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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    なりアザの4話
    また大天才話を更新しちゃったな……。

    花神誕祭と輪廻の始まり。

    蛍とパイモンはスメールシティへと戻ってきた。
    花神誕祭は予定してた通りに明日開催あれると聞いて、蛍とパイモンは間に合ったと安堵でお互い目を合わせた。
    ドニアザードが用意してくれた部屋に案内されながら、明日、お祭りを一緒に見て回る約束をした。
    去っていくドニアザードに手を振ったあと、パイモンはそうだ、と蛍を振り返る。
    「ちょっとエルネを探しに行かないか?依頼を進めたあと、すぐにオルモス港に行っちゃっただろ?みんなエルネを心配してたって言わないと」
    「確かに、ちゃんと連絡先も聞いておきたいし」
    「そういえばオイラたち、エルネの連絡先知らなかったな……」
    言いながら、オルモス港であったことや、明日のお祭りがどんなものか、2人で会話をしながらラザンガーデンへと向かう。
    果たして、エルネはそこに居た。
    今日は本を手に持ってはおらず、ただ何かを思案するように柱に背を預けている。
    「エルネ!」
    パイモンの声に驚いたようにエルネは顔を上げた。
    「パイモン?に、旅人……。驚いたな」
    「何か考え事してたのか?邪魔してたらごめん……」
    思いがけずに驚いた様子のエルネに、パイモンも驚いたらしく、めずらしくも語尾が小さくなる。
    そのパイモンの様子にエルネは目を瞬くと、小さく笑って首を横に振る。
    「いや、問題ない。ちょうど君たちのことを考えていたんだ。まさか本当に現れるとは思っていなかった」
    「そうだったのか。なら良かったけど……、何か困り事か?」
    自分たちのことを考えてた、と言われれば、依頼絡みのことだろうかと推測したらしい。
    パイモンの問いかけに、エルネは苦笑する。
    「いや、オルモス港で騒ぎがあったらしくて、君たちも巻き込まれてないか心配だな、と思っていたんだ。その様子じゃ問題なさそうだな」
    「おう、確かに色々あったけど……、話せば長くなるというか……」
    「ああ、じゃあ無理には聞かないよ。それに、マハマトラが関わっているなら、知らない方が良いかもしれないし」
    「ああ、確かにそうだよな。オイラたちは、エルネに報告しようと思って来たんだ。リストの中の3人に声をかけてきたぞ」
    「3人も?旅人、仕事が早いな」
    感心した様子のエルネは、続けて口を開く。
    「症状は落ち着いてるという連絡は受けてるけど、彼らがどんな望みを言ったのか、差し支えなければ教えてくれないか?」
    安堵したようなエルネの様子に躊躇いながら、パイモンは口を開く。
    「それが……、みんな、何も欲しいものを言わなかったんだ」
    「……え?」
    「おしゃべりしてほしい、とか、一緒に写真を撮ってほしい、とか、言われたけどモラを使うような望みを言った人はいなかった。それより、みんなエルネのことを心配してたよ」
    「私を?」
    蛍が続けた言葉を理解出来ないというかのように、エルネの視線の動きはわずかに動揺を示していた。エルネは考え込むように眉を寄せる。
    「どうして……」
    「みんなエルネに感謝してるから、もう十分なんだって」
    蛍が告げれば、エルネはまた首を横に振る。
    「そんな筈ないだろう。人は……生きている限り、望みを捨てられないものだ。それなのに……」
    「本当にそうだったんだ。エルネはすごく感謝されてて、みんなに好かれてるっていうのが良くわかったぞ。オイラたち、エルネがそんなすごい人だなんて知らなかったぞ」
    「………私は」
    「ん?」
    パイモンは首を傾げたが、蛍はその声に含まれたわずかな震えに目を細めた。
    「私はただ…………」
    その先を言葉にすることが出来なかったように俯いて、それからエルネは顔を上げる。
    どこか疲れたような顔色のエルネは、小さく微笑んだ。
    「わかった。ありがとう。最初に告げた通り、余っている依頼料は君たちの好きにしていい」
    「エルネ」
    思わず名前を呼んで、蛍はその顔を見上げた。
    「大丈夫?」
    蛍の問いかけに、ゆっくりと瞬いてからエルネは頷いた。
    「ああ、大丈夫。ありがとう。……私がしたことが、彼らの慰めになるのなら……良かったよ。報告をしに来てくれてありがとう。明日から多忙だから、会えたのは運が良いな。……君たちは明日の花神誕祭に行くのか?」
    「おう、花神誕祭が開かれるって良く知ってるな。もしかして……エルネも来るのか?」
    スメールでの花神誕祭の扱いを聞いているパイモンは、探るように問いかける。するとエルネはああ、と答えた。
    「もしかするとな」
    その意外な返事に、パイモンは目を見張ってから嬉しそうに頷いた。
    「良かった。参加する人が多いほど楽しいもんな。じゃあオイラたちは戻るけど、じゃあまた明日!エルネ!」
    パイモンの挨拶にエルネは目を細める。
    「うん。2人とも気をつけて」
    「ありがとう。エルネ。また」
    手を振って2人はエルネと別れると仮宿へと戻る。
    まさか、翌日、エルネがドニアザードが1番楽しみにしていた花神の舞を台無しにしに来るとは、露ほども思わずに。

    訪れた花神誕日は、いつも通り穏やかな晴天だった。
    出店しているお店を周り、始終嬉しそうな表情で楽しんでいるドニアザードと一緒にお祭りを見て回った蛍たちは、そろそろ時間だと舞台へと向かうことにした。
    生まれ変わったズバイルシアターの華やかに装飾された舞台を見にきた蛍とパイモンは、舞台上の思いがけない人影に足を止めた。
    「あれ?」
    舞台の上にいるのは、曇った表情のニィロウ。そしてその前にいる二つの人影、その一人には見覚えがあった。
    「あそこに居るのって、」
    「大賢者アザール様?」
    パイモンの声を引き継いで名前を読んだのは、ドニアザードだった。
    「どうしてここに……」
    困惑しているドニアザードに蛍とパイモンは目を見張る。
    「い、今大賢者アザールって言ったか?」
    パイモンが口を開くと、ドニアザードは頷く。
    「ええ。あの人は、大賢者って言って、教令院の……、」
    「いや、大賢者がどんなやつかっていうのは知ってるぞ、でもあいつは……」
    蛍たちが知っているのは、彼の名前がエルネだと言うことだ。
    だが、そのイメージは次の瞬間に覆される。
    「許可なくこのような祭典を開くのは法令により禁止されている」
    聞いたことのない冷ややかな声音が耳に入り、3人はニィロウとアザールに視線を向けた。
    「まさかズバイルシアターの踊り子が知らないはずはあるまい。そうでもなくとも、君たちの興行は、教令院の法令に抵触しているとマハマトラによって散々警告を受けているはずだ」
    「それは……。でも、花神誕祭で花神の舞は重要なイベントだよ。それを中止するのは……」
    大賢者アザールと呼ばれた男の前で、ニィロウはその威圧に戸惑ったように、それでも引けないと言うかのように口を開く。だがその視線はアザールを見返すことはできていない。
    そのニィロウに、アザールと呼ばれた男の隣にいた女性が口を開いた。
    「そもそも、花神誕祭の主催権は教令院にある。本来ならもっと早く中止にすることが出来たのに、アザール様はこの演目までは目を瞑ってくださったの。これ以上続けるというのなら、関係者全員を処罰することになるわ」
    「そ、そんな……」
    処罰の言葉にニィロウの顔色も変わった。
    ニィロウを心配して舞台の袖に上がりながら、ドニアザードが憤りを露わにした声で呟いた。
    「やっぱり……アザール様はクラクサナリデビ様を大切にしてくださらないのね。花神誕祭だって、教令院が行うべき責務なのに……」
    「それってどういう……」
    ドニアザードの言葉とこの状況に混乱しながらも、パイモンはアザールに視線を向ける。
    「このまま中止だなんて、酷いぞ……」
    言いながら、相手がエルネだからと声をかけようと前に出たパイモンは、気づいたかのようなタイミングで振り返った彼のまなざしに動きを止めた。
    冷ややかな、情のかけらもない眼差しだった。
    あの木漏れ日が差す美しいラザンガーデンで、蛍たちに微笑んでくれたエルネとは、まるで別人のようだ。
    視線だけでパイモンを黙らせたアザールは、ニィロウにまた視線を向ける。
    「知恵と理性の国で、愉悦と快楽を求める芸術の価値が低いことくらい、君たちは知っているだろう。それでも君はスメールでダンサーとして生きる道を選択した。ならばスメールにおける法令に従わなければならない」
    「それは……」
    「これ以上、アザール様の手を煩わせないでちょうだい」
    女性のきつい声音に、ニィロウはとうとう唇を閉じる。アザールは嘆息した。
    「ここで芸術が日の目を見ることなどない。真実と探究にだけ楽園は開かれ、知恵を求める者のためにスメールシティは存在している」
    「でも、花神様は、」
    それでもめげずにアザールの目を見返したニィロウに、アザール遮って口を開く。
    「君との議論に価値はない。早く舞台を片付けろ。君はこの教令院に祝福されてない」
    身を翻したアザールに、女性は付き従う。2人が舞台を降りて姿を消していくのを、蛍とパイモンは呆然と見送った。
    舞台の上で肩を落としているニィロウにドニアザードが近寄り、蛍たちも後を追いかける。
    「アザール様に止められちゃったね……」
    浮かべる表情に迷ったように、そしてドニアザードを気遣うようにニィロウは少しだけ微笑んで顔を上げた。
    「でも、教令院に見つからないところでこっそり続ければ……」
    どうにか花神誕祭を最後まで続けようと考え出したニィロウに、ドニアザードは首を振る。
    「アザール様は関係者を処罰をするって言ってたわ。私のことを気遣ってくれているのね。ありがとう、ニィロウ。もう十分楽しむことが出来たわ。確かに、花神の舞が見られないことは、残念だけど……」
    そう言いながらも、ドニアザードの落胆は隠しきれていない。
    「確かに、アザール様は花神の舞までは見逃してくれたのよね。これ以上みんなを危険な目に合わせるわけにはいかないわ」
    「うん……。ドニアザード、次の花神誕祭の時も、抜け出せるよね?次は絶対に成功するように、頑張るよ」
    「ありがとう、ニィロウ。そう言ってもらえるだけでも嬉しいわ」
    最後までドニアザードを気遣って別れたニィロウに、だが蛍とパイモンたちはドニアザードに残された時間が少ないことを良く理解していた。
    2人の心配を払拭するかのように、舞台を後にしながら先にドニアザードが口を開く。
    「2人とも、今日はありがとう」
    微笑んだドニアザードに、蛍とパイモンは顔を見合わせる。
    「そんな顔しないで。教令院が芸術を、そして花神誕祭を良く思っていないことは、分かっていたし……」
    「でも、あのエ……、アザールって、どうしてあんな風情のないことを……」
    「何か私たちにできることはない?」
    困惑と憤りを言葉に表せないでいるパイモンに、蛍は問いかけた。
    今日の日は、彼女の人生の終焉を彩るものの筈だったのだ。
    「こうなったらもうしょうがないもの。アザール様は目を瞑ってたって言ってたでしょう?これ以上を望んではいけないわ」
    ドニアザードは、パイモンが何かをいう前に、さて、と気を取り直したように言った。
    「ニィロウの花神の舞を見られなかったのは、少し残念だけど、今日はたくさんの思い出が出来たわ。ありがとう2人とも」
    「ドニアザード……」
    かける言葉を失うパイモンに、ドニアザードは頷く。
    「2人ともゆっくり休んでね。それじゃあまた」
    去っていくその後ろ姿を見送ってから、蛍は部屋とは逆方向へ足を踏み出した。
    「あ、蛍!どこ行くんだ?もしかして……ラザンガーデン?」
    頷いた蛍の横について、ラザンガーデンへと向かった蛍たちを迎えたのは、誰もいない静寂に満ちた夜の庭だった。
    エルネの姿はない。予想はしていたが、どこかで彼が2人を待っていて、説明をしてくれるのではないかとも期待していた。
    「あいつ……、アザールって呼ばれてたけど、エルネ、だったよな?すごく冷たい目をしてたぞ……。どうして……」
    「分からない。でも、理由があるはず」
    旅をしていく中で、たくさんの人間が巧妙に他人を欺くところはたくさん見てきた。
    エルネがどんな人間か、蛍には判断がつけられない。
    だが、あの時、何がしたいかを問いかけた時の、エルネの表情。
    あの呆然とした瞳には、燃え尽きかけているような星の光があった。
    目を瞑っていたということは、おそらくドニアザードのことも、花神誕祭のことも知っていた上での行動だろう。魔鱗病の患者であるドニアザードのことを、アザールはおそらく知っている。
    心のない人じゃない。
    「今日はもう遅いから、休んで明日またエルネに会いに行こうぜ。話せば花神誕祭の続きを許可してくれるかもしれないだろ」
    「うん、……そうだね」
    蛍はパイモンと一緒に、ドニアザードが用意してくれた部屋で休むことにする。
    眠りに落ちたその時、エルネの声が聞こえた気がした。

    「輪廻を再開しよう。シナリオの結末へ、計画を進めるんだ」

    花神誕日の朝が来る。


    穏やかな午後の日差しが、レースのカーテンを通して調節され、心地よい明るさの部屋でアザールは手元の本を眺めていた。
    座る椅子はアザールのために木材を丁寧に削り出し、座りやすさを追求したロッキングチェアで、その揺れ方がアザールの思考を邪魔することはない。
    タスクもプロジェクトもない時間は、アザールにとって1番効率的に疲労を回復出来るものだ。
    今日一日、どんなことがあったとしても、アザールを立て直してくれる。
    小さな足音が近くでするのに、アザールは気に留めずにページを捲る。
    「あなたは、やっぱり夢を見るのね。私に会いにきてくれているのかしら」
    アザールの前で足を止めた幼い少女が声をかけてくる。
    「睡眠中に少しでも疲労を回復させたいんだと知ってるだろう」
    「ええ、知っているわ。アーカーシャの恩恵だけを受けているはずのあなたが、1番消耗され続けている。まるでオアシスを遠目に眠るリシュボラン虎のよう。水辺で眠れば渇きは癒せるのに、誰かに台無しにされないか不安なのね」
    「自分が育ててきたプロジェクトは、誰だって壊されたくないものだ」
    「長く研究してきたものが、たった一つの発見で無意味なものになることなんて、そう珍しくないわ」
    「それが真実という価値があるものなら、私も喜んで書きかけの論文をメモ用紙にするさ」
    本を閉じてアザールは目を閉じると背もたれにもたれかかる。傾ぐチェアの前で少女は背伸びをした。
    「エルネ!ダメよ、まだ夢を見ていて。久しぶりに会えたのに」
    本気で引き止めようとしている健気な少女の声に、エルネストは片目を開ける。
    彼女は少女ではないが、その懸命さは少女のものだ。成長しようともがく者を、エルネストは否定出来ない。
    「君に会いにきた訳じゃあない。今日の接触は予定になかった」
    「あなたがそんなミスをするはずないじゃない」
    腰に手を当てる少女に、エルネストはため息をついて起き上がると、身を屈めて少女と顔を突き合わせた。
    「お嬢さん、君は私に我儘を言える立場にはないんだ。分かっているだろう?」
    「いいえ、ダメよ。これは最後のチャンスだってことも分かっているわ」
    少女はじっとエルネストを期待の眼差しで見返している。
    この少女はねだればエルネストが応えてくれると分かっているのだ。代々自分を閉じ込める大賢者の役目を引き継ぎ、それどころか己の存在を上書きしようとしている男にわがままを言っている。
    同じように少女を見返したエルネストは、今夜はそれでも黙っていた。
    「あなたはずっと悲しんでいるのね」
    「私の考えていることは君には分からないはずだ」
    「ええ。分からないわ。でも、その顔を見れば私にすらすぐ分かることよ」
    「君に人間の私の感情が分かるのか?」
    「私を訪ねてきてくれるのは、大賢者の中でもあなただけだったのよ。分かりたいと願うのはおかしいことではないでしょう?」
    エルネストは目を見つめたまま首を傾ける。それはエルネストが正解を引きたがっている学生に良くするのと同じ仕草だった。
    「物語の代わりに君に課題をあげよう。議題は……、そうだな大賢者アザールの功罪について」
    少女の返事も聞かずに身を起こすと、エルネストは目を閉じる。
    まだ夢から覚める時間ではない。エルネストがこうして仮眠をとっている間も、スメールの民たちの脳は演算を繰り返している。
    少女が何かを言ったようだった。
    声の響きからしてそれは答えのようにも聞こえたが、エルネストは何も気づかないふりをした。
    安寧というには短すぎる夜が終わる。
    悲しんでいるように見える理由は分かっているのだ。悲しんでいる。その通りだ。
    繰り返すたびに行われる最適化は、エルネストの記憶を消去し、実験結果だけが引き継がれている。
    それはアーカーシャも、エルネストも変わらない輪廻の仕組みだ。
    目覚めるたび、他人へ親愛を抱きやすい自分の性格を把握し、重すぎる負荷を想定して憂鬱なままタスクをこなしている。
    誰も蔑ろに出来ない。可能性を宿す限り、エルネストにはそれを切り捨てることが出来ない。無駄なリソースなんて存在しない。無意味な知恵なんて存在しない。全てはエルネストのプロジェクト方針により肯定され、破棄する事ができない。
    感情を殺すにも、円滑にプロジェクトを進めるには、求心力が必要だった。非効率な人間関係の形成が、エルネストだけが知るプロジェクトの成功を導いている。
    この花神誕日はエルネが1番失敗を繰り返している部分だ。
    演算に耐えきれず、ドニアザードが死に、世界はセーブポイントまでリセットされる。
    夢が不明瞭になっていく。
    今度は、自分が愛した幼い神が、神になるところを見られるのだろうか。
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