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    saezimakun

    @saezimakun
    主にばじふゆエロ小説投下してます。

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    saezimakun

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    12月上旬発行予定のばじふゆが修学旅行に行く本のサンプルです。
    詳しくは支部をご参照ください。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16494875

    #ばじふゆ
    bajifuyu

    ばじふゆ修学旅行本ばじふゆが修学旅行に行く話です。
    それっぽいしおりを作ったりしていますが、ばじふゆが一緒に行動してほしいという基本的欲求に忠実に作ったものなので、かなり都合よく計画されています。
    ばじふゆ以外の同じ学校の登場人物及び、宿泊先等は捏造です。
    USJのハロウィンは、2017~2019年あたりのものを適当に捏造しています。

    ※血ハロの日程に敢えてぶつけています。
     これは血ハロが起こらない世界線です。



    修学旅行ばじふゆ

    「解散!」
     ドラケンくんの号令と共に、定例集会が終わった。
     今週は割と平和だった。ちょっかいかけてきたクソ雑魚暴走族をノして、あーいい汗かいたとバイクで集会場所に戻ってきて、成果を確認して、本日は終了。今日も場地さんはかっこよかった。
     そんじゃあまた来週解散となったところで、場地さんが思い出したように切り出した。
    「あー、俺と千冬来週の集会出れねーワ」
    「えー、なんで?」
     こてん、とマイキーくんが首を傾げる。
     このポーズだけ見ると、年相応どころか幼さすら感じさせる仕草だが、この人さっきの喧嘩でもかかってきた連中をボッコボコにして地面に這いつくばらせてたんだよなァ。いやオレもバチボコにしてやったけど。
     場地さんに舐めた口利いた後吹っ飛ばされて、秒でノックダウンしてたのは口ほどにもなさすぎた。来世でやり直してこい。
     ひょいっと身軽な動きで石段を飛び降りたマイキーくんは、場地さんの元へと駆け寄ってきて「二人で出かけんの?」とニヤニヤ聞いてきた。
     マイキーくん、場地さんの幼馴染だけあって、他とはちょっと違う感情を抱いているように見える。
     それを知っているのか知らないのか、いつもの感じで、事も無げに場地さんは返答した。
    「修学旅行」


