ちいさな帝君を再び拾った次の日。
先生の姿に戻った先生は私の決意に関わらず一度留守にするという。断りもなく往生堂から居なくなったようなものなので、その説明と滞っている依頼をこなすのに、体調も落ち着いていることから、数日出かけることにしたらしい。
ずっと泊まりこむのかと思っていたので、ちょっとほっとしながら、私もいつも通りの日常へと戻り、職場に行ったら──突然の、修羅場だった。
二日だけ、仕事を留守にしただけなのにタイミング悪く難しい注文が入っていたしい。工房には悲鳴のような相談が飛び交っている。なんなら糸や生地も飛んでいる。なんでそんな無茶な納期を引き受けたのか、まあ事情は分からなくもなかったけど、私が居なかったらどうなっていたのか。
その日も含めて結局四日、職場から家に帰れなかった。
仮眠を取りながら近くの同僚の風呂を借りて生きながら得た。やっぱり命の選択は大切です。なんとか注文を完成させた後、ついつい居座って趣味の方で縫物をしてしまって四日。
作ったのは小さな帝君のぬいぐるみだ。大きさは大人が抱きしめてちょうどいいくらい。重いわたを中心につめて抱いたときに心地良い重みがあるようにして、抱きしめた時にはもちもちの弾力になるように生地と綿を選び抜いて作った。
可愛らしいつぶらな瞳はいっそ石珀にするべきかとも思ったんだけど、流石に抱きしめて眠る時に困るのでやめておいた。角の部分もやわからいぬいぐるみだ。まっすぐに伸びるようにするのにちょっと苦労した。
出来上がって可愛い可愛い抱きしめてひとしきり騒いだ後、寝落ちして、修羅場アドレナリンから目が覚めたせいでへろへろになりながらようやく帰宅した。
岩王帝君がぬいぐるみにされているのは別に珍しいことじゃないが(良いんだろうか?と思いつつ、でも帝君、娯楽小説にも八重堂にもなってるし)、この手の可愛いデフォルメは日本人の感性と特技だなと思うこともままある。
同僚に完成品を見せたらモラを払うから作ってくれと大絶賛だった。そうだろうそうだろうこれは実物よりもかわいい。喋らないので……。嘘、実物も可愛いです。喋ると恐縮するので喋らなければ……。
帰宅した私は、扉の鍵を開けて足を踏み入れ、その直後、やけに美味しそうな匂いで室内が満たされてるのに足を止める。
「え?」
台所で誰かが振り向いたのと目を合わせた。
「ああ、おかえり。ちょうど腌篤鮮が出来上がるところだ。作ってから手土産として持ってきても構わなかったが、食べるのに最適な温度を保つために、厨を借りる必要があったので邪魔をしている。貴殿から鍵を借りていたのが幸いしたな。今、味を確かめたが、貴殿の期待に応えられる出来、」
そっと扉を閉めた。いや閉めちゃった。どうしよう。
台所に鍾離先生が立っていたの見間違いじゃないよね……?え?なんで???仙体の時には泊まるという話だった訳じゃないの?……それにしても先生見返り美人だったな……心臓に悪い……。
混乱していると、扉の向こう、足元のあたりから、かりかりと扉を引っかく音がするのでそっと開ける。
「…………」
「…………」
小さな帝君の姿の先生がいた。
私を見上げるのに一生懸命首をあげている。明らかに脈絡のない仙体への変わり身だった。あんなに元気に腌篤鮮を作っている凡人が不調なはずがない。つまり気を使われてしまった。魈さんが居なくて命拾いしたことは分かった。こ、こんな気遣いを……!
