Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 130

    rani_noab

    ☆quiet follow

    万春ちゃんとユゼのWカプ話。
    捏造と妄想とよそカプちゃんかわいい!ついでに自宅。みたいな感じ。

    「お届けものです」
    声をかけられて振り向いた相手に、初春は目を見張る。
    「唯嘉お兄ちゃん……!?」
    鎖国してから何年も会っていなかった、馴染みの青年の姿に初春は思わず駆け寄った。
    佐神の顔をよく視て、それから怪我がないかを確認し、ほっとしてからその左手が差し出す封筒に視線を向ける。
    その宛名に見覚えのある字で自分の名が記されているのにそっと手紙を受け取り、両手で胸に当てるようにして初春は唯嘉の顔を見上げた。
    「万葉さんから?」
    今までどうしていたのかや、万葉とどんな関係なのか、気になることはたくさんあるのに、唯嘉の眼差しが優しいものであることに、万葉との関係を知っているのだと察してじわじわと頬に赤みが差す。
    「相変わらず可愛らしいお嬢さんだな」
    「唯嘉お兄ちゃんも」
    手紙で恥ずかしさの浮かぶ口元を隠すようにして、初春は言う。
    「今までのことや、指輪の相手の方について、聞かせてくださいね」
    途端に見たことがない表情で目を丸くした唯嘉に、若干の動揺が浮かんだのに初春はその心に自分と同じ誰かへの愛しさがあるのを感じて笑った。
    「はあ、まさか初春ちゃんにまで突かれるとは思わなかった。お似合いだな、2人とも」
    なんとなく万葉とどんな話をしたのか察せられて、初春はふふ、と笑う。
    「唯嘉お兄ちゃん、どこかでお茶でもいかがですか?」
    「そうしよう。君の恋人の話をしてあげるし、俺が奢るから八重様には余計なことを言わないように」
    そう念を押されて初春は唯嘉の変わらない様子も見れて安心する。
    「昔よく言っていたお茶屋さんにしませんか?」
    「ああ。まだあるんだな。俺も店主に挨拶したいからそうしよう」
    そんな話をしながら、二人は歩き出したのだった。


    乗り込んだ船に、見覚えのある姿を見つけて唯嘉は笑みを浮かべる。
    視線に気づいた青年は唯嘉を振り返り、同じく目を見張ると、それから応えるようにまた笑みを浮かべた。歩き寄って唯嘉は声をかける。
    「流浪の侍とまた再会することになるとは思わなかった」
    「拙者は、いずれまた会うこともあるかも知れぬと思っていたでござるよ」
    柔らかい声音は、初めて出会った時よりもずっと穏やかなものに聞こえた。この青年はずっと穏やかではあったが、あの時はまだ、何かを問い続けているかのような鬼気迫る光を瞳の奥底に灯していた覚えがある。
    「元気そうで何よりだ。万葉」
    「お主も、心持ちが変わったように感じる」
    そんなふうに言われて、唯嘉は肩をすくめる。
    「お互い積もる話もありそうだな」
    「そう思って、この死兆星号を足に選んだのでござろう?」
    他にも稲妻行きの船はあったはずだ。と、鎖国が終わり、交易が盛んになりつつある今は船にも困らないだろうと遠回しに言った万葉に、唯嘉はその通りだと素直に頷いた。
    「北斗船長も俺のことを覚えていて、酒瓶を懐に忍ばせてないか問い詰められたよ」
    「北斗の姉君の目を盗み、こっそり拙者に杯を勧めてきた夜のことははっきりと覚えているでござる。『いつか飲もうの約束よりも、酒を交わすなら今が良い。君が自分の責任を取れる人間だと信じたからな』」
    一字一句間違わずに、あの夜の唯嘉の言葉をなぞった万葉に、唯嘉は苦笑した。
    万葉を積荷に隠れて酒を飲み、様々なことを語らい、そして北斗に大剣つきで叱られたのは良い思い出だ。どうやら北斗もそのことを覚えていたらしい。
    「残念ながら手土産がなくなった」
    「また酒を酌み交わす機会も巡ってくるでござろう。それに、土産話に事欠かぬと見たでござる」
    そう言った万葉の視線が、唯嘉にの左手に向けられたのに己の左手を見る。手袋をした薬指にはその上にシンプルな指輪が嵌めてある。それは一般的にパートナーがいることを示すものだ。
    以前、唯嘉は誰かと添うつもりはないと万葉に話した覚えがあったが、万葉はそのことも覚えているようだ。
    稲妻で育つうちに慣れてしまった孤独を癒すよりも、己の腕を試す喜びを追いかけたいと思っていたのだ。共通する部分を夜遅くまで語り合ったのを覚えている。
    「まさか、これをつつかれるとは思っていなかった」
    意外さとほんのわずかな動揺に気付いたのかどうか、万葉は微笑むと胸に手を当てる。
    「拙者にも帰る場所ができたゆえ、お主の話を聞いてみたいと思ったのでござる」
    万葉から帰ってきたその言葉に、唯嘉は目を丸くした。
    「……君にか?」
    「うむ」
    「それは喜ばしいな。君は情のある人間だから、誰かからも大切に思われて欲しいと思ってた。……あー……ええと、」
    どんな表情を浮かべればいいのか迷った唯嘉に、万葉の微笑はさらに柔らかいものとなる。それから口元を覆うようにしてから、唯嘉は呟くように言った。
    「君は相変わらず覚悟が決まってるな。俺はまだ慣れてないんだ。そんなつもりがなかったから」
    「拙者は幸いなことに、家族や友の情を知る機会があった。唯嘉、お主にそのような顔をさせる相手が現れたことを、嬉しく思うでござるよ」
    万葉が穏やかに言う表情を、唯嘉は見つめた。
    稲妻が開いた時の話は、唯嘉にも流れてきている。その事件が万葉の心境にどれほどの影響を与えたかは分からないが、今の万葉の芯は、その相手への想いでより強くなっているように思えた。
    その表情に似た顔を、知っているせいだ。
    「……惚気たいなら君から話してくれ」
    周囲の人間から少し離れるように、話す場所を探して船内を歩き出した唯嘉に、万葉は隣に追いついてくる。
    「俺も君にそんな顔をさせるのがどんな人か聞いてみたい」
    そうちらりと万葉に視線を向けて唯嘉は言う。
    誰かの幸福を見るのは好きだったが、こうして共感を抱くのはなんとも──悪くないものなだと唯嘉は思った。
    そこで、万葉の想い人が、唯嘉の馴染みである初春だと判明した。
    そうして、稲妻に久々に戻る予定だった唯嘉は万葉に文を託されることとなったのだ。


    「万葉が君のことを大切に思っているのはよく伝わってきたよ。君の強さや、その瞳とうまく付き合っていること。どう自分を支えてくれたとかな」
    手料理も褒めてた、と微笑ましそうに言う唯嘉に恥ずかしさをずっと感じているものの、他の人から聞く万葉の自分の話が嬉しくて唇が綻ぶ。
    するとくすくすと唯嘉は笑った。
    「可愛い。お似合いだな。二人とも」
    「唯嘉お兄ちゃんばかりずるい。私もお兄ちゃんのお相手の話を聞きたいのに」
    「……素直に褒める言葉が出てこない」
    「でも、大切なんでしょう?」
    初春の問いかけに唇を閉じたまま、だがその表情がどんな想いを抱えたものか、覚えがあって初春は微笑んだ。
    誤魔化すように促されて手紙を開けてみる。
    便箋には、仕事が終わったらすぐに帰る。その時は二人で唯嘉をもてなしたいと書かれていた。
    唯嘉との再会と、万葉が帰ってくることが嬉しい。
    思いがけない話がたくさん聞けそうだと、初春は手紙から顔をあげて、これからの予定を唯嘉に尋ねるのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘💘💘💘💞💞💞💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator