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    rani_noab

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    rani_noab

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    ちったなてーーくんを拾った話 5

    「出来た……!」
    する、と指先で撫でた障り心地は滑らかで心地いい。
    私はやすり掛けが全ての部分に丁寧に施されていることを丁寧に調べた後、そう声を上げた。
    渾身の力作。小さな先生用ベッド。
    寝返りを打っても大丈夫なゆったりとしたサイズに、落ちないように、だが幼児用っぽくみえないように柵を低めに、知り合いの職人に頼んで彫刻を施してもらったものを付けた。
    敷いた布団も毛布も最上級の布を用意して、このベッド一つで私のベッドどころじゃない金額がする。
    満足して眺めていると、鍵を開ける音の後に扉の開く音がした
    先生が帰ってきたことを察して私は玄関まで迎えに行くと、先生が両手にいろいろな食材をもって立っていた。
    「おかえりなさい……?大収穫ですね……?」
    「ああ、同居人に夕食を作るのだと言ったらいろいろ持たされてしまってな」
    「先生人望ありますもんね」
    それにしても、同居人?契約関係を表向きに言うとそうなるのだろうか。……同居人??????
    「先生、それ誤解を生むんじゃ……」
    先生は男性の姿をしているし、男女で同居というといろいろ差しさわりがありそうだ。
    私は恋人もいないし暫く作る予定もないので問題がないが、知識人として有名な鍾離先生がモブを同居人と表現することに問題はないだろうか。
    「事実を述べたつもりだったが、貴殿に不都合があるなら訂正しよう。確かに先に貴殿の了承を得るべき事柄だったな」
    なんて、澄ました顔で言っている所を見ると、何か意図があるのかもしれない。
    でもそう言っておけば、先生が体調の悪いときに、私が急ぎの連絡のつなぎになれそうだし、確かにその方が良いのかもしれないと考え直した。
    私が納得しているのをじっと見た後、先生は視線を部屋の奥に向ける。
    「木の香りがするな。やすりを持っているところを見ると、何かを制作していたのか?」
    「あ、そうでした。先生の龍体の時のベッドを用意した方がいいと思いまして。彫刻の部分のデザインは勝手ながら私が考えたんですけど……」
    先生に見繕ってもらうことが一番いいのだろうが、私に先生の眼鏡にかなうようなベッドを仕上げる財力はないし、先生は言って以上の好感を抱いてくれてはいると思うので、思い切って作ってしまった。
    私のベッドから少し離れたところに置かれたベッドを見て、ふむ、と先生は足を止める。
    いや、先生に私のベッドで寝てもらう申し訳なさの一心で作ってたけどこれめちゃくちゃ緊張する……!今すぐ土下座して燃やしたくなってきた。
    「これは……璃月の山河を表す伝統的な模様をベースにしたものか。色のある衣装と違い、木の色合い、質感を利用し、彫りだけでこうも魅せるものに仕上げるのは、デザイン、彫刻ともに良い腕がないと難しい」
    伝統模様が伝わったのに一番ほっとした。というか過分な誉め言葉では……。
    「そ、うですか……?勝手なことしたかなと思って今更ながらに緊張していますが……」
    「そんなことはない。貴殿の心遣い、いつもありがたく思っている。しかし、これほどまでのものを用意するのは負担だったのではないか?」
    「ああ、いえ。先生貯金をしているので大丈夫です」
    「先生貯金」
    繰り返した先生がちょっとかわいかったが、繰り返させてしまった単語が先生に全く似合わなかった。
    「先生のぬいぐるみで出したやる気でこなした仕事のボーナスを貯金してます」
    「ぬいぐるみで、か」
    先生が解せなそうなのに、しどろもどろになりながら続けた。
    「ええと……。こう、椅子に座りながら膝の上に乗せてデザインをすると仕事が捗るんです……」
    「毎日、あの鞄でぬいぐるみを仕事に連れて行っているのは、そういう理由だったのか」
    「不愉快だったでしょうか……」
    先生は首を振った。その表情は穏やかなものだ。
    「いや、契約はしたが、人とのつながりは対価だけで成り立つものではない。日頃の貴殿の気遣いに報いることが出来るのなら、喜びこそすれ、不愉快になど思わない」
    素直にほっとした表情を浮かべてしまった私を、先生はその特徴的な瞳で見下ろす。何を考えているのかちっともわからないけど、何を見透かされていても嫌じゃないと思う。いや、困ることはあるけど。
    「じゃあ先生。さっそく今夜から寝てみてください」
    ああ、私にカメラを買う伝手があったならなあ。初めての小さな帝君が寝ているところを永久に残せたのに。やはりその魅力はぬいぐるみでは敵わないのだ。
    そんなことを考えるていると、先生は何気ない調子で口を開いた。
    「そういえば、龍体の姿とはいえ、貴殿のベッドを借りることを負担には感じていなかっただろうか」
    「え?まあ、先生の正体を知っていますし……。緊張しますし、恐れ多いですけど、負担だったわけじゃないですよ」
    「それなら良かった」
    頷いて先生が小さなベッドに近寄り、しげしげと眺めている背を見つめながら、今の質問の意味を考える。もしかして一緒に寝るのが嫌なのだろうかと心配させたかな。
    まあ先生にとって私は「庇護すべき璃月のモブ」でしかないだろうし、そこに私のプライベートはあまり関係ないのだ。
    それよりも、寝ぼけてぬいぐるみと間違え、抱きしめることの方が危険だ。
    気に入ってくれたらしいことに安心して、私はずっと入りっぱなしだった肩の力を抜いたのだった。

    「じゃあ先生、行ってきます!」
    朝の支度はどうしてもばたばたしてしまう。早起きをしてゆっくり朝食を準備し、優雅に食べている先生とは雲泥の差だったが、これも経験値の差と言い聞かせた。というか先生、時短の料理もできるんですね……。といっても昨夜仕込みに時間がかかっているのは知っている。
    「ああ、気を付けて」
    見送る先生と視線をわずかに交差させるくらいの余裕しかなく、私は家を飛び出した。
    時給は発生するが、依頼を無事に完成させる方に重点が置かれているため出勤時間は厳しくない。ただ、今日急いでいるのは訳がある。私が大信頼をおく生地屋の納品があるのだ。毎回新しい商品も一緒に持ってくるのでインスピレーションも沸きやすく、絶対に納品に立ち会いたかった。帝君ぬいの生地もそこで見つけたものなのだ。
    店に飛び込んで裏に回ると、既に納品の人が来ていた。間に合ったようだ。
    「おはようございます!」
    「ああ、おはようございます。そんな慌てなくても、少しくらいは待っているのに。いつも新商品しっかりご覧になっていただけるから」
    「いえ。お仕事の時間を邪魔をするわけにはいきませんから」
    言いながら並べられている生地をじっと見降ろした。璃月は気候は安定しているけど、祭事に合わせて季節の感覚がある。これから夏に入っていくので、涼やかさを感じさせるものが多い。
    「そろそろドレスとか仕立てたいんですよね……ドレスの依頼はないんですけど」
    半ば独り言の私の言葉に、生地屋のおじさんはいつも通りにこにこと愛想が良い。
    「新たに流行がでたらどっと来るんですけどね。ああ、そうだ。そういえば前からあなたをご紹介したいと思っていた方がいらっしゃるんですが、今なら日程はどうでしょうか」
    「日程……は、急ぎでなければ問題ないですよ」
    「良かった。じゃあ明日以降、早めに声をかけてみますね」
    この生地屋さんは庶民から富裕層まで扱い生地の種類も多い。富裕層には直接出向いているのも知っていた。紹介してくれる相手にちょっと期待してしまう。予算内で最高のものを仕上げるのも楽しいけど、贅沢に生地や装飾を使って仕上げるのもまた別の楽しみがあるのだ。
    「ありがとうございます」
    私もにこりと笑って、いくつかの生地を追加で買い上げ、その日の仕事に取り掛かることにした。

    「昼ー!!お昼だよー!!みんな休憩して!!」
    手元の縫製図をうんうん唸りながら筆を握っていたところで急にそんな大声がして現実に引き戻された。同じく驚いたようで視界の端でびくっとした同僚の姿が見える。
    作業工程の中で縫製図を考えるのが私は一番苦手だ。本来なら専門にしている同僚がやってくれるのだが、彼女は今絶賛修羅場だった。あとで確認してもらおうと思いながら、筆をおく。
    実は今回の服は明星斎の斎主、星希さんからの依頼なのだ。
    上客に会いに行く時用の、ジュエリーに合わせた衣装を依頼されているのだが、このジュエリーがまた素敵で気合が入ってしまう。本人曰く商品より目立つわけにはいかないから適度に落ち着いたものを。と依頼されている。
    ゲームでも明星斎の前よく通ったよなあ。あの星希さんの依頼……!!と興奮しているし、絶対に気に入ってもらいたい。
    工房長があちこち声をかけてさっさと休憩をとるように促しているのにもう一度現実に引き戻される。ここの従業員はみんなワーカホリックなところがあり、無理に立たせないと休憩に行かないことが多かった。そのせいでお昼休憩時にはこの声が響きわたる。そのうちドアをたたきまくるか、銅鑼でもラなしそうだな、なんて思いながら私も立ち上がった。と、気づけばすごくおなかが減っている。集中したからだが、今日はお弁当を用意できなかったから、近くの食堂にでも食べに行かないとならない。
    工房長に一言言って出ようとすると、同僚がドアをあけたまま足を止めているのに気づいた。
    「どうしたの?」
    「いや……それが……」
    なになに?と顔をのぞかせた次の瞬間、ばちり、と二つの視線が私に向けられた。
    「あ」
    「!」
    見つけた!と言わんばかりの表情をしたのは、まさかの「公子」タルタリヤだった。そしてその向かいに鍾離先生が立っている。
    え?どういう状況?
    「な、なんでお二人がこちらに……」
    動揺した私の背後から同僚が私にぐ、と内緒話をするように体を押し付けてくる。
    「知り合い!?」
    わくわくとした顔をした同僚が明らかに何かを勘違いしている。
    「ごめん後で説明するごめんちょっと余計なことを言わないで……」
    「言わない言わない!その代わりちゃんと説明しなさいよ!どっちもイケメンじゃん……!!」
    そんなんじゃないんですけど……!というかよく見て片方ファデュイですよ!?と思いながら同僚が二人ににこりと余所行きの微笑を浮かべて去っていくのを見送る。ちょ、ちょっと側に居てほしかった……味方として……。
    その私にタルタリヤは微笑む。
    「通りがかったからついでに君を訪ねようと思ったんだけど、会えて良かったよ」
    「えーっと……」
    タルタリヤはこうしてみるとさわやかさすらある。イケメンって得だ。
    「まさか貴殿が公子殿と知り合いだとは思わなかった」
    私もまさか帝君ぬいをきっかけにタルタリヤと知り合いになるとは思いませんでした……。
    「それは……」
    じっと二人の特徴的な瞳が私を見つめる。
    タルタリヤは好奇心でいっぱいなのを隠す様子もないし、先生の方はなんだかちょっと問い詰める調子だ。
    わ、わたしなんにもして、して……してないよね?
    「俺も鍾離先生と君が知り合いだとは思わなかったよ。さっき威勢の良い声が聞こえたけど、もしかしてお昼かい?良かったらこの前の依頼の話のついでに食事でもどうかな。勿論俺が奢るよ」
    原神ファンとしてはとても反応したい台詞だったけど、この人たぶん面倒見るの好きなタイプだよね。それもナンパみたいなことを言われている。普段だったらときめきそうだが、それどころじゃない。
    「いえいえいえ公子様と食事とか恐れ多いというか」
    この前はファデュイと一緒だと困るよねって気遣ってくれましたよね?
    そこで私は鍾離先生が手に持っている二つの包みに気づく。私のいわゆる風呂敷だ。余ったお気に入りの布で仕立てたものだった。上手く断りたくて話題を変えようと口を開く。
    「先生、その包みは?私何か忘れ物をしましたっけ……」
    「ああ」
    なんだか歯切れの悪い先生に聞いちゃまずかったかな、と焦ると、先生は一つを私に差し出した。思わず両手を出すと、ぽんと上に乗せられる。
    「無用な気遣いかと思ったが、忙しいようなので昼食を作った」
    「え!?お弁当ですか!?先生の……!?」
    鍾離先生のお弁当……!!
    現金にもぎゅっと手が弁当箱を握る。布の下に硬い弁当箱の感触。
    思い返せば朝食もめちゃくちゃ美味しかった。お昼も美味しいものが食べられるなんて……神様だ……いや神様だった。
    「ぜ、ぜったいおいしい……それにわざわざここまで……お、おいくらですか…………」
    「ははっ、金銭を要求するつもりはないが、貴殿がそう喜んでくれるのなら作った甲斐があった」
    表情を緩めた先生にほっとした瞬間、妙な視線を感じてばっとタルタリヤの方を振り返る。
    ふーん?とでも言いたそうな微笑に、光のない瞳は笑っているものの興味深そうに私を見据えている。なんだかちょっとぞっとして弁当箱を抱えた私に、鍾離先生が公子殿、と声をかけた。かばうような声だった。
    「なんだか邪魔しちゃったみたいだね。ああ、安心してよ、先生。俺はそういう道理は弁えてるつもりだからさ」
    先生の声に反応してか、にこり、とタルタリヤは笑う。
    「でも個人的な付き合いは別。じゃあ君、例の件はまた今度。やっぱり俺が来るよ。都合が悪かったら連絡して」
    「え?あ、分かりました」
    「先生もまた、次合うときはぜひ先生の近況について聞きたいね」
    「…………ああ」
    ひらひらと手を振ってあっさり立ち去っていくタルタリヤを見送って、私はほっと肩から力を抜いた。
    なんだか妙な雰囲気だった……。重要キャラに挟まれるなんて中々ない経験をしてしまった。
    「やっぱりなんというか、迫力がありますね……」
    はあ、とため息をついた私が顔を上げると、人のものとは思えない金色の瞳がじっと私を見つめていてどきりとする。
    「公子殿と親しいのか?」
    「ああ、いえ。前に、ひったくりにあったのを助けていただいたんです。その時に縫製の依頼を受けまして」
    「そうだったのか。貴殿に怪我がなかったのならそれで良い」
    頷いた先生に特に気になる反応はない。だけどなんだか居心地が悪くて、何か話す言葉を探す。
    「先生は昼食は?」
    「俺は近くの休憩所で取ろうと思っていた。公共の施設だが人も少なく景色も良い」
    「じゃあ私も一緒に行っていいですか?さっきの騒ぎでちょっと室内に戻りにくくて」
    「ああ。もとよりそのつもりだった」
    先生の返答に、あれ?でも人目には触れるんじゃ……。と思いつつ、自分から聞いてしまった手前、今から断るわけにもいかない。
    なんだか先生と私が親しいみたいに思われるの恐縮するなあ、と思っていると、先生は弁当を再び私から取り上げ、私を待ってから歩き出す。
    わ、わあ………。そういうことされるとめちゃくちゃどきどきしてしまう。
    日頃恐れ多さが強すぎて全く意識しないんだけど、格好いい人なんだよな……。と正気に戻りそうになる。
    慌ててさっきのタルタリヤも恰好良かったな……。と思考をずらしつつ、ちょっと気になったことがある。
    「でも先生、良かったんですか?私と先生が知り合いだってタルタリヤさんに知られても。ご迷惑はかけないつもりですが……」
    「ああ。それよりも優先すべき事があった」
    なんだろう?
    と思ったけど、先生は話すつもりはなさそうだ。
    「公子殿はあの調子だが、戦意のない民を害するような人間ではない。だが、彼と会うのなら人目のあるところが良いだろう」
    「そうですね。ありがとうございます」
    私もタルタリヤが私みたいなモブに何かをしてくるような人じゃないと思う。だから喋れるんだけど、執行官と通じてる、なんて思われたら大変なので、先生の助言にはありがたく従おう。私にはスパイの真似事も全くできないと思うけど、誤解は解くのが難しいものだ。
    休憩所は誰もいなかった。
    向かい合わせで座り、お弁当箱を開けて思わず顔がほころぶ。
    綺麗に盛り付けられたお弁当は、美味しいことをアピールしているようだ。
    情緒がないと言われてた気がするけど、感性やセンスは見事なんだよね。
    箸を手に取る。丁寧に時間をかけた味付けを、美味しい幸せと共に噛み締めた。
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