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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    さぶな先生。どむさぶ続き。餌付けの話。

    琉嘉はまめなことに予約の前日に手紙を送ってくる。予約の確認と、都合が悪ければ連絡をしてくれとの簡潔な手紙だが、プレイの期間の開く多忙な人間相手なら、良い手段なのだろうと思った。
    今回は手紙の中で、空腹ではなくても構わないが、満腹の状態で来ないでくれと記載があったため、鍾離はその通りに、間食が出来る程度の状態で白駒逆旅へと向かった。
    二回目からは部屋代は鍾離が出している。三回目ともなれば部屋にも馴染む。訪れてから扉をノックをするまでの間が少なくなった。部屋にはいつも通り先に到着していた琉嘉がソファに座って待っている。
    テーブルには果物が入ったかごが乗せられていて、その隣には果物を剥くためか小さなナイフが置いてある。部屋に甘い香りが漂っていた。
    「こんにちは。鍾離先生」
    微笑む琉嘉は前回と同様、本に視線を向けていて視線は合わない。
    前回から気づいてはいたが、目を合わせることをきっかけに、鍾離にプレイに入らせる条件付けをしているのだろう。
    日常とプレイを切り離しておくことは確かに重要なことだ。おそらくそのうちに自分でコントロールできるようになりそうだと鍾離は感じていた。
    「こんにちは。今日もよろしく頼む」
    向かいのソファに座ると、琉嘉は口を開く。
    「鍾離先生は食べられない果物はある?」
    「果物において、好き嫌いはないな」
    「それは良かった。どれも良い品種だから」
    「今日は『餌付け』をするのか?」
    「ああ。前回は先生の性格についての話だった。だから今回はあなたが俺を満足させる経験をして欲しい。つまり俺のDomとしての性格だな」
    「貴殿はSubに食べさせるのが好きなのか?」
    「ああ。DomはSubが満たされているのを見て満足するし、逆も同じだ。今日は先生は俺の反応をよく見ててくれ。すぐに実感すると思う」
    琉嘉のDom性の話は、旅人たちに聞いているものと印象が違う。そんな相手を甘やかすようなものではないはずだ。
    だが、今詮索をするのは機が悪いだろう。急がずともまだ契約を終わらせる予定はない。
    「心の準備は?」
    「とうに整っている」
    「セーフワードは?」
    「玖耀のままで変わりない」
    「それじゃあ」
    琉嘉が顔を上げる。ようやく視線が合った。見慣れた黒い瞳に、またどきりと心臓の音が一つ大きい。
    「始めようか。come《おいで》、鍾離先生」
    ぽんぽん、と自分のすぐ横のソファを叩く琉嘉の声に、考える前に体が立ち上がっていた。横に腰を下ろすと、拒否もできるゆっくりとした仕草で伸ばされてきた手に頭を撫でられる。
    「good《よく出来ました》」
    慈しむような柔らかい声音が心地いい。目を細めると、琉嘉は笑う。
    「どれが食べたい?」
    かごのフルーツに視線を向けた鍾離は、底に置いてある果物が琉嘉が言った通りに一級品ばかりであることを確かめる。市場ではお目にかかれないものが多い。
    「ではリンゴを」
    頷いて琉嘉はリンゴを取り出すと、小型ナイフを手にシュルシュルと器用に皮を剥いていく。慣れた様子に、この男も料理をするのだろうかと考えた。プレイをしているのに私生活のことを何も知らない。最初のDomも二人目のDomも、お互いの自己紹介から入ったのに、この男とは実践から入っている。剥かれたリンゴは蜜があり、琉嘉の手を濡らす果汁がテーブルに滴る。
    琉嘉は手のひらの上で一口サイズに切ると、まず自分の口に入れてしまった。食べてから美味しいというように頷くと、二つ目のかけらをつまんで鍾離の顔の前に持って来る。
    「少しでも嫌悪があるなら無理をしなくていいよ」
    「いや、大丈夫だ」
    わざわざ毒見のような真似までしてもらって、まだ躊躇うような性格はしていない。それに、大抵の人間は自分を害せないことを鍾離は知っていた。
    唇をよせて、あ、と口を開き、リンゴを食べると琉嘉がじっと自分を見つめている。よく熟し、酸味とのバランスも良い上等なリンゴだった。
    「美味いな」
    そう口にした途端、琉嘉が嬉しそうに微笑んだのに、ぐ、と心臓が妙な動きをした。
    「良かった」
    いつも穏やかだが嬉しそうにする琉嘉は初めて見る。喜んでいる。そう感じ取った途端に、こちらまで喜びを感じたことに鍾離は驚いた。楽し気な様子でリンゴをまた剥く琉嘉のその表情をもう一度確かめようと、先ほどよりも早く指のリンゴに口を開けると、自分を見つめる琉嘉の瞳に恍惚の色も見えるようで、それが驚くほど心地よかった。
    「DomはSubの信頼を得ることで安定するのは知っての通りだが」
    言いながら琉嘉はリンゴを自分の口に運ぶ。美味しいものを共有している感覚に形容しがたい喜びを感じる。もう一つのかけらを唇に押し当てられて、口の中に迎え入れる。
    「褒められて喜ぶSubを見てDomが満たされるように、信頼されて喜ぶDomを見ることでまたSubも満たされる。いくら文章で対等な関係と記載されていても、commandの存在がプレイを一方的に見せてしまうことはよくあることだ」
    ナイフを置き、布巾で丁寧に指をぬぐい、琉嘉はゆっくりと手を伸ばして鍾離の頬を撫でる。
    「そしてそれは理解を深められない一因でもある。知識があり、成人している人間はプレイに抵抗があり、上手く関係を築けないことも多い。だから先入観が出来る前に、まずプレイから始めてしまったんだが、あなたの向き合い方は誠実だな。抵抗も多いだろうに、よく頑張ってる」
    よしよし、と頭を撫でられて自然と口元に笑みが浮かんだ鍾離の顔を見て、琉嘉も目を細める。
    「貴殿と契約をして良かった。俺が出会った調心屋と比べ、貴殿の腕が良いのは未熟な俺でも良く分かる。紹介してくれた旅人とパイモンにも、そして契約を交わしてくれた貴殿にも感謝をしなければな」
    「俺はモラを対価に、あなたや他のSubがダイナミクスに振り回されず、充実した人生を歩む手伝いをしているに過ぎない。でもあなたからそう言ってもらえるのは光栄だな」
    琉嘉が残りのリンゴをテーブルの上に置いてしまった琉嘉を鍾離はじっと見やった。
    「ん?」
    「もう食べさせてはくれないのか?」
    目を瞬いた琉嘉が、それからくすくすと笑うと鍾離の体を引き寄せる。されるがままになっているのは、琉嘉が自分を害さないと思っているからだ。
    「good《良い子だ》。自分からねだれるのは、相手への信頼と自分のダイナミクスを理解出来ている証拠だ」
    抱えるように抱きしめられて頭を撫でられる。
    幼い子供のように扱われることに、まだ困惑は抜けないが心地いい。
    「あなたからそういう言葉が聞けて嬉しいよ。お望みどおりに。鍾離先生」
    琉嘉の指がリンゴを捕まえ、ナイフで食べやすい形に切られるのを見つめる。
    「次回はあなたからプレイを開始してみよう」
    次回の言葉に、今日の時間が残り少ないことを改めて意識した。
    この心地良さから離れるのが惜しい。やはり上質な芝居を観ているような心地になる。だが芝居と同じで、終わった後にその素晴らしさを思い返さなければ、完成しないものだとも分かっている。素晴らしいものはそこに存在しているだけでは無意味なのだ。価値を認め、または使い、素晴らしいと理解する者がいなくてはならない。
    もう少し期間を延ばしてみようと告げられて、次回の予約は二週間後となった。体調が悪ければすぐに手紙を、とも付け加えられて承諾する。
    二週間の先、また彼に会える。
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