胸が締め付けられるようなそんな想いで。
車を停めて外に出ると一面花畑が広がり、黄の絨毯が広がっていた。そこには向日葵畑が一面に広がり、武道はそれを見て満面の笑みを浮かべ走りゆく。
「わー!!見て!真一郎!!向日葵凄いよ!!」
真一郎は向日葵畑に走る武道の後を着いてくく。武道は一面黄の花の中を走り回り、隠れんぼをしたりしながら遊んでゆく。普段外に出さない分疲れないか心配だが杞憂のようだ。武道が畑の中にいる姿は儚くて、真一郎は武道が陽炎のように見えるのに涙を流し手を伸ばした。
畑を抜け海に走りゆく武道が消えそうで、立ち竦む真一郎は持た付きながら後を追う。まって、行くな、と感情が先走り武道が麦藁帽子を抑えながら海を眺める姿がまるで夏の陽炎のように不確かなら物に見えた。
後ろから抱きしめた真一郎が叫ぶ。
「武道!!行くな!!」
武道は振り返り真一郎を見つめると、彼の頭を撫で子を宥めるような優しげな声であやす。
「どうしたの?真一郎」
真一郎が彼を強く抱きしめるその姿は、宝物を無くさないように抱きしめる子供のようだ。
「…………武道が消えそうに見えたんだ…夏に攫われそうで、どっかに行きそうで……」
その答えに武道は一拍し微笑むと真一郎を撫で諭す。
「俺はどこにも行かないよ。真一郎の所だけにいるよ……」
真一郎は更に強く抱きしめるのに武道は優しげな声で呟いた。
「帰ろうか………ね?真一郎」
真一郎は肩に顔を埋めたまま頷き手を引く、武道は素直にその後に着いて行った。
家に帰ると真一郎と武道が丹精込めて作った料理を並べた。パーティをするように豪勢な料理は誰かの誕生日を思わせる。今日は武道の誕生日だった。
真一郎が蝋燭に火をつけ灯りを消し二人の顔が暗闇に浮かぶ。
「誕生日おめでとう武道……今日で26回目の誕生日だ…俺と会ってから25回目だな」
武道は蝋燭を消すと真一郎を見つめた後、ケーキを切り分けた。真一郎は皿を受け取りケーキを食べる武道の姿を見てゾクリと背筋に快楽が走る。
今食べる武道のケーキには真一郎の血が含まれている。本当に分からない程度の微量な血は、真一郎が腕を切り垂らした新鮮な血だ。その血が武道の身体の中に入ってゆき、栄養になるのが自分が武道を形成しているようで嬉しくなる。
「美味いか武道」
武道は食べてたケーキから顔を上げ、クリームが付いた顔で笑う。
「うん!美味しいよ真一郎!」
真一郎は深める笑みを隠し胸の内で呟く。
『あぁ…最高だ』
真一郎は幼馴染を監禁していた。
一歳の時に親同士が幼馴染で武道と真一郎を合わせた。その日の事を真一郎は記憶は無いが感覚で覚えているほど衝撃な日だった。真一郎はその日一目惚れを経験した。
その日から真一郎は武道にベッタリになった。武道を守るナイトになろうと必死になり、武道の危機は直ぐに排除するほど心髄していた。
いつしか傍に居るのが当り前になり、それに満足していたはずだった。だが武道が人を誑し込む度に胸は乾きを訴え、武道を閉じ込めろと囁いた。アイツは俺のだ、誰も触るな。俺のものを、俺の武道を。内なる獣が囁く。真一郎は葛藤したそれはそれは苦しみ、叫び答えを出した。
そうだ監禁しよう。そう決意してから真一郎は早かった。部屋を用意し親を丸め込み全てを済ませ武道を攫ったのに彼は嫌に静けだった。まるで全てを悟っていたように。
『お前良いのか……!もう外には出れねぇんだぞ!!』
『俺は真一郎に着いていく』
『………逃げるなら今の内だぞ』
『俺を真一郎のものにして』
その日真一郎は全てを捨てる覚悟で武道を監禁した。その日から武道は真一郎だけのものになった。
武道がケーキを食べる姿に真一郎は嗤う。
彼と歩む未来が最高な幸せになると確信して。
龍は嗤う。