あの子の埋葬革の焼ける匂いが嫌いだった。
「ゴムがね、じゅわぁって」
焦げ茶色の分厚いそれらは、煙になってジリジリと重たく、肺の中まで入って。
「穴が空いていくんだ」
やがて服に染み付いて、取れなくなっていく。
「面白いよね」
俺は、気に入らなかった。
***
この上司に名前は無い。
背が低く小柄なこの男は、数ヶ月前に、死んだ時と全く変わらない姿で現れた。
「僕はジョンだけど、もうそう呼ばれるべき物じゃないと思う」
つぶらな瞳は、あの日と同じ色をしている。
「エドゥアルド。だから僕はね、もうジョンって呼ばれたくないんだ」
それなのに、
コイツはアイツである事を拒んだ。
「…何故だ?」
「それは………1回、死んじゃったのに、まだ此処に帰ってくるなんて、変でしょ」
「生き返ったんだろ?」
「でもそれって、誰が信じてくれるんだろ」
「……俺は、お前がジョンとして戻って来たと………」
「ねぇ」
椅子に腰掛け、にこりと微笑んだその表情は、
やはり、あいつにしか見えない。
「言うのは、別に良いけど、………周りには内緒にしてね」
「…周りって………」
「いっぱい居るよ、僕が【あっち】から連れてきた人たち」
死の世界からの先導者。
「知られたくないんだ、僕が弱いことなんて。……でも今なら、何にだって立ち向かえる」
俺とマークの親愛なる同居人。
「僕は、人を騙してでも戦いたい」
そのどちらも、拙く、震えた言葉で人を包む、間違いなく正真正銘のジョン。
「復讐する為に、帰って来たんだ」
(復讐なんて言葉どこでおぼえたんだよ)
そうだ、いつだってお前は頓珍漢な事を言う奴だった。
真剣な顔をして、震えた体で決意を語る。
事実、もしお前に協力者がごまんといて、俺やマークの元に帰ってくる事よりも、そいつらとのおままごとの方が大事だと言うならば。
「リーダーとお呼びした方が宜しいでしょうかね」
「……!
…………うん!そう、して欲しいな」
キラキラと目を輝かせ、頷く姿。
気が済むまでやって来るといい。
そしたら、
(いつか家に帰って来いよな)