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    Houx00

    @Houx00

    @Houx00
    色々ぽいぽいするとこ
    こちらは二次創作です。ゲームのキャラクター、公式様とは一切関係ありません。

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    Houx00

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    色々限界なきょーかん(テンション的な意味で)
    何でも許せる人向け
    初めは出落ちのしんどいきょーかんで書いてたせいか、やたらいちゃついてる後半との温度差有
    ※飲んで「覚えてない」っていう人が苦手な方には向きません
    ※書いた人は恋ゆえのままならない嘘は肯定派
    好きな子に誘われたら断れないのはいくつになってもあると思います

    帰れなくなっちゃいました 誰かが言った。
     教官に酒を飲ませるな。

     アットホームなカムラの里は宴を開くことも多い。小規模なものから大規模なものまで。
     でも、教官がお酒を飲むところは見たことない。
     なかった。今日まで。

    「俺の愛弟子はこんなに可愛くてどうするつもりなんだろうね。
     薬草を詰んでても可愛い。
     ハチミツが手について慌てても可愛い。
     鉱脈を一生懸命掘ってても可愛い。
     ヒトダマドリにつつかれてても可愛い。
     挙句の果てが崖を登ってても可愛いなんて…
     そんな生き物がいていいのかな」

     一息、早口にそう言って頭を抱えた教官がそのまま横向きにごろんと倒れ込む。
     そして小さな子のように体を丸めて〈はー、可愛い…俺の愛弟子可愛い…〉そんなことを囁いた。



     里の人からの些細な依頼を解決したお礼は珍しい里の外のお酒だった。
     交易品でも見たことない、栓に切り細工まである綺麗な瓶に入ったそれをうちに持って帰る途中、ウツシ教官と鉢合わせてうちに誘った。

    『珍しいお酒だそうです、一緒に飲みませんか』

     たしか、そんなことを言って。
     初めてのことだったけれど、教官も二つ返事で頷いてくれたから二人であれこれつまみを選んでうちに招待した。
     ルームサービスやオトモはこちらもアイルーの寄り合いがあるからと家を出ていたから、水車小屋は静かだ。

     では乾杯、とグラスをぶつけ、飲みやすくて美味しいそのお酒に二人で感激していたら、教官が杯を重ねるごとにおかしなことを口走るようになる。

    「キャンプで一休みする愛弟子も可愛いし。オトモとじゃれる愛弟子も可愛い。支給箱から物資を取る愛弟子すら可愛いから、俺はどうすればいいんだろう」

     ぶつぶつ、まるでお経のようにつぶやいていた教官が突然、体を起こした。その内容に呆気にとられていた私はそれだけでビクリと肩を揺らす。

    「ほら、愛弟子おいで!もっと近くで顔を見せて!」

     そんなことを言って両手を広げるウツシ教官にさらに困惑する私が動けずにいたら、

    「え、嫌…?」

     お酒で潤む目をして首を傾げられて、こわごわ近づいたら腕を引かれた。
     そして、ちょこんと、私は横抱きで教官の膝の上に。

    「えっ、ちょっとウツシ教官…!」
    「可愛い、俺の愛弟子は本当に可愛い。目に入れるどころか食べてしまいたいくらい可愛いよ」

     そこで肩に預けられた頭からスー…と息を吸い込む音がした。
     嗅がれてる、と気付いていてもがっちり掴まれた腕からは逃げようがない。

    「なにか失敗してがっかりするキミも、思ったとおりにいかなくて憤るキミも、悔しくて泣いてるキミも、全部が可愛くて、こんな教官でごめんね。俺は教官失格だ」

     〈でもキミが可愛いから仕方ないよね〉と、すぐさま手のひらを返した教官は私を抱きしめる。

     甘いお酒の匂いと、慣れない教官の体温。
     そしていつも以上にストレートな言葉に私も頭がクラクラしてきた。
     されるがままその体勢で〈可愛い〉〈可愛い〉と繰り返されると目眩すらする。

    「ねぇ、愛弟子?キミの可愛いところは重々承知の上で聞くんだけど。どうして愛弟子はそんなに可愛いのかな?」
    「…ぅ、教官がいつも可愛がってくれるからじゃないでしょうか」
    「え、じゃあ…俺のせい…?愛弟子がこんなに可愛いのは俺の……じゃあ、もう可愛がるのをやめないと!」
    「えっ、なんで」
    「だって。俺、いつかキミのことが可愛すぎて心臓が止まる気がしてる」

