Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 130

    rani_noab

    ☆quiet follow

    Subの先生進捗。夢主視点。

    楽し気に、旅の途中で会ったことや、出会った人の話をする旅人とパイモンを眺めながら、杯に酒を注ぎ足した。
    琉嘉が家に帰った時に、璃月に立ち寄ったと顔をだした二人に、琉嘉は夕食に誘った。丁度買い出しに行っており、家には食材が豊富にあった。オムライスとスープをつくり、焼きプリンもついでに作った。
    琉嘉が旅人のことを考える時、思い出すのは出会ったときのことだ。
    とある路地裏で顔見知りのSubがDomにglareを浴びせられて動けなくなったところに通りがかった。喚き散らしている言葉から、DomがSubの浮気を責めているようだと分かったが、どんな理由があっても琉嘉にとってglareは暴力と同義だ。人に向けて良いものではない。だが、浮気を責めている状況に、顔見知りの自分(Dom)が割って入ったら事が余計にこじれることも分かっていた。まずは千岩軍に連絡を取るべきで、それは誰かが走っていったので、やがて駆けつけるだろう。こうしている間、誰も二人の間に割り込んでDomをなだめようとしない。璃月では、第二性のことは家族間や当事者同士で方を付ける風潮がある。波風を立てないためには琉嘉もいざというときに割って入れる程度に眺めておくのがこの国での正解だ。
    だが琉嘉は結局我慢できなかった。怯えて苦しんでいるSubがあまりにも哀れであり、そしてその姿は琉嘉の嫌な記憶を刺激したのだ。強引に間に割って入り、激高したDomに強かに打たれて、反射的に周囲すら威圧するほどのglareを浴びせたところで、旅人とパイモンが割って入ってきてくれたのだ。
    空がSubに付き添い、パイモンが懸命に話して激高したDomを落ち着かせたのを眺め、琉嘉は二人が第二性を持たないことにすぐに気づいた。
    不思議な感覚だった。
    同じように別の世界から来た(圏点)人間に、人生を左右する第二性がない。琉嘉はそれが羨ましかった。

    この世界は、そんな琉嘉の第二性の感覚からすればまだ発展途上の段階にあり、時折、琉嘉にはそれがどうしようもなく遣る瀬無い。勿論、琉嘉の元の世界が完璧な平等を保っていたわけではない。ただ、第二性について良く研究され、みんなが勉強する機会があり、どちらをも守ろうとする法律があったという話でもある。
    だから琉嘉は、元の世界で目指していた通り、調心屋になった。元の世界では試験に合格し、資格を取り、研修期間を経てからようやく調心屋になれるのだが、テイワットでは、申請書類一つで事足りてしまった。
    テイワットの大部分の国は、第二性について、その人の常識と良心に頼っている面が強い。琉嘉にはそれが心許なくて仕方がない。
    「なあ琉嘉~。そろそろお酒やめた方が良いとおもうぞ……」
    パイモンが心配そうに声をかけてくるのに、琉嘉は返事をしなかった。そんなことは分かっている。でも、酒をやめることは今日が終わるということだ。自分の事情を知る二人が、帰ってしまうということ。
    だが、旅人は未成年だ。パイモンだって成人しているかと言われると否だと思える。帰さないとならない。
    途中までは問題なかったのだ。
    疲れているなと琉嘉は思う。ここ暫く、契約者たちとのプレイでは満たされず、ストレスが溜まっている。前は上手く行かないと攻撃的になる傾向があったが、この世界に来てからは寂しくなるようになってしまった。
    なにせ最初は言葉が通じなかったのだ。今に至るまで、琉嘉には安寧はなかった。不安定になるようになったのは、ここ最近だ。生活が安定し、少しの贅沢は許されるようになってきたせいだろう。
    契約者たちに琉嘉が優しさを保っていられるのは、それが琉嘉のプライドだからだ。この世界で誰よりも理想的な庇護者で居ることが、琉嘉をこの世界で生かすモチベーションだった。
    ああ、でもたまらなく寂しい。