『すまない。驚かせてしまったようだ』
頭の中に直接そう少し申し訳なさそうな響きの声がして、私はゆっくりと先生を抱きあげる。
その拍子に背負っていたリュックの蓋が開いてしまったらしく、中から小さな帝君ぬいが転がり落ちてしまった。
「あ…………」
「…………」
ころり、と床に転がった帝君ぬいのつぶらな瞳と帝君(仙体の姿)が見つめあっている。それから先生がこちらを向く。冷や汗をかきながら先生のつぶらな生きている瞳をおそるおそる視線を向けた。
本物が目の前にいるのにどうしてか物凄く悪いことをしてしまった気分になる。
少しの沈黙の後、先生は言った。
『俺では不満か……?』
「いやっぜんぜんっ!そんなことは……っ!すみませんでした……!!」
高々と先生を持ち上げて頭を下げる。完全に日本人の仕草だった。前世は抜けないものだ。
すると少し震える先生の体に、笑っているのだと気づいて目を瞬く。鍾離先生がこんなことで怒らないだろうとは思いはするのだが、さっきのは冗談だったのだろうか?
『少し待っていてくれ。やはり不便だ』
そう言われてゆっくりと床に降ろす。
とてとてと擬音が着きそうな調子で私の視界から見えない物陰に入って行った先生は、しばらくして鍾離先生の姿でそこから出てくる。いやそんな変身ものみたいなことをされても。そして出てきた姿は何度見ても慣れない。
うっわ……身長が高い美丈夫だ……。顔が良い……。
拾った帝君ぬいを抱きしめながらしみじみと感じていると、鍾離先生は私をテーブルに案内する。
「礼をすると言っただろう。貴殿と連絡が着かないので、家で待たせてもらうことにしたんだが、そんなに驚くと思っていなかったんだ」
「あ、いえ……。鍾離先生が私の家の台所に立っているなんて思いもよらず」
なんとなくぬいで馴染んだ距離の近さが鍾離先生に残っていそうというか、ちょっと人間と感覚がズレているような気がする。別に良いのだけどびっくりした。
「はは、そうだろうな。しかしちょうどいい時に帰ってきてくれた。やはり貴殿とは縁があるようだ」
鍾離先生は勝手知ったる我が家のように、テーブルに鍋敷きを敷くと、出来たての腌篤鮮を置く。湯気がたちいい匂いだ。疲れてるしお腹が減ってるのを自覚する。
「今が最高のタイミングだ」
よそいでくれながら、目の前に椀を置いた先生に、帝君ぬいをよこに置いて私はいただきますと口にする。
実はすでに美味しそうな匂いのせいで疲れ切ったからだが早く食べたいと私を急かしている。
まずはスープをひとくち。
「……おいしい」
自分で呟く言葉を確かめる前にその言葉は転がり落ちた。
じっくり丁寧に煮込まれ濃縮されたスープは野菜が解けてすこしとろみがあり、ソーセージから出るだしや食材の旨味がちょうどよく凝縮されてたまらなく美味しい。底から体を温め、疲れすらも溶けていくようだ。
口にしたタケノコは、やわらかくなっていて、だが特有の触感が残り、スープと絡めて食感も楽しい。ソーセージも素材がいいのだろう、濃すぎずしっかりとした味がアクセントとしてスープをより美味しく仕上げている。
称賛の語彙が思いつかない私はおいしいおいしいという他に表現できなかった。
「口に合ったようで作った甲斐があった」
目を細めるようにして嬉しそうに言う鍾離先生にどきりとした。
「美味く褒められなくてすみません。でも本当に美味しいです」
「ああ。分かっている。貴殿が可愛いというときと同じ声音だ」
むせそうになった。
美味しいと可愛いが同じ声音???鍾離先生がしっかり私の反応を記憶していることに気づいて羞恥で突っ伏したくなるが、腌篤鮮の手前なんとかこらえた。