     真剣な表情でいう教官にドキリと胸が鳴った。
     言っていることはお酒の場らしく馬鹿げているのに、こんな時ばかりは教官の顔の良さが卑怯だと思う。

    「…教官が可愛がってくれないと、愛弟子はさみしいです」

     ほら、そんな教官のせいで私まで変なことを口走ってしまった。

    「ほんとに?じゃあ、もっと可愛がってあげようね」
    「ひゃっ」

     ぐるんと反転した世界に慌てて受け身を取ると背中に畳、見上げた先に見慣れた天井と、こちらを見下ろす教官の顔があるせいで私の視界は薄暗かった。

    「あぁもう、愛弟子可愛いぞー!俺の愛弟子は可愛いからモンスター以上に世界の脅威になりえるよ!いや、それにしても、こんなに可愛い弟子がいてたまるか」

     そう言って大きな両手で私の髪をくしゃくしゃと乱して撫でる教官がガルクがじゃれつくのとそっくりにじゃれてくる。
     そして声も出せずにされるがまま、撫で回されてぐちゃぐちゃの私の姿を見たルームサービスが玄関先で悲鳴を上げるまであと数刻。


    「ウツシ教官に酒?あー、だめだめ。普段からダダ漏れの弟子可愛いに拍車がかかるから。あれでも普段は我慢してるってことなんだろうけど、アンタも大変ね」

     翌日、いつものテラスでアヤメさんは言った。
     その視線の先で昨日のことはなにも覚えてないという教官はいつもとは微妙に違う、妙にスッキリした顔で受付に立っている。

     そして私はというと、昨夜からの胸の甘い疼きにまだ半分は残っているあのお酒をどうしようかと考えていた。


    ー○●○ー


    「愛弟子の『ま』、またそんな可愛いことをして俺のことを殺す気?
     愛弟子の『な』、なんでキミはそんなに可愛いのか、教官にきちんと説明しなさい。
     愛弟子の『で』、弟子にして本当に良かった愛してる。
     愛弟子の『し』、失敗してもいつも俺がついてるからね」

     たった数杯。
     そう、たった数杯で教官は頬をうっすらと赤くして、また私を膝の上に乗せるとそんな作文をしたためていた。
     そしてさらに〈はぁ、もう可愛い…俺の愛弟子最高…〉そう耳元で囁かれる言葉は私の鼓膜を無慈悲に揺さぶる。


     あの日からしばらく。
     またなにかの機会に教官を誘おうと機会をうかがっていたら、その日は思いのほか早くに訪れた。

     今度はお酒をくれた人とは別の人から依頼を受けて、珍しいおつまみを貰った。美味しいものは独り占めよりも誰かと食べたほうがもっと美味しい、そんな言い訳を自分にして声をかけたのはもちろん、ウツシ教官。

    『また一緒に飲みませんか?美味しいおつまみもあります』

     なんでもない風を装ってかけた声は酔った教官の言動に期待していた羞恥心からか、前回よりも緊張で小さかった。でもそんな私の様子は指摘されず、また教官は二つ返事で頷いて夜には追加の食べ物を持ってうちを訪れた。
     そして、まるで都合を合わせたように今夜もルームサービスは集会所のナカゴさんのお家へと遊びに出ている。

    「武器を手入れする愛弟子もかわいい。護石に一喜一憂する愛弟子もかわいい。真剣な顔で調合に挑む愛弟子もかわいい。クエストを選ぶ時に迷う愛弟子もかわいい。まったく、キミは…」

     嘆くように言う教官がふと、私の肩に伏せていた顔を上げた。
     そのいつもよりもぼんやりした視線とパチリ、と目があって私は思わず数回、瞬きをする。

    「ねぇ、愛弟子?」
    「は、はい」
    「キミの可愛くないところはどこに忘れてきたの?」

     純粋な瞳でそう尋ねる教官が〈あ、忘れ物をして慌ててキャンプに戻る愛弟子もかわいいんだよ!知ってた?〉と続けた。

    「わか、りません」
    「わからない?わからないことを素直に言えるなんて、素直ないい子だね!ただ、愛弟子!キミはどれだけ俺の体に負担をかければ気が済むんだ」

     そう言って苦しそうに胸を押さえる教官。そしてすぐに私の手を取るとその左胸へとそっと添えた。

    「愛弟子がかわいいばかりに動悸が止まらないよ。これにはゼンチ先生すらさじを投げたんだから」
    「…は、はい。ごめんなさい」

     いつどこでそんな診察を受けたのか、予想もしなかった新事実に笑いそうになる。
     でもここまで、冷静に考えれば言っていることは本当に、本っ当に馬鹿げているのに。
     そのすがる様な教官の目と温かい胸でトットッと速く脈打つ心臓の感触に、私の鼓動まで速度を速くして、教官のペースに巻き込まれるまま話を合わせてしまう。

    「きちんと謝ることができるところもかわいいなぁ…」

     そう、今にも事切れそうな声で呟いた教官はこちらに微笑みかけると穏やかに目を閉じてまた私の肩に頭を伏せてしまった。

     ……そして、静寂。

     黙ったままピクリともしない教官に段々と不安になってくる。
     私の前では五分と黙ってないこの人が?
     そういえば息もしていないような…。
     まさかとは思いながら、慌ててその肩を揺さぶって声をかけた。

    「ウツシ教官!死なないでください!」
    「あ、ごめんね。少し余韻に浸ってて…死なない、愛弟子を残してなんて死ねないよ!」
    「絶対?」
    「絶対!」
    「だって、キミはかけがえのない俺の愛しい子、」

     普段はたくさんの言葉はかけてくれても、掴めない風のように皮膚一枚、不自然なほど触れ合うことのなかった人が私の頬を撫でて微笑む。
     それがどれだけ破壊力のあることなのか、目の前の人は知らない。
     そのことに心臓が止まりそうなのはこっちなのに。

    「かわいい愛弟子…」

     優しい視線がこちらを見下ろして、吐息に溺れそうな距離でくしゃりと撫でられた頭をまた、なにかに期待して差し出した。
     そして今度は私が教官の肩に頭を預けて瞳を閉じる。

     それから、今度は前回よりも優しく丁寧に撫でられていつの間にか眠りについた私と。私を膝に載せたまま抱いて眠る教官を見つけたらしいルームサービスは、こっそりと戸口を締めてまたナカゴさんのうちに踵を返したらしい。



    「なんっにも覚えてない…!それにいつの間に眠って…ごめんね、愛弟子!あ、俺、なにか変なこととか言ってなかった?」

     そして翌朝、また記憶を飛ばしている教官はそれだけいうと頭を抱えた。そういえば、この前はルームサービスの帰宅と一緒に帰ったから。
     これから朝帰りに戸惑うその姿に少し、良心は痛みながら酔い醒ましのリンゴを差し出して言う。

    「なにも。いつも通りの元気な教官でしたよ?」

     涼しい棚の中に大切にしまった瓶の中のお酒は、残り三分の一。


    ー○●○ー
     
    「俺の愛弟子がぁ…」
    「なんかぁ、知らないハンターと楽しそうにぃ……」
    「ぐすん…」
    「やだぁ…愛弟子が俺から卒業してしまうぅ…」

     膝を抱えて座り込み、ぐずぐずと鼻を鳴らして涙ぐむウツシ教官。
     初めて見るその姿にまた呆気にとられていたら、控えめに顔を上げた教官と目が合った。

    「愛弟子、昼間のあの男と俺、どっちがいいんだい?教官と話すよりも楽しそうにしてたけど…」
    「…まさか…もう俺はお払い箱…?」

     自分で言った言葉に傷付いた顔をして、また顔を伏せて泣き始めた教官は昼間は真逆のことを言っていた。



     きっかけはハンター仲間たちと狩りの前に里で落ち合ったことだと思う。
     場所が大社跡だったこともあって、カムラに集合した仲間たちは加工屋を見る人も、交易船を覗く人も、オトモ広場に遊びに行く人もいた。

     その中に、ハンター仲間の連れてきた今日が初対面のハンターがいた。
     せっかくだからとカムラを案内することを引き受けて、二人で里を回っていたら教官から声をかけられた。
     連れ立っていたハンターさんとも教官は一言二言会話を交わして〈新たな出会いはわくわくするよね!キミに仲間が増えるのは教官も嬉しいな!〉と喜んでくれていた…はず。
     そして、今日の狩りは予想以上の収穫でテンションが上がったまま、里に帰ってすぐ、

