付き合ってないけど、他の人とキスするところは見たくないデの話「おーおーキース。お前、俺のチューが受けられねえっつーのかよ」
「ああ?お前飲み過ぎだろ」
「うるせー!お前に言われたかねぇんだよ!」
ガハハ!と盛大に笑いながらキースの肩に腕を回し、もう片方の腕でクラフトビールの瓶を掲げる。そんな男性の様子を見ながら、周りに座っていた男性客も大いに笑っていた。口では悪態をつきつつも、キースはリラックスした様子だし、きっとこれがいつもの光景なのだろう。素直じゃないなぁなんて思いながら、俺もほんの少し口元をゆるめてしまった。
それでも、ちょっぴり寂しさと焦りを覚えそうになる。俺が知らないキース。俺だけが知らなかったキースの一面。これから長い時間をかけて知っていけばいいだけの話かもしれないが、胸の中にはもやもやが残ってしまう。
「にしてもキース。珍しいにいちゃん連れてるじゃねーか。お前の知り合いにしては若いな?にいちゃんいくつだい?」
突然話を振られて、俺はハッと顔をグラスから上げた。さも今までそうしていたかのように笑顔を作って口を開く。
「俺、キースと同じ年齢だよ!」
「はああ?」
その瞬間、周囲にいた客が総立ちになって声を上げた。
「ええ、そんなに驚く⁉︎」
その勢いに思わず声を出して笑えば、近くにいた男性が俺の近くに詰め寄ってきた。
「もしかして、お前がディノか?」
「え、あ、はい」
「おおおお!そうかそうか、お前がディノか!」
そう言うと、バシバシと強く俺の肩を叩きながらその男性は瞳をうるませた。
「生きてたんだな……元気で何よりだよ!」
「あ……ありがとうございます」
「いっつもキースがお前のこと話しててな」
「え?」
思わずキースの方を見れば、慌てたようにこちらへ手を伸ばした。
「おい、言うな!」
「待てキース。俺からのチューを受ける前に逃げるなよ?」
「お前は一回黙れ。つーか男からのキスなんていらねぇ」
いまだにキースの肩に腕を回していた男性が、キースを逃すまいと力を強めたのだろう。キースはもがきながら腕をバタバタとしている。メジャーヒーローであるキースを片腕で取り押さえ続けるなんて、あの男性は何者なのだろうか。
「つれねぇな。俺は今酔ってるんだ!酔ったら最低百人はチューしないと気が済まないんだよ」
「知らねぇよ!」
そう言ったかと思うと、その男性は本当にキースにキスしようとした。
「だ、だめえええ!」
気づいたら、俺はその男性にタックルしていた。考えるより先に体が動くなんて、戦闘時でも中々ない。それが今、どうして?
「き、キスは大事なことだから!好きな人以外とそんなに簡単にしちゃだめですよ!」
言い訳がましく俺がその男性に声をかける。キョトンとした表情を浮かべていたその男性は、数秒の後盛大に笑い声を上げた。
「あははは!純情なにいちゃんだな!」
「おいおいディノ……突進しなくても、オレなら避けられたから平気だって」
「だって!俺がいやだったんだもん」
思わずそうこぼせば、バッと一気に周囲の視線が俺に集中した。
「おい、キースってまだ告白してないって言ってたよな?」
「俺はそう聞いたぞ」
「それでこれか……振り回される未来が見えたぜ」
コソコソと何か話しているようだが、よく聞こえず俺は首を傾げる。
「あ〜ディノ。今日はもう帰るぞ」
「え、もう?キース、まだ全然飲んでないのに?体調悪いのか?」
「いや、そういうわけじゃねーけど」
「ピザ食べるか?」
「食べねぇよ?」