     十月二十九日、朝六時。
     いつもよりも早く目が覚めた。その上昨晩は中々寝付けなかった。遠足前の小学生じゃあるまいし。
     無理もないだろう。何てったって今日から場地さんと修学旅行なのだから。
     京都大阪奈良。二泊三日の旅。
     朝七時半に学校に集合して、バスで東京駅まで連れてかれて、そこからは新幹線で新大阪駅まで二時間半。そっからまたバスで奈良へ。
     こんなに遠くに旅行に行くのは、初めてだった。母ちゃんは仕事で忙しいこともあって、なかなかまとまった休みが取れない。ペケJを飼い始めてからは特に、日を跨いで家を開けるようなことは無かった。
     それこそ、小学校の修学旅行で鎌倉に行った程度だ。当時はイキリ始めだったオレにとって、クソつまんねー行事だった記憶しかない。
     けど今は、場地さんと一緒に旅行に行けるのだと思うと、期待に胸が弾んだ。同じ団地の、しかも同じ棟に住んでいるので、頻繁に互いの家に泊まったりもしていた。俺たちよりも先に顔見知りになっていた母親同士も、夜勤がある時に安心だと勧められているくらいだ。親公認っていうヤツだ。友達を超えて、恋人同士になっていることは流石に伝えられていないけど。
     いつもの登校時間より早くに集合しなければならないので、布団から出て大きく伸びをした。同じベッドで寝ていたペケJは、相変わらず丸まって眠っている。
    「母ちゃん、修学旅行中ペケのメシよろしく」
     朝食後、昨日の夜のうちに場地さんと忘れ物がないように確認しながら詰めた旅行バッグを持って、玄関に立った。
    「わかってるよ、いってらっしゃい」
     手を振る母ちゃんに見送られて、ドアを開ける。
    「はよ、千冬ぅ」
    「おはようございます、場地さん」
     上の階に住んでいる場地さんが、ちょうど階段を降りてきたところだった。オレよりもコンパクトに荷物をまとめていた場地さんが、学校でのガリ勉スタイルで手を挙げた。うん、場地さんは今日もカッケェ。
     ガリ勉スタイルは仮の姿。本気を出すときに髪の毛を解き、伊達メガネを外して真の姿を見せるってのが尚の事超かっこいいのだ。
    「寒いっすね」
     すっかり気温の下がった、早朝の団地の駐車場でグスッと鼻水を啜った。日中は暖かいので、寒暖差にまだ身体が慣れきっていない。
    「首元あったかくしとけよ」
    「うっす」
     制服のジャケットの中に着ている、フード付きのトレーナーの襟元を寄せた。
     いつもより早く家を出て、人通りの少ない道を歩く。普段は合わない犬の散歩をする爺さんや、朝練に向かうジャージ姿の高校生とすれ違いながら、いつもより重い荷物を持って並んで歩いた。
     7時すぎに学校に到着した。学校の前には車が何台か止まっていて、大きな荷物を下ろしたりしている生徒もいる。クラスごとに整列したところで点呼があり、出発式と称して実行委員の挨拶やら教師からの注意事項などを聞いたのち、いよいよ出発となった。
     バスに乗る組み合わせは、運良く場地さんと同じ号車に割り当てられている。
     しかも乗り込んだ順に座れるので、オレたちは窓側の通路側で隣同士に座った。全員が乗り込んだところで、バスが出発する。
     流れて行く見知った景色を眺めながら、隣の席の場地さんの横顔を盗み見た。場地さんと遠出出来るなんて、初めてのことで滅茶苦茶ドキドキしている。同じ団地に住んでて、お互いの家に泊まることなんてそう珍しいわけでもないのに何を言ってんだって話だが、ただのお泊まりと旅行は全然違う。
     場地さんとは、泊まる部屋も一緒だった。厳密には一泊目の宿では他の面子、今野と山岡もいる四人部屋だったのだが、どういうわけかその二人は別の部屋に遊びに行ってそのままそっちで寝るからと言っていた。別に変な気ィ回さなくてもいいってのに。
    「千冬ぅ」
     ガリ勉スタイルの場地さんが、しおりを眺めながら声をかけてきた。
    「今日行くホーリュージ?って何があんだっけ」
    「世界で一番古い木造建築、とか教科書に載ってましたね。聖徳太子が作ったって」
