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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    鍾+タルブロマンスものの導入を試し書きした。
    「なんでも、夜になるとりーゅぇの郊外に岩i王帝君の亡霊が出るらしい」
    面白そうっていってふぉろわー。

    「公子」タルタリヤは北国銀行に誂えてある自分の執務室で溜息をついた。書類は多少、山にはなっているが、仕事は順調だ。何も問題はない。本国からの指令も、取り立てもすべてが上手く行っている。岩王帝君暗殺事件が一応の解決をみせ、安定を取り戻そうとしている璃月において、さらに信用を落としたファデュイを率いてのその仕事ぶりは褒められてしかるべきだろう。だが、タルタリヤにとって何も問題がないことこそが問題だった。
    退屈だ。それも非常を冠するような退屈だった。
    火種を探せば、この一つの時代が終わりを告げた璃月では容易く見つけられることだろう。だが、この地で商売をしていくにあたって、火をつけて回ることが得策ではないことくらいタルタリヤには分かっていた。
    タルタリヤが求めているのは闘争だ。命が危険にさらされるほどのものであればなお良い。
    武芸を磨くことを人生の目的としているタルタリヤにとって、この退屈な仕事はゆるやかに絞め殺されているような感覚すらあった。
    璃月近郊の魔物を狩るのにも飽きた。もっと血沸き肉躍るような相手とやりあいたい。そう思っては仕事のついでに情報を探させるのだが、今のところ目ぼしい相手は見つからない。頼みの旅人も璃月を発ってしまい、しばらくは戻ってこないだろう。それに、璃月で大きな闘争を仕掛けるのならば、まだしばらく我慢をする必要がある。タルタリヤはタルタリヤとしてここにいるが、同時に「公子」でもあるのだ。女皇への忠誠を誓った身であるならば、女皇のための仕事をないがしろにするわけにもいかない。
    そういうわけで、タルタリヤはここしばらく退屈だった。
    らしくもなく二つ目の溜息をつきそうになったのを、ノックの音で遮られる。顔を上げてどうぞ、と言えば、エカテリーナが顔を出した。
    「公子様。先ほど戻ってきた先遣隊からの報告書になります」
    「ああ。ありがとう」
    手渡された書類をちらりと見、書類の山の上に乗せた。書類の山はきちんと優先順位をつけてあるのだが、少し休憩しても良いだろう。
    「退屈なさっておいでですか?」
    「まあね。でも、今派手に動くわけにも行かないだろ?」
    これも新たな強敵と見えるための修行だと思えば、機を待てるタルタリヤはまだしばらく息を続けることが出来る。
    「そういえば、最近流れている噂について、ご存じですか?」
    タルタリヤに気を使ったのか、エカテリーナはそう口を開いた。
    「噂?」
    タルタリヤの容姿と名前は璃月で有名になってしまった。出歩くことに躊躇いはないが、璃月の人間との会話はほとんどないのが現状だ。
    「ええ。なんでも、夜になると街の外で『岩王帝君の亡霊』が彷徨っているらしい。という……」
    部下が言葉を途切れさせたのは、タルタリヤが大仰に目を見張ったからだ。
    「岩王帝君の亡霊?」
    「ええ」
    繰り返してからタルタリヤはふ、と笑いをかみ殺そうとして失敗し、アハハと腹を抱えるようにして天井を仰いで笑う
    「『岩王帝君の亡霊』ね!それは面白い……!」
    なおもくすくすと笑ってから、タルタリヤはようやくエカテリーナに視線を向けた。
    「一気に退屈がまぎれたよ。ありがとう。エカテリーナ」
    「いえ。公子様のお役に立てたなら幸いです」
    タルタリヤの奇妙な反応を怪訝に思うそぶりも見せず、慇懃に返事をしてエカテリーナはそれでは失礼します。と部屋を出て行った。
    「さて。出かけようか」
    ちょうどお昼時だ。街中で彼を見つけるのには、ちょうどいい時分だろう。
    街中に出れば、璃月の人々の警戒するような視線を少なからず向けられるが、気にも留めずにタルタリヤは目的の人物を探して歩く。
    「あ。公子だ」
    若い女性のそんな声を聞きつけて振り返れば、見知らぬ若い女性が二人、好奇心を浮かべた瞳でタルタリヤを見ている。
    「こんにちは」
    近づきすぎずに物腰は丁寧に、でも懐っこく声をかけたタルタリヤにきゃあきゃあと二人は騒ぐ。これは、ここ最近の「退屈しのぎ」の結果付随したものだ。女性たちはおずおずとタルタリヤを見上げる。
    「こんにちは!この前のお芝居見ました!敵の将校がすごくお似合いで……」
    「衣装もお似合いでした!次のお芝居の予定はいつですか?絶対見に行きます!」
    尋ねられてタルタリヤは笑みを浮かべる。
    「仕事が忙しくてね。それにほら、俺はあんまり璃月の人たちに快く思われてないから」
