「ずっと気になっていたんだが、そのアザールってやつは、どんな見た目をしてるんだ?」
グラマパラの捜索を行っている途中で、そう話を切り出したディシアに旅人とパイモン、セノは視線を向ける。
「どんなって……長い金髪で30代くらい。男で他の学者とは違うデザインの服を着ていたな」
「…………」
腕を組んで考え込むディシアに、パイモンは続ける。
「ディシア、何か気になることでもあるのか?」
「いや……。あたしが知っている学者と同じ人間かと気になっただけだ。3年ほど前、学者の護衛依頼を受けたことがあった。その時の依頼人がアザールという男だったんだ」
「え?同じ見た目だったのか?」
「ああ。今の話を聞くと同じ人物だろうな。あたしたちにも丁寧な態度で、物静かな男だった。金払いも良かったし、教令院の人間には嫌気がさしていたんだが、その男の依頼は受けるのが楽しみなくらいだったよ」
「護衛というと、砂漠へ調査にきたのか?どんな調査だったんだ?」
セノの問いかけにディシアは思い出すような仕草をする。
「環境調査という話だった。数年前にも訪れていて、気候に変化が起こっていないか、起こっていたらどれほどの規模でどんな変化なのか、尋ねたら丁寧に説明してくれたよ」
ディシアの声にネガティブな感情はない。
「話上手で、警戒していた仲間たちも数日過ごすうちに、アザールの話を良く聞くようになったし、質問もしていた。あれは結構楽しかったな。あたしたちが知ってる砂漠と付き合うこつを話したら、その原理を教えてくれた。……人は変わるもんだな」
嘆息したディシアは、それからいや、と続ける。
「変わっていないから、か?彼はあたしたちのプライドに障ると思ったのか、顔には出さなかったが教令院との環境の落差を憂えてるようだった。アザールがどんな思惑で今回の件を起こしているのかは分からないが、どこか覚悟したような雰囲気があったな。……もしかすると何年も前から計画していたのかも知れない」
「そうだったのか……。でもディシアとも知り合いだなんて、アザールは顔が広いんだな」
パイモンの言葉に、ディシアは考え込む。
「そういえば、一つ気になることを言ってたな。確か、砂漠に来たのは精度をあげるため、だとかなんとか」
「精度?なんの精度だ?」
「さあ、その時はまだ警戒していて、詳しくは聞かなかった」
うむむ、と腕を組んでパイモンはため息をつく。
「ダメだ。やっぱり動機が分からないぞ。エルネが好奇心とかで神の創造を企むようには思えないんだよな……」
「それについては、個人的な認識だが同感だ。とはいえ、アルハイゼンが言ってた通り、学者が道を踏み外す理由の多くも好奇心によるものだ。いずれ明らかにする」
意思のこもった声音で言って、セノはひと足さきに歩き出す。
「信頼した訳じゃないが、セノもアザールに思い入れがあるだろうに冷静に調査してるな。アザールがどんな人間か、数日過ごしたあたしには分からないが、それでも話を聞く限り、あたしは酷い奴だと思うよ」
だって、とディシアは続ける。
「自分が関わった人間がどう感じるかよりも、自分の目的の方が大事だったってことだろ。あたしには分からないな」
ディシアの言葉に、パイモンは悲しげな顔で考え込むように俯く。
自分たちがやることは決まっているが、パイモンが揺れてしまうのも無理はないと蛍は思った。
蛍たちに見せた情や、動揺は本当のものだった。それよりも大切な目的。
蛍自身は、薄々気づいてはいるが、まだ確信には至らない。
ただ、もし、蛍が考えていた通りだとしたら、彼は蛍の印象のままの人間だ。
だからこそ──、どうして、どうして彼女を信じなかったのだと、蛍は問いかけたかった。
それにはまだ情報が必要だ。
真実の探究。蛍はスメールに来てからの自分の道が、奇しくも学者の研究の道に似通っていることに気づく。
『君たちに知恵が訪れますように』
まるで終点で自分たちを待っているかのようだ、と思いながら、蛍もセノに続いて足を踏み出した。