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    Houx00

    @Houx00

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    色々ぽいぽいするとこ
    こちらは二次創作です。ゲームのキャラクター、公式様とは一切関係ありません。

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    Houx00

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    教官からファンサがもらいたい愛弟子の話
    しんどい愛弟子とそんな愛弟子もちゃんと愛弟子な教官
    前フリ長めです

    愛弟子「百竜夜行は“推し活”です」「緊張し過ぎて吐きそうだ」
    「そういえばお前は初めてだっけ、里守は」
    「ああ、欠員が出たと聞いて志願したけどやっぱり本番は緊張するよ…」

     砦の空気に震える声で言うと、隣でバリスタを調整していた里守(甲)は苦笑しながら工具をこちらに投げてよこす。汗で滑る手でそれを受け取って、俺も自分のバリスタへと向き直った。

     数日前に知らせを受けていよいよ訪れた百竜夜行、しかもヌシの襲来。
     予備日を含め大本命の決戦の日は、里も一段と慌ただしく砦での準備を行った。
     そして僭越ながら里守の任を受けた俺は、今日初めてモンスター達と直接対峙することになる。

    「俺も初めてはそうだったよ。怖くて手が震えて、標準なんて合わせられもしなかった」
    「…そうか、やっぱりそうだよな」
    「ああ。だからお前が今日、優先すべきは自分の命だ。そのぶんは俺もカバーするしさ」
    「ありがとう。恩にきる」

     力強いその言葉にもまだ、工具を持つ手が震え、顔色の優れない俺に里守甲が歩み寄った。そして力いっぱい背中を叩いてあたりに響く大声で言う。

    「大丈夫だって。なにせうちには英雄様がついてるんだ!」

     里守甲の視線の先にはカムラの英雄がいた。
     ナルハタタヒメを討伐し、百竜夜行の指揮もとる彼女は最後の布陣の確認だろうか。今も砦の中を見回っている。
     防具もしかと着込んで武器を背負った彼女は遊撃戦士だ。
     確かに彼女がいれば心強い。
     何度も防衛に成功しているその功績は里中が認めるものだ。

    「彼女がいれば百人力だよ」
    「そうだな、こんなに心強い味方はいない」
    「ああ、色んな意味でな」
    「色んな意味って?」
    「今日はよろしくお願いします」

     噂をすればこちらにも見回りに来た彼女は俺たちの足元で頭を下げた。
     里守甲が引っかかるような発言をした気もするが、彼女の声に知らず伸びた背筋で頭を下げ返すと隣で笑う声がする。

    「おう、よろしくな」
    「よろしく」
    「準備はもういいですか?」
    「こっちは万端だよ。ここでしっかり食い止めてやるから安心して戦え」
    「ありがとうございます。そちらの里守さんはどうですか?」
    「あ、俺は…あと少し。出来たら手を挙げるから」
    「わかりました。その時はこちらも手を挙げますから、もし何かあったら呼んでください」

     楚々として微笑んだ彼女はまた次の里守へと確認へ向かった。
     武器を背負ったその凛々しい後ろ姿に震えが止まる。
     彼女にばかりは頼れないが、やれることをやろう。そう決意して工具を握り直すと隣でまた気になる発言が聞こえた。

    「お前は今日が初めてだから知らないだろうけど、…まぁいいか。倒れなければ面白いものが見られるから、しっかり生き残れよ!」
     



     第一の襲撃は防衛成功、続いて第二の襲撃も里の強者達の力を借りながらなんとか防衛した。

     そしていよいよ、ヌシの襲来を知らせる鐘が砦に響き渡る。
     訪れたヌシは一目散に最終の砦を狙って、俺たちも配置換えが行われた。

    「なんとか生き延びてるな!」
    「なんとか、だよ。本当に!」

     隣から余裕で話しかけてくる里守甲に鐘の音にかき消えそうで大きくなる声を上げると彼は〈あと少しだ!〉と気合を入れた。

     そうだ、あと少し。
     ヌシから門さえ守ればしばらくはまた平穏な日々が過ごせる。対峙したモンスターは確かに恐ろしいものだったが、英雄たちは次々に奴らを倒していった。反撃の狼煙を上げ、持ち得る技を全て使って。
     受付嬢までもが武器を握って戦ったんだ。
     カムラの里の総力戦と言っても過言ではない。
     それにまだ、里のツワモノは英雄含め多数残っている。

    「おそらく、そろそろだな」

     里守甲が呟くと砦に響く大声がした。

    「里守のみなさぁぁぁん!!危なくなったら俺を呼んでね!」
    「お、来た来た」

     その声は普段の何倍も大きく、そして場にそぐわないハイテンションで元気いっぱいだ。するとヌシに先導され、砦に集結していたモンスターたちも一瞬、動きを止めて辺りを見回した。

     その隙に向かいの設備に立った英雄が、凛とした声でその声の主を呼び出す。

    「ウツシ教官!お願いします!」

     そして、設備から現れたウツシ教官と英雄は互いに目を合わせて頷きあった。
     絵になる師弟だ、と魅入っていたらウツシ教官は宙へと舞い、なぜか英雄はこちらに向かって走り出す。

    「英雄のお嬢ちゃん、準備はいいか!」
    「はひっ」
    (はひ?)