    「ショートクタイシ」
    「うす」
     場地さんにはちょっと難しかったかもしれない。反省した。
    「一度に十人の話を聞き分けた奴らしーっすよ」
    「いや一人ずつ話せよ」
     もっともな話だ。東卍の集会だって、キッチリ一人ずつ話す。一気に十人が話しかけてくる状況ってのが謎だ。その話は置いといて。
     特に一日目、今日の行先である奈良は仏教建築物やら国宝ばかりで、歴史の教科書を読んでいるだけで寝落ちする場地さんには厳しい気がしてならない。
     ま、オレが全部説明すればいいだけだ。最近場地さんに教えるために以前より勉強していたおかげで、テストの点数が上がって母ちゃんに褒められた。
     そんな話をしていたら、あっという間に東京駅に着いた。バスを降りて、ボストンバッグを受け取ると駅構内に向かって歩いていく。
     新大阪行きの新幹線。クラス毎に座席が指定されているので、残念ながら場地さんとは別々の号車だ。しかしオレに抜かりはない。事前に場地さんの隣の奴と交渉して、発車後席を代わってもらうように手配していた。
    「あ〜松野、場地の隣がいいもんな。オッケー」
    「お、おう……?」
     交渉というよりも、しおりを手にそいつに会いにいくと、顔を見ただけで全部察されていた。秒で終わった交渉に、拍子抜けで妙な声が出てしまった記憶がある。
     そんなこんなでめでたく場地さんの隣をゲットし、十三号車から場地さんのいる十四号車へ向かった。
     十四号車、前から七列目、二人席の窓際。そこに場地さんがいた。
     窓に肘を置いて、外の景色を眺めていた場地さんは、俺の存在に気づくと「おー」って軽く手を挙げた。場地さんに歓迎されているのが嬉しくて、いそいそと隣の座席へ腰掛ける。
    「千冬ぅ、お前浜本と席変えたのかよ」
     なんて言われながら、「はい!」と答えれば場地さんが目尻を下げた。ウッ微笑んでる場地さん尊すぎる。サンキュー、世界。一刻も早く国宝に認定すべきでは?
    「新幹線とか、初めてのるワ」
    「そうなんですか?」
    「千冬はあんの?」
    「親の実家が地方なんで、その時に」
    「へー」
     そう言って目を細める場地さんを見てると、場地さんの初新幹線という記念すべきイベントに立ち会っていることに、猛烈な感動が襲ってきた。
     そっか……初めてなんだ。場地さんの初めてにオレが立ち合えることに嬉しさを噛み締めつつ、興味深そうに車窓を眺める横顔を見ていた。
     他の連中は車内でトランプやらUNOやらで時間を潰していたが、場地さんはきっと新幹線での旅ってやつを楽しみたいんだろう。
    「千冬ぅ、今どこだ?」
    「浜松です」
    「どこだそれ」
    「静岡県っすね」
    「さっきも静岡って言ってなかったっけか?」
     なんて取り留めのない話を続ける。こんな些細な時間が心地よい。静岡を走っていた新幹線は、やがて愛知、京都を通過した。そろそろ降りる準備をしろと教師からの指示があって、降車の準備をするべく場地さんと別れて一旦元の席に戻った。


     新大阪駅で下車し、そのままバスに乗り込んだ。新幹線での座席順に降りて真っ直ぐバスターミナルに向かったので、残念ながら場地さんとは隣に座れなかった。
     大阪から奈良まで、約一時間。途中弁当が配られて、車内での昼食になる。食後独特の眠気に誘われながら、うとうとしているうちにバスは法隆寺に到着した。残念ながら法隆寺ではクラスごとの移動になるので、場地さんと行動することは出来ない。残念だ。本当に残念だ。
     場地さんにわからないことがあった時に、すぐ側でオレが答えられたらよかったのに。マァ、この後の班別行動では勿論場地さんと同じ班なので思う存分一緒に行動できる。
     別のガイドについていく場地さんを視線で追うと、向こうもこちらを見ていて目が合った。ニカッとした笑顔を見せてくれたことに嬉しくなって小さく手を振ると、場地さんも返してくれた。あー、やっぱ場地さんの笑顔は世界を救う。大好きだ。