    誰か俺を赦してくれ(信頼してくれ)。

    ふと、肩に被せられた毛布の重みに目を開けた。いつの間にか眠ってしまったらしい。部屋は薄暗くされており、旅人たちは帰ったのだろうと周囲を見れば、妙に現実感がなかった。
    少しぼんやりと考えて、薄暗さというよりも、暗い室内を照らしているのがどこから差し込んでいるとも分からない柔らかい白の光だったせいだ。
    夢か、と思いながら身を起こす。感覚がふわふわとおぼつかない。
    「疲れているようだな」
    向かいに座った男がそう琉嘉に声をかけてきたのに、そこで琉嘉はやはり夢だ。と思った。
    そこにいたのは鍾離だった。いつもの硬質で上品な印象の服装ではなく、璃月の伝統的な寝間着を着ている。日本に浴衣と似ており、それほど違和感はなかったが琉嘉はいつもラフなTシャツとスウェットで過ごしているから新鮮ではあった。
    「なんだ。説教?」
    「いいや。お前を甘やかしたいと思っている」
    「それは俺の役目だ」
    「なら命令してくれ。そうすれば俺のわがままも叶えたことになる」
    物は言いようだと琉嘉は小さく笑う。
    「命令を具体的にねだるSubに出会ったことないな」
    「なら俺が初めての経験になるということだな」
    どこか嬉しそうな鍾離に、人をその気にさせるのが上手いと笑う。自分の脳の再現率も中々だ。
    夢ならば良いかと琉嘉は自分を律している理性を少し緩める。毛布を掴み、立ち上がって、リビングを抜けて客人を迎える、というよりほぼ旅人たちのために用意してあるソファに向かう。
    「おいで。先生。俺を甘やかしてくれ」
    「ああ」
    寄ってきた鍾離が琉嘉の隣に寄り添って座る。
    「なんでもしよう。して欲しいことはないか?」
    「……なんでもしようは魅力的だな……」
    鍾離のようななんでもよく出来る美しい男に言われると、気が変になりそうだ。
    「恋人みたいに抱きしめたい」
    「ああ」
    少し両手を広げた鍾離を抱き寄せて首に顔をうずめる。霓裳花の香の香りがした。少し低い体温。厚い生地のした、細身にみえてしっかりした体の感触。それから頬を撫でて顔を自分に近づける。すると鍾離は視線を逸らすようにわずかに下を向いた。
    「先生?」
    「少し面映ゆい。お前は恋人にそういう触れ方をするんだな」
    「何か違うのか?」
    「ああ。全然違う」
    そう言われてみれば、少し乱暴かもしれないなと仕事用の態度を思い返しながら自覚した。
    金色の瞳が溶かされたいというかのように細められるのにたまらなくなっていく。
    「可愛いね。先生。可愛い」
    頬にキスをすると、鍾離からも頬を触れ合わせるように抱きしめ返される。
    「先生からは触っちゃ駄目だ」
    言葉にcommandを使えば、鍾離はすぐに手を引いた。何故?と問う瞳に琉嘉は言う。
    「触りたいのか?」
    「ああ」
    「じゃあ駄目」