     気の抜けたその返事にそちらを見ると、英雄がこちらの足元に滑り込み、砂埃を上げている。
     そして、慌てたように里守甲の後ろに回り込むと背後にある竜撃砲の炉の陰からうちわを取り出した。

    (うちわ?)

     その不審な動きを目で追っていたら彼女はそのうちわをウツシ教官に向けて、必死に掲げる。

    「きゃーー!ウツシ教官格好良い!!」

     そして、師匠に負けず劣らずの大声を砦に響かせた。
     
    「はぁ?」

     あの英雄が、モンスターと向かい合っても悲鳴の一つも上げない里の英雄が、真っ黄色の悲鳴を上げている。
     しかもその悲鳴を己の師匠に向けて。
     その師匠はというと、目にも留まらぬ速さでヌシ以外全てのモンスターを光の糸で縛り上げていた。

    「ウツシ教官!今日の鉄蟲糸技も素敵です!」

     そして着地した師匠に向かって彼女はまた悲鳴を上げて今度は手にした翔蟲を振った。その翡翠の輝跡がハートを模ったことはあえて触れない。

    「あれはなにを…」
    「ウツシ教官の応援だってさ。以前、里に来た“あいどる”に教わったらしい」

     呆気にとられた俺に里守甲は半笑いで答える。
     その間も英雄は忙しなくうちわを振り、嬌声を上げた。

    「きゃー!こっち見た!ウツシ教官が私のことを見ました!」
    「良かったなぁ」
    「愛弟子ー!見てたかい?」
    「あっあっ、手も振って…!」
    「うんうん、ちゃんと振り返しとけよ」

     どうやら、里守甲は慣れているらしい。テンポよく合いの手を入れてバリスタからも離れ英雄に寄り添っている。

    (こっち見たもなにも、さっき見つめ合ってたような…)

     そう数分前の記憶を辿るが、あの凛とした英雄が今、目の前で騒ぐ女子と同一人物には思えなかった。

    「はぁ、無理…格好良い…私の教官が格好良すぎて無理…」

     恍惚とした表情でそう呟く英雄に、糸に絡まれダウンしていたモンスターがげっそりとした顔をした。気がした。

    「ん?」

     その戦意喪失状態に安心して俺もバリスタから離れ、英雄の持つうちわを覗くとそこには…。

     『気焔万丈して♡』と、力強い筆で書かれたうちわはウツシ教官へと向けられていた。そして向かいの設備に目をやるとウツシ教官は〈すぅ…〉と深呼吸をしている。

    「愛弟子!キミは強い!強くて強くてしょうがない!ここに集ったモンスターもキミの一挙手一投足に恐れ慄いている!ヌシなどキミには取るに足らない相手だ!二度とこの砦の土が踏めないようにその力を存分に見せつけてやれ!」

     そして、熱い身振り手振りの御高説のあと、真っ直ぐに英雄を見つめたウツシ教官はその拳を握りしめ、天高く突き上げた。

    「さぁ!愛弟子、一緒に!」
    「はひっ!」

     うちわを握り締めて頷いた英雄もウツシ教官の真似をする。
     ちなみにこちらは翔蟲を掲げていた。

    「気焔万丈!!」

     仲良く揃えた師弟の声は砦に木霊し、大地を震わす。
     それに士気を上げた里守たちも歓声と共に炉に石炭を焚べ、大砲とバリスタもヌシへと一斉に向けられた。

    「もしかして、いつもこんな…」

     きゃーきゃーとまた騒いでから、まだウツシ教官に翔蟲を振る英雄の後ろ姿を見ながらつぶやくと、里守甲は笑いを堪えつつその声を遮った。

    「皆まで言うな。これで結構うまくやっている」



     なお、その後、ウツシ教官がお膳立てした英雄の操るモンスターと愉しげなツワモノたち、そして上機嫌の英雄自身にタコ殴りにされてヌシは早々に倒れた。
     すこしだけ、ヌシに同情したとは大きな声では言えない。
     
     
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