    『一緒に祝杯を上げてください!』

     と、教官に声をかけるとこの前のことを気にしてか、少しだけ迷うような素振りをしてから教官は頷いてくれた。

     のに、駆けつけ一杯で〈無理ぃ…〉と泣きそうな声を上げて前述の通り、今日は泣き上戸と化している。
     そしてルームサービスはというと、教官がまたうちを訪れると知ると妙な気を利かせてナカゴさんのところに遊びに行ってしまった。ただ今日に限ってはこんな姿を私以外に見せずに済んだのは良かったかもしれない。
     そのくらいに今夜の教官は矜持を持ち崩している。


    「教官、泣かないでください」

     すんすんと聞こえる泣き声に狼狽えながらながら声をかけると、教官はちらりと私を見てすぐにプイッとそっぽを向いた。

    「ウツシ教官、拗ねないで」
    「…拗ねてないし」
    「拗ねてますって」

     また涙声で言う教官がまたいつかのようにゴロンと転がった。
     そしてこちらに背を向けてさらに顔を隠すと、

    「教官は拗ねていません」

     素っ気なく呟いたあと、またぐすんと鼻を鳴らして〈うぅ…〉と唸った。これが拗ねてなかったらなんなんだろうと、戸惑う私に教官は言う。

    「愛弟子が楽しそうなのは嬉しいよ?でも、愛弟子は俺の愛弟子なのに…」
    「愛弟子が俺のことなんて忘れてしまったらどうしよう…もう一緒に狩りに行ってくれなくなったら…」

     〈教官さみしい…〉とさらに背中を丸める教官は決して小さな人じゃない。どちらかといえば大きい。なのになんだかその背中が小さく見えてつい手が伸びた。
     宥めるように背中を撫でて、子供のようにぐずる教官に話しかける。

    「愛弟子は教官のことを忘れたりしませんよ」
    「…本当に?」
    「はい、教官ともまた狩りに行きたいです」

     そう言った瞬間、勢いよく振り向いた教官はひしっと私の手首を掴んで上目遣いにこちらを見上げた。ギリ、と痛いくらいに掴まれた手首はお酒のせいで力の加減が出来なかったのかもしれない。
     一杯しか教官は飲んでないけれど。
     もともとそんなに強い方でもないみたいだし…。

    「…約束してくれる?」
    「はい。そうだ!明日とかどうですか?」
    「行く!行こう!楽しみだなぁ、愛弟子と久しぶりの狩猟!」

     瞳をキラキラさせながらコクコクと頷く教官の手になぜかさらに力がこもって、ギリリと痛む手首は気にしないふりで笑うと教官もへらりと笑ってくれる。
     それからはご機嫌になった教官がまるでこの一帯のモンスターを狩り尽くしそうな勢いで、私と狩りたかったというモンスターの名前を何頭も上げて楽しそうにしていた。

     さぁ、この約束を明日の教官は覚えてるかな?
     迎えに行ってびっくりされないといいけど…。
     と、そばに佇むお酒の瓶の中身を確認したら残りはあと少し。


    ー○●○ー


     翌日の約束を守るために早めにお開きにした昨日、お見送りに玄関を開けるとナカゴさん、コジリさん、ルームサービスが頭を並べて揃っていた。
     まさか出歯亀…と不審がる私に彼らは邪気の無い笑顔で誤魔化した。
     それを気にした風もないご機嫌の教官はみんなに『おやすみ』を伝えて帰路に着く。

     そして今朝、教官を迎えに行くと彼はしっかり支度をしてくれていた。
     内心、意外には思いつつ、仲良くお団子を食べてからクエストに向かう。
     そんな私たちを集会所の階段から見送ってくれたのは、ルームサービスのアイルーだ。


    「愛弟子!モンスターがそっちに向かったよ!」
    「はーい!」

     刀での連撃で教官に後ろから追い込まれて、こちらに走るモンスターが私を見た。
     そして一直線に向かってくるのを落とし穴の真上で待機して、真正面に来たところで翔蟲を利用し、モンスターの頭上に跳ぶ。
     つられるようにこちらを見上げたモンスターの足はもう、急には止まれずに落とし穴の上だ。
     そして、モンスターの体重で作動した落とし穴と、その中に落ち込んだモンスターの立てる轟音を聞きながら空中から麻酔薬を投げつける。
     一つ、二つ、大きめのモンスターだからおまけでもう一つ。

    「捕まえました!」
    「お疲れ様!じゃあ、少し休んで次のモンスターのところに向かおう」
    「はい、降りるから少し待っててください…きゃっ」
    「…っと、大丈夫?」

     刀を払って鞘にしまった教官の前へ降り立つと、足場の悪さに少しよろけたところに腕を添えて支えられた。
     私はたったそれだけで意識するように頬が熱くなったのを隠すように、顔を伏せる。

    「怪我はない?」
    「だ、大丈夫です!」
    「あ、ごめんね。勝手に触って…」
    「いいえ…ありがとうございます」

     そしていつも通り私に極力触れないよう、すぐ腕を離した教官を少し残念に思ってつい、向けられたその背中に声をかけた。
     
    「ウツシ教官、今夜は教官のお家にお邪魔してもいいですか?」

     


     
     帰宅後、身体を清めてから準備を始める。
     残り少ない瓶の中身に新しい瓶を買い足すか、それとも毎回あまり量を飲むわけでもないからこれでいいのかで頭を悩ませた。
     買い足すのはお酒を飲みたいわけじゃないし、なにより、酔うのを誘っているようで恥ずかしい。
     だから、足りなければ買いに行けばいい。一緒に選ぶのも楽しいかもしれない。と、結論付けて棚から下ろす。

    「ご主人、おかえりなさいニャ。ご無事でなによりニャ」
    「あ、ただいま!でも夜には、また家を出るの」
    「どこに行くのニャ?」
    「……えっと、教官の家」

     なんとなく背後に隠した酒瓶に、玄関先にいたルームサービスの視線が刺さる。どうして素直に答えたの、と自分に叱責してその目をそらした。

    「帰ってきますかニャ?」
    「帰るよ?! 少し遅くはなるかもしれないけど…」
    「それがしが戸締まりはきちんとしておくから、泊まってきてもいいニャよ?」
    「泊まっ…」
    「そんなに照れなくてもいいですニャ」
     
     〈ニャッニャッ〉と楽しそうに笑うルームサービスは出掛けにいくらか、お手製のお土産を持たせてくれた。
     これなら食べ物には困らない。そのことに感謝を告げて戸口をくぐると、玄関先で一言。

    「今夜は満月ニャ。月が天辺を越えても帰ってこない時は中から錠をしますニャ」

     そう今夜の取り決めを告げ、悪戯に笑った。



     一杯ずつ、グラスに注いだお酒は結局買い足すこともなく、空になった酒瓶を見つめていたら隣から傾いたグラスが私のグラスに触れた。
     簡素なグラスだけど、綺麗な音を立てて触れ合ったその中でとろりとした液体が揺れる。
     琥珀色の、糖度も度数も高いそれは目の前の人の瞳によく似ている。

    「いっぱい狩ったからギルドの人もびっくりしてましたね。あとすごく楽しかったです」
    「俺もだよ。愛弟子の操竜もまた腕を上げたね!」

     そう言って褒めてくれる教官に嬉しくなって微笑む。
     昼間の延長のような空気感は敷居を跨いだ時の緊張感からずいぶん、私を気安い気分にさせた。


     でも、しばらく談笑をする中で、コクリと喉を鳴らして教官がお酒を飲んだ。
     狩猟帰りということもあって、戻ってすぐお風呂だったんだろう。浴衣で出迎えてくれた教官はいつもは隠された部分がさらされている。
     そのせいで自分にはない喉仏が上下するのをちょうど見てしまって、慌てて目をそらした。

    「でもまだ…操竜も鉄蟲糸技も教官みたいに、とはいきません」

     そのことを誤魔化すように言うと、教官は私の手を取ってそっと爪先を撫でる。

    「安心して。キミの操竜は素晴らしい糸捌きだよ!操られてるモンスターも楽しそうだったなぁ」

     それはさすがに…と、言いかけたところで、すり、と普段、人に触られることがないせいか敏感な指先を擦られてぞくりとした。
     なのに教官はなんでもないことのように話を続ける。

    「キミにはなんでも教えてあげる。狩猟のいろはも、里でのことも」
    「例えそれでキミが俺を越えて俺のそばを去ったとしても。キミの使う技術は俺のものだから」
    「その時が来るまで、キミの中を俺でいっぱいにして送り出してあげたいな」

     いつになく静かに紡がれる言葉に身体が温度を上げる。
     穏やかな語り口とは真逆に、見つめられた指先が熱くなるほどの熱意をその瞳は告げていた。
     それが自惚れだと思うには目の前のこの人は私の自尊心を育てすぎたし、勘違いだと思えるほど鈍くもないつもりだ。

     それに、今朝のこと。
     いつもお酒を一滴でも飲んだ翌日は毎回、記憶を飛ばしていた教官がしっかりと約束を覚えていた。
     そのことが妙な確信に拍車をかけた。

     だから、

    「…酔ったふりも?」
    「うん?」

     小さな声で呟いて、控えめに顔を上げると視線の合った教官は首を傾げる。
     そして、しばらく間を置いてからその日焼けした頬にカッと朱がさした。

    「…なんでもないです」

     つられて火照るほっぺたを押さえながらそっぽを向くと、照れたような声が響く。

    「あれはフリじゃなくて、こう、感情が、本音が止まらないというか…」
    「……断片的な記憶だけでもやりすぎた気がして、覚えてないフリはしたけど。なのにキミはなぜか毎回声をかけてくるし…」

     ふぅ、と息をついて口元を隠した彼が自信なさげな表情を浮かべる。
     そんな表情をさせているのが自分なのだと思うと、その横顔を見つめずにはいられなかった。

     でも毎回、本当に酔ってはいたらしい教官が『フリ』をしていたのは記憶の有無のほうだとは思わなかった。
     ということは、酔ったときの姿は箍の外れた彼自身の本音…。

    「普段もあのくらい全力で可愛がってくれてもいいのに」
    「え?それはまずくないかい?ほら、キミは女の子で、しかも師弟だし」

     〈誤解されるよ?〉と教官がつぶやく。
     急に温度の下がった声は、さっきまで絡みつくような熱を発していた唇が嘘みたいだ。
     途端に波が引くような感覚を覚えて、私は畳につかれた大きな手に自分の手を重ねた。
     
    「じゃあ、師弟以上の関係なら?」
    「以上?」
    「例えば、恋人とか…」

     ぎゅっと、一生懸命に握りしめた手の甲が熱い。
     どちらの手が熱いのかはわからないけれど、私がこの短期間で教官を意識するようになったことは間違いない。
     それにここで引き留めないと、彼はこの先私を、手放すつもりな気がする。
     そのことに焦るくらい惹かれていることに、今夜は気付いてしまった。

    「それでキミが悔いるのは見たくないな…」
    「しないと思います。教官は後悔させるような人じゃない」
    「買いかぶり過ぎだよ」
    「そんなこと…。それに教官は『失敗しても、まずやってみよう』って言ってたし…」
    「それは…」

     〈そうなんだけど…〉と、歯切れの悪い言葉で返した教官は私が握ったままの手に一度、力を込めた。その筋張った硬い手触りに男の人を感じてどきりと胸が高鳴る。

    「もう好きになっちゃったんです」

     告げた言葉に、短く刻む鼓動が痛い。
     それにも増して恥ずかしくなって俯けば、重ねていた手が裏返って、そのままするりと絡んだ長い指にきつく握りしめられる。
     包み込む手の温度は高く、今度は間違いなく教官のものだ。
     その熱い指先から彼の感情が伝わった気がした。

    「今日はキミが酔ってるのかな」
    「…………」

     だからもう、何も言わずに目を閉じた。

    「そうだと言ってほしいのに」

     その声からしばらくして、そばに感じた吐息のあと重ねられた唇に思わず手を握り返す。
     すると宥めるように頭を撫でられ、重なったままの唇は何度か喰むとゆっくりと離れた。
     そして、吐息の絡んだ距離でいとおしむような声に名前を呼ばれて瞼を開ける。 

    「あ、月が…」

     そこでふと、見つめ返した教官の背後に窓の外が見えた。来たときは東に高かった満月が南西の星空に沈んでいる。
     天辺はいつの間にか、過ぎてしまったみたいだ。
     
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