    眉をわずかに寄せる鍾離の表情に、不満を抱えているのが伝わってくる。非難するかのようにまで視線を送られて琉嘉は笑った。そういう顔をされると可愛くて満たされる。
    「そんなに俺が好きなのか?」
    「ああ。知っているだろう」
    意地悪な質問をしたが、この男は琉嘉の知っているSubたちとは精神性が違う。あっさりと認められて琉嘉の方が戸惑う。
    「どうかな。先生は初めてプレイした相手だから俺に執着しているだけだと思っているよ。俺は上手いからな」
    「そうだとして何が悪い?」
    鍾離から問いかけ直されて琉嘉は目を瞬いた。
    「先生のこれからの人生に良くない」
    「それは俺が決めることだ。選ぶのであれば、極上のものを選ぶべきだ。それが手に入らなくなって初めて別の選択肢を考える」
    「…………」
    何か咎める返事をしようとして琉嘉はうまく言葉が浮かばなかったのに口をつぐんだ。鍾離はじっと自分を見つめている。
    「そんなに熱烈に告白されると困るよ。俺は仕事を失うわけにはいかないんだ」
    「何故仕事を失うことになる?」
    不思議そうに鍾離が問いかけてきたのに琉嘉は口に曖昧な笑みを浮かべる。
    「恋愛感情が他のSubの契約者への対応に影響を及ぼす可能性がある。俺は……契約者には誠実で有りたいし、辞めることはできない」
    「……そうか」
    金色の瞳が何を考えているのか、琉嘉には分からない。
    琉嘉の言葉は鍾離の告白を断るものだったが、鍾離の瞳には失望も傷ついた色もない。それが琉嘉を安堵させ、またどうしてか取り返しのつかないことになって行っているような気もする。
    じっとしている鍾離をまた抱きしめ直す。可愛いものをみると噛みつきたくなる。困った顔をさせたい。痛がる顔でもいい。縋るような視線を向けられると征服欲がじんわりと満たされる。奇妙な薄暗い空間の中で、鍾離の体を押し倒すと鍾離はあっさりとソファに背を預けた。
    いつもは手袋が嵌められている手を取る。手を取っただけで琉嘉は何もしなかった。
    「なんでもしていい」
    繰り返した鍾離に琉嘉は首を横に振る。だがその代わりに鍾離の上に体重を預けるように重なって表情を眺める。
    「stay《動くな》」
    楽な姿勢を探そうとしたのか、身をよじろうとした鍾離が動きを止める。苦しそうにするのは、胸の上に腕を置いてるからだろう。鍾離が上に跨られたからといって重みに苦しむとも思えなかったが、素直にその顔で満足することにした。
    「夢にみるほどあんたに執着してるんだろうか」
    鍾離は答えない。じっと琉嘉を見上げたままだ。
    さっきからゆっくりと広がる眠さが頭を鈍くしていっている。じっとしている鍾離を褒めないとならないと思いながら、頭を首筋に寄せて預けるともう目が開けられない。夢だから褒めなくても良いとも思うのだが、褒めてやりたかった。
    「……おきたら」
    褒めるから、と言葉を続ける前に、琉嘉は眠りに落ちていった。