私の反応を見終わった後で、自分もきちんと座り直し、腌篤鮮を食べ始める先生の所作が綺麗すぎて上流階級の人間の映画でも見ているみたいだ。なんか仕草や作法専門の人がいるよね、そういう映画って。どのジャンルでもやっていける客卿なんだろうなあ。
「ん?」
私の視線に気づいて首を傾ける鍾離先生が、話したいことがあるなら話してみると良い、みたいな雰囲気で、いいえなんにも……と私は目の前の腌篤鮮に視線を戻したのだった。
「それで」
食事の後片付けも最後までやると言った先生に、いえ私がやりますと言い張ることも出来ずに、片付けする鍾離先生の背を見て恐縮しながら出されたお茶を飲む。家主は私じゃなかっただろうか。
手持ち無沙汰で帝君ぬいを抱きかかえると、可愛らしい顔が私を見返してちょっと顔がほころんだ。我ながら可愛くできた。
「見事なぬいぐるみだな」
片付けが終わったらしい鍾離先生が私の前までやってきて、ぬいぐるみを見下ろす。緊張が私に走る。見逃してくれた訳じゃなかったらしい。
「良かったら見せてもらえるだろうか」
そんなふうに言われたら見せないわけにもいかない。
「ええと……どうぞ……」
躊躇いつつも鍾離先生に帝君ぬいを渡すと、ぬいと先生が見つめあう構図が出来上がる。
真剣な顔をしてぬいぐるみをひっくり返しながら、鍾離先生は感心したようにうなずいた。
「良い裁縫の腕を持っているようだ。縫い目が均一で美しいのもそうだが、柔らかい生地やしっかり入った綿に対して抱きしめても問題のない丈夫なつくりをしている。そして重みもまた小さな生き物を思わせて良い。ぬいぐるみは瞳を仕付けるのが特に難しいと聞くが、再現しながらぬいぐるみらしい愛らしさを出しているのも見事だ。貴殿が作ったのか?」
この流れやっぱりそう聞かれますよね!
「ええと……はい、すみません」
褒められているんだけど、なんだかとても居心地が悪い。そう思った私に、鍾離先生は意外なことを言い出した。
「貴殿が小さな仙体を気に入っていることは知っているが、ぬいぐるみを作るほどとまでは思っていなかった。貴殿が望むのならば、契約の間、俺はあの姿を取っていても構わない」
「えっ?ちょっとそれは流石に恐れ多いというか……」
む。と先生は声を出すと、しげしげとぬいぐるみを眺める。
「貴殿の裁縫の腕は見事だが……」
もの言いたげな先生は全部の台詞を言い切ることはなく(なんか珍しい光景だ)、私の腕に帝君ぬいを下ろす。
「俺にするには恐れ多いので代わりにぬいぐるみを作った、ということか」
なんだか浮気を責められている気分になってきた。
「流石に鍾離先生を思い切り抱きしめたり可愛がったりするのは出来ませんよ」
「そうか……。そうだな」
気のせいか不服そうに見える。いやそうだとして鍾離先生、ご自分の容姿と立場をちゃんと考えてください……。まさか自分の方が可愛いとか言い出さないかとちょっとどきどきしたけどそんなことはないだろうとすぐに正気に戻った。
いやでも鍾離先生、自分が格好良く演出されている本や劇が好きなようだから、案外、ぬいぐるみも気に入っているのかもしれない。
「確かに先生の小さな仙体の可愛さは全部再現出来てないんですけど、やっぱりちょっと癒しが欲しくて……仕事も忙しいので動物も飼えませんし……」
しどろもどろの私をじっとみていた先生は、私の言葉を聞いてから、ふ、と笑みを浮かべる。
「いや、貴殿の心を癒せるのなら構わない。ただ、少し……そうだな、羨ましく思った」
これまた意外な台詞だった。
「先生の分も作りましょうか?二日ほど待っていただければ……」