    「でも、だから悪役を演じているんでしょう?他の人もお芝居を見れば印象を変えますよ」
    「そうだといいけどね」
    退屈しのぎとは、芝居のことだ。たまたま、とある劇団に出資している人間に出てみませんかと誘われて出たところ、非常に好評で、タルタリヤはここしばらく役者として芝居に出続けていた。舞台上での緊張感は闘争とは全く違ったものだが、退屈しのぎにはちょうど良い。観客の反応を肌に感じることも心地よかった。
    退屈しのぎは、いい結果をもたらした。というのも、タルタリヤの評判を回復に向かわせたのは、こういうお嬢さん方だ。老若問わず婦人の人気を得たタルタリヤは、多少のやっかみを受けているものの、その真剣な演技が好感を持たれていた。
    もともと見目が良いこともあり、ただの退屈しのぎはそれなりの成果にすらなっている。
    「ところで、俺は人を探しているんだけど、君たち、鍾離先生を見なかった?」
    鍾離を知らないならそれはそれでいい。ダメ元で問いかけてみると、二人は顔を見合わせてから口を開く。
    「鍾離先生?それでしたら、万民堂に入っていくところを見ましたよ」
    「ほんと?ありがとう。助かったよ」
    じゃあ、またね、と手を振ると二人は手を振り返して何事かを話しあい、くすくすと楽しそうに笑いながら歩き去っていく。
    タルタリヤも、このタイミングを逃してはいけないとばかりに、速足で歩きだした。
    鍾離は万民堂の四人テーブルの隅で、湯呑を手にしているところだった。
    「あ、タルタリヤさん!」
    「やあ香菱、鍾離先生と相席していい?」
    「もちろん!後で注文聞きに行くね!」
    お盆を両手に盛った香菱に声をかけると、忙しそうにしながらも笑顔を向けられる。会話した声が聞こえたのか、鍾離が顔を上げた。
    「公子殿」
    「やあ、先生。久しぶりだね。相席してもいいかな?」
    「ああ。構わない」
    手で向かいの席を示した鍾離にタルタリヤは座る。タルタリヤが今日急に会いに来たことも、すべて想定の範囲内です。なんて顔をしているこの男の正体が、この国を作った6000年の時を生きる岩王帝君だと知っている者は数少ない。
    「久しぶり、とは言うが、俺はつい昨日、公子殿と会っている」
    「え?そんな記憶ないけど」
    昨日の記憶を思い返してタルタリヤは鍾離を見返した。昨日は出演していた芝居の千秋楽で、中々愉快な時間を過ごしたが、鍾離の姿を見た覚えはない。
    「芝居を見にいった。貴殿が出ていると聞いてな」
    「なんだ。そういうこと?声かけてくれれば、良い席用意したのに」
    「前列はファンの人間が座った方が良い。芝居はどの席でも楽しめないということはない」
    「そうかもね。でも先生に見られてたなんて、評価が気になるね。どうだった?」
    気負わずに問いかけたタルタリヤに、鍾離はうなずく。
    「ああ。良かった。あの芝居は元となる説話があり、それを現代風に脚色したものだが、公子殿なりにきちんと原点を解釈して演じていたのが良く伝わってきた。あの将校は、」
    「はい!お待たせ!シェアするんだろうと思って取り皿も持ってきたよ!二人じゃこの量は足りないと思うけど、他にも頼む?」
    長くなりそうだと構えたタルタリヤと鍾離の目の前に、どん!と水晶蝦と焼き麺が置かれる。
    「じゃああんかけをもらうよ。あの揚げ魚のやつ」
    「わかった。じゃあもうちょっと待っててね!」
    元気よく答えて、香菱は別の客に呼ばれてそちらの席へと向かう。昼時のせいで店内は盛況だ。
    「あの将校は?」
    せっかく褒めてくれたので続きを聞こうと促すと、鍾離は水晶蝦に箸を伸ばす。
    「いや。芝居が良かったのでこの話は長くなる。また後にしよう。公子殿は俺に用があって来たのだろう?その話が先だ」
    「話っていうか、先生、最近の璃月の噂知ってる?」
    「噂?」
    思い当たることがなさそうな様子を意外だと思った。璃月の情報なら集めずともこの男の耳に入りそうなものだが。
    「なんでも、岩王帝君の亡霊がでるんだってさ」
    タルタリヤが面白がった心境のまま、笑みを浮かべて鍾離にそう告げると、鍾離はぴたりと手を止める。その感情の読めない綺麗な面立ちがタルタリヤに向けられ、金色の瞳がタルタリヤを見据えた。人ならざる者の気配を感じ取ったタルタリヤが背を伸ばして鍾離を見返す。目は合っているが、鍾離は何事かを考えているようだった。長く思えた静寂の後、料理が冷めそうだと思った瞬間に、鍾離が口を開く。
    「公子殿。今晩付き合ってはくれないか」
    もちろん、デートのお誘いではない。
    退屈をしなくて済む期待に笑みをうかべ、もちろん、とタルタリヤは返事をすると、焼き麺にまだ慣れない箸を伸ばしたのだった。
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