    ***
     
     ホーリュージをガイドの説明を聞きながら歩くが、さっぱりわからんってのが正直なところだった。
     いやマジで何を言ってるのかわからん。とりあえず、千冬が言ってた通り世界で一番古い木でできた寺でスゲーってことしかわからなかった。
     眼鏡をかけて真面目っぽく取り繕っているおかげか、ガイドのオネーサンは妙にこちらに視線を向けて色々と説明してくるが、本気でわからんので取り敢えずそれっぽく頷いておいた。
     そう考えると、千冬はいつだってオレの目線に立って説明をしていた。
     一度の説明で俺が理解できなくても、何度でも根気強く説明を重ねた。テスト前は俺が赤点取らねェように、一緒になって勉強した。いやでも赤点なんだけどな。
     けど前よりはマシな点数だからって、補習に出れば進級には問題ないってレベルの扱いになった。かーちゃんは、千冬くんには足を向けて寝れないって言ってたっけ。
     だからこそ、千冬のいない時間は酷く退屈だった。伊達眼鏡のお陰で、周囲にはそんなにバレてはないと思うが、早く終わんねえかなと思いつつ時間が過ぎていく。
     法隆寺での見学を終えて、再度バスに乗り込む。次は班別の自由行動だ。自由っつっても勿論行ける範囲は限られてるンだが、当然のように同じ班になっている千冬と一緒に動けることが楽しみだった。

    「場地さん!」
     駐車場に降り立ち、班ごとに集まっているところで、千冬が駆けてくる。
     輝かんばかりの笑顔でこちらに来る千冬は、さながら飼い主を見つけた犬のようだった。オレたち以外の班メンバーである奴等も、同じことを思ったに違いない。
    「じゃ、そろそろ行くか」
    「はい、ガイドは任せてくださいっ」
    「流石場地専用ガイド松野」
    「張り切りレベルが違う」
     男しかいない四人班。オレ以外は、それぞれ千冬とオレのクラスから一人ずつ。いずれも同じ部活だとかで、駄弁れる程度の仲だった。
     気の良い奴らで、オレが一年ダブってても、タメと変わらない態度で気軽に接してくる。たまに千冬が目を釣り上げることがあるが、こちらとしては変な遠慮をされるより気が楽だった。
     千冬が休み時間毎にオレのクラスに遊びに来るのは、最早周知のことだ。最初はバチバチにキメていたリーゼントも、出会った直後オレが頭を撫でて以来止めてサラサラ指通りが滑らかな状態に下ろしている。
     そんな千冬の変化に、気づかないほど周りも馬鹿じゃない。
     場地さん!場地さん!とわんこのように駆け寄る千冬は、もはや名物と化している。そんなんが一年以上続けば、慣れてくるものだ。
    「千冬ぅ、どこ行くんだっけ?」
    「東大寺は混むので、最後っす」」
     千冬曰く今いるのが、そのトーダイジ大仏デンの駐車場で、最終的な集合場所もここだ。ダイブツが大仏ってのは辛うじてわかった。大仏全然見えねえけど。他の班がまずこの辺りを回るので、敢えてオレ達は最後にしようという作戦だった。
    「まずは春日大社に向かいます。その道中、思う存分鹿と戯れましょう」
     千冬の目がキラリと光った。

    ***

     鹿と戯れる場地さんは尊い。ハイ、ここテストに出ます。
     近場の建物に入っていく連中の波から外れ、奈良公園を経由して春日大社に向かう。神社仏閣ばかりの奈良で、場地さんが楽しめるポイントは、ぶっちゃけ奈良公園しかないと思っていた。それも、混まないうちに散々戯れて、残りの時間を神社仏閣に当てようという算段だった。
     場地さんの動物好きは、同じクラスにいる西野は知っていたらしい。飼育栽培委員以外なろうとしないのと、よく動物関係の本を読んでいるからだとか。ちなみに、同じ班で場地さんと同じ二組なのが西野で、オレと同じ三組なのが東城だ。卓球部で東西エースとか言われているらしい。どうでもいいことだけど。
    「すげー、流石奈良。鹿がめっちゃいる」
     奈良公園に到着すると、芝生の上でたくさんの鹿が群れていた。昼過ぎなので、座り込んでウトウトしている鹿もいる。
    「お、鹿せんべい売ってんじゃん。買おうぜ」
     東城が指さした先には、デカデカと鹿せんべいの看板がかかっている屋台があった。屋台といってもいいのか悩むほどには小さく、パラソルを差した下におばあさんが一人で座っていて、テーブルの上に鹿せんべいが並んでいた。
     一袋五枚入っていて、百五十円。四人で買うには割り切れない、微妙な量だ。
    「俺と東城とで一袋買うから、松野は場地と買えよ」
     暫し悩んでいると、西野が助け舟を出した。二枚半ずつに分けている二人を横目に、場地さんが颯爽と百五十円を払ってしまった。財布の中には奇跡的に七十五円が入っていたので、慌てて場地さんに差し出した。
    「すみません、払ってもらって」
    「んなの、別に気にすることじゃねェだろ。ほら、手出せ半分こ」
    「うっす」
      両手を差し出すと、その上に一枚、二枚、と鹿せんべいが乗せられて、そして最後の一枚が場地さんの手によって半分に割られた。オレとしては別にどうせ鹿に食わせるモンだし、無理に半分こに拘る必要はなかったのだが、そこは場地さんも譲らないらしい。
     せんべいを持っている観光客に、鹿達の目が光った。
     そして、まるで「今だ!」というタイミングを見計らっていたかのように、一斉に群らがってくる。特に場地さんは大人気だった。一頭ではなく、何頭もの鹿達が代わる代わるやってきては、場地さんの手から鹿せんべいを齧る。
     西野達のところにいた鹿も、いつの間にか吸い寄せられるように場地さんの方へ近づいていった。あっという間に場地さんのせんべいは無くなってしまった。
    「オレのもどうぞ」
    「いや、お前金払ったじゃん」
    「場地さんと鹿が戯れているのを見てるだけで、百万の価値があります」
    「なんだそれ」
     意味わかんねェ、とケラケラ笑いながら、催促してくる鹿達を見てしょうがないヤツらとでも言いたげに手を伸ばして受け取ってくれた。
     再度鹿達のアイドルと化した場地さんを、デジカメに収めていく。各班でのカメラ係をもぎ取っているので、データは場地さんばっかりになりそうだった。仕方ないので、西野と東城もちょっとは撮ってやった。