「気遣いには感謝するが、俺には必要のないものだ」
ですよね……?羨ましいの意味がいまいち掴めなかったがひとまずご慈悲はもらえたことはわかった。
居心地が悪いので、そろそろぬいぐるみの話題から話を変えようと、私は気になっていたことを問いかけることにする。
「ええと、先生、私の家にいらしたのは、単に約束の腌篤鮮を作るためですか?」
「ああ。体調に問題はない。だが二日ほど続けて訪れた際に帰った様子がなかったので、何かあったのではないかと心配していた」
ああ、商業の街の璃月でも二日帰らないみたいな働き方をするのは流石にブラックで、そうは予想しないだろうし、何かあったのではないかと気遣われたのは私の方だったらしい。
先生は私の情報を知らないわけだから……。でも家の中で待っているついでに腌篤鮮を作るのは距離が近い気がする。タイミング良く帰ってこなかったらどうするつもりだったのだろうか。先生が腌篤鮮を振る舞う知り合いは璃月にはいるだろうけど。
「ご心配おかけしてすみません……。仕事の納期が迫ると帰れないこともよくあるので……。実はそれもあって鍵をお渡ししたんです。でも考えてみれば仙体の姿じゃ開けられませんよね。猫の入り口みたいに扉に小さな入り口を付けるべきでしょうか?」
「その気遣いはありがたいが猫扱いをしてくれるな」
「うっ、すみません」
脳内であのもったりした体で扉の猫用扉を抜けてくる姿は可愛いだろうなとちょっと想像したのを慌ててかき消す。
先生のサポートをすると決めたのなら、私の仕事先を教えないのは道理に合わない気がした。
「私は服飾に関する仕事をしていまして、もし連絡が取れず困ったときは、工房に来ていただければ会えると思います」
工房の場所を教えると、鍾離先生は笑みを浮かべて頷く。
「ああ。覚えておくことにしよう」
その笑い方が柔らかい親しみのこもったものであることに、なんだか私のような人間に向ける表情じゃないよなあと見返す。
私に原作知識がなければ、きっとこの顔の良さにあたふたしていたに違いないな、と思いながら修行した後の仙人の気持ちを疑似体験したかのような気持ちになった。いや正直、正直なところそんな顔をしてくれるなんて、友人くらいの立ち位置にいるんじゃないかと勘違いをしそうになる。まさか私の個人情報を教えてもらって嬉しいというわけじゃないだろうし、鍾離先生はなんというか人に対しておおらかというか、キャパシティの大きい人だと改めて実感する。
というか鍾離先生にとって私は怪しすぎる存在なんだろうけど、こんなに優しいということは掌で転がせると思われているからじゃないだろうか?というかその方がありがたい……。名前はあるけどただのモブです。
「今度来るときは手紙を送ってから来ることにしよう。また扉を閉められたくはないからな」
「す、すいません…………」
笑って鍾離先生は、暇の挨拶を告げると、私の家からさっていってしまった。ゲーム中に良く見つめていたその背中を見送り、扉を閉めてため息をつく。
それからテーブルに戻ってくると、帝君ぬいを抱き上げる。
「君のせいで色々ごりごり削れたよ……」
ぎゅう、と抱き締めると心地良い弾力が帰ってくる。うーん我ながら最高の出来。
明日も工房に連れて行って、もう1帝君ぬい作ろう。おもいがけず単位みたいな表現になった。
翌朝、帝君ぬいを入れたバッグを抱き抱えて、工房への道を歩く。
背後から人が走ってくる気配を感じて、ぶつからないように振り返りながら横に避けようとした私は、伸びてきた手が私のバッグをつかんだのに、目を見開く。
「えっ!?」
気づけばひったくられていた。ひったくりだ!?