    外から鳥のさえずりが聞こえて琉嘉が目を開けると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。少しの間ぼんやりしてから身を起こす。ここ最近体を起こすのも億劫だったが、今朝はすっきりとした目覚めだった。
    何か忘れているような感覚を覚えながら、寝室を出た琉嘉は、居間に足を踏み入れて心臓が止まるほど驚いた。
    「しょ、鍾離先生……」
    テーブルに本を広げ、優雅な様子で茶を飲んでいるのは紛れもなく鍾離の姿だ。顔を上げた鍾離と目があった瞬間、夢で見たあれこれが一気に思い出されて琉嘉は余計に息を止める。
    「おはよう。顔色は良さそうだな」
    顔色は良さそうだな。じゃない。ここに本当に鍾離がいるとなると夢だったかも怪しくなってくる。琉嘉は慎重に問いかける。
    「どうしてここに」
    「旅人とパイモンが夜に訪ねてきた。琉嘉が飲みすぎているようだから見てやってくれと。自分達は早朝に出かけなければならないからと申し訳無さそうにしていた」
    「申し訳ないのは俺の方なんだが……」
    二日酔いにはなってないが頭痛がする。こんな失態を見せることなんて人生で初めてだ。
    「先生にも迷惑をかけたな」
    「迷惑とは思っていない。お前のその不調はストレスによるものだろう。お互い様だ」
    「そういう言い方をしてもらえると助かるが、それはそれとしてすまなかった」
    「謝罪をされるほどのものでもない。そうだな、お前が悪いと感じているのなら、褒めてくれ。commandがなくとも、きちんとお前をベッドに運んだからな」
    「……ベッドに運んだ時に何もなかったか?」
    「あえて言うなら、お前が俺の名前を呼んでいるのを聞いた。あれは役得というのだろう?」
    思わず額を押さえた。失態もいいところだ。
    「俺の夢を見ていたのか?」
    そういう鍾離はすました顔をしていて、琉嘉が昨夜どんな夢を見ていたかなど知りません。という雰囲気を出している。だが残念ながら琉嘉は鍾離という男がただの人間じゃないことを知っていた。
    知っている理由は話せないので、変な突っつき方もできずに琉嘉は唸る。
    「お前が望むのなら忘れろ。とcommandしてくれれば良い」
    「それは口にしなくなるだけだろう。命令を本当に実行できないからあんたも辛くなる。記憶力、良いんじゃないのか」
    「ああ。……お前がしてくれたcommandは全部覚えているぞ」
    別の意味で頭を抱えたくなった。
    琉嘉は色々と複雑に絡まる自分の感情をひとまず保留にして、鍾離のすぐ側に立つ。夢の中で褒められなかった分もこれで相殺されるだろう。なるべく丁寧さを心がけて、優しく頭を撫でた。
    「ありがとう。助かったよ先生。良い子だ」
    目を閉じる鍾離の表情はそう変わらないが、喜んでいるのが伝わってくる。些細な違いで機微を感じ取れるようになってきてしまった。
    「勝手に台所と食材を使ってすまないが、朝食を作った。モラミートだが、この前に食事をした店で出されたガレットから着想いて、生地と具は別のままにした。これならいろいろな具が楽しめる」
    「大したものは置いてないから、俺の家にあるものは使ってもらっても構わないが……」
    準備された朝食はプレート形式になっており、どこから仕入れたんだと鍾離の案外新しい物が好きなところを可愛く思う。
    「ここまでしてもらって、何かお礼をしないとならないな」
    「何、俺とモラの絡まないパートナー契約をしてくれるなら毎日甲斐甲斐しく世話を焼くぞ」
    だいぶ魅力的な提案だと渋々認めたのは、モラミートを食べた瞬間、美味しさに唸ってしまったからだ。琉嘉もよく料理をするせいで随分時間をかけて作られているのもわかり、何時から起きてたんだと呆れながら美味しい朝食を頬張る。
    「実際悪くない提案だと思う。今、お前は体調を崩しているだろう。もし必要がなくなればお前から打ち切ってもらって構わない」
    「簡単にいうが、情がもつれたら、モラでの契約も出来なくなるぞ」
    「そうなった時は仕方がない。新しい変化を与えるということは、何かを失わせることでもある。俺はそれでもお前と時間の制限なく、心往くままプレイがしたい」
    「そこまで堂々と請われたら怖気付けないだろうが……」
    「怖気付いていたのか?」
    「まあな」
    素直な相手に格好つけても仕方がない。むしろ逆効果だと思った琉嘉の返事に、鍾離はそうか、と返事をする。
    「それは分からなかった。焦らされているものだとばかり思っていた」
    「契約者にプライベートに踏み込まれるのは、調心屋にとっては怖いものの一つだ。線引きが重要な仕事だからな。自分の能力やプレイのミスでもあるし、実際に身の危険に及ぶこともある。まあ俺には他に事情もあるが……」
    言いながら琉嘉は流されすぎているな、と思考を引き止めた。
    「今日は17時過ぎに帰宅する。先生が時間があるならその時間にまた来てくれ」
    「ああ。わかった」
    「でも、先生もよく考えた方がいい。パートナーが他のSubとプレイをしていることになる。先生はそれでも良いのかをな」
    慌ただしく準備をすると琉嘉は、鍾離に声をかけて家を出た。


    部屋に残されて鍾離はふむ、と指を顎に当てる。
    「それでも構わない。恋人に触れるお前の手つきが仕事と違うことを知っているからな」
    この返事は琉嘉には届かないが、確かに夢だったので、彼には聞こえない方が良いのだろう。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💕🙏💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞❤❤❤💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works