    ***

     鹿と戯れる場地さん尊すぎる事件により、奈良公園で結構時間を食ってしまったオレたちは、急いで春日大社への道のりを歩いていた。気づいたら三十分近く経ってしまった。
     石段を登り、ニノ鳥居を越えてさらに登っていくと、鮮やかな赤の社殿が姿を現した。
    「めっちゃ赤ェな」
    「っすね」
     ちょうど紅葉の季節にぶつかったおかげか、境内に多く植えられている黄色のイチョウの葉と赤い社殿のコントラストが鮮やかだった。
    「場地さん、写真撮りましょう」
    「いーぜ、撮ってくれる奴探すか?」
    「いや、場地さんのピンの写真が撮りたいんで」
    「いや修学旅行なんだから、班のメンバーで撮るだろ」
     普通に正論を言われてしまった。結局、近くにいたおじいさんに撮るのを依頼して、班メンバーでの写真、それから妙な気を回した東城の発案でオレと場地さん、西野と東城の二人ずつでも撮ることになった。だがこっそり隙を窺って、イチョウを見上げる場地さんを激写したのは許して欲しい。どうしても欲しかった一枚だった。
     一通り写真を撮り終えたオレ達は、社務所に向かった。
     ピンク色の小袋が並ぶ辺りを物色していると、場地さんが不思議そうに見てきた。
    「お前、何買おうとしてンだ?」
    「そういや、タケミっちが縁結びのお守り土産に欲しいとか言ってたんで」
    「あいつ彼女いんだろ」
    「彼女との縁が末長く続くように〜的な意味じゃないっすかね」
    「ふーん」
     春日大社は縁結びでも有名な神社らしい。途中いくつもそれらしい社があって、彼女が欲しいと常々嘆いている東城が拝むように手を合わせていた。
    「これでいいんじゃね?」
     場地さんが指さしたのは、藤の刺繍が施された小さなお守りだった。流石場地さん、センスが良い。即決で決めると、タケミっちの分と、それからお相手のヒナちゃんの分も買うことにした。どっちかというと、後者の方がこのお守りのデザイン的に需要があるだろう。
    「松野、場地〜、国宝殿も寄ってく?」
     彼女ほし〜と言いながら自身も縁結びのお守りを買っていた西野が、社務所の脇の看板を指さした。春日大社国宝殿の案内板だ。国宝殿って書いてあるには、その名の通り国宝がいくつも収められているんだろう。
    「場地さん、どうします?」
    「せっかくだから、寄ってくか」
     鹿に無駄に時間をかけてしまったおかげで、残り行けるところは限られている。流石ない東大寺に行かないのはまずいとして、それ以外で下手に別のところに入って残り時間を気にするよりは、ここでじっくり見ていくのも手だろう。
     受付で所定の料金を支払い、綺麗な作りの建物の中に入っていく。
     寄ると決めたは良いが、展示物はあまり馴染みのないものばかりで、なんかスゲーってことしかわからず眺めるばかりだった。
     ふと、前を歩いていた場地さんが足を止めて、ある展示品を見上げた。
    「舞楽装束、蘭陵王?」
    「全然意味わかんねェワ」
    「えーっと、中国から伝わってきた舞って踊る舞台の、有名な作品の衣装みたいです」
     こんな説明でいいのか不安だが、とりあえず伝わったらしい。ふーん、とそれをじっと見ている。舞台衣装なだけあって、リアルにモデルになった人はこんなの着てなかっただろうなってくらい派手だった。
    「蘭陵王っていう、中国の超強い将軍のみたいなんですけど、なんか顔と声が良すぎて身内が見惚れて戦いにならないで敵に舐められるのを防ぐために厳つい仮面かぶって戦に行ったらしいっすよ」
    「なんだそれ」
     意味不明すぎるだろ、と場地さんが笑う。昔の逸話だし、当然盛ってるところはあるだろう。
    「つか、戦いは顔じゃねーだろ。確かに声が通れば士気は上がるけどよ」
     そういう意味では、東卍ではトップのマイキーくんも、その次のドラケンくんも声がよく通る。彼等の声が響くだけで、この喧嘩勝てるっている安心感がある。
     それは場地さんも同じだ。マイキーくんとは違って、低くて艶のある声。喧嘩に集中する時は、ガリ勉モードとは一味違う束ねられた髪の毛が揺れて、そこに場地さんがいるって一目でわかる。喧嘩中の場地さんの表情は、まさに獰猛な肉食動物のそれで。思い出すだけでも胸が痺れる。カッケェ。
    「でもこの人、最期は有名になりすぎたのを妬まれて、有る事無い事噂されて。それを信じた上司である皇帝に毒を贈られてそれを飲んで死んだらしいですよ」
    「……へぇ」
     まさに出る杭は打たれる、と言ったところか。それまで散々成果を上げて信頼していた部下を、簡単に切り捨てる皇帝は控えめに言ってクソだなって思った。そんな悲劇で人生の幕を閉じたからこそ、蘭陵王の逸話には箔が付いて、死後他国で舞楽になるほど有名になったんだろう。
    「例え話だけど」
    「場地さん?」
     急に静かになった場地さんが、いつも以上に低い声で聞いてくる。
    「もしオレが、突然お前を裏切ったらどうする?」
    「なんですか、突然」
    「だから、例え話だっつーの」
     場地さんが裏切る。考えてみても、いやそんなこと有り得ないだろって終わってしまう。場地さんがオレを裏切るってことは、即ちオレだけじゃなくてマイキーくん達東卍そのものを裏切るってことだ。マジで有り得ないな。
     とはいえ、場地さんが望んでいるのはそんな返答じゃないんだろう。うーん、と考えて捻り出した。
    「理由を聞きます」
    「そんなん、言うわけねェだろ」
    「場地さん、割と抱え込みがちっすもんね」
    「うるせー」
     否定しない辺り、きっと今でも場地さんは心に抱えているんだろう。いつも飄々としていて、何考えてるかわからないみたいなフリして。心の中では、オレに言えないような、重くて暗い後悔を抱え込んでいる。自分からは絶対に打ち明けてくれないけど、時々ふと見せる悲しい目が気になっていた。
     東卍創設時に起こった出来事は、場地さん経由ではないが他の……具体的に言うと、ドラケンくんや三ツ谷くんに聞いていた。一時期妙に慌ただしいことがあって、場地さんも気が立っている気がして、二人に頼み込んで聞き出したのだ。
     オレの態度から、過去に起こったことを知られていることを、場地さんも察しているのだろう。それでも態度は変わらずにいる。
    「理由を聞いても、言わなかったら?」
    「調べます」
     オレ、結構そういうの得意なんで。
     と言えば、場地さんは「お前には敵わねえワ。めんどくせえヤツ」と呆れたように笑った。



     残り時間を確認し、東大寺にだけ寄った後。どうにかギリギリ集合時間に戻って来れたオレ達は、バスの前で待つ教員に点呼を伝えてバスに乗った。着た順に乗っていいので、行きと違ってしっかり場地さんの隣を押さえて座る。
    「次どこ行くんだ?」
    「もうホテルですね」
    「はえーな」
    「修学旅行なんて、こんなモンっす」
     まだ十七時にもなっていない時間だ。普段東卍の集まりは寧ろこれからって時間帯なので、十一月で日の短い時期にしてもまだ明るい時間にホテルに引っ込むのは早いと感じるだろう。
     全員の点呼を取り終えてバスが走り出す。過ぎて行く古い街並みを眺めている場地さんを見つめていると、あっという間にバスはホテルの前についた。
     降車し、ボストンバッグを受け取って、ホテルの中に入っていく。まずは部屋に行き、荷物を置いてこいという教師の指示に従って、階段を上って三階廊下に出た。
    「三○三号室……」
    「ここじゃね?」
     場地さんが指さした先には、確かに三○三号室と書いてある。鍵はかかっていないので、オレよりも身軽な場地さんがドアノブを回すと、問題なく開いた。
     部屋の中は、ドアを開けた先にもう一枚襖があって、襖を開くとそこには十畳ほどの畳が広がっていた。団地住まいなので畳の部屋は慣れっこだ。
     同室の今野と山岡も入ってきて、一先ず荷物を下ろすと部屋の中を一通りチェックした。この部屋の室長は場地さんで、室長は部屋に異変があったらこの時間に報告に行くようにと言われている。ものによってはあとで見つかるトラブルもあるかもしれないが、この段階で見つかるべきものをあとで報告したとあっては、場地さんの顔に泥を塗ることになるのだ。
    「千冬ぅ、そんなに気負うなって」
    「いえ、場地さんの面子を潰すようなことあってはならないので。山岡ァ、そっちは異常ないか?」
     夜に敷く布団の数や状態をチェックした山岡が、イエッサー副室長問題なしオールクリアです、なんて馬鹿みたいな返しをしてきた。ちなみにオレは別に副室長じゃない。
     部屋のチェックが終わったところで、ボストンバッグの中を開けてジャージを出した。クソダセェ学校の体育着じゃなくて、普段休日家でゴロゴロする時に着る用の、ちょっとお洒落なジャージだ。
    「うわぁ、それ着てると松野ヤンキー感すげー」
    「わかる。ドンキにいそう」
     なんて言ってる奴等は無視して、颯爽と体育着に着替えている場地さんの脇チラに視線が釘付けになっていた。クラスが違うせいで着替えの場面が一緒になることは少ないのだが、一瞬とはいえ場地さんの素肌が見えてしまうのはまずいのでは……?
     いや、場地さんに劣情を催す奴がいたとしても返り討ちにされることは確定しているのだが、それでも邪な想いを抱くだけで万死に値するんじゃないかと思う。
     オレの不安を露知らず、着替え終えた場地さんは相変わらずのガリ勉スタイルでニカッと笑った。
    「うし、じゃあ夕飯食いに行くか」
    「っす!」
     廊下に出ると、他の部屋の連中もガヤガヤと出てきては「静かにしろ」と教師に怒られていた。廊下の端ではホテルマンが立っていて、居なくなった部屋から順次施錠をしていた。鍵を受け取るのは夕食の席なので、それまで開けっ放しというのはまずいだろうってことなんだろう。
     二階の夕食会場に到着し、室長である場地さんが代表して入口の教師に全員いることを伝え、中に入った。学年全員が入れる大広間には、食事用の小さな机が所狭しと並んでいて、その上には豪華な飯が置かれていた。
    「おっ、すげーな」
     中学生の修学旅行向けにはなっているが、前菜プレートに刺身、すき焼きと美味しそうに並んでいる料理の数々に舌鼓を打った。座席は部屋毎で、当然のように場地さんの隣だ。
    「これウメーな」
    「こっちのお造りも美味いですよ」
    「オツクリ?」
    「刺身のことっす」
    「そーなのか?初めて知ったワ」
     美味しい美味しいとパクパク食べる場地さんを見ているだけで、修学旅行に来た甲斐があったと思う。いつものペヤング半分こも勿論日々の幸せって奴なのだが、旅先でいっぱい食べる場地さんは、オレの健康に良すぎる。いや、そのうち全人類の万病に効き出す。
     ボリュームのある料理達も、食べ盛りのオレ達の腹の中にしっかり収まって、満腹になって夕食会場を後にした。
     学年主任から鍵を受け取ってきた場地さんと、階段を上って部屋に戻る。
     この後の予定は、入浴と買い物の時間がクラス毎に無駄にきっちり決められている。オレは一組なので、食後大して休む暇もなくいきなり風呂だった。
     部屋で風呂のセットをまとめると、自由時間の場地さんがそういえばと口を開いた。
    「昼間の写真、見ながら待ってるワ」
     つまり、オレが持っているデジカメを貸せという意味だろう。
     勿論快く差し出ーーそうとして、あっヤベと手が止まった。
     場地さんの写真ばっかりなんだよな……一応最低限の記録はあるが、それにも増して場地さんのピンショットが多すぎる。写真係という名の職権濫用という自覚はあったが、修学旅行後の総合学習までの間に、学校のパソコンから自分のUSBに場地さんメモリアルを流し込み、証拠は削除してから素知らぬ顔で差し出すという算段だった。
    「おい、千冬?」
     止まってしまったオレに、場地さんが不思議そうな顔をする。
    「あの、内容については突っ込まないでほしい……です」
    「何撮ったんだよお前」
     歯切れの悪すぎるオレの返答に、場地さんが苦笑した。それでも場地さんからのお願いを断るわけにはいかない。オレが場地さん大好きなのは、もうとっくに本人公認だしな!と開き直ってデジカメを差し出した。
    「じゃ、オレ風呂行ってくるんで!」
    「おー」
     電源を入れて、起動を待っている場地さんが、手を振って見送ってくれる。
     まさかオレのばっか写真いらねェだろって消しちゃったりしないよな……とかちょっと不安になりながら、大浴場に向かった。

    ***

     千冬お前、オレのこと好きすぎるだろ。
     一組の千冬は風呂へ、残りの二人は二組なので土産を買いにロビーへ行ったので、一人部屋に取り残され暇潰しに昼間のデジカメのデータを眺めていた。
     やけに枚数多いけどデータの残り大丈夫かと心配しつつ、電源を入れて撮影済みのデータを見ていく。
    「………ん、んん?」
     遡っても遡っても、オレしか写ってない写真ばっかりが出てくる。一応、所々他の連中が写ってるのもあるんだが、どう考えても割合がおかしい。
     特にイチョウの紅葉をバックにオレが歩いているものや、鹿にせんべいをやっているものがあまりにも多い。確かにあいつずっとカメラ構えてたな……。
     そんなにいらねェだろって親切心で整理してやろうとも考えたが、なんとなく、あいつのしょんぼりした顔が想像できて、そのままにしておいた。マジでこいつオレのこと好きすぎるな……。
     オレと千冬の関係は、多分付き合ってると言われてもおかしくないと思う。二人きりで、良い感じのムードになったらキスするし。触りっこもしたことある。流石にマジでヤってはねーけど。
     場地さん場地さん!と尻尾振る小型犬みたいな千冬だが、実際告白的なものはされたことはないし、オレの方からも同様の言葉を言ったことはない。いやでも付き合ってもないのにキスはしないよな……アイツの方はなんて思ってんだ。
     だが、同時にアイツが小型犬なんて可愛い奴じゃない事もよく知っている。
     喧嘩相手を裸にひん剥いてバチボコにノしてしまうような、割と過激な一面を持ち合わせている。オレが言えたことじゃないが。
     いやでも、やっぱオレのこと好きすぎるんだよなァ。
     千冬が撮った写真の中に写るオレは、どれも絶妙なアングルで、アイツがどれだけ考えて撮りまくったかがよくわかる。修学旅行じゃなくて、オレの写真集でも作る気かってくらいの熱量が、ここから伝わってくる。
    「あー、クソ……めんどくせぇ」
     面倒臭いは、恥ずかしいと照れを隠す口癖だ。
     なんでここまで好かれてしまったのやら。オレという人間に、そこまでの価値はないと言うのに。
     馬鹿すぎて義務教育なのにダブる、しかもダチの兄貴の店に盗みに入って、もう一人のダチが人殺しをしてしまうのを止められなかったクソ野郎だ。救いようのない、馬鹿だ。
     夏に色々あって、そこから一虎の件もあって、一度は千冬を突き放そうとした。
     けどアイツは、絶対に離れなかった。オレが馬鹿で無力だったから真一郎君が死んだのに、アイツはそれをこっそり知り得ていた癖に離れようとしなかった。
     根負けしたのは、オレの方だ。
     ひょっとしたら、無理やりにでもアイツに見捨てられるために、千冬を傷つけるような手段をとっていた未来があったかもしれない。こんなふうに、呑気に修学旅行に来ているような場合じゃなかったかもしれない。
     考えても仕方ないことだ。
     そんなどうしようもない物思いに耽っている間に、自分の風呂の時間が迫っていることに気づいた。千冬とは入れ替わりだ。
     デジカメの電源を消し、千冬の荷物の近くに置いた。

    ***

    「千冬ぅ、まだいたのか」
    「場地さん」
     奈良土産を物色し終えると、ロビーで場地さんが来るのを待っていた。オレ達の次が場地さん達の買い物の時間だ。
     ここまで来ると、別に他の組の奴が一人二人混じっていたところで注意してくるような教師もいない。生徒に混じって呑気に土産を見ているくらいだ。
    「そろそろ場地さんが来るかなって思って」
    「そっか」
     じゃ、一緒に見るかと場地さんが誘う。
     乾かし終えたばかりの、まだちょっと湿り気の残っている黒髪がさらりと揺れた。
     そう、風呂上がりなので場地さんはガリ勉スタイルじゃないのである。学校では滅多に見せない姿に、通りがかりの女子がチラチラと視線を送っていた。
     最初、あれこの人誰だって顔になって、オレが一緒にいるからなのか「場地じゃん!」と思い至って、驚いた顔になる。それを何人も繰り返し。
     クソ、場地さんのかっこよさに世界が気付いてしまったか……いやガリ勉スタイルの場地さんだって、カッケェけど。でも伊達眼鏡の奥の切れ長の目とか、下ろしているからこそわかる髪の綺麗さとか、そう言うのはいつもの場地さんじゃないとわからない。
     場地さんの誘いに、当然こくりと頷いて、二人で売店に並ぶお菓子を見て回った。
    「お前何買ったの?」
    「家で食うかなって、奈良漬けを」
    「あー、オレもかーちゃんに買ってくか」
     元々買う予定はなかったが、折角なのでと家用の土産を追加した。
    「東卍の皆には、京都のお菓子の方がわかりやすいかなって」
    「いやなんでも食うだろ」
    「そうなんすけど……あ、これとかマイキーくん好きそう」
     手に取ったのは、朝焼きみかさという銘菓だった。見た目は完全にどら焼きだった。どら焼きイコールマイキーくんという、超短絡的思考だ。
    「……少し買うか」
     そう言うと、場地さんはあっという間にカゴに入れて持って行ってしまった。そして会計を終えて戻ってきた。
    「オレも買ったのに」
    「いや、お前は京都で買うだろ。別にたくさん買う必要はねェよ」
     予算は限られているので、確かにその通りなのだが。
     二人で部屋に戻ると、ちょうど同室の山岡達も戻ってきたところだった。これから卒業アルバム用のカメラマンが各部屋を回るので、自分達の部屋で待っている時間だ。
    「松野、場地〜、ワンナイト人狼しようぜ」
    「なんだそれ」
    「オレが教えますよ」
     自由時間、男四人で適当に遊び、夜は更けていく。


    「じゃ、オレ達別の部屋遊びに行くから」
    「先公に見つかんなよ」
    「わかってるって。煩くしなきゃバレねーよ」
     消灯後。教師達は教師達で、打ち合わせのために集まっているというタイミングを見計らって、山岡と今野は部屋を抜け出していった。どうやら別の部屋で恋バナ大会なるものが開催されるらしい。女子かよ。
     思春期真っ盛りの中二の秋。あの子が可愛いだの、胸がデカいだの、しょうもない話題で盛り上がれるお年頃だ。修学旅行の夜の醍醐味とも言える。
     とはいえ、オレと場地さんはそれに参加する気は特に起きなかった。ので、大人しく部屋に残ることにした。
     今野には「え〜松野来ないの?松野の好みの女子の話聞きたかったわ〜」とは言われたが、正直好きな女子も特にいないので、先公に見つかって面倒なことになるリスクに対して得られるものが無さすぎた。
     当然のように場地さんも断っていた。既にダブっている場地さんは、学校関係でトラブルを起こしてお袋さんに心配をかけることを嫌がっているようだった。修学旅行の夜に部屋を抜け出して恋バナ、なんて精々怒られる程度なのだが、わざわざガリ勉スタイルで過ごしているほどには、気を遣っているのだろう。
     そのままあっちの部屋で雑魚寝して、朝六時過ぎに起きてきて何食わぬ顔で戻ってくるつもりらしい。確かに真夜中の移動より朝の方が、廊下で教師と出会ってしまった時の言い訳はつくので賢い選択……なのか?
     ともあれ、四人部屋のうち半分が居なくなって、場地さんと二人広々と寝られるようになった。それはそれで、よくある泊まりっこした時と変わらない光景なのだが、旅先の布団を二枚くっつけた状態で二人きりというのは、得も言われぬ感慨がある。端的に言えば、初夜っぽい。……アホかオレは。
    「おーい、千冬?」
     ぼーっと突っ立っていると、寝る準備を終えた場地さんが不思議そうにこちらを見た。
    「いや、布団並べて寝るのって珍しいなって思って」
    「家はベッドだからな」
     場地さんのアレはベッドにカウントされるのか?とも思ったが、余計なことは言わないでおいた。
    「電気、消しますね」
    「おー、よろしく」
     カチッとスイッチを押すと、部屋の中は一気に暗くなる。差し込んでくる月明かりを頼りに場地さんの隣の布団の中に入った。
     ……やばいな、場地さんが超近い。今更何言ってんだって話なんだが、こうして布団を並べて場地さんが隣にいるのは、今までとはまた違う。ふわりと場地さんのシャンプーの香りが漂ってきた。ホテルの大浴場の備えづけのやつだけど。
    「………」
     目の前には、健康優良児の場地さんが既に目を閉じた寝顔がある。
     場地さんの寝顔は何度も見ているのに、やっぱりシチュエーションのせいなのか、ドキドキしてきて眠れなかった。
     と、突然場地さんの目が開かれて視線が絡み合う。
    「千冬ぅ、見すぎ」
    「……すんません」
     まだ寝付いてはいなかったのか、場地さんがニヤリと笑った。
     掛け布団をかぶってぎゅっと目を瞑った。意識しすぎだ。
    「ちーふーゆ」
     冷やっとした空気の感触があって、掛け布団を捲られたのだとわかった。同時に、温かい感触。え、まさか場地さん、入ってきた?
    「ば、場地さんッ!」
    「同じところで寝るなんて今更だろ」
    「いやそれは日中というか」
     漫画を読むときに、二人でベッドに腰掛ける程度だ。普通に狭いシングルベッドなので、野郎二人で寝るのは手狭すぎる。今だって、一つの布団に二人で入って、ぎゅっと身体が密着した。
     オレよりも温かい場地さんの手が、腰を掴んで引き寄せた。
    「あ〜、あったけーワ」
    「場地さんの方が、あったかいっす」
    「そうか?人肌ってやつか」
     なんて言いながら、場地さんの手がジャージの上から触れてくる。身体がくっつくと、場地さんの硬くて引き締まった筋肉の感触が如実にわかってしまって、心拍数が急上昇した。やばい、アホみたいにドキドキしているのが場地さんに伝わってしまう。
    「千冬……」
     吐息まじりの声と共に、場地さんの手が後頭部に回った。
     あ、キスされる。反射的に目を瞑って、近づいてくる場地さんを受け入れる。
    「っ、ん、ぅ……ッ」
     鼻で息をすると、つい声が漏れてしまう。吐息が漏れるたびに、場地さんの手の力が強くなってきて、さらに身体が密着した。
     触れるだけだったのが、場地さんの厚いベロが唇を突いてきて、中に入れろという合図だった。断るなんて選択肢はなく、寧ろ誘い込むように受け入れる。
    「っ、ん、ぅ……ぁ、んん……ッ」
    「ふ、エロい声」
     一度唇を離した場地さんが、ニヤッと笑う。唇についた唾液を舐め取りながら、オレの頬やら顎を撫でた。……なんか、猫になって可愛がられる気分だ。
     たまにオレとペケJの触り方似てないか?と思うことが、あったりなかったり。ペケJ相手にキスはしてないけど。
     また場地さんの顔が近づいてきて、耳を撫でられながら頬を口付けられた。前髪を掬い上げられながら、今度は額にキスを落とされると、離れていった。
    「すげー、物欲しそうな顔」
    「ち、が……」
    「また明日、な」
     ぽんぽん、と頭を撫でた後、場地さんは自分の布団の中に戻っていった。
     そしてあっという間に寝息が聞こえてくる。寝るの早ッ。
     場地さんの舌の感触が忘れられなくて、名残惜しくも、オレもまた気付いたら眠ってしまっていた。
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