街ゆく人がびっくりした顔で私の方を見ているが、ひったくりだ!?走っていく犯人にひったくりだ!!と他の人が叫ぶのが聞こえる。
「わ、私の帝君!!!!!!!」
悲鳴をあげて慌てて追いかけようとするけど、ひったくり犯の足が早すぎる!そりゃひったくるんだから早いよね!!みるみるうちに遠ざかっていく。
ううう、私の帝君ぬい……諦めきれずによろよろと歩きながらも速度を落としていく私の背後から、すっと人影が追い抜いていくのに反射的に視線を向けた。
「えっ?」
青い瞳がぱちっと私にウインクする。待ってて、と囁くように言ったその声は、はるか昔にゲームの中で聞いていた声だ。
「タ、」
灰色の制服に頭には鮮やかな赤い仮面。茶色のはねっ毛。そしてさっきの青い瞳。間近で見ると本当に光がなかった。怖い。
軽い走りに見えて、ひったくり犯に軽々と追いつくと、笑いながらその手からバッグを取り上げて、そいつを地面に沈める。綺麗な手並みすぎて感心してしまった。さすがファデュイ。このニュアンスはヤクザに近い。
戸惑っている通りすがりの人にひったくり犯を通報してくれとばかりに押し付けると、バッグを手に──タルタリヤは私の元へと戻ってきた。
「はい」
差し出されたバッグに戸惑いながら口を開く。
「あ、ありがとうございます」
こうしてみると可愛い顔してるなあ、とその顔を見上げて思った。
「無理にとは言わないけど、そのバッグの中、見せてもらえるかい?」
「えっ?」
急にどうしてそんなことを言われたのか全く分からなくて動揺した。
ひったくり犯から取り戻してくれたお礼の気持ちもあり、隠して変な風に勘繰られたくもなかったので、私はごそごそとバッグの中から帝君ぬいを取り出す。すると予想外だったのか、タルタリヤの目が丸くなった。余計にかわいい顔になった。
「岩王帝君のぬいぐるみ?」
「はい……」
手に取りたそうに手をあげるので、ちょっと躊躇いながら帝君ぬいを渡すと、タルタリヤの口元に笑みが浮かぶ。
「へえ、可愛い顔をしてるね」
なんだかウケている様子のタルタリヤは、ちょっともふもふとぬいぐるみの感触を確かめる。
「私の帝君なんて言うから、何が入っているのかと思えば……ぬいぐるみだったとはね」
そういえばそんなことを口走ったかもしれない。恥ずかしい。必死だったので記憶がないが、それで中身が気になって助けてくれたのだと思うと、結果盤石だったのだろう。
「これ、どこで買えるんだい?」
まさかそんなことを尋ねられるとは思わずに驚く。無視するわけにもいかない。
「こ、れは、私が作ったもので……」
「へえ、今度妹の誕生日なんだけど、君に注文したら作ってくれるかな」
「えっ!?これを……ですか……?」
妹ってトーニャさんだろうか。
いや、でもなんで帝君ぬい?
「うん、いくら支払えば良い?君の望むだけ、とは言えないけど、十分以上のモラは支払うよ」
そんなことを言われても困惑してしまう。
帝君ぬいをタルタリヤに作る……のは何も問題は……ない……と思うんだけど、断ろうにも助けてもらっちゃったしなあ。
それに、望舒旅館に行く時にそこそこのモラを使ってしまったので、臨時収入があるのならありがたい話ではあった。ッ先生もしばらく家に滞在するみたいだし、蓄えはあって損はない。
「わ、かりました」
頷くとタルタリヤはにこっと笑う。うっ顔が可愛い。身長が高いからゲーム中は青年だなって思ってたけど、あどけない顔をしている。目は死んでいるけど。
タルタリヤは私に帝君ぬいを返してくれた。
「君の連絡先を教えてくれる?」
「あ、じゃあ工房があるのでその住所を……」
タルタリヤと連絡先を交換した。え?私だけじゃなくて教えてくれるの???交換すると、タルタリヤは面白いものを見るような顔つきで私を見ている。
「君、俺が誰か知っていて注文を受けてるよね」
「あ、はい。「公子」タルタリヤさんですよね」
璃月の有名人だから知っててもおかしくないはずだ。
「知っているわりに、嫌煙されなくて助かるよ。妹には璃月のものを贈りたかったんだけど、食べ物というわけにも行かないだろ?それに、俺の妹の部屋に岩王帝君のぬいぐるみが置いてあるのはちょっと面白いからね」
「はあ……」
その言い方、まさかおもしれー女と思われてるんじゃ……ないか。流石に。
「じゃあ、あんまり俺と話していて君の評判が落ちるのはかわいそうだし、俺はそろそろ退散するよ。あとで工房には人をやるから、詳しいことはその人と話してくれる?」
「はい、分かりました」
頷くとタルタリヤはひらひらと手を振って(懐っこい人だ)この場を去っていく。
「大丈夫ですか?!」
ちょうどその時、やってきた千岩軍の人が声をかけてきたのに私はあわててぬいぐるみをバッグに仕舞った。
今日は仕事には遅刻していくことになりそうだ。
なんだかまた先生に言いにくいことが出